ゲームの世界に転生した挙句黒幕に飼いならされてます………   作:休も

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学園編に移ります。


第8話

現在俺は、トヴィアスに戻りアイセアに今回の件の報告をしていた。ロバートの派閥は一気に勢力を広げ、デトロイトに肉薄している。ただ、第二王子の継承権の破棄に伴い国内はさらに混乱しているらしい。これ以上、ノーラン王国にいると面倒な火種になりそうだったので戻ってこようとしたわけだ。帰りに宝具だけ渡され、現在に至る。

 

「前払いとして宝具『ライゼンハルト』を渡された時に、すごい警戒されながら渡されたんだけど、これってそんなに強力な宝具なのか?」

 

「そうですね………使い方次第では大量殺戮兵器にもなり得る宝具です」

 

杖の形の宝具に目線を向ける。そんなに恐ろしいものだとは聞いてないんだけど。

 

「しかし、ロバート王子はその宝具の有用性を何も理解していないのですね。王になりたいのであれば、必要でしょうに」

 

「どういうことだ?」

 

「洗脳紛いのことができるのですよ。ライゼンハルトは。元々はとある司祭が持っていた宝具でして、人の心に干渉することができるのです」

 

「これここで壊していいか?」

 

絶対にこいつにこれを渡すべきではない気がしてきた。

 

「宝具は魔道具と違って使い手を選びます。心配するようなことにはなりませんよ」

 

確かに宝具は使い手を選ぶ。適性がない状態で宝具を使うと最悪の場合は命を落とす。それだけ危険なものであるが故に、得られる恩恵は絶大なのだ。

 

「………報告は以上なんだけどさ、一つだけ聞いていいか?」

 

「………何でしょうか?」

 

「何でよりにもよってこの場所でお茶会しているんだ?」

 

俺たちは現在、教団のアジトの一つである模造世界迷宮と呼ばれる地下空間にいた。王国と帝国の間にある山脈にある地下空間であり、全部で7つの階層に分かれている。現在、アイセアと俺がいるのは第三階層。かつて栄え今は滅んだとある国を土地ごと転送させて創り上げた場所だ。今の文明とはあまりにも離れすぎている光景が広がっているのをとある建物の最上階からそれを眺めている。

 

人の気配がどこにもなかった。悍ましいほど真っ白なビルのような建物だらけ街は、画用紙で作った模型のような偽物じみた光景だった。まるでゴーストタウンのような、ビルだけの世界。

 

「ここは私とあなた以外は存在を許可されていない空間だからです」

 

言いたいことはわかる。模造世界迷宮で教団のメンバーが自由に使えるのは1階層と5階層、そして6階層だけだ。残りは、空間そのものが侵入者を拒むようにできている。俺も未だに4階層と7階層には入れていない。

 

だからこそ、秘密の話し合いにはピッタリでありアイセアはよく俺をここに連れてくる。

 

一番高い建物の最上階に連れてきて、ちょっとしたお茶会をするのがアイセアの趣味のようなものの一つだ。

 

木製の机には、紅茶のポットがそしてミルクに砂糖が並べられている。皿の上には鮮やかな色の菓子が並べられている。マカロンを置いてある当たり、こういう趣味はアイセアと合うなと思う

 

茶葉の入ったポットにお湯を注ぐ。一、二分たつと、ゆっくりと葉が開いて香りが立ちはじめる。

 

「ノーラン王国は結局どうするんだ?」

 

「どうもしませんよ。しばらくは彼が絶望に抗う様を楽しむとしましょう。あ、ですが私が一番好きなのはあなたが泣きそうになっている顔なので嫉妬の必要はありませんよ」

 

「なんで俺が嫉妬すると思ったんだよ」

 

アイセアは、カップに口をつける。俺の意見はスルーらしい。

 

俺は会話を諦めて、お皿の上のお菓子に手を伸ばす。見た目の鮮やかなマーブル模様のチョコは、ミルクチョコとホワイトチョコのまろやかなハーモニーが体にしみる。

 

「近々、イボスとアシュタロスが動くそうです。もしかしたら、私を狙ってくるかもしれませんね」

 

イボスとアシュタロスは教団の幹部の一人でアイセアとは対立している人間だ。教団は二つの派閥に分かれており、邪神を復活させて自分たちが世界を支配するんだ派閥と世界を邪神に救ってもらおうぜ派閥に分かれているのだ。アイセアは、後者の派閥だが本人は邪神を踏み台にして自分の野望を叶えようとしているのでどっちかというと前者でもある。

 

ただ、表向きは救ってもらおう派閥なのでイボスやアシュタロスと仲が悪い。

 

「情報を得てるなら先に封殺しろよ」

 

「だって泳がせた方が面白いじゃないですか。何を企んでいるのかも気になりますし」

 

もう慣れたが最初にこの思考回路に触れた時は頭がおかしいんじゃないかと思った。いや、今でも思ってはいるけどな。

 

「それとも、私を心配しているのですか?」

 

アイセアは髪を弄るのをやめ、テーブルの上に両肘をつけて手を組み、その上に自分の細い顎をそっと乗せる。そして、上目遣いで悪戯っぽく俺を見つめた。

 

「そんなわけないだろ」

 

「フフ、可愛いですね。別に恥じることではありませんよ。あなたは私を心配せざる得ない立場にいるのですから。色々な意味で、ですが」

 

「………」

 

ネリアの蘇生のためにはアイセアを殺させるわけにはいかない。それに、それ以外にもこの身にかけられている制約のせいで俺はこの女を失うわけにはいかなかった。

 

「性格最悪だな」

 

「そうでなくては王女なんてやっていけませんよ」

 

魔性の笑みを浮かべる黒幕王女は帰り支度を始める。

 

「そろそろ帰りましょう。しばらくは学園生活を満喫できますよ?喜ばしいですね」

 

「お前のお守がなければ喜ばしいな」

 

「ガゼルを護衛に連れていくのでしばらくは好きにしていて構いませんよ?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わぬ自由を得た。そう思いながら俺は学園の中庭を歩いていた。そこで予想外の出来事に遭遇した。

 

端的に言うのであれば、貴族による平民への集団暴行だ。

 

率いているのは4年生の血統至上主義者のイエティだ。一団は、何かを囲むように立っており、中心の何かに向かってけったり煽ったりしているらしかった。

 

チラリと一団の中が見える。そこには、頭を抱えてうずくまっている生徒が見えた。体格的に、1年生の少女だろう。10対1の暴行。この時間帯は人目が少ないとはいえ、随分と軽率な行動をしたものだ。

 

最も身長が高い生徒が腰の剣を引き抜き、少女に向けた。一団は、少し距離を取るために輪を広げる。

 

難しい場面だ。あの剣で少女を斬りつければ俺は介入できる。だが、その前に介入するには少々リスクが高すぎる。イエティは侯爵家の次男。俺は王女の騎士とは言え伯爵家の人間。学園内とはいえリスクが大きい。気に食わないのは確かだが、教師にでも報告しておくのが一番穏便に済む方法だろう。

 

そう思い去ろうとしていた時、剣を向けられている少女の目が合った。俺を見て、助けが来るとでも考えたのか魔法行使用の杖を取り出して反撃しようと構えた。

 

「フィンディア!」

 

瞬間、周りを囲っていた一人が跳ね飛ばされた。行使されたのは風の初級魔法。それを見た剣を引き抜いていた上級生が、激高し剣を振るった。

 

「ッああああああああああ!!!!!!」

 

少女から悲鳴が上がり、芝生の上に血が滴っていた。

 

「へ!抵抗してんじゃねえよ!平民が!」

 

そう吐き捨てた貴族の姿は俺の嫌いな人種そのものだった。そしてそれは血を頭に上らせる結果となった。

 

俺は一団がいるほうに歩いていく。苛立ちを、剣を握ることで収める。

 

「な、何だよ!」

 

こちらに気づいた生徒が、俺に杖を向け声を上げる。全員の視線が俺に集まったところで、深呼吸をして自分に杖を向けている生徒に視線を向けた。

 

「ヒッ………」

 

集団の一人が後ずさりをして膝をつく。空いた隙間を堂々と抜けて少女の元まで歩いた。

 

「エルスケイン」

 

俺は、対象の負傷部位に向けて呪文を唱え、対象に応急処置を施す。出血は収まり、ある程度傷が小さくなった。

 

「悪いな。俺は回復魔法は苦手でな」

 

壊すことばかりが得意で誰かを癒すことはできない。本当に嫌になる。どうして、あの時殺されたのは俺でなくネリアだったのか………。

 

「君は一年だろ?保健室に早くいった方がいい。俺のは応急措置だからな」

 

そう言って、少女を立たせると廊下まで走らせる。案外すんなりということを聞いてくれて助かった。

 

「こ、この野郎!!!!」

 

刀を大きく振り上げてこちらを狙ってくる上級生を視界の端で捕らえ、風の魔法で剣を弾いた。

 

「フィンディア!」

 

先ほど少女が使ったものと同じ初級魔法。だが、魔法の使い方と魔力操作を原作知識により効率よく理解しているため、その威力を大幅に上げることができる。

 

結果、男は弾かれた剣に巻き込まれる形で吹き飛んでいった。

 

「「「なッ!て、てめえ」」」

 

「よせ」

 

臨戦態勢に入る周囲の取り巻き達をイエティが止めた。

 

「何で止めるんですか!」

 

「尊き貴族の中から死者を出すわけにはいかないからだ」

 

「「「!?」」」

 

物騒な言動に取り巻きの一人が眉をひそめた。それを見てイエティはため息を吐き、説明する。

 

「この男は容赦なく人を殺せるし、殺す男だ。相手が100人いようと最後に立っている化け物だ」

 

流石に殺す気はなかった。それに100人もいたら死ぬ。無理。

 

「久しいな。ヴィレム・マーキア」

 

「ああ、久しぶりだな。イグイエ・イエティ」

 

振り返るとイエティが不機嫌そうにこちらを見ていた。濁り切ったひどい目をしているもののその赤いと緑のオッドアイはイエティ家の証である。

 

「最も尊い血族に仕えるお前が何故平民を庇う?」

 

イエティがその体から怒気を吐き出している。

 

「逆だ。イエティ。先ほどのやりすぎは学園内では犯罪行為だ。貴族であろうと学園内でのルール違反は裁かれるぞ。それを止めたんだ」

 

「ふん!あのような傷、魔法で直せば証拠など残らん。貴様が介入しなければな!」

 

「大体調子に乗ってるよな!王女の騎士だからってよ!」

 

「イエティさんに口出しをするとか何様のつもりだよ!」

 

「伯爵風情が調子に乗りやがって」

 

「そうだ!そうだ!」

 

「少し黙れ」

 

騒ぎ出した取り巻きを諫めたのは意外なことにイエティだった。

 

「ッ…」

 

底冷えするような彼の声に周囲の生徒は気圧される。

 

「他の人間は知らんが俺はお前を買っている。その技量も武勇も血筋もだ。半分とはいえ、公爵家の血筋を引いているのだからな。故に解せない。選ばれし我らの一員であるお前が平民を庇った理由が」

 

どうやら俺が少女を助けたのはイエティを庇ったわけではないと確信しているらしい。

 

イエティは血筋にこだわっている。それは優秀な兄と妹への劣等感故であり自分に残っているのは血筋だけだと思っているからだ。根っこは悪いやつではないのだが主人公に矯正されるまでは平民にちょっかいを掛けるのが日課なやばいやつだ。

 

「俺とお前では見ている世界が違う。これが一番しっくりくる答えだな」

 

「………そうか。残念だ」

 

イエティは剣を抜く。イエティはバカな男ではない。この場で俺と争う意味を理解しているだろう。少女は逃げた。つまり、この傷害事件は発覚するということだ。学園内では学園長が外からの権力を弾くため、貴族であっても平等に罰せられる。つまり、俺を襲うことは余罪を背負うことと同義。

 

それでも、イエティはプライドを選んだ。それは彼の過去を知るものからすれば納得の行動であり、同時にあまりにも愚かな行動でもある。

 

一触触発。そんな緊張した空気が流れる中、一つの陽気な声がその場をかみ乱した。

 

「ちょ―――――っとまった!!!!!!」

 

そこに現れたのは学園内の名にもかかわらず制服を着ることなく、私服にマントを羽織った変人だった。

 

ちなみに俺はこれを知り合いだとは思いたくないため、目をそらして他人の振りをした。

 

「その勝負!我が預からせてもらおう!!!!!」

 

乱入してきたこの女はセルベスタ―・クライヘルツ。王国の八大公爵家の一家、クライヘルツの長女であり、原作では何かと主人公たちの世話をしていたお助けポジションにいるキャラである。

 

言わなくてもわかると思うが――――――超変人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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