誤字脱字があったら申し訳ありません。
序盤は原作とあまり変わりませんが、少しずつ改変させていきます。
【冥界法治省極東支局】
地獄の一室には今日も今日とて成果の低い報告と、それに対する上司からの文句が飛び交っていた。
「現在、ヨーロッパの駆け魂は…」
「まだ捕獲率3%⁉︎」
「協力者の生死…」
「協力者のケツ叩いてやらせろ‼︎」
そこへ、一人の悪魔が駆けてきた。まるでこの任務には不適切のような人柄、いや悪魔柄だ。
「遅れました——っ‼︎」
まず、初日から遅刻してくるその姿勢。
「なんだエルシィ‼︎そのほうき‼︎いつまで掃除係のつもりだ‼︎」
エルシィと呼ばれた彼女は未だに前職の仕事道具を肌身離さず抱えていた。
「うう——これがないと落ち着かなくて……」
などと甘いことを吐く思考。彼女は、この任務からはおおよそにつかわしくない。彼女は、そういう悪魔だ。
【亡霊対策室長・ドクロウ】
髑髏の顔に、全身に纏った黒のフード付きのマント。そして、二頭身のデフォルト……まるで、どこかのゆるキャラのようだ。
「地獄も末だな…掃除係が駆け魂隊とは…」
「が、がんばります‼︎」
彼女はそう息巻いた。しかし、彼女の顔には不安の表情がさしてしまった。
「それでドクロウ室長?本当にそんな人間がいるのですか?」
そう。彼女が不安なのは駆け魂を捕まえる上で必要不可欠の存在、協力者の存在である。
「女性の心を、思い通りにできる人間なんて…」
おおよそ、そんな人間はこの世のどこを探してもいるはずはない。しかし、
「いる。」
ドクロウはそう言い切ると、その者の名を彼女に告げる。
「その名も…落とし神‼︎これ以上の「協力者」はいない‼︎まずはこの男を捜せ‼︎」
彼女も自分が信頼している室長が言うのだから間違えないと思い、敬礼のポーズをとった。
「りょうかいです‼︎エリュシア・デ・ルート・イーマ駆け魂討伐に出発しまぁす‼︎」
「あ、おみやげ送ってね人間界の。ビリーのDVDでいいわ。」
「まだやせる気ですか?」
……駆け魂の捕獲率が低いのはこう言うところが原因かもしれない……
【舞島学園高校】
それは片田舎の海のそばに聳える中高一貫の私立校。そんなところに、ボクはいる。
羽鳥ゆう、これが今回のターゲットか…
ボクは目の前にいる新たなターゲットに目をつけ、落としにかかる。
「誰、あんた?」
なるほど……
ボクは次々に正しい言葉だけを彼女に囁きかける。
「どうしてここがわかったの……?」
彼女は頰を染め、ブランコに座ったままボクを見つめている。
抵抗してもムダだよ‼︎エンディングはすでに見えた‼︎
「わ…私…あなたが好き‼︎」
そうしてまた一人、神に、ボクに落とされた。
運命は、常に一本道‼︎
決められた道を駆け抜けるその姿に自分でも面白く思えてボクは笑ってしまった。
「フッ」
これで10000人目のヒロイン攻略‼︎ボクに解けないギャルゲはない‼︎
……そう。ギャルゲである。ギャルゲーム、女の子との恋愛をシミュレーションしたゲーム。その種類は多岐に渡り、数多くのユーザーがいる。
自らの力に…背筋が寒くなる‼︎
「ゲームは楽しいかい?桂木君。」
ボクはこの学校の教師に問われ、その質問に対する答えを考える。
……
……
……
「ボクの知っているゲームのすべてと先生の授業を比較してみました。授業よりおもしろいもの5012タイトル。同じくらいのもの15タイトル。授業よりつまらないもの1タイトル。」
ボクは脳内のデータベースからそう言う結論を叩き出した。
「ホウ。その1タイトルとは?」
なおも問われたが、今はそれよりもやることがある。
「すみません、セーブポイントまで待ってください。」
バシンッ‼︎——
『ボクの名前は桂木桂馬。6月6日11時29分35秒生まれ17歳。身長174センチ、体重53キロ、得意科目、国語、数学、理科、社会、英語、技術。』
その出立ちは、ボロボロだった……
なんで殴られる⁉︎ゲームやっても誰の迷惑にもなってないだろう。
そうボクはボヤいた。いつものこととは言え、殴られることに関して納得いかないからだ。あの教師、いつか体罰で訴えられるぞ。
『ボクの好きなものは…女子だ。当然さ、ボクくらいの年の男子なら…フッ…』
むしろ、女子が好きじゃないなんて言えばそれは異端者だ。
『ただし…』
「オタメガネ———ちょっと、ちょっと!」
遠くから声が掛かる。そして、振り返った時にはもう目の前だった。
「あた‼︎」
その女は止まることなくボクへ強烈な突進を喰らわせやがった。
「おおおボクのPFPがァ‼︎」
そして、概ね被害を被ったのはボクの方だった。
「悪い悪いっ‼︎スピード出すぎてブレーキの限界越えてた。」
その、全く悪いと思っていない態度が気に入らない。……
【2年B組 高原歩美(17)】
『女子と言っても…好きなのはこっち側のじゃない‼︎』
「ね——オタメガネ———今日屋上の掃除やっといてよ!」
現実の女とは実に浅はかである。
「今日掃除当番 私とあんたじゃん?でも私、あんたと違って忙しいからさ——っ…」
どういう神経だ⁉︎ぶつかるのと バカにするのと 頼み事を同時に行うとは‼︎
「今、部活で一杯一杯でさ—。」
そんなこと知るか‼︎ボクにだって用事はあるし、忙しいんだ‼︎
「ふざけるな‼︎断固断る‼︎」
……そして、そこにはすでに彼女はいなかった。ただ無意味に宣言したボクだけが残っていた。
【屋上】
何て理不尽な奴らだ。ゲーム世界の女子を見習え!あの完璧に理論的で美しい存在を‼︎
ボクが好きなのはゲーム女子だけさ‼︎現実なんてクソゲーだ‼︎
立体ではなく平面を、実像ではなく虚像をボクは愛す‼︎
ピコン
[ メールだよ。]
未読メール813通がボクのPFPの画面に表示された。
ふ…今日の迷える子羊たちの便りだ。
ボクはそのメールを確認し、PFPに搭載されたキーボードを展開する。
現実なんて所詮、仮そめの世界。ゲーム世界にとどろくボクの真の存在‼︎『落とし神』‼︎狙った女を恋に落とす神の如き所業。いつしか呼ばれ始めた通り名である。
そうさ。現実のような不合理かつ不条理なものに、かかずらう必要はない‼︎ボクは、ゲーム世界の神だ‼︎
《初めまして‼︎落とし神です‼︎「ゴスゴスぱにっく」ですか‼︎あれはみんな苦労してるみたいですね‼︎》
《こんにちは‼︎落とし神です‼︎「あきいろ」はいいゲームですよね‼︎さて攻略ですがあれは…》
《初めまして‼︎…》
……
……
……
「ふ…」
ボクは迷える子羊たちに返信をして一息つく。
[送信したよ♡]
PFPからは送信を知らせるアラームが鳴った。
「さて、次のメールは…」
そのメールはとても独特だった。ボクはそのメールを見て訝しんだ。
「ん?」
《落とし神へ どんな女でも落とせるという噂を聞く。まさかとは思うが、本当なら攻略してほしい女がいるのだ。自信があるなら「返信」ボタンを押してくれ。報酬は追って連絡する。PS:ムリなら、絶対に押さないように‼︎ ドクロウ・スカール》
なんだ?この挑発のアロマが漂うメールは‼︎ボクを誰だと思ってるんだ⁉︎
「神は、逃げない‼︎」
そう高らかに宣言して「返信」ボタンをクリックした。
その瞬間、稲妻の如くスピードで「何か」が屋上に降ってきた。ボクはその衝撃で吹き飛ばされ、しばらくして煙が晴れると、そこには宙に浮いた一人の女がいた。
「契約 ありがとうございます‼︎神様‼︎さぁ 参りましょう‼︎駆け魂狩りに‼︎」
その女はボクの手を掴むと空高くへと飛んだ。
「う、うわああ‼︎」
そして気がつくとボクはあの女と共に教室にいた。
なんだ?今、空飛んだか?
まだ混乱しているのか、息は絶え絶えで、脳内は疑問符で埋まってしまう。
「ゼ~ゼ~」
……にも関わらず、あの女は呑気にグラウンドの方を見ながら何かを確認していた。
「広域チェックでは反応あり…次は精度を上げて…個人特定…だっけ?」
落ち着け‼︎現実に呑まれるな‼︎順序だてて論理的に考えれば問題はない‼︎
「まずはセーブ‼︎」
ボクはそう言っていつものようにゲームをセーブした。
「整理しよう。まず、お前は何者だろうか?」
黒板に向かって状況を整理していく。しかし、
「私、エリュシア・デ・ルート・イーマと言います。みんなはエルシィって呼んでます‼︎地獄から派遣された「駆け魂隊」の悪魔ですウ‼︎」
なんの、こっちゃ‼︎
ボクの脳内にはある光景が浮かび上がった。それは茶会だ。
「ホホゥ なんのこっ茶でござるか。」
「まこと雅よのう…」
……じゃなくてっ!こう言う時は思い出せ!君子危うき3D女に近寄らず!ここは、関わらないのが得策!
ボクは女を放って退室を図る。
「さて今日は木曜か。ゲーム買いに行くか。」
そんなボクに待ったをかけた女はボクの袖を掴み言い放ちやがった。
「気をつけてください‼︎——首、取れちゃいますよ?」
「首?」
こいつ、何言ってやがる?首なんて……ボクは首に手を当てその存在に気がついた。
「な、なんだ?この首輪?」
そして、教室には沈黙のカーテンが降りた。
「神様は、悪魔と契約されたんですよ。」
「契約書を送られましたよね?室長のドクロウさんあてに。」
け、契約?何のことだ⁉︎……ム…ムム‼︎あ…あのメールか⁉︎ボクは先ほど送られてきたメールの一文を思い出した。
そして女の説明は続いていた。
「地獄の契約は厳しいのでご注意ください。もし、契約を達成できなかったり、許可なく破棄しちゃいますと…」
ボクは不吉な言葉を予感して生唾を呑んだ。そして、断頭台の縄は切られた。
「その首輪が作動し、首をもぎ取ります。」
首を、もぎ取る?ボクは一瞬、本当に何を言っているのかわからなかった。しかしそれだけでは飽き足らず女はなおも説明を続ける。
「し、しかもその後首が…キャー言えません‼︎」
……なのに、大事なところは自分でも言いたくないのか悲鳴に変わってしまった。ボクはそんな煮え切らない態度が気にいらなくて言葉を荒げた。
「言えよ‼︎なんだよその後‼︎」
えぇい!今はそんなことよりも‼︎
「ふ…ふふふざけるなァァ‼︎は、はずせぇぇ‼︎」
こっちの方が先だ‼︎
「大丈夫ですよ。駆け魂を捕まえれば外れますから。」
「かけ…なんなんだそれは‼︎」
ボクは女に説明を求めたがそれは聞いたこともない変な音によって遮られてしまった。
ドロドロドロ
「き…来ましたあ‼︎」
女は自分が身につけているヘアアクセに触れてそう言った。そして、その変な音は鳴り止むことなく女は窓辺の掃除をし始めたのだった。
「あとと」
そして、持っていた箒でしばらくパタパタすると窓辺にこいとボクに言ってポンポン叩き始めた。
「神様こちらへ‼︎綺麗にしてあります‼︎」
ボクが窓辺に近づくとグラウンドを指さして言い放った。
「下の広場‼︎あそこに駆け魂がいます‼︎」
そして、この女が指さしたのはよりにもよってあの女だった。
「あの先頭の娘‼︎はっきりと奴らの気配が見えます‼︎」
「あいつは………」
高原歩美……あんな奴には絶対に関わりたくない!
「か…かけたまってなんだよ?」
ボクは改めて女に尋ねた。すると、女はまるで教科書のようにツラツラとボクに説明して聞かせた。
「『駆け魂』とは地獄から抜け出した悪人の霊魂です。死んでも悪人は悪人‼︎奴らは再び地表で悪事を働くべく地獄の囲いを抜け出し地表へやって来るのです‼︎」
……そんな、霊魂だの、地獄だのまるでファンタジーだ。
「駆け魂を捕まえるのは非常に困難なのです。何しろ、極めて特異な場所に隠れていますので…」
『極めて特異な場所』?人間のどこにそんなものがあるんだ?
「人の心のスキマが、駆け魂の隠れ処なのです‼︎」
「心の…スキマ?捕まえようがないだろう、そんなの?」
う⁉︎話にのっちまった…‼︎ボクは軽く後悔した。流せばよかった……
「そこで、人間の協力者の出番です。心のスキマが埋まってしまえば…駆け魂は居場所がなくなり出てきます‼︎心のスキマを埋めるには恋が一番‼︎落とし神様のお力で、あの娘の心のスキマを埋めていただきたいのです‼︎」
何が恋が一番だ⁉︎第一、ボクは……
「ま、待て待て‼︎ボクに、現実の女を落とせっていうのか⁉︎」
これは死活問題だ。ボクは女に強い口調で問いただした。すると女は、
「えっまぁ…ほどほどに。あの、口づけ程度でいいので…」
——などと女は頰を染めて言い放ちやがった。これには流石のボクも激怒した。
「バカヤロ———‼︎お前はとんでもない間違いしてるぞ‼︎ボクは、現実の女と手をつないだことすらない‼︎そして…現実もそれを望んでは、いない‼︎…現実の女たちはボクをこう呼ぶ『オタメガネ』。」
……教室には再び沈黙のカーテンが降りたのだった。
「ひどい…ひどいです神様…お遊戯の神様だったなんて…」
「ひどいのはどっちだ‼︎」
勝手に勘違いして、勝手に話を進めて、その挙句失敗したら首が飛ぶなんて……
「こんなことだろうと思った…何やっても私、ダメなんだから…」
そう言って女はメソメソと泣きやがった。
「勘違いだろう、結局‼︎契約を解除しろ‼︎」
「できませんすいません」
ペコペコと頭を下げて女はボクに謝罪をした。
「せ…せめてあの…私も一緒に死にますので……契約は対等…協力するものが死んだら悪魔の首も飛びますから。」
……マジですか……
風が、吹いていた。
「ストレッチおしまい‼︎」
「そろそろ走るかー!」
ボクたちはこんなに困っていると言うのに……
「ああ…こんなに近くに駆け魂がいるのに…掃除しかできないなんて…」
「静かにしろ‼︎首が飛ぶ前にやり直すゲームを書き出してるんだ。あれとあれとあれと…」
もう、ボクは首が飛ぶこと前提で話を進めている。完全に諦めモードだ。
「でも…神様は落とし神様なんですよね?現実の女もゲームのように落とせるのでは…?」
「現実とゲームを一緒にするな。ゲームに失礼だろう。」
ボクは目の前の「なんちゃって」陸上部を一瞥して口を開く。
「あれが陸上部?ボクに言わせればあんな精度の低い陸上部はない‼︎」
「精度?」
そしてボクは陸上部の方を見て声を高らかに宣言した。
「誰も、髪をくくってない‼︎」
女には理解できなかったのかポカンとしている。
「……か?髪?そ、それが な、なにか?」
「ふざけるな‼︎陸上部女は髪をくくってるんだよ‼︎」
「きゃ——っ!」
急に詰め寄って力説したからか、女は悲鳴をあげて引いていた。それでも、ボクはお構いなしに説明する。
「陸上部の女ってのは髪をくくってるもんなんだ‼︎あいつらは髪をとめるゴムに魂が宿るのを知らないのか。」
「…。あの…それはゲームの…」
「現実ってのはまったく完成度が低い。こんな世界の女子、攻略できないな‼︎」
そうボクは結論を口にした。なのに、あの女はボクを何度も叩く。
「よ——っし、本気出すぞ——」
髪を、くくった。高原歩美は、髪をくくったのだ。
「神様くくりました‼︎」
「ジーザス‼︎」
ま、まさか……
「か、神様の言う通りになりましたよ。」
「ぐ、ぐーぜんだよ‼︎まだ足りないぞ‼︎た、短パンの陸上部もゲームじゃありえない‼︎ブルマじゃないと動けないな‼︎ブルマだ‼︎」
ボフン
それはまるで魔法のような出来事だった。数瞬前までは確かに短パンだったはずなのに、今目の前にいる陸上部員たちは全員ブルマだった。
「なにい‼︎」
ボクはその出来事に目が飛び出るかのような勢いで見開いた。
キャアー‼︎
驚いたのは陸上部員も同じなのか、グラウンドは悲鳴に満ち溢れた。
「羽衣を変形させて飛ばしました。外見だけなら、私でも変えられます。でも、内側を変えられるのは神様にしかできません。私、神様を信じます‼︎」
女はそこで一度言葉を切り、ボクに詰め寄って言った。
「やりましょう神様‼︎」
……マジですか……
【翌日】
「な、何——⁉︎こらー‼︎何よそれは——‼︎」
そこには高原歩美を応援するための横断幕が所狭しと張られていた。
『がんばれ!高原歩美ちゃん!』『AYUMI』『舞校の弾丸』他にも——
「オタメガ————この——なんなのさ、この恥ずかしい横断幕はー!」
——次の瞬間にはボクは陸上部の狂人な脚力によって蹴り上げられていた。
くそ…なんでこんな目に…しかし、こんな所で攻略を止める訳にはいかない!
「その…大会も近そうなので、応援。」
「屋上の掃除押しつけたのは悪かったわよ。つまりこれが復讐ってわけ?」
高原は近くにあった横断幕の一つでボクの首を締め上げた。
「ギギギ———」
まるで虫が轢き殺されたかのような汚らしい声がボクの口から溢れた。
「次やったら殺すよ‼︎」
気が済んだのか、首を絞め上げていた横断幕を頭に巻きつけるとそう言い残して去っていった。
「か、神様…これでいいんですか?怒られちゃいましたけど…」
まるで関わりたくないかのように木陰に隠れていたくせに……
「これでいい。今はとにかく出会いの数をこなすんだ‼︎ゲームでの親密度は出会いの数に比例する‼︎花が咲くまで水をやり続けるんだ‼︎」
恋愛って言うのは、一本の花を育てるのと同じなんだ。初対面である球根に、出会いという名の水を与え続け、親密度である茎が比例して伸びていき、恋という名の蕾は開花する。
【3日目】
今日は昨日と同じように断幕を張って応援だ。
「なんでいんのよ‼︎断幕やめろ‼︎」
【4日目】
今日は「断幕はやめろ」とのことだったので垂れ幕を屋上から下げてみた。
「バカヤロ——‼︎垂れ幕でも同じだよ‼︎」
【5日目】
今日は至る所に旗を立ててきた。
「もうムシ。」
彼女も流石に怒るのに疲れたのか、こちらを見向きもしない。
「ちゃんと花は育っているのでしょうか…なんかどんどんキラわれていってるような…」
「ゲームではな、「嫌い」と「好き」は変換可能なんだよ。ケンカしたりキラわれるようなイベントも、プラスになってるんだ。」
「では、今は…本当にキラわれてる訳じゃないと…ふうん……」
こいつ、信じてないな。でも本当にキラわれてる可能性も高いがな‼︎セーブロード不可バックログなしファーストプレイのみってどんな攻略だよ‼︎命がかかってなきゃ…誰がやるか、こんなことを‼︎
「ま、またトイレだ…」
ここ最近、失敗した時のことを考えると腹痛でトイレに行くことが増えてしまった。思わぬ弊害だ。胃に穴なんか空いてないよな?
「ごゆっくり。」
何度も言っているからかこいつの反応も淡白になってきた。
トイレに行こうとしたまさにその時、高原歩美は三年の先輩に呼び出されていた。
「ちょおっとォ歩美‼︎こっち来な‼︎」
「はい‼︎なんですか⁉︎」
「なんであんたらが先に走ってる訳?」
「2年はうちら3年が走るまで待機でしょ?」
それは、どこにでもいる、至って普通の先輩たち。
「先輩方は今日は来られないかと…本番まで時間もありませんから。」
「聞いたー?本番だって——?」
「すーっかり選手気分ね———」
「なんで私がホケツであんたが代表なのよ。たまたま一回いいタイムが出ただけじゃん。」
高原はそんな先輩たちの小言が聞きたくなかったのか、大きな声で先輩たちに口撃した。
「罰なら早くお願いします‼︎ほんっとに時間がないですから‼︎本・番・まで‼︎」
「「何こいつ‼︎外周よ——‼︎外周30周ーっ‼︎」」
「了解——‼︎」
彼女はすごいスピードで外周を走りに行った。
「う——‼︎イヤな先輩‼︎人間界にもああいう人いるんですね。」
「ジゴクにもいるのか。」
そんなに共感できるのか?
【6日目】
「あれ?応援男今日来てないね♡」
「さみしい歩美であった。」
「バカヤロ——そんな訳あるか‼︎」
そんな噂をしていた時、三つのバルーンが屋上から上がった。
『I♡AYUMI』『I♡AYUMI』『I♡AYUMI』
「わーなんだ⁉︎」
「うわーアドバルーン懐かしいー。」
そんな声が、グラウンドからは聞こえた。
「すいません羽衣が足りなくて、3本しか作れませんでした。」
「1本でよかったのに‼︎」
余計な気配りばかりしやがって。
「いよいよ明日は大会当日です。私たちの応援でぜひ歩美様を一位に‼︎そしてあの先輩達を悔しがらせたいです‼︎とっても‼︎とっても‼︎」
先輩にいやな思い出でもあるのか…
ボクは片手にフルーツバスケットを持ち、そんなことを思った。
「これだけ応援して勝てば、歩美様もきっと神様を好きになります‼︎」
グラウンドの方が一際うるさくなった。それはグラウンドから目を離したほんの一瞬の間に起こった。
高原歩美が転んだのだ。ハードルの一つに足を引っ掛けて、転倒したのだ。
【保健室】
「ええ——?ねんざ——⁉︎」
一際大きい声が廊下まで響いた。
「なんで……大会は明日なのに…」
足に巻かれた包帯を見ながら高原歩美は絶望の表情を浮かべていた。
「でも、なんか変じゃなかった?今日のハードル。」
「そうよ‼︎あそこだけ台の間隔短かった‼︎」
部員たちはフォローなのか、ハードルについてあーでない こーでもない。と騒いでいた。
「でなかったらすっ転ぶわけないよ‼︎」
「誰が動かしたのかな…」
誰が、か…
「絶望的です~大会で優勝してくれないと私たちは…」
首が取れる。その事実は声には出なかった。
でも、ボクが考えているのはいつだって攻略のことだけだった。
「ケガ…先輩……ハードル……応援……」
ボクは脳内データベースから幾多の攻略法と今回の出来事を比較、検証してみた。そして、見つけた。
「見えたぞ。エンディングが‼︎」
「ええ⁉︎」
女も流石に驚いたのか、その声は疑問符だらけだった。
「まちがいない‼︎今、攻略90%辺りだ。」
ボクのデータベースは間違いないと断言している。
「90%⁉︎ ど、どうしてわかるのですか?」
見たことがある。ボクにはあるんだ。全く同じ光景が、その記憶が。
「まったく同じ展開のゲームを…やったことがある。「ソルフェージュ」のそなたか「キャラメルドロップ」のハッカか迷ってた。でもケガした後行った場所で分岐した。ハッカだ。」
「まさかそのゲーム通りにやるんですか?」
そんな訳あるか。
「まさか。名前ぐらい変えるさ。」
地獄の悪魔はまるで神にでも祈るように目を瞑った。
でも、そんなことをしている暇は僕達には無い!
「おい‼︎ここが勝負だ。………今から、告白しにいくぞ‼︎」
今まで、何千何万と繰り返してきたが、現実ではこれが初めて……
「か…神様…」
女はまるで茹で蛸のように真っ赤になった。
緊張も羞恥もボクの感情だろうに……
「どうしたのよ桂木…こんなとこでなんか用?しばらく私運動場には用ないよ‼︎しかも呼び出しの手紙が乗っかってたこれ‼︎これイヤミ⁉︎こんなもんもらって喜ぶ訳ないでしょ‼︎」
彼女は松葉杖をついて、片方の手にはフルーツバスケットを握っていた。
「それ食べて元気出して、明日の大会出てもらおうと思って。…うお‼︎」
ボクが淡白にそう答えるといろんなフルーツが宙を舞ってボクのところまで投げられる。
「この足見て言え‼︎大会なんか出られると思うの⁉︎」
彼女も自棄になったのかフルーツを思いっ切り投げる。でも、ボクはそれをキャッチして断言する。
「思う。…だってケガなんかしてないから。」
「な…」
そう、彼女はケガなんかしていない。彼女のケガは見せかけ。つまり、仮病だ。
「…ハードルでこけたくらいでケガなんかしないよ。」
「走ったこともないくせに‼︎スピードを考えてよ‼︎」
確かに、走ったこともないハードルのことなんかボクには皆無だ。でも、
「確かに全力で走って転倒したら危険だよ。でも…あの時は全力で走ってなかった。」
「な…なんで…わかるのよ。そ…そんなの…」
わかる。その変化を、ボクは見逃したりしない。
「髪、くくってなかった。」
「!」
彼女の顔には驚愕の表情が見える。
「本気出す時はいつもくくってたよね。もしかして……最初からコケるつもりだった?」
彼女は手に持ったフルーツを投げる前に腕を振り下ろし、松葉絵をついて浮かせていた左足を地面につけた。
そして彼女は語り始める。
「これでよかったのよ。先輩たちもこれで大会に出られる——先輩たちの言うとおりだよ。先生の前でたまたま走れちゃって選手になっちゃってさ…ずっと練習してたけど、タイム全然出ないし…私なんか…私なんか出ない方がいいんだよ。」
そこで一度話を切り、後悔の言葉がその口からついて出た。
「どうして走れなくなっちゃうのさ…こんなに練習してんのに…」
後悔の言葉と一緒に出てきた大粒の涙は重力に負けて下へ下へと落ちていく。
「もういいの…ビリなったりしたらおしまいだもん。」
おしまいなもんか。少なくとも、ボクの中では……
「一生懸命走ったら、それでいいじゃないか。順位なら、君はとっくに一番とってるよ。ボクのなかで。」
ボクはメガネを外して「オタメガネ」とはもう言わせない。
「バ、バカー‼︎」
歯の浮くような言葉は彼女の顔を赤く染め、忘れていたフルーツをもう一度投げ始める。
「な、何キモいこと言ってんのよ‼︎大体あんたが変な応援するから…」
そして、フルーツの底に埋まっていた真新しいシューズをその眼に焼きつけた。
彼女はボクの袖を掴み、俯いた髪の間から赤くなった顔を覗かせていた。
「来てくれる?明日も……応援に来てくれる?」
「う…うん…」
くそ!現実なんて、ゲームに比べれば取るに足らないものなのに……
「……ありがと。」
彼女はそう言うと、ボクの唇に重ねるようにキスをした。
彼女の背中からは駆け魂と思わしき、まるで前時代的な幽霊が出てきた。
「出ました‼︎勾留ビン‼︎」
女は待っていましたとばかりに大きなビンを抱えて、その中に駆け魂を詰め込む。
「駆け魂勾留‼︎やった——‼︎神様ありがとうございます‼︎」
この後、歩美は大会に出場し、ぶっちぎりで優勝した。
「すごいー歩美——」
「ふっふっふどうだ‼︎」
良い結果だったからか、自分が載った新聞をクラスのみんな自慢していた。
「見て桂木っ、新聞のっちゃったよ‼︎」
普段、誰とも話さないボクだが彼女とくらい話してもバチは当たらないだろう……
「……高原……おめでとう。」
「応援、ありがとうね。桂木」
彼女はボクの耳元でそう囁いた。
「歩美——‼︎」
彼女は……歩美はクラスメイトに呼ばれてそちらを振り向く。
「あ、私、いくね」
そう言って歩美は行ってしまった。
ボクは止まったままだったゲームを再開させた。
「よーし、朝のHRをはじめる。」
またいつも通りの毎日が始まる。少しだけ変わった人間関係も、また新しい関係に変わっていくだろうと思いながら。
そういえば、あいつはどこ行った?あんなこと言っていたが……
「——神様!感服いたしました‼︎やっぱりあなたは落とし神です‼︎私、神様について行きます‼︎早速手続きをして参りますので‼︎……あ、忘れてました‼︎神様、こちらを。」
あいつはボクに一枚の紙切れを渡してどこかに行ってしまった。
「そう言えば、まだ読んでなかったな。」
あいつから渡された紙を出して読んでいく。
《拝啓、落とし神様 駆け魂捕獲ご協力につき、私ども地獄はあらゆる力を持って望まれるものを用意いたしましょう。なお、攻略した女子たちはあなたと絶対に結ばれます。》
げ、現実の女と結ばれる⁉︎……これが、協力に対する報酬、なのか……?
「おいオタメガ‼︎なんだあれ‼︎」
「どこに隠してたあんなの!」
現実とは掛け離れた世界を覗いた気がしたが、男子どもが騒いだせいで呼び戻された。
一体何ごとだ?
ボクは教室前方に視線を向ける。そして、そこにいたのは……
「本日転校してきました 桂木エルシィです。お兄様の桂馬ともどもよろしくお願いいたします。」
(おいおいおい‼︎どういう設定だそりゃ‼︎)
これが、ボク「落とし神」と使えない悪魔「エルシィ」との駆け魂集めと、攻略されていく娘たちについての最初の物語だ。
面白いと思っていいただけたら幸いです。お気に入りに登録よろしくおねがいします。