機動戦士ガンダム重力戦線異聞 Imitation RED   作:葛西源次郎

3 / 15
第三幕 クランプス

 クランプス。

 地球圏ヨーロッパ方面の一地方に伝わる伝承。

 宇宙世紀になってもまだ残り続ける、クリスマスという伝統と、それに付随するサンタクロースという存在の話。

 子供達はその話に心を弾ませ、クリスマスという日は町を、人間達の生活エリアを華やかに彩る。

 

 そんな華やかなりし祝祭の日、その聖人の影ともいえる存在がクランプスである。

 

 聖夜にサンタクロースに同行すると言われ、悪い子供や女性を戒める存在。

 恐ろしい異形の姿で現れ、言うことをきかない子供や悪さをする子供を連れ去り地獄へと落とすと言われる悪魔。錆びた鎖と鐘を手に悪しきを脅かす、戒めの象徴にして悪童から畏怖される魔。祝福に対する罰。

 

 テオドールの属する部隊のエンブレムともなった、悪を許さず正しきを守る番人。

 

 

 

 

 

 

「隊長、ほーんと地球圏の古い話好きですよね」

 

 サムソントレーラーの連装機関砲を磨きながら、スキンヘッドの黒人兵士がぼやく。

 こんな砂塵の舞い続ける中でいくらやっても、と思っても。少しでもメンテナンスできる時にやっておかねば、一度起きた不具合で死ぬのは自分達だということを誰もが知っている。グリスもいくらあっても足りやしない。

 アクス中尉と会談中のハロルドから離れ、現在は彼の話し相手がテオドールの任務だ。

 

「隊長は自分の家系を誇りに思ってるみたいだからな。宇宙に人類が進出する前からのルーツなんぞ、今時はっきり残ってる所なんてそうそうないしな」

「そういう、民間伝承とかかなり多い地域なんでしたっけ」

「らしいな。俺も詳しくは知らんが、名前から近い地域の出のはずだとこの隊にきてすぐに寄ってこられたよ。元々軍人なんぞやらんでも学者になれたような人だしな」

 

 タバコを何本吸い潰したか。直近ではかなり貴重な品となっているのは分かっていても、ではやめます控えますと言えるほど軽い依存ではない。

 弾丸がなくても死なないが、タバコがなくなればすぐ墓場に行ってもいいなんてジョークは言い飽きたし聞き飽きられてる。

 空気循環の関係で厳しく制限があるコロニーに比べ、地球の大気のなんと寛大なことか。

 

「部隊の名前も隊長が提案したらしいからな。クイントンはどうなんだ、家系の記録とか残ってるのか?」

「まさか。うちは宇宙入植前からめちゃくちゃな家でろくな記録なんてありません。なんならじいさんの名前だってはっきりしないですよ」

 

 大仰に手を広げるクイントン・トラオレ軍曹の顔は渋い。あまり、家族にいい記憶が無いのか。詳しく聞いたことは無いが、この調子ではその可能性が高いだろう。

 普段サムソンのサブドライバーと砲手を行っているこの男は人当たりがいいようでいてなかなかにのらりくらりとしている。

 筋骨逞しく厳つい姿からは想像しにくいが、作戦に関する重要なことなどを除けば、特に自分自身のことを聞かれても大体こうしてはぐらかしてくる。嘘つきでは無いのだが、どこか演技じみていて胡散臭い、とは我らが毒蛇アスト君の談だ。

 

「しっかし、俺のザクはいつ届くんですかい?それと、ロドニーが戻ってくるにせよ交代になるにせよ、新しいサムソン担当は」

「それに関しちゃなんとも言えんよ。最近じゃ場所によっては弾薬すら渋いこともあるからな。気長に待ってろ」

「戦争が終わるまでですか?」

「そりゃいいな。できれば早々に頼みたい」

 

 元々クランプス隊はザク四機が配備され、クイントンはそのパイロットだった。

 それ以前はロドニー伍長という若い兵士がアストと共にサムソンを運用していたが、ある作戦時にロドニーが負傷。同時にクイントンのザクが大破する事態となり、その後クイントンがサムソンのサブに入りロドニーは後方に送られることとなった。

 以来補充人員と新しいザクを彼はずっと待ちわびているのだが、この厳しい戦況では早々に叶うことは無く彼を悩ませている。

 

「どこも厳しいのは知ってはいますがね。弾薬の補給まで途切れないことだけを祈りますよ」

 

 言いながらサムソンの上から降りて、クイントンが取り出したのはタバコ、では無くキャンディ。

 見た目に反して大の甘党かつ非喫煙者のこの男はいつもこの手のものを口にしている印象がある。タバコもそうだが最近では貴重品だというのに、よくもまぁ確保できるものだ。

 

「一体いつ仕入れたんだそんなもん」

「前回の作戦後に、占領下の小さい町に立ち寄ったでしょう。あの時、雑貨屋の荷運び手伝って分けてもらったんですよ」

「いねえと思ったらそんなことしてやがったのか」

「占領地の民衆とは仲良くしておくべきでしょう。金か労働力をしっかり支払えば向こうだって文句は無いでしょうし」

 

 本当にのらりくらりと上手くやってるようだ。まぁ、確かに高圧的に迫ってくる軍人より、にこやかに手伝いまでして見返りがキャンディ程度でいいというならそれは嫌われはしないだろう。

 同時に、相場より高値でタバコを買うことになった自分はその手の気が利かなかったと言うことかと、テオドールとしては若干悔しい部分もある。今度からはそうしておこうと決めた。

 

「いっそ、最新型の………噂のFZとまではいかずとも、F2型でも受領できればな。そうすりゃ、隊長がそれに乗って、お前が隊長のザクに乗ればいい」

「勘弁してください。うちのザク乗り、三人の誰のザクでもまともに動かせる気がしませんよ。みんなやりたいように好き勝手弄ってるせいでアスト坊やが毎度毒を吐いてるんでしょうが」

 

 一瞬なるほどと言いかけたが、ちょっと待てと。テオドールは聞き捨てならないものと判断した。

 

「隊長とミツヒロはともかく、俺のザクはそんなにガチガチに弄ってねえだろうが」

「果たしてそう思ってるのは本人だけってやつです」

 

 芝居がかった大げさな仕草で顔を覆って嘆くクイントンは、その言葉だけは素直で。

 

「瞬時の切り返しを早くするためとはいえ、反応速度だけじゃ無くてスラスター推力まで底上げ。しかもしっかりした設備で計算してやったことでも無いから機体とパーツへの負荷は増えるばっかりで消耗速度は増すばかり。そのうち交換部品も無くなってツギハギにでもなるんじゃないですか?」

 

 ついでにバランサーも弄ってる、ということはテオドールは心に仕舞っておくことにした。

 実際ここ最近は交換部品も手に入りにくくなっている。そのうち本当に代用パーツでなんとかするしかないかもしれないというのは前から考えてはいることだし、言われてもいることだ。

 

「隊長のザクは単純に操作系統に遊びが無いから神経すり減りますしね。まあ三人じゃ一番ましですが。ミツヒロのは、言うまでも無いでしょう」

 

 そこだけは素直に同意できる。

 はっきりとした目的があってそれに特化した構成、というのはそれを前提にしているパイロット以外にとってはじゃじゃ馬でしかない。その点、うちの三番機は間違いなくじゃじゃ馬だしテオドールだって乗りたくないし乗れる気がしない。

 それは得意とする戦術が全く違うと言うことでもあるし、自分のザクがそうであるように個人の癖に合わせた上でガチガチに尖らせた操作系統はむしろ下手に触りたくないの域だ。

 

「好き勝手言いやがって」

 

 噂をすれば影がさす。

 サムソンの影から出てきたのは、東洋系の顔立ちに黒い短い髪。そして、目の下に気だるげな隈。

 散々ボロクソ言われたザクの選任パイロット、ミツヒロ・ムラヤマのご登場だ………随分とお疲れの様子で。

 

「やることがはっきりしてるから結果としてああなっただけだ。少尉だってそうでしょう」

「わかるがね。開戦初期の宇宙で使われた対艦ライフルを改修して地上で使おうって発想がまず俺には無い」

「このご時世、使える物資は何でも使わないといけないでしょう。ザクはそのままじゃビーム兵器使えないし」

 

 珍しいといえば珍しい日系のこの男の担当は狙撃、そこまではいい。

 ビーム兵器なんて贅沢品は望めないにしても、まさかの旧式の宇宙用実弾兵器を持ち出してきた時は流石のテオドールも、それこそハロルドも我が目を疑ったし、話を聞かされたアストの怒りの咆哮はそれだけで連邦の戦車一機潰せそうなものだった。

 いつも面倒くさいが優先して気だるげなこのダウナー君は、発想は部隊で一番狂ってると評されている。その癖腕はいいし結果も出すから誰も止めることができないあたり、ある種一番たちが悪いかもしれない。

 そんな事をぼやいたら、「同族嫌悪か」と言った隊長の意地の悪い笑みは今でも忘れない。

 

「そろそろ補給も終わるそうです。で、中尉がここの責任者と話して、今後の今後の方針がおおよそ決まったそうで。そろそろ動けるようにしておけと」

「推進剤とかその辺はどうしたんだ?」

「ギリギリ、戦闘での消耗とトントンですかね。弾薬はなんとか追加で、食いもんに関しては奮発してくれるそうです」

 

 そりゃありがたい。人間の燃料が無くちゃ、せっかくのザクもただの高価な彫像でしか無い。

 基本的に流れ流れてその場の部隊と相談して対応していくのがこの部隊ではあるが、そのためにも現地部隊との友好関係はしっかりしておく必要がある。

 必要がある。

 わかってはいるが、それは自分には向いていないとテオドールはよく理解しているし、ミツヒロも同様だ。

 その手の事は、隊長かクイントンに任せるのが最適解である。アストは論外だ。

 

「アスト坊やは?」

「キレ散らかしながら『レッドキャップ』の整備終わらせてた。俺のはそこまでかからなかったし、今頃腹ごしらえしながら気を静めてるだろうよ」

「絶対近寄りたくねえ」

 

 毒蛇アスト・アンドレス伍長。

 最年少かつ一番階級が低い彼に頭が上がる者など、クランプス隊のどこにもいなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。