ゲームの世界に転生した挙句黒幕に飼いならされてます………   作:休も

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第9話

「うむ!ヴィレムも元気そうで何よりであるな!」

 

あの後、セルベスタ―が勢いと話術と家柄で無理やり話をまとめ解散になった。そして、俺をひっ捕らえてラウンジまで引きずってきたのである。

 

「すごいタイミングで現れましたね。助かりましたけど」

 

「なに、可愛い女子に泣きながら【中庭で自分を庇ってくれた男の人を助けてください】と泣きつかれてしまったものでな!余計なお世話だったかもしれぬがな!」

 

どうやらあの少女は逃げきれたらしい。朗報ではあった。

 

「いえ、助かりました。ありがとうございます」

 

「うむ!相変わらず固いな!もっと笑え!」

 

美しい金色の髪に意志の強そうな赤い瞳。可愛らしい容姿にもかかわらず、中身の強烈さですべてを台無しにする女として有名な貴族界の台風の目。しゃべり方は祖父の影響らしく、うつけ令嬢なんて呼ばれ方をしても貴族の世界で生き残っているのは、ひとえに祖父の権威と俺同様に周りを黙らせるために功績を積み上げてきた人間だからだ。

 

「それにしてもよいのぉ!あの女子押せばいけるかもしれんぞ?かなり可憐な容姿しておったし食事にでも誘ってみたらどうじゃ?」

 

「ハハハハハ」

 

「我も女子を助ければワンチャン行けるかの?ワンナイトでも大歓迎なんじゃが」

 

これが貴族令嬢だと誰が信じるのだろうか。

 

「アシュテルが泣くので言動には気を付けてください」

 

「ヴィレムは相変わらずアシュテルとは仲が良いの!」

 

「主に不満を持つ従者同士話が合うので」

 

アシュテルはセルベスタ―の従者だ。原作としての知識ではなく、初めて会ったのは俺がアイセアに拾われてから数か月後だった。そこそこウマが合ったため仲良くなった。同じ従者という立場と主に対して思うところが多いという点から、気が合い仲良くなった。

 

アシュテルがセルベスタ―に抱いている感情は、好意と尊敬であり俺と共通しているのは主の問題行動に対する憂慮だが。

 

「アシュテルは最近小言が多くてたまらぬわ」

 

「貴方の問題行動が目に余るからでしょう」

 

「それを言うのであれば、ヴィレムとてそうじゃろう?」

 

「何のことです?」

 

「主を思うが故にアーノルド公爵を殴り飛ばしたのは痛快だったぞ」

 

けらけらと笑みを浮かべるセルベスタ―は心の底から面白がっているように見え、それはそれで質が悪いと思った。

 

1年前、ウィスパー侯爵の売国行為をアイセアが白日の下にさらし、賞賛を受けていたころ、その功績と利益を欲した第二王子派閥のアーノルド公爵がアイセアを嵌めようと画策したのだ。一瞬で、アイセアに見破られたものの貴族が多く集まる会議の場でアイセアに暴言を吐き、呪いを掛けようとしたためそれを止めただけなのだが、アーノルドが呪いを掛けようとしたのを察知できなかった者には俺がアイセアの対する暴言に腹を立ててぶん殴ったと解釈された。

 

思えば、あれもアイセアの仕込みだったように思えて釈然としない。

 

「アレはそういう意図ではなくてですね………」

 

「照れるな照れるな」

 

否定してもこうしておかしな方向に解釈されるのだから意味不明だ。

 

「貴族の娘たちはお前達の間に恋心があるのではないかという噂で持ち切りだぞ?王女と騎士の恋愛なんて面白いからのぉ。面白そうだからと、煽ったのも我じゃけど」

 

「お前のせいかよ!!!」

 

騎士という職業上、あいつと一緒にいる時間は長い。それに、普通の護衛と違って私生活にもかなり深く関わる。だからこそ、色々な噂が飛び交っているのだが最近は尾ひれが付き過ぎていた。

 

「まさか犯人が見つかるとは」

 

「勘違いしておるようじゃが、我は噂を流したわけではなく煽っただけじゃよ?突拍子もない噂や作りこんである噂は我じゃない誰かが流しているものじゃ」

 

「煽ってるだけで同罪ですよ」

 

さも自分は悪くないみたいな顔をするのは腹立つからやめてほしい。

 

「そうじゃ。時にヴィレムよ。お主、剣魔祭には出るのかの?」

 

剣魔祭とは、この学園で行われる体育祭みたいなものだ。集団、もしくは個人で参加し、武勇を競い研鑽の成果を試させる祭りだ。学園にはこのイベント以外に叡魔祭という祭りもあり、こちらは学術的なことを発表し競い合うのもである。

 

「今年は個人戦メインらしいからの、友の少ないお主でも参加可能じゃぞ!」

 

「余計なお世話です」

 

善意百パーセントの笑顔を俺に向けないでほしい。怒っていいのかダメなのかわからなくなってくる。

 

「優勝賞品は学園の宝の一つである破魔の金剣らしいぞ」

 

破魔の金剣。それって確か………。

 

「ここにいらっしゃたのですね。セルベスタ―様」

 

そこにいたのは黒髪に翡翠色の瞳を持った男。アシュテルその人が立っていた。身長は俺よりも5cmほど高く、華奢な印象を受けるが筋肉は必要な分だけ付いている。制服を着崩すことなくしっかりと整えているその様子から、真面目、神経質そうという感想を抱かせる。

 

「久しぶりですね。ヴィレム」

 

「ああ、久しぶりだな。変わりがないようで何よりだ」

 

「ええ、本当に何も変わっていないのが恐ろしいですけどね」

 

ハハハハハ。乾いた笑みを浮かべるアシュテル。

 

「おおー、やっと来たのか!遅かったのう。まったく学園内で迷子になるとはまだまだじゃの」

 

「貴方が勝手にいなくなったのですけどね」

 

セルベスターはアシュテルに対して仕方がない奴だなぁといった感じで声をかける。そして、爆速で話を変えた。まるで暴走列車だ。俺と話している時よりも数段、テンションと話のスピードが上がる。

 

「おう、そうじゃ!聞いてくれ、アシュテル。凄まじい問題に気が付いてしまったのじゃ!これからを揺るがす問題じゃ!」

 

深刻な顔でつぶやく主の様子に、神妙な顔になるアシュテル。セルベスタ―は至極真剣に、こうつぶやいた。

 

「少し太ったかもしれん………」

 

アシュテルは黙って踵を返した。

 

「え、ちょっ!待つのじゃ!我の話は終わっとらんぞ!?」

 

「いえ、終わりそうです。私の忠誠心が」

 

「こんなに呆気なく!?」

 

露骨にどうでもよさそうな顔をするアシュテルは振り向き、主に話の続きを促した。

 

「よいか!?我は貴族界のうつけ令嬢にして、民草のアイドル!セルベスターちゃんじゃぞ!そうでなくとも、主に贅肉が付いているのは従者的にダメじゃろう」

 

セルベスターはこう言っているが肉が付き始めているようには見えず、本人の気にし過ぎであると俺もアシュテルも思っている。

 

「そうですね。問題です」

 

「じゃから!」

 

「ではセルベスター様はご自身の贅肉の原因がわからないと、そうおっしゃりたいのですか?」

 

「そうじゃ、七不思議じゃの!」

 

「とりあえず手に持っている焼き菓子はすべて没収しましょう」

 

「わー!!!!何をする!渡さんぞ!!!!!」

 

ギャーギャーと言い争う主と従者。幸いなのは食事時ではないここの場所は人通りが少なく、周囲には誰もいないことだろう。こんな痴態を見せられる方も見せた方も救われない。

 

「それに民草のアイドルはアイセア王女でしょう。思い上がり過ぎですよ」

 

「何じゃと!?我が街に繰り出せば、領民は歓喜にむせび泣き王都の人間はフレンドリーに手を振ってくれるぞ!」

 

アシュテルは天を仰ぎ、頭を抱えた。そして、鋭くどすの利いた声で

 

「街に繰り出していたのですね………メイドの挙動不審はそのせいですか。いつですか?いつ出たのです?」

 

「あ゛………じゃ、じゃあの!ヴィレム。また会おう!!!!!」

 

自分の失言に気が付いたセルベスターは視線を宙に泳がせ、誤魔化しきれないと悟った。

脱兎のごとく離脱。うつけ令嬢の次の行動は誰もが予想できたものだった。

 

「ちょ、セルベスター様?おい!こら!まて!バカ令嬢!!!!!」

 

アシュテルの本音がこぼれる。ついにその口から罵倒がこぼれる。

 

「ヴィレム。話はまた今度にしよう。私はあのバカを追わなくてはいけないのでな」

 

「あ、ああ。頑張れ」

 

鬼の形相で走り去っていくアシュテルを見ながらベクトルが違うものの彼の苦悩に共感できてしまう自分の境遇にため息が出た。

 

 

 

 

 

 

 

薄暗い闇の中に玉座が一つ存在している。そこに座っているのは無表情のアイセアだ。玉座の前には跪いている人影が見える。

 

それは赤髪の少女、アグニだった。

 

「報告は以上です」

 

「そうですか。ご苦労様です。貴方は本当に優秀な従者です」

 

「ありがとうございます」

 

アグニは普段から無表情の少女だが、この時ばかりは頬を赤く染めわずかに口角を上げた。どれだけ、彼女が王女に心酔しているかを示していた。

 

「先ほど伝えた通り、ヴィレムの監視。お願いしますね」

 

「必ず」

 

「下がっていいですよ」

 

アグニは言われた通り、闇の中に姿を消した。それを見届けてから王女は笑う。

 

「フフ、アハッ!アハハハハハハハハ!!!!!!!」

 

美しく、されど悍ましく。狂ったように、嬉しそうに、悲しそうに、愛おしそうに、嗤う。嗤う。嗤う。笑う。

 

「楽しくなりそうですね。これを目の当りにしたらヴィレムは悲しむでしょうか?怒るでしょうか?泣いてくれるでしょうか?憎んで、恨んで、怒って、泣いて、それでも私に縋るのでしょうか?」

 

最後に浮かべた笑みは、乙女のように純粋で少女のように情熱的な、可憐な笑みだった。

 

「それでも―――――あなたを愛しますよ、ヴィレム」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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