機動戦士ガンダム重力戦線異聞 Imitation RED 作:葛西源次郎
「いや、失礼失礼!長く地上に留まっていると色々と噂も偏ってしまってな。ほら、これでも飲んで!」
悪かった、と言いながら豪快に笑うフェム。テオドールは正直そのテンションに既に疲れ始めていたが、渡された飲料ボトルを受け取って礼を述べ、喉を潤した。
あの後すぐにルフィーノに後でケツを蹴り飛ばすと予告してからお決まりの自己紹介を終え、ひとまずパイロットの調整が必要になってアストに呼ばれるまで休もうとしたところをハロルドとの会話を終えたこの壮年に絡まれていた。
元気がいいのはいいことではあるが、まるで田舎の工務店のオヤジかの如きそのノリは身の回りにいないこともあってか新鮮と同時に反応に困る。
「ザクのシールドならいくつか在庫があったからな。拾いものとはいえ、十分使えるものを用意してある」
「拾いもの………道中で大破した奴から回収ってことですか?」
「そうだ。この戦況、使えるものは使わんとな。うちは積載量には自信がある、拾えるものは拾っておくことにしてるんだ」
ギャロップの後部に牽引するカーゴは、その圧倒的な積載量が自慢だ。
戦闘時には切り離しておく必要こそあるが、独立した動力を持ち燃料弾薬武器予備部品、何でも積み込んで大地を駆けることができるその勇姿は地上部隊には何よりも頼もしい。
聞けばこのグルファクシ隊はそのペイロードを十全に活かして輸送補給を各地で行いつつ傷病者の収容などを行っているという。
先程少しだけカーゴの内部を見たが、納得がいった。やたらと装甲やパイプなどの部品が充実しているのはそういうことかと。食糧や医療品などはともかく、乗り捨てられた機体から無事な部分だけ回収すればそれを必要とする場所は必ずある。ついでに、連邦のシールドなどがあった理由にも得心した。
「あの若い整備君が必要なものは全てリストアップしてくれてたからな、用意も楽だったよ。赤い塗料もしっかりと渡しておいた」
後でケツを蹴り上げないといけない奴が一人増えたらしい。
せっかくの機会すらも奪われ、またあの不本意な看板と付き合っていかねばならないのかと頭を抱える。それを見て、フェムはまた豪快に笑い飛ばしてくるものだから余計に頭も痛くなるというもの。
「気持ちはわかるが、あまりそう気にしないほうがいいぞ少尉。それにパーソナルカラー持ちのパイロットともなれば自然と注目を集めてしまうものだ」
「好きであの色にしてるわけじゃないんですよ。流れでああなってるだけです」
「ならそういう運命だと思って諦めておけ!なぁに、聞けば腕はいいという。宇宙の彗星稲妻に次いで、地球方面軍に三人目の赤きエースありとしてしまってもいいわけだ!」
よくねえ。テオドールはその一言を飲み込み煙を吐き出す。
悪い人では無いというのはわかっているのだが、それ故に噛みつくこともままならないのが本当にたちが悪い。ただのクソ野郎であれば、あとでハロルドに迷惑をかけること前提で喧嘩になってもいいのだが。
「なんならもっと個性つけてみるか!丁度ドムの腕があるぞ。ちょっと待ってろ、持って行くか?」
「俺の機体をどうするつもりだあんた!」
「なぁに、何度か似たようなことはしてるからな。しっかり繋いでやるから任せてみろ!」
流石にそろそろ口の悪さを抑えるのも限界になってきた。向こうもそれを狙って煽っている節があるので、もう遠慮無くいかせてもらおうか。などと、考えたところでテオドールの頭によぎる一つの光景。
「………んな、ツギハギみてえな」
ツギハギ。
ピノッキオと名付けられたあの異形のガンダムも、各部に他機のパーツを混在させていた。アレを見てしまったことも手伝って余計に嫌になってしまうのか、それほどに印象の強いツギハギの狂気。
テオドールは、思い切って聞いてみることを決めた。
「なあ、フェム中尉」
「なんだ。安心しろ、ドムの腕はしっかり赤く塗ってやろう」
「頼むから上官を蹴り飛ばす理由を積み重ねないでください。ただ、今その話を聞いて思ったんですがね」
「例の化物か?」
フェムはあっけらかんと話題を看破し、飲み物を豪快に呷る。
ただのガサツおやじではないということだろうし、それほどまでにわかりやすい話題でもあったと言うことか。向こうも話を聞いて以来ずっと頭にあったのかもしれない。
「聞くだけで恐ろしいやつだ。本音を言えば、君達にずっと護衛を頼みたい程度には本気で畏れている」
「実際に逢った身としてはケツ捲って逃げ出したいですがね。ただ、あのツギハギ野郎の構造についてうちの毒蛇整備君が相当悩んでまして」
「連邦ジオン混成の機体だったな」
「それ、やる意味としては何かあるんですか?違う機種同士をつなぎ合わせるって」
フェムは上を仰ぎ、髭を弄りながら考える。
あんなメチャクチャな存在でも、視点を変えれば何かしらの理由が見えることがあるかもしれない。アストがお手上げであっても、異種機体同士のパーツ流用の経験があるというグルファクシ隊ならば、と。
ただ聞いてみるだけのつもりだったが、フェムは思いのほかしっかりと考え込んでくれているようだ。
「そうさな。まず、聞く限り連邦の機体にグフの腕がくっついてたって?その時点でまずおかしいだろう」
フェムは胸ポケットに手を入れ、自前のタバコを取り出して火をつける。テオドールのものとは違う、いわゆる葉巻という奴か。そんなものどこで手に入れたのか。
「連邦の機体とジオンの機体はそもそも駆動方式が違う。流体パルス式と、フィールドモーターとかいうやつ。原理が違いすぎるぞ、まずくっつける事が困難だ」
「できないわけじゃない、と?」
「そりゃ実際に動いてたんだろ?中身は別物、という可能性もあるがな。接続が絶対無理というわけでは無いが………まぁ、そんな手間暇とコストを無駄にしたところで、得られるものなど無いぞ」
ばっさりときた。
「どうしても何があってもその部品を使いたいならともかくグフの腕ねぇ。そんなもん使う理由思い当たらんし、変換その他で相当複雑になるから強度だって落ちる。俺ならやらんな」
「ドムの腕をザクにつけるのはありなんですか」
「そりゃありだ。メーカー違ってもそのくらいならな!」
爆笑するフェム。基準がわからんとしか言えないテオドール。
煙を宙に漂わせ、心底おかしそうに笑う。しかし、聞けた話は本気のそれだし、何一つふざけてはいないこと位はわかる。
そうなってくると、いよいよあのピノッキオの素性がわからなくなってきた。
「まあ、よほどあり合わせのものしかないとか、理由はこじつけようと思えばいくらでもできるがな。聞けば連邦の連中もそいつを狙ったんだろ?補給もまともに受けられないんじゃ無いか?」
「そうなると、アイツはどこであんな整備したんですかね。聞く話じゃ相当複雑にやらないといけないんでしょう」
「まあ、今の手札じゃ結論は見えんな。案外、今頃どこかで勝手にくたばってるやもしれんぞ」
もしそうだとしたらどれだけ肩の荷が下りることか。
タバコを踏み消して視線をずらせば、グルファクシ隊の兵士達とクランプス隊の毒蛇が協同で整備を続けている。ギャロップの船内の整備能力はよほどうれしいものなのか、心なしかアストのテンションも高い。
これはいい状態に仕上げてくれそうだ、とテオドールとしても安心する。なんだかんだ毒ばかり吐いているようで仕事は確実かつ真面目な奴だ。使える環境全てを駆使してその時に可能な最高の状態に仕上げてくれるはずだ。
「お前達もサムソンもう一台くらいどこかで確保したらどうだ。うちみたいに拾えるものは拾っておくと便利だぞ」
「人間が足りないですよ。それにそうそういいものが落ちてるもんでもないし」
「わからんぞ?北米は様々な戦いがあったからな、少し目を凝らすと存外使えるものも残ってるぞ。それを専門で集めて売り払ってる連中までいるらしいからな」
「それはよくねぇだろ」
ただの山賊の類じゃないのかと。
第一、テオドールも言った通りサムソンを増やしたところでドライバーが足りない。ギャロップを運用できるような舞台とはそもそもの前提が違うのだ。
羨ましいところもあるが、自分があまり大所帯で上手くやっていける人間とも思えない。今の部隊が一番丁度いいのかもしれない、とは何度か考えた。
メンバーも能力には何も不満はない。あるのは口の悪さだけだ。
「数ヶ月前には、うちの試作兵器の巨大戦車が北米で暴れたなんて話もある。知らないだけで、意外とスクラップが出る戦闘は起きてるものだぞ?」
「………巨大戦車?」
「詳しくは知らんがな。MS開発黎明期に試作されて採用されなかった、MSと戦車の中間のような存在だと噂では聞くな」
その言葉に、テオドールの胸の底で何かが揺れる。
顔に出てしまったのか、それともフェムが聡いのか。その揺らぎは確かに見抜かれてしまったようだ。
「なんだ、気になるのか?どこぞでデータベースでも漁れれば見つかるかもしれんが」
「いや………少し、懐かしくなっただけですよ」
「懐かしい?」
そこまで聞いて、フェムは全てを悟った。
無い話では無い、というかそれなりに初期からの参戦ならばそう珍しいことでもない。知ってる人間にもそれなりにあったことだ。
「そうか、お前さんは戦車からの転科か!」
「ええ。そこまで長くやってたわけじゃ無いですがね。てっきり戦車でやりあうもんだと思ってたら、まさかの転科ですよ」
開戦より前。テオドールは軍に入った時、戦車兵としての道を進んでいた。
コロニーという地球とは全く勝手の違う場所まではあったが、地球連邦との緊張が高まるにつれてその意義は日に日に強くなっていたこともあり、いずれはこいつで戦地に、と考えていたが。
「ま、ザクが嫌だってわけじゃないですがね。戦況を見れば、あの時転向試験を勧めてきた教官には感謝したほうがいいのかもしれないですし」
MSの本格的投入の決定以降、各部隊に転科の志望者を募る動きがあった。
当初はあまりに未知の存在であるMSに対して即座に手を上げる人間はそう多くなかった。皆戦争となればこれに乗るのだ、と修練を積んだ専門がある。それを捨てて、人類史において初という鋼の巨人に乗り込めなど。躊躇うなと言う方が無理だろう。
その上で、テオドールがMSパイロットという未踏の世界に踏み出すきっかけは何だったか。そこまで考えて浮かんだ顔と声に………ああ、なるほどと。今更ながらに気づき、苦笑する。
「いい教官だったのか」
「お世辞にも上品な人じゃ無かったですが、自分の知る限りじゃ最高の戦車乗りでしたね」
左目の上の傷が印象的で、言葉遣いも荒く乱暴でガサツだった教官の姿。腹が立つことがあれば噛みつき怒鳴り散らし、とても手に負えなかった。しかし、楽しいこと嬉しいことがあれば膝を叩いて高く笑い、周りの人間と肩を組んで心底愉快そうな笑顔を浮かべた。
そんな、腕は超一流の教官の姿を思い返せば納得もいくこともある。目の前のフェム中尉を申し訳なくも苦手に思うその理由。
ああ、似てるのかこの人は。兵士としての能力は心底敬服するに値するが、そのテンションがどうしても苦手だったあの戦車教導団の教官殿と。今頃、どこで何をしているのかは知らないが。
「なぁに、生きていればまたどこぞで会うこともあるだろうさ!さて、そろそろ作業も進んだんじゃないか?」
別にどうしても会いたいというわけじゃ無いが、まあ言うことでも無いだろうと。
タバコを大きく吸い込んで吐き出し、砂漠に投げ捨ててフェムと同時に立ち上がる。
ドムの腕を移植されないように気をつけなきゃならんな、と。テオドールは、愛機の元へと歩き出した。
「また見事に直ったものですね。色も含めて」
「あの毒蛇、絶対蹴り飛ばす」
ミツヒロと共にザクを見上げるテオドールは、その表情と言葉に持てるだけの怨嗟を詰め込んだ。
テオドールのザクのシールドは、アストとグルファクシ隊の整備兵によって短時間で見事に修理されていた。
そう、見事に機体の色に合わせた赤い塗装も含めて。
「本機で嫌がらせしてきやがるあの伍長」
「いいじゃないですか。性能面では完璧に仕上げてきてるんですし」
「そこは大前提だろうが」
その会話を背後で見守るハロルドとアクスは、どこか微笑ましそうな目を向けてくる。それがまたテオドールの頭を痛くすることをわかってるのかどうなのか。ついでに毒蛇の笑い声も聞こえてくるものだからたまらない。
グルファクシ隊のギャロップは長い時間走ってきたらしく、ここで一度休息をとるとのことで兵士達がそこかしこで座り話し込んでいる。先程ハロルド達に渡されたチョコレートと珈琲もグルファクシ隊からの差し入れとのことだ。全く、ありがたい事で。
さらに驚いたことと言えば、ミツヒロのザクに必要だった対艦ライフルの弾薬だ。
地上であんなものを使う者もそうそういない。故に、少し諦めた節もありながら要望していたのだが。
「まさか、徹甲弾だけじゃなく榴弾なんてあるとはな」
「それについてはグルファクシ隊の性質と、運の良さに感謝ですよ」
ミツヒロ曰く、正確には榴弾とも少し違うという。本来の目的である宇宙での対艦攻撃で用いられるもので、目標に着弾後、内部で炸裂して散弾を撒き散らし効果的に破壊するというもの。
テオドールはそれを聞いた時に地上で使えるのかと疑問に思ったが、ミツヒロとしては割と使い道があるとのことで満足げであった。まあ、本職がそう言うならばそうなのだろうが。
地上降下したある部隊が持ち込んだものの、ミツヒロと違ってそこまで対艦ライフルに拘るでも無く無難にバズーカやマシンガンを選択し、そのうちに持て余していたのをグルファクシ隊が補給時に押しつけられるような形で譲られたとのことだ。使えるものは拾っておくというそのやり方が今回自分達にとって幸運に働いたということか。
「あといくつかオマケがある、とか言ってたな。滅茶苦茶いい笑顔で」
「少尉の今の顔と正反対ですね」
「嫌な予感しかしねえんだよ、察してくれ頼むから。ザクの腕がザクのままで本気で安心したんだからな」
ただしかし、既にいくつか見覚えの無いものが付いているのは確認済みだし、それはハロルドもミツヒロも同じだったとのことだ。
バックパックの脇に、それぞれ一つずつ取り付けられた小さな装備。筒が三つ扇のように並んだそれは用途も一瞬でわかるものだったし自分達にとっての有用性も高い。本当になんでも揃えてやがる上に押し売り好きだなと思いつつも感謝は忘れない。
「スモークディスチャージャーか。サムソンに載せてはいたが、誰一人ザクには積んでなかったよな」
「最初から無かったのと、必要に迫られることも無ければ頻繁に補給受けられるような状況じゃ無かったですからね。あれば便利ですし、ありがたくいただいておきましょう」
「お前は特に有用だもんな、スナイパーさん」
「緊急離脱に便利なのは認めますがね。使った時点で居場所自白してるようなもんだから本当に緊急時だけですよ」
要するに煙幕展張装置である。
シンプルな構造のそれは、確か内部の弾頭を簡単に交換することができるとも聞いた。照明弾や信号弾、中には空中で炸裂して破片を撒き散らす対歩兵用装備もあると聞く。アクス中尉達か苦い顔をしそうだ、と少し笑ってしまう。
ドムの腕を移植されて新種のMSを生み出されるよりは全然嬉しいし、嵩張らないから今後へのデメリットも無い。フェム中尉は想像以上に気を回す人間だったようだ。
「まあ、向こうも少し前にえらい目に遭ったらしいですけど。おかげで、見た目以上に苦労多いそうですよフェム中尉」
「えらい目?なんだ、他にも化物がいるんじゃねえだろうな」
「ギャロップのバブルキャノピー。やけに新しいと思いませんか?」
言われてギャロップの方に視線を向けると、なるほど確かに。
船体の上に突き出したバブルキャノピーは、どこか真新しいというか補修の後が見て取れた。バブルキャノピーはその広域の視界による索敵能力と引き換えに防御力は皆無。それが破壊された痕跡があるということは、意味するところなど一つだ。
「粒子の濃い状況で砂嵐の中を進軍中、連邦の小部隊と不意にかち合ったそうです。元々グルファクシ隊を指揮していた大尉殿が、苦し紛れの一発が直撃して戦死したと」
「この戦況じゃ、大尉相当の人員補充なんぞ容易じゃないからな。そのままフェム中尉が引き継ぐしかなかったって事か」
上手く兵を纏めているように見えて、それが真実であったとしても。
直属の上官が突然戦死し、その跡を即座に引き継ぐ他になかった。それは、如何ほどの重圧だったのか。
船艇の運用と戦闘両面の指揮をとりつつ自身も前線へ出るなど、並大抵のことでは無いはずだ。あの豪快な哄笑も、もしかしたら自分自身への鼓舞という側面も少しあったのかもしれない。
戦死と離別は軍人の、ひいては戦争の常で有り日常でもある。しかしその上で、突然降りかかった責任と義務を放棄することも自棄になることも無く果たしている彼は、紛れもなく実直で有能な軍人なのだろう。
正直、山賊の親分に見えないことも無いが。
「ああ、ここにいましたか皆さん。ちょうどよかったと言うべきでしょうか」
背後のハロルドとアクス、そしてテオドールとミツヒロを見渡して声をかけてきたエンターテイナー、もといクイントン。その脇には毒蛇アスト。
さっそくケツを蹴り上げてやろうとするのを制され、集まったメンバーはクイントンを中心にして報告を聞く体制へと移る。しかし、いつもの陽気な黒人兵士がどこか焦ったような、急かされているかのような顔色を浮かべているのが気になるところだ。
ああ、恐らくいい報告では無いな、と。誰しもがそう確信した。
「皆さん、お察しいただいたようで何より。いい報告が一つと、あまりよくない報告が一つ。それと、最悪の報告が一つです」
その言葉に、誰もが顔を強ばらせる。
嫌な予感とは当たるものだ。そして往々にして結果はその予想を超えてくる。
結果として出てしまっていることは変えることができない。ならば末端の兵士にできることなど、それを聞いて受け止め、その状況でも可能な最良の判断を探して動くことだけだ。
「まず、いい報告ですが。今配りますリストが補給の結果です。グルファクシ隊の皆さんは、予定以上に様々なものを融通してくれました。おかげでしばらくは困らないでしょう」
大規模な戦闘でも無い限りですが、と不穏な言葉を付け加えて。言葉を区切ったクイントンは、アクスの方に向き直る。
「アクス中尉。これはあまりよくない報告となります」
「私に、ということは大隊についてか?」
話の流れから、連絡を取ろうとしていた大隊への通信関連のことなのは誰でも予想がつくことだ。そしてそれをあまりよくないと称するということは、少し覚悟しなければいけないだろう。
「まず件の大隊ですが、通信は依然不能です。しかし、グルファクシ隊が少し前接触したという航空偵察隊の方から断片的な話を得ることができました」
「大隊を上空から確認できたのか?」
「はい。その結果となります」
クイントンは汗を拭くような仕草の後、喉に何か詰まったかのように躊躇ってようやく言葉を絞り出す。
「位置はここから400キロほど離れた場所で、大隊のダブデに被弾の痕跡を確認したと。なにやら、戦闘が発生し被害を受けている模様です」
「なんだと!?被害の程度は!」
「不明です。航空偵察隊の方も、その直後に敵機の反応を感知して撤退せざるをえなかったとのことですので」
「粒子はその周辺に?」
「はい。大隊周囲は間違いなく戦闘濃度の粒子が観測されていたと」
つまり、今までの通信不全はやはりミノフスキー粒子の影響で、しかもそれは大隊そのものが戦闘に巻き込まれた結果だと言うことがはっきりした。そうなった以上、大隊が粒子散布圏外に出るかしなければこちらの工夫だけでどうにかなるものでもないということになる。
ルフィーノのオッサンには他の手段を相談しよう、とテオドールが心に決めた横で、アクスは頭を抱えて汗を滝のように流している。
アクスからしてみれば、自分達の母体となる組織が原因もわからず被害を受けていると聞かされたわけで無理も無い。しかし、テオドール達から何を言ったところで状況が変わるわけでも無ければ慰めにもならない。距離からしてピノッキオということはないだろうが、それでも早急に事態を把握しなければならないだろう。
これは少し次のミーティングが荒れそうだと思うも、そもそも最悪の情報というものをまだ聞いていない。それによってはミーティングは早々に切り上げてすぐに動かなければいけない可能性だってある。
「次の報告………最悪のものです。正直、まだ信じがたいのですが」
クイントンの顔にいつものおどけた雰囲気は一切無いままで。
気づけば周囲のグルファクシ隊の面々も酷く騒々しい。怒鳴り声、悲鳴、投げつけるかのような指示が乱れ飛び、みんなが走り回っている。
クランプス隊もアクスも、全員が凍り付いたかのように動くこと無くその言葉を待つ。さあ、何が起きたと。どうすればいいのだと。
本当に凍り付くのは、このすぐ後だなんて誰一人わかっていなくて。
「数日前のことです。我々が余所と通信できなくなった頃のことですね。グルファクシ隊も先程連絡を受けたと」
その言葉の意味するところは想像なんて遙かに超えていた。
そして、今日この日から。
「我等ジオンは連邦軍本拠地ジャブローに対し、一大勢力を以て総攻撃を実行。結果は失敗、被害甚大にて退却」
ジオンにとっての、戦争は変わってしまった。
「ジオン公国軍は正式に、地球方面軍による地球侵攻作戦を中止。撤退を決定したと発表されました」