私は何がしたかったのだろう。
あの場から逃げて、せっかく誘ってもらったのに、あの中に入ることができなかった。
あの光景が今も瞼の裏にこびりついて離れない。
別に彼とはそんなに親しいわけでもない。
むしろ嫌いな人間だったはずだ……はずなのに。
いつからだろう?
私の方から彼に近づいて行ったのは。
この感情の名を、私は知っている。
でもそれは、知っているだけだ。
今まで読んできた本の中に書いてあった。
それは私からとても縁遠い感情だ。そう思っていた。
それなのに、あの時、あの場所であの光景を見て、すぐに理解できた。
私はあの憎たらしい彼のことが——桂木桂馬と言う男のことが、好きなのだ。
理由なんてわからない。
彼の行動はいつだって理解不能だ。
本に対してすごく酷いことを言った。
本に修正だと言って、堂々と落書きした。
……それでも、彼は言ってくれた。
『図書館はいい所だ』と。
たった一言。その一言が私の心を開いた。
気づけば私は惹かれていた。
なんて単純なんだと自分でも思う。
でも、この感情は言葉にできない。してはいけない。
彼女が——歩美さんが、傷つくから。
ちょうど彼と時を同じくして私の前に現れたとても活発な少女。
彼女は彼と恋人関係なのだろう。
少なくとも彼女は彼に好意を寄せている。世情に疎い私でも表情を見ればわかる。
彼女を傷つけたくはない。
だって、やっと話せるようになったのだ。
普通に話せて、普通に本を薦められて、こんな私を受け入れてくれる。
そんな優しい彼女を傷つけるようなことを私はしたくない。
だから、私はこの感情を心の奥深くに仕舞い込んだ。
……もう、開くこともないだろう。
私は、彼を好きにはならない。
すると、私の意志とは関係なく身体が動き出した。
でも、何をしているのかは不思議と理解ができた。
何故なら、それは私がやろうとして、出来なかったことだから。
私の好きな物を守るために行動しようとして、でもそんなことしてはいけない。自分なんかにはそんな大それたことは出来ない。そう思っていたこと。
『図書館で籠城する』
それは大切な本を……私の大切な居場所を守るための行動。
気づいた時にはもう図書館の中に居た。
広い広い図書館の中に私一人が立っている。
こんな大それたこと、今すぐやめなきゃ……そう思うのに、私は一歩を踏み出せない。
図書館から出られない。
そして……
私は後ろを振り返る。
そこには「処分されてしまう」本の山があった。
それを見ていると、この本達は私が守らなければいけない。
そう思えてくる。
そうして、私の短い図書館籠城が開始された。
お待たせして本当にごめんなさい!
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この後も不定期になりますがちょこちょこ投稿していきます