それから数日が経ち、僕は今、母校へと足を運ぼうとしている。今までは自分の事しか考えていなかったから母校の事なんて頭の片隅にもなかった。でも、今の僕はプロを止めて暇が出来た。こういう時でもなければ母校を訪問するなんて事は一生ないだろうしね。
それが後輩からの誘いを受けた理由と言っても過言じゃない。
母校に着くとそこにはグラサンを掛けて如何にも強面そうな男が校門の前に立っていた。遠くからでも誰だが分かってしまう威圧感。こいつともかなり長い間、会っていなかったけど昔とあんまり変わっていないな。
近づくにつれて威圧感は倍増していき目の前に着くと予想以上に黒かった。顔がね。
「お久しぶりです、秋夜さん」
いかつい後輩が頭を僕に下げている姿を見ると……そんな事をされるほど僕は凄い人じゃないのにとか思ってしまう。それに端から見たらこれはかなりマズイ光景なのではないだろうか。
「ああ、久しぶりだね。片岡くん」
この人も高校時代はとても名の通っている人でプロからの誘いもあったらしいが母校に恩返しがしたいという想いが上回り、教師になったと聞いている。
「私の誘いを快く受けていただきありがとうございます!あなたがプロの選手を引退したと聞いて今なら少しぐらい時間があるんじゃないかと思いお誘いしましたが良かったです」
「まあ、僕も久しぶりに母校に来れて僕の方こそ誘ってくれてありがとう!」
「それでは早速、グラウンドに行きましょうか」
「そうだね……」
僕は片岡くんの後を歩きながらグラウンドに向かっていった。グラウンドに行く途中で校舎の外観とかも見たが前に来た時と変わっているところもあったがそれほど大きな変化は見る感じではなかった。
グラウンドが近づいていくにつれてバットがボールに当たる音が聞こえてきた。僕も高校生の頃はよく朝から晩までバットを振り続けた時もあったな。あの頃が僕の人生の中で一番輝いていたと思う。他の人から見ればプロ野球で活躍している時が一番人生で輝いている時と言う人もいるかもしれないけど……僕はそうは思わない。確かにプロで活躍している時は輝いているかもしれない。
でも、高校の時のような切磋琢磨が泥だらけになりながらも努力をする姿勢が良いのだ。一つの試合でも全力を尽くして人生をかけて戦う。それが高校野球の良いところ。
グラウンドに着くとそこには高校球児が練習に励んでいた。僕が居た頃とここは何も変わっていないと思った。
「ここは良いね。あの頃の思い出が今でも鮮明に思い出せるよ」
「そうですね。私があなたとお会いしたのもこのグラウンドでしたしね」
片岡くんとは僕がプロの三年目の頃にその頃の青道の監督に『一度だけ母校に帰って来て選手たちにアドバイスをしてくれないか?』と言われて母校を訪れた。その時にまだ高校一年生だった片岡くんは一年生でありながらエースを任せられていた。僕は自分が出来るだけアドバイスを片岡くんや他の学生にもした。それが僕と片岡くんの最初の出会い。
「そうだね。ここには色々な思いでが詰まっていると言っても過言じゃないからね」
暫く眺めてから僕と片岡くんはグラウンドにおりた。靴の底からでも分かるこの土の感触も変わらない。練習していた選手たちは片岡くんが何か声を発するより前に集まりだした。
片岡くんは全員が集まったのを確認すると僕の紹介をし始めた。選手たちも初めて見る僕に興味津々なのか片岡くんと僕の事を交互に見ながら片岡くんの話を聞いている。
「今日は特別にある人に来てもらった。別に特別講師というわけじゃないがOBとして母校を見に来ている。俺の隣にいるこの人のことを言わなくても知っている奴もいるだろうが一応、紹介しておく。この人は俺の先輩で青道高校のOBで在学時は二年生からキャプテンと四番の二つを受け持ち、二年生の時には青道高校は全国一に導いた人物。最近までプロ野球で活躍していた小湊秋夜さんだ」
「ご紹介に預かりました。小湊秋夜です。今日一日だけですが練習を見たりしていると思うのでよろしくお願いします」
生徒たちを見渡すと……やっぱり弟たちの姿があった。弟たちとはもう三年近く会っていないけどやっぱり分かる。弟たちはどうか分からないけど僕はこれでも弟たちの事を大切に想っている。三年間、会いに行かなかった兄貴が何を言っているんだと思われるかもしれないけど……それでも僕は弟たちの事を想っている。
生徒間からは『本物かよ!?』『やっぱりそうだよな。いくら何でも見た目が似ていると思ったんだよ!』『これが本物のプロ選手!』と色々と聞こえて来るけど僕はそんな風に言われるほどすごい選手ではないんだけどな。
「それではそれぞれ今日のメニューをこなせ!!!」
片岡くんが言うとそれぞれの選手が自分のメニューをこなすために動き出した。
「こんな時が僕にもあったんだな」
そんな事を在校生の人たちを見ながら考えていた。
次からはやっと小湊兄弟が喋ります。