にいさんと呼んでいるのが春一です。
区別が難しかったので漢字かひらがなで分けることにしました。
練習に励んでいる高校球児を見ながら僕は……十年近く前にあった子供の事を思い出していた。あの頃は幼い子供だったけど今では順当に成長していれば高校生ぐらいになっているのだろう。希望に満ちているような目をしながら僕に教えを乞うてきた。あの頃の僕はプロになってから初めての不長期を迎えて少し悩んでいた時期だった。そしてその不調を乗り越えられたのはその少年との出会いがあったからこそだった。
もし、あの場で少年が声を掛けてくれなかったら僕は途中でプロを辞めてしまったかもしれない。だから感謝しているし、お礼を言いたい。
だが、その少年の名を聞いていなかったために分からない。だけど一つ確かなのは約束の日時にあそこに行けば会えると言う事。そしてその『約束』とは僕と少年が分かれる際に少年が言っていたこと。
「俺は必ず甲子園に行くから。今から丁度十年後にこの球場でまた会おうな」
そして今年がその日……あの約束通りだとしたら彼は今頃、必死に練習している頃かもしれない。もう風貌に関しては全くと言って良いほど憶えていないけど…なんか会えばすぐに分かる気がする。何でそんな気になるのか分からないけどね。
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僕は適当に学校内を周り終わるとグラウンドにもう一度戻ってきた。グラウンドに戻ると生徒たちはそれぞれの個人練習をしている真っ最中だった。
たくさんの生徒が居てもやっぱり弟たちの方に視線が向いてしまうのは本能なのだろうか。僕が自己紹介をした後、すぐに二人とも練習に行ったから話す事が出来なかったけど練習が終わったら少しでも話してみようか。これを逃したら話す機会もあんまりないだろうしね。僕がここに来たのは片岡くんがここに来るように誘ってくれたわけだしね。この機会を逃すわけにはいかない。
全ての練習が終わったのは午後七時を過ぎたころだった。僕は決して指導をする事なく遠くから練習を見ていた。片岡くんから「指導をしてください」みたいな事を言われたけど僕なんかが指導をしても選手たちは嫌だろうしな。出会って初日に指導をされるとこの人は自分たちの事なんか分かっていないくせにとか言われてしまったら言い返す言葉もないしね。
そして弟たちのところに向かった。練習が終わった後だったから疲れているだろうけどここで話しておかないともう話す機会なんてないだろうからね。
「亮介、春一」
二人は僕が話しかけると肩がピクッとした。この二人以外の生徒は先に寮の方に戻っていったようで今、ここには僕と弟たちしかいない。逆に好都合かもしれない。僕とこの二人が兄弟だとはあまり知らない方が良いだろう。決してバレたくないわけじゃないが二人に迷惑が掛かってしまうかもしれないしね。
「……兄さん…」
「お前たちに連絡をするのを忘れていて悪かった。片岡く…いや、監督から「来ないか」と言われてね。丁度僕も母校を見て見たかったし、了承したんだけどまさか、弟二人が僕と同じ高校に通っているとは思いもしなかったよ」
この二人が高校生である事を知っていたが僕の母校に入学しているとは思いしなかった。
「…兄さんの後を追って入学したんだよ。兄さんは僕たちにとって遠すぎる存在だからね。どうしても少しでも近づきたかったんだ」
「にいさんは僕の事なんてあんまり憶えていないだろうけど僕にとってにいさんは憧れの存在なんだ。テレビで見ている事が多かったけどたまに父さんと母さんに球場に連れて貰った時は純粋に『凄い』と思ったんだよ。にいさんみたいになりたいと思って僕はここまで来たんだ」
初めて僕は弟たちの本当の声を聞けた気がする。今まで弟たちとこんな風に面と向かって話す機会は無かったと言ってもいい。
「そうかい………君らの気持ちはとても嬉しいよ。こんな僕に憧れてくれたんだとしたら嬉しい以外の言葉が出てこないよ。君たちとあんまり一緒にいる事が出来なくてごめんね!!でも、これからは君たちが望んだ時に力になれるようにするよ」
僕は二人の頭を撫でながら口にした。こんな風に二人の頭を撫でたことは今まで一度もなかった。近くで見てみると本当に美しい桃色の髪をしている。母さんと同じで本当に美しい。
一分近く撫でてから僕は『撫ですぎた』と思い、急いで手を放そうとすると何故か両手とも弟たちに抑えられて離す事ができなかった。
「どうしたんだ……そろそろ手を離して欲しいんだけど」
「ダメだ……もう少し」
「にいさんに撫でられるの予想以上に気持ちいい…」
そんな感じで二人が離してくれるまで僕は二人の頭を撫でる事になった。