なんとなく行きたかった異世界に転生出来ないようです。《in鬼滅の刃》 作:めしめしうまうま
藤襲山で7日間を生き抜いた剣士達は死亡者を1人も出さずに無事生還した。
鬼の居なくなった最終選別は唯のキャンプと化していた。
初日に集まった場所に再び集合し、そこで白髪の少女2人から、伝達用鴉『鎹鴉』と、日輪刀の素材となる 太陽光を吸い込んだ砂鉄『猩々緋砂鉄』と鉱石『猩々緋鉱石』が合わさった玉鋼が支給された。
その後、剣士達は山を降りた。桜仙は、実弥と伊黒に声を掛ける。なんだかんだ共に生活していたのだ。3人の関係はもう他人ではない。
「じゃあ2人ともお疲れ様、道中気をつけるんだよ。気を抜かずに。家に着くまでが最終選別だからな」
「他人のことより自分のことを心配しろ。精々鬼に喰われない様にな。」
「道中ばったり鬼に出くわしても誰も助けちゃくれねェからなァ」
「心外だなぁ。そっちこそ鬼と間違えて人に刀を投げつけない事だな」
その言葉に実弥と伊黒はぐっ…と言い返せないでいた。暫く共にいた3人は、別々に帰路に就いた。
桜仙は蝶屋敷のみんなにお土産を持って帰る為に東京府まで寄り道をした。都会の人通りを懐かしみながら、たまたま寄ったお店で久しぶりに食べたカステラが美味しかったから アオイから貰ったお小遣いで買って行った。
ある程度観光を楽しみ満足した桜仙は、早めに蝶屋敷へと帰宅する。
近道したかった為、少し人里を離れた道を選んだのだが…
「さぁ始めようか 宴の時間だ」
「いえ、結構です。早く帰りたいし」
武闘派な鬼と目が合ってしまった。
その鬼は不意を突くようにして突然襲ってきたが、様子見なのか俺はその打拳を軽く往なした。
そいつは鬼特有の血色の無い肌色に、赤髪、腰から上に掛けて特徴的な刺青が目立つその鬼は普通の人間ならば当たっただけでも気を失う程の闘気を発していた。その眼には、『上弦』『参』の文字が記されていた。話に聞いていた見た目で分かる上弦の鬼だ。
ーー確か名前は猗窩座だったか?ーー
直前まで気配を消してたのだろう。気付いた時には遅かったというやつだ。
「お前の事情など関係ない。」
猗窩座は、半身になり腰を落とした。その構えは何らかの武術を高い練度で身につけているのか、まったく隙が無い。背中に悪寒が走る。
殺り合ったら死ぬ相手…それが目の前にいる現実。
「そうか。それは困ったな」
桜仙も猗窩座と同じように半身になり腰を落とし、柄を軽く握り居合の構えを取る。藤襲山でも感じなかった死の気配に桜仙は集中力を高めた。
「ほう…これは感嘆だ。おそらく刀を握って間もないだろう…だがすでにその強さ。圧倒的な才が無ければその領域には立てないぞ。お前の名は何と言う!」
猗窩座の気が緩んだ瞬間を見逃さなかった桜仙は反射的に動き出し、5メートル程あった距離を埋め刀を振った。それは見事に猗窩座の右腕を切り抜いた。血飛沫をあげながら宙に舞う自分の右腕が再生しないことに驚く猗窩座だが、一つ笑みをこぼし引いていた左手で打拳を放つ。
「ーーッッ!」
そのあまりの圧力に躱しきれないと判断した桜仙は振り切った右腕を瞬時に引き寄せ、自分の身体と猗窩座の左手との間に入れると同時に体の力を抜き、打拳に合わせて後ろに飛んだ。某格闘漫画に登場する『消力』という技術を見よう見まねでやってみたがこの威力。ダメージを大幅に抑えることは出来たが、完全に威力を落とせなかったのか何本か肋骨に罅が入る。
「手応えあったがまだやれるだろ!その目を見れば分かる!諦めてない奴の目だ!」
消力(仮)で派手に吹き飛ぶ勢いを利用してどんどん離れていく猗窩座の声を聞きながら桜仙は冷静に考える。
ーー俺を甘くみてるのか、猗窩座は手を抜いている。こっちの斬撃が効かないわけじゃないし防御もタイミングさえ合えば致命傷を避けることが出来た…がーー
刀を見ると、小さい刃毀れと柄にひび割れがあった。先程の攻防が原因だ。
「だめだなこれは。日の出まで待つか?」
ボロボロになった日輪刀を鞘に収め、木々を利用して身を隠しながら移動する。
武器と骨にも罅が入り、客観的には危機的状況の桜仙だが 不思議と恐怖や不安といった感情は無かった。今ある手札でどう立ち回り切り札を切るか。まるでゲームを楽しむかの様な感情に 桜仙は口角を上げた。