機動戦士ガンダム重力戦線異聞 Imitation RED   作:葛西源次郎

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第十一幕 退路

 思いつく限りの最悪のニュース。

 『ピノッキオ』は先ほどから相変わらず有効打を躱し続けながらテオドールとハロルドを追い詰め、お手本のように翻弄していた。少なくとも、友軍を待ち侘びていたかのような動きは見られない。

 それでも、テオドールも、ハロルドも。舌打ちや呻き声を隠す事はできなかった。

 

「ミツヒロ!奴等、接敵までどのくらいだ!」

「砂塵で正確な距離が測れません。だが五分もしないうちに来ますよ。速度は戦闘速度のそれです」

 

 ミノフスキー粒子は散布してこない。この状況下でそれを嫌うのは向こうも同じか。

 テオドールの頭の中で何度も繰り返される、連邦部隊合流時のシミュレーション。僅かでも甘い想定を許されないそれは、どれも最悪と形容される流れと結末しか導き出さない。

 ギリギリのところで戦っている時に横合いから殴りつけられるほど嫌なこともそうそう無い。殴りつける側からすればこの上なく有効な戦術で、だからこそ嬉々としてやってくる。

 何度も見た、あののっぺりした顔のMS。なんだかんだと連邦が技術の粋を集めて作り上げたこの戦争におけるほぼ最新の戦力。性能はまったく侮れないし、中の人間の練度がそこそこであっても数がそろえば十分悪夢だ。

 しかも、ここでもう一つ重なる問題こそが。

 

「テオ、奴らはこいつのお友達だと思うか?」

「さあ、どうでしょうね。少なくとも、俺達のお友達じゃねえでしょう………っと!」

 

 単調ながら的確なピノッキオの銃撃は、恐らくだが撤退を許してはくれない。こんな状況下で継戦なんて馬鹿馬鹿しいとわかっていても、こんな奴に背中を見せる危険性を考えれば唾を吐きながらでもやるしかない。

 しかもこいつの装備は恐らくマシンガンだけでは無い。背中に見える砲塔のようなものや、まず持っているであろうサーベル。頭部のバルカンも、決して無視はできない要素。唯一完全に無くなったのはシールドによる打突だけだ。

 マシンガンの弾切れを待って撤退を願うのはいささか都合がよすぎる。

 

「隊長、奴ら撃ちますか?射程には入った!」

「駄目だ、ピノッキオを優先しろ!お前の援護が途切れればますます詰められる!」

「っ、了解」

 

 その言葉の後、後ろに跳んだピノッキオのいた場所に舞い上がる砂塵、爆音。

 やはりこいつは学習している。死角と長距離、ただこれだけでは当たらなくなって、挟み撃ちのような攻撃にも躱すなり迎撃するなりで適切に対処してくる。

 パイロットは一体何者だ。テオドールはそこがどうしてもわからない。

 モーションの不完全さから想像できないほどの的確な判断力と、あまりにも優秀な学習能力。

 エース級なのか、才能のある新米なのか、全く判断がつかない。あまりにもチグハグで、今までの知識と経験の全てを否定してくる嫌な感覚。噂のニュータイプとやらは生憎実際に見たことは無いが恐らくこういうものでは無いはずだ。

 

『ジム四機、接近!まもなく敵射程圏内!』

 

 クイントンの焦燥した声が、刻限が迫っていることを告げる。

 どういう意図であれ、まもなく連邦のMS四機が戦線に介入してくるのは確実。もしピノッキオの救援という意図であれば自分達は袋の鼠、まず撤退すら許されないほどに凄惨なことになるだろう。

 そして、もう一つの可能性。こちらであったならば………正直、その後の展開は想像がつかない。間違いなく大混乱になるし、それに乗じてとんずらできるかも不明。頭が痛くなることこの上ない。

 しかし、痛くなる頭があるうちが華ともいえる。その点では、テオドール達にとって望ましい展開は………

 

「テオ!何か動くぞ!」

 

 ハロルドの声とともに、ピノッキオはマシンガンをその場に落とす。ついに弾が切れたか。

 そのまま右腕を背に回し、まばゆい光刃を引き抜いた。連邦のMSが愛用する近接兵装、ビームサーベル。全てを焼き切るための焦熱の剣。

 まあ、それは持ってるだろうなとテオドールとしては想定内のこと。問題はそれにどう立ち回るか。

 そこらの兵士相手ならばともかく、ジオンのヒート系武装という毛色の違う近接武器でどう立ち回るか。この化け物はどう動くか。

 そして、それを待っていられるのか。

 

「ミツヒロ、接近中の奴らがこっちを狙ったら一発ぶち込め!お前の位置はバレてない!」

「テオ、一度距離を取れ!援護する!」

 

 ハロルドが残弾一掃とばかりに弾幕を張り、それをピノッキオが回避した瞬間を縫って距離をとる。

 近接戦を挑むにしてもまずは仕切り直しもできるし、この後の展開がどうなっても即座に安全に離脱できるようにする必要があった。ハロルドは、こういった呼吸を整えるタイミングを絶対に外さない。だからこそ仲間達も今日まで生きてこれた。

 ヒートホークを構え直し、いつでも踏み込めるよう意識を尖らせる。

 

「連邦ジム部隊、攻撃を確認!ランチャーだ、備えろ!」」

 

 ピノッキオに機体正面を向けたままに、テオドールとハロルドは機体を一気に後ろに下がらせる。

 自分達とピノッキオ、どちらを狙ったものなのかはわからないがランチャーならば榴弾の範囲内にいればそんなことは関係ない。とにかく着弾までに可能な限り離れることだけを考える。

 上空に高速で飛来する三条の軌跡。ピノッキオとてそれは無視できないはず。その通り、後方に下がりながら頭部のバルカンで迎撃を試みる。

 

 

 しかし、次の瞬間の光景は誰もが想定していないものだった。

 

 

 見えたのは白い煙、聞こえたのは予想よりも軽い炸裂音。

 降り注ぎ爆炎を巻き上げると思われたランチャーの砲弾は、遙か上空で炸裂。その姿を変えて地上へと降り注ぐ。

 それはまさしく、巨大な蜘蛛の巣そのものだった。

 

「ネット・ガンだと………!」

 

 実際に見たことは無かったが、以前戦闘の映像記録で残っていたものをブリーフィング時に見た覚え上がるその兵器。ジオンにも類似のものはあるが、少なくともテオドールは使ったことが無い。

 榴弾などの破壊力のある弾頭では無く、強靱かつしなやかな大型ネットを空中で展開させて対象を絡め取り、破壊すること無く鹵獲することを目的とした非殺傷型携行兵器。そんなものを、装備できる数に限りがあるMSに最初から複数用意して来たということは、連中は自分達の目的を雄弁に語っているも同じ。

 その着弾と同時に、アストからの通信が響き渡る。

 

『サムソンより各機!連中の狙いはガンダム………ピノッキオだ!』

 

 言葉の通り、ネット・ガンの対MS鹵獲用ネットは明らかにピノッキオのみに降り注いでいる。

 想像よりも範囲が広かったか、しっかり狙われていたかどうかの違いか。テオドール達は効果範囲から離脱できたが、ピノッキオは違った。一つはバルカンによって迎撃できたようだが残りの二つは展開され、異形のガンダムへと見事に降り注いだ。

 そして狙いがピノッキオであるのならば、やるべき事は一つしか無い。

 

「総員後退!ピノッキオの動向に警戒しつつ、現戦域を離脱し後退、対MS歩兵中隊と合流できるルートを退却するぞ!」

『ジム四機は速度を上げ前進を開始、明確にお人形さんに向かっていますね。少なくとも、現在こちらに攻撃を加えるそぶりは見られません』

 

 身に絡みつくネットをビームサーベルで焼き切りながらなおも動き続けるピノッキオから目を離さず、赤いザクはスラスターの推力を利用してハロルド達と同じ方向へ急ぐ。

 あのネットも長くは保たないだろう。連邦の部隊に他に何か手段があるのかはわからないが、こっちを一時スルーしてでも優先するほどご執心ならばお任せしよう。好きなだけ遊んでやがれ。

 

「ミツヒロ、通常のセンサー類の範囲までは全力で退却しろ!その後狙撃用センサーで様子を伺いながら後退しろ!殿は任せたぞ!」

「了解。連中がこっちに火器を向けたらその時点で撃ちます」

『サムソンの荷台からスモークを打ち上げます!風が強い、あまり長くは効果が続きませんから急いで!』

 

 各自がそれぞれのやり方に従って全員の撤退を遂行しようと動き出す。

 同時に、ピノッキオ周辺で複数の着弾。恐らくはマシンガンだろう。多少の損傷は仕方無しと判断したのか、それとも捕獲は二の次で確実に制圧するための時間稼ぎのネット・ガンだったのか。それはわからないが、せっかくのネットはすでに大部分が焼き切られて台無しだ。

 早々に距離をとらなければ各々の目的すらはっきりしない乱戦なんて状況に巻き込まれることになる。そんなダンスパーティーは間違ってもご免だというのはクランプス隊の総意のはずだ。

 

「総員、ピノッキオおよびジム部隊に警戒を継続しつつ戦域を離脱!パーティーは遠慮させてもらおう!」

 

 ネットの切れ端を残したままバーニアから光を放って飛び上がるピノッキオと、それに追いすがる曳光弾。上手いこと注意を引いてくれているらしい。優秀じゃねえかという笑いは、まあ皮肉で。

 そして、テオドールには確かに見えたものがあった。

 

(今、あのジムのツラ、確かにこっちを………)

 

 連邦の誇る量産MS、ジム。その特徴的なメインカメラが、確かにこっちを見ていた。しかし手元の武器は一切向けること無く、すぐにピノッキオへと視線を戻して。

 こちらのことなど、手を出してこないなら知ったことでは無い。さっさとどこへでも行け、邪魔をするな。そんな言葉が聞こえた気がして。一つ、また一つとパズルが組み上がる音がする。

 ここまでくれば、後はもう一押しだ。完成とはいかなくても大きくピースを揃えていける。テオドールは正面を見据えたまま無線に言葉を投げた。

 

「アスト。おっさんは元気か?」

『………ルフィーノさんか?ああ、別に怪我は増えてないけど』

「じゃあ、悪いんだがおっさんと話をさせてくれ。警戒は続けながらするからよ」

 

 少しの間とアストのため息。少し物音がして、お目当ての人物の声。

 

『テオドール少尉、だったか。ルフィーノだ』

「悪いね突然。いくつか、確認しなきゃならんことがあってな。最も、これは別に俺だけが気づいたわけじゃないし、おっさんもわかってるかもしれんが」

『ああ。何でも聞いてくれ。恐らく私は、その答えを持っている』

 

 ああ、やっぱりわかってるよなと。

 言葉こそ発さないものの、ハロルドもミツヒロも、全員が気づいたはずのこと。予想したはずのこと。黙って聞いているのはわかった。そのまま、尋問ではなく質問を継続する。

 

「あのジム達は、あんたが元いたところの所属かい?」

『いや、確実に違う。私のいた基地にはジムこそ配備されていたが、あんな武装は無かったし隊の番号もマークも無かった』

 

 一つ、ピースの形がはっきりする。

 つまりあれはルフィーノ率いる偵察隊の異変を察知して救援に来たというわけでは無い。ネット・ガンなんてものを用意してきたあたりから薄々わかってはいたが、ルフィーノとしては残念な結果だろう。とはいえ、反応から察するにあまり救援に期待できていたわけでもなさそうではあるが。

 あのジム共は何かしらの指令を受けてあの異形のMSを捕獲もしくは撃破するためにあの場に現れ、そしてその優先順位はジオンのMS部隊よりも高いもので。

 

『このような事を言っていいのかわからんがね。私のいた場所の守備隊は、あんなに練度も高くなかった。もしかしたら基地で援軍を要請し、それを受けた別部隊が来てくれたのかとも淡く期待はしたのだがな』

「おいおい、聞いておいてなんだがよ。そいつは喋っていい情報なのかかい。自軍の戦力情報だろ?」

 

 爆音が多少聞こえるが、おおよそ戦域からは遠ざかったか。本当にこっちに興味が無いらしい。窮地は脱した、というところか。

 無線の先で、僅かに含んだような笑い声。

 

『最早、誰が敵で味方なのかもわからん。そんなもの、少なくとも今は意味をなさんだろう』

 

 あまりに多くの異常が発生し、望み薄かと思われた救援が来た、と思えばそれは全くの思い過ごし。

 心が折れた、とまではいかないが。ルフィーノの内心は、相当参っているらしい。言葉には力が無く、何かをはっきり諦めたような空気が言外に伝わってくるものだった。

 

『もう少し離れたら対MS歩兵中隊に連絡を入れます。行軍を即座に停止、即応できる状態でその場で待機されたし。それでいいですか、隊長』

「うむ。それでいい」

「狙撃用センサー類で確認してますが、まだ戦闘は継続してるようですね。ま、我々としてはほぼほぼ安全圏に出れたってところですか」

『パッシブレーダーにも反応はありません。航空機のお仲間も来ないようですね』

 

 最悪の状況だけは脱した。しかし、こうなってくれば状況をはっきりさせないことには任務の継続にすら影響が出てくる。

 故に、自分達の議論だけではなく考えられる全ての情報を集め検討しなければいけない。次にあんなことがあれば、また上手く逃げおおせられるなんて保証はどこにも無いのだから。

 

「あの撃墜された航空機、その救援ってわけでもなさそうですね」

「暴走、もしくは脱走した最高軍事機密を回収しに来た………も無いわけじゃない。だが、違うだろうな」

「そうっすね。だとしたら、あの場で俺達をスルーした理由がわからない」

 

 味方どころか敵軍で、交戦までしたなんて最大の目撃者。そんなものを逃がす理由はないし、もしもそうだとしたら戦力だってもっと整えてきてもおかしくない。

 そもそも最初、あの航空機。あれだって連邦のものだったわけで、それすらも撃墜するほどの機密であるならばなおさらだ。

 それこそ、対象の捕獲と目撃者の抹殺を同時に確実にできるほどの戦力を。それがジム四機というのは少し寂しい話だろう。

 だとすればあのピノッキオの立ち位置も少しずつだが透けて見えてくる。

 

「ルフィーノさん。あんたはどうやら、お仲間に襲われたわけじゃなさそうだな」

『喜んでいいものか。そして、諸君のお友達でも無かったと』

「その通りだ。俺達もあんた達も、碌でもないものに取り憑かれたらしいな」

 

 あの時、戦闘前にミツヒロが語った仮説。その残りの一つ。それが、現在では最も有力な説へと姿を変えていた。

 

「あのガンダムもどきは、ジオンでも連邦でもない、と?」

「少なくともどちらの味方って訳でもないでしょう。あのジム共も、俺達と同じような任務を受けてやってきたのかもしれない」

『いくらツギハギとはいえ、第三勢力のようなものがあんな部材を集められますかね?』

 

 クイントンの疑問はもっともだし、ミツヒロもあの時言っていたこと。

 ジオン連邦双方どちらでもない第三勢力のようなものが、最新鋭機たるガンダムのようなものの部材までかき集められるのか。そしてそれを運用などできるのか。

 そこから先は流石に今の情報では答えを出せないが、推測しておくくらいは別にいいだろう。

 

『軍の一部の部隊もしくは部署、それか軍需産業の関連がコソコソ悪巧み、とかもありえるってことでしょうかね』

「映画の見過ぎだ、といいたいが。現状、それを否定できる要素も無いな」

 

 とにかく、こんなことを言い合いながら移動できる程度には安全な距離を取れたはず。

 まずは後続の歩兵中隊と合流し、アクス中尉を含むできるだけ多くの人間で話し合い、方針を決めねばならないだろう。

 場合によってはピノッキオによる追撃の危険性も考え、進路を変更もしくは後退してということになるかもしれない。相手の作戦目標がわからない以上、どう動くかは常に最悪を想定しておくのが鉄則。その上で、あんなセオリーも何も無い絡繰り人形と再戦した際の対応策も。ああ、忙しいなとテオドールは頭を抱え、タバコに火を灯してサブモニターに目を向ける。

 

「終わったか、それとも十分離れたか」

 

 少なくとも自分のザクのカメラ・センサー類では戦闘の火は見えない。もしも終わったのならば、ピノッキオはどう動くか。追ってくるか、その場を離れるか。はたまた別の何かか。

 

「俺のセンサーでも捉えられません。ただ、これは砂塵のせいもあるから断言はできないですがね」

「ミノフスキー粒子さえ無けりゃ、ってのも地球じゃなかなか通じないものだな」

「テオ、念のためにサムソンの荷台からマシンガンの弾をとっておけ」

「了解。隊長、バズーカは」

「予備は一つしかないからな。今はいい。仕方なかったとはいえ、捨てるのはもったいなかったな」

 

 回収している暇など無かった、本当に仕方ないことだ。

 右腕に入ったダメージがマシンガンの射撃精度に影響を出さないことを祈るしか無いが、それは落ち着ける場所でアストに確認してもらうしかない。整備兵とは過酷なものだ。

 さらに、もう一つアストには仕事がある。

 

「アスト。対MS歩兵中隊と合流後、可能ならば上と通信してほしい」

『上、ですか』

「そうだ。この未確認機体を捕獲もしくは撃破という指示を出してきた、対MS歩兵中隊の、アクス中尉達の上にだ。状況を説明した上で、現時点で得た情報を全て伝える。その後の動きは、一度判断を委ねた方がいいだろう」

 

 正直に言えば、「他にやらせろ」もしくは「がっぽりと援軍をよこせ」のどっちかを言いたいのは山々ではあるが、この地球上でのジオンの苦境でそれは贅沢すぎるというもの。

 宇宙に帰ることが叶わず、もしくは自発的に地球に残ったジオンの戦力は潤沢とは言えない。だがだからといって、放置するにはアレは少し危険すぎる。

 

「せめて、補給だけでもどうにかしないといけないですね」

『それについては私がアクス中尉を介して話してみましょう。アスト坊やはまずそちらに専念を』

「各自、後方への警戒を続けつつ、決められた方位へと進むぞ。一秒でも早く一区切りさせて、少しでも眠っておかねばな」

 

 月の明かりで鈍く照らされる赤いザクが、マシンガンに新しいドラム型弾倉を装填。正常に認識されたことがコンソール上に表示される。今のところ、大きな影響はなさそうだ。シールドは、まあ仕方ない。

 

 夜がきた。あの広大な宇宙よりは明るい、しかし確かに静寂な夜が。

 月明かりだけが照らす砂漠に舞い上がる砂をかき分けて、一つ目の鋼の巨人達は進んでいく。

 仕事は終わってない。それどころか余計にややこしいことになった。だからといって、ふて寝させてももらえない。

 

「おっさん。悪いがもう少し付き合ってもらうぞ。身の振り方も決まらん内にだが、かまわんよな?」

『仕方ないだろう。どこの収容所に行くか決まるまでは、諸君らとの奇妙な旅ということか』

 

 ルフィーノも力なく笑っているが、やはり相当疲れが見える。捕虜に対して少し丁寧すぎる気もしないでも無いが、大切な証人だ。さよならがどういう形になるにしろ、それまでは付き合っていくしかない。

 

「クランプス隊。作戦を続行する」

 

 ハロルドの形式的な宣言。

 ああ、面倒くさい。碌でもない。笑い話にもならない。

 一体何に巻き込まれたのかなんて誰にもわからないまま、それでも任務は続いていく。続けるしかない。

 ハロルドのため息、ミツヒロの舌打ち、アストのぼやき、クイントンの噛み殺した欠伸。

 

『捕虜の身で言うことではないが』

 

そしてルフィーノの一言。

 

 

『酒でも飲んで、忘れたいな』

 

 

 ああ、まったくもって。

 その通りだという言葉に代えて、無線越しに皮肉な笑い声が伝わった。

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