ゲームの世界に転生した挙句黒幕に飼いならされてます………   作:休も

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感想や評価ありがとうございます。励みになります。序章(ノーラン王国編)はこれで一区切り、次からはヒロイン兼黒幕が出てきます。


第7話

セルベルトの陣営は控えめに言って重苦しい雰囲気に包まれていた。セルベルトの領地であるヴェルゼブで内乱が起きたからだ。加えて、セルベルトの派閥の領地でも同じような内乱が起きている。現地では略奪や暴力が横行し歯止めがかかる気配がないらしい。

 

セルベルトが派閥の人間を引き連れ中立に立っている貴族の説得に赴いた時にタイミング悪く内乱が起きた。セルベルトの評判は良くない。優秀であることと統治者に向いていることは違う問題だからだ。領民たちの間に火種はくすぶっていた。そこに追い打ちをかける様に、王の不在とセルベルトの血筋に対する疑惑が噂として流れた。そこにアグニ率いる教団メンバーが火をつけた。燃える材料は揃っていたため、面白いぐらいに燃え上がっていた。アグニを含めた教団メンバーが全員、工作や集団の煽動が上手い人間しかいなかったのが大きいだろう。

 

交渉に来ていた貴族たちはセルベルト含め、対応に追われるとこになった。膝元が燃えているのだから当然だ。結果、交渉は一時中断されていた。

 

宰相からはどうにかして事態を収束させよという書簡が届いていた。

 

「やはり、殿下の領地の内乱が一番ひどいようで」

 

言いづらそうに派閥の人間が報告する。

 

「本日の報告はまだ入っていませんんが、昨日の朝の時点ではひどい状態のようで、一時引き上げて領地に戻るのが賢明かと。それに殿下が…その陛下の子供ではないとの噂も流れておりまして」

 

「クッソ!!!!!」

 

セルベルトは机を蹴り上げる。部屋には派閥の人間が何人もいるが気にした様子はない。

 

「私が!父上の子供ではないだと!?馬鹿らしい!誰がそのようなことを信じる!」

 

部屋は酒臭く手元には酒の入ったグラスが転がっていた。この場の誰もがわかっている。一番その噂で動揺しているのは本人であるということを。妾の子であるセルベルトの出生には秘密があったのではないかと。そんな疑問は本来ならば大騒ぎするほどの噂ではないものの、今回は厄介なことに一部の有力貴族とデトロイト派閥の一部が証言をしているのだ。公式の証言と証拠を宰相に提出しているのだ。

 

「かなり前から計画されていたものと思われます。でなければ、貴族たちがこうも足並みを揃えられるわけがない」

 

「………こんなことで終わってたまるか…。私は王になる男だぞ!」

 

その時ドンっと部屋の扉が開き、王子の側近が飛び込んできた。

 

「何事だ!」

 

「た、大変です…」

 

「なんだ、領地内の内乱で死傷者でも出たか!?」

 

「い、いえ………そ、それが」

 

「なんだ」

 

煮え切らない様子の部下に腹を立てる王子。

 

「領地の内乱が沈静されました」

 

「「「は?」」」

 

動揺が広がる。それは心の底からの驚愕。突然の情報に全員が事態を飲み込めきれなかった。

 

「そのロバート王子率いる一団が内乱を鎮静化。こちらに向かってきているようです」

 

「「「「「「はぁ?????」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「上手くいきましたね」

 

アグニから宝具を通して連絡を貰い、内乱が起きていることを知った俺たちはその鎮火に向かった。アグニの根回しとロバートとノイマンの存在、そしてロバートお得意のハッタリでなんとかその場は沈静化した。大衆への演説はロバートにとっては難しいことではないらしく、案外すんなりと内乱が収まった。

 

そして、現在セルベルトを含めた有力貴族が集まっているアルフレット領に移動していた。現在、アルフレット領には浮いた駒である中立派の有力者とセルベルトの派閥の人間が集まっている。運が良かった。

 

「アグニ殿。一つお聞きしていいでしょうか?」

 

「なんでしょう」

 

現在馬車に乗り、北上している。馬車の中にはロバートとデルタ、アグニと俺そしてアグニと共に合流したリエルという貴族が乗っていた。ロバートは正面に座っているアグニに向かって質問をした。

 

「何故、ヴェルゼブ領にいたのですか?」

 

「というと?」

 

「いえ、振り返ってみるとあまりにも私に都合がよすぎる様な気がしまして」

 

「私は現在、指揮権を持つヴィレムに従っているだけなので状況を完全には理解しておりませんが、ロバート殿下の努力が実られているのではないでしょうか」

 

アグニは無表情でそう言い切る。怪訝そうな顔をしているロバートが一瞬、ハッとした顔をしてこちらを見た後、恐怖と嫌悪の混じった表情をアグニと俺に向けてきた。

 

「どうしましたか?ロバート王子」

 

「………いえ、己の矮小さを思い知っているところです」

 

正直、王子の言っていることの意味がわからない。合流したリエルという公爵も俺と目を合わせようとしない。

 

セルベルトの疑惑の証拠と証言を握る人物であると説明されている。何でも宰相と仲が良いらしくまとめ上げた証拠と証言をセルベルト王子にも提示しに行く役目を仰せつかっているのだそうだ。

 

「そろそろ着きそうですね」

 

デルタの言葉に全員が外を見る。最終戦の場所が見えてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

「何故だ!俺は王になる器だぞ!なのになぜ!愚弟に出し抜かれているのだ!」

 

セルベルトは怒りとも憎悪ともいえぬ感情を振り回す。なだめようとする臣下たちを蹴り飛ばすセルベルトに王の器を見出すものはいなかった。

 

その時勢いよく扉が開かれた。部屋に現れた人物を見てその場に居た全員は目を剥いた。

 

「失礼します。兄上」

 

堂々とした顔で入ってきたのは第三王子であるロバート。横を歩いているのはノイマン公爵とリエル公爵。そしてその後ろを歩いているのはヴィレムとアグニだった。

 

ここに此度の中心人物たちが集まった。

 

ロバートは今までの軌跡を振り返る。ノイマンの説得まではよかった。だがそこからここまでの流れで恐ろしい事実に気が付いてしまった。ヴィレムは最初からこれを狙っていたのだ。先ほどの馬車での会話で確信できた。ヴィレムという化け物はあの赤毛の少女と別行動をとった時点で兄の領地で内乱を起こすことを決めていたのだ。アグニたちは自分たちがノイマンの説得に向かっている中、有力者との交渉とデトロイト派閥との交渉を済ませたうえで、領民を煽動、反乱を起こさせたのだ。恐ろしいほどの先見性。これだけの仕事量を行ったアグニたちにも脱帽だ。だが、それ以上にそれを叶えるだけの策をアグニたちに託したヴィレムが恐ろしかった。

 

まさか、民を犠牲にした盤外戦術を取るとは思わなかったのだ。絆されかけていたロバートは冷や水を掛けられた気分を味わっていた。

 

ロバートは今になって理解していた。アイセア王女は敵も味方も侵す毒だ。彼らに従うだけでは民は苦しんでいく危険性がある。それでも今は彼の作戦に乗るしかない。自分がとんでもない道を歩かされていることに気が付いたロバートは過去の過ちを呪った。ロバートは将来必ず来るヴィレムたちとの離別とそれまでの道筋を思い浮かべ、その瞳に決意を灯して見せた。

 

「引導を渡しに来ました兄上」

 

「引導、引導だと!お前のような出来損ないに何ができる!俺は王にならねばならないのだ!!!!!」

 

その眼は血走っており、その瞳には執念の炎が渦巻いている。何が彼をここまで駆り立てるのか、ロバートはリエルに証拠を見せられたことで理解していた。

 

ロバートは、兄の出生が間違っているとは思っていない。懐妊の時期に齟齬があるのは割とよくある話だ。つまり、貴族たちの証言も証拠もすべてでっち上げたものだ。否、ヴィレムがでっち上げさせたのだろう。デトロイト派閥の貴族からも証言があることを考えれば、裏があると想像するのは自然なことである。

 

だが、ロバートはすべてをわかった上で利用すると決めた。己の道を信じる。なぜなら自分はロバート・ノーランなのだから…。

 

「リエル殿。お願いします」

 

ロバートの言葉でリエルが前に出てとあるものを取り出した。

 

「リエル!貴様!中立ではなかったのか!?寄りにもよって愚弟に付いたか」

 

「いえ、殿下。私はロバート殿下に付いたわけではありません…私は、いえ宰相を含めた私たちは自分たちの裁量が及ぶ範囲において中立に皆様を尊重するというだけなのです。陛下は血筋を大切にされておられる。それに対して、疑問が浮上したのであれば、検証するのが臣下の正しき行い。もし、我々の勘違いであれば私は首を落としましょう」

 

リエルの覚悟と主張にセルベルトの派閥の人間は唸った。否定しにくい意見だったからだ。

 

「これが証言と殿下が陛下の子ではないという証拠です」

 

証言をまとめたものと古びた手紙だった。

 

「読んでみてください」

 

そうして差し出された手紙をセルベルトは読み始める。一通り目を通したセルベルトは震える手で手紙を握ったまま、顔を上げた。手紙は全部で三通。それは、とある男とセルベルトの母、ソフィー王妃との文通だった。内容は愛する女を王に奪われた憎悪と国王に愛する男との未来を引き裂かれた王妃の怒りが綴られていた。そして、そのせめてもの復讐として二人は命懸けで密会をし、子供を孕んだという話だった。

 

「男性の名はホカロム。すでに殺された人間です。彼のことは知らなくとも王妃の字が本物であるということはわかるでしょう」

 

手紙を覗き込むようにしていた家臣たちも驚愕に目を見開いて声を漏らした。

 

「この、字は紛れもない」

 

「王妃のものだ」

 

「なんと………」

 

セルベルトはフラフラとおぼつかない足取りで、2歩、3歩と後ろに向かって後ずさる。そして、手から手紙は滑り落ち、その膝から力が抜けその場に座り込んだ。

 

周囲の人間はその様子を見ながら誰一人動けなかった。いや、動かなかった。それよりも忙しなく周囲の人間と視線を送り合っている。自分の立場を守るのに必死なのだ。どうするのが正解なのか?声をかけるか?この場から立ち去るか?

 

「兄上、貴方がこの場で王位継承権を放棄するのであれば私は全力をもってあなたの名誉を守ります」

 

ロバートは静寂を破ってそう口にした。この証拠はアグニの魔法によって作られたものだ。こんな事実は存在しない。それをロバートは知る由もないが、でっち上げられたものであるということは気付いている。だからこそ、兄の名誉は守りたかった。

 

セルベルトの意識はその場にはなかった。彼は、ただ昔のことを思い出していた。昔、セルベルトは母に父を愛しているのかとどうして結婚したのかと聞いたことがある。

 

その時の母の表情を彼は忘れられることができなかった。憎悪と諦観と悲嘆に染まったその顔をセルベルトは忘れることはないだろう。

 

セルベルトとてバカではない。これがでっち上げられたものである可能性は考えている。しかし、母は王を愛していなかった。このことを知っているセルベルトは否定することができなかった。そもそも、王になることを決めたのは母のような人間をもう生み出さないためにするためだったのだから————。

 

母の名誉を守ることがセルベルトの願いだった。

 

「ロバート。お前は王になってどうする」

 

その問いに彼は迷うことをせずに誓いを言い放った。

 

「この国を変えます。歴史を前に進め、王のみが絶大な力を持つ時代を終わらせる」

 

その言葉を聞き、セルベルトは目を伏せた。そして、口を開く。

 

「一つ条件がある」

 

「………………」

 

「二度と母のような者が出ないように努めろ」

 

「もちろんです」

 

「そうか。ならばいい。俺が継承権を破棄すれば、名誉は守られるのだな?」

 

「お約束します」

 

「では、後は任せよう。母の名誉を守り、そして国を変えろ」

 

それはあまりにも真っ直ぐな、己の野心の終焉を示す言葉だった。先ほどまで、苛烈に当たり散らしていた王子とは別人のように穏やかに、ロバートの方を見る。そして、薄く笑みを浮かべた。

 

「で、殿下。私たちは………」

 

「俺はロバートに付くことを勧めよう。だが、最後に決めるのはお前たちだ」

 

「兄上」

 

「貴様たちに栄華を授けることができなかった主を許せ………すまない」

 

「そんな………」

 

ロバートはその様子を見て歩を前に進める。

 

「この場にいるもの全員に聞いてほしい。突然のことで戸惑っているものも多いだろう。だが私の話を聞いてそれぞれで選択してもらいたい」

 

ロバートの覚悟の灯った眼に家臣たちは目を奪われた。明らかに自分たちの知るふがいない第三王子ではなかったからだ。

 

「私には力がない。才能がない。実績がない。ですが、誰よりもこの国を憂い思っている。今、王国は分岐点に立っている。国を閉じ壁を作っているだけでは、王に頼りすべてを依存するだけでは、この先やっていくことはできない!それは現在が証明している!」

 

王の権威が強すぎた。頼り過ぎていたために、国が揺れているのだと。彼は主張する。それはある種の正論ではあった。ロバートの覇気が熱気が視線を集める。

 

「周囲の国々には油断のならに猛者たちが多くいて私たちはそんな彼らと渡り合っていかなくてはいけない!だからこそ、一刻も早くこの戦いを終わらせる!私が国王に変わって支配だけが王道ではないことを証明しよう!今日この時より私は歴史を進める!一人の王にすべてを任せる未熟な精神の国から、民と王で未来を作っていく国にするのだ!この国は弱くない!それは歴史が証明してる。だからこそみなと共にならなせると確信している。もし私に付いてくるものはこの場に残れ、私に賛同できないものはこの場から立ち去れ!」

 

貴族たちは圧倒されていた。凡人だと侮っていた王子の野心と理想と覇気に目を奪われていたのだ。

 

部屋が静まり返っていった中、一人の老人が声を出した。

 

「ロバート殿下。貴方の進む道は茨の道です。勝算はあるのでしょうか?」

 

「お前はそれを見たから私に付いてきたのではないのか?」

 

ノイマンは若き指導者を見ていた。そして、椅子から立ち上がりその場に跪いた。

 

「愚問でしたな。ノイマン・アステリオス。我が運命を貴方と共に捧げましょう」

 

それは衝撃的な光景だった。ノイマンほどの男が勝算が低い第三王子に賭けたのだ。それは貴族たちにとって無視できないことだ。

 

徐々に徐々に貴族たちが膝をついてロバートを囲っていく。数分後には、八割方の貴族がロバートに付いた。それは数週間前からは考えられない光景だった。デルタはうれしさに涙をこらえ、ロバートは安堵の吐息を聞こえないように吐いた。

 

 

 

 

 

これはノーランにとって動乱の始まりに過ぎないと知っているのはヴィレムのみだった。

 

 

 

 

 

 

 


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