Re:神のみぞ知るセカイ   作:Minadukiyuuka

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FLAG.08.5

私は何がしたかったのだろう。

あの場から逃げて、せっかく誘ってもらったのに、あの中に入ることができなかった。

あの光景が今も瞼の裏にこびりついて離れない。

別に彼とはそんなに親しいわけでもない。

むしろ嫌いな人間だったはずだ……はずなのに。

いつからだろう?

私の方から彼に近づいて行ったのは。

この感情の名を、私は知っている。

でもそれは、知っているだけだ。

今まで読んできた本の中に書いてあった。

それは私からとても縁遠い感情だ。そう思っていた。

それなのに、あの時、あの場所であの光景を見て、すぐに理解できた。

 

私はあの憎たらしい彼のことが——桂木桂馬と言う男のことが、好きなのだ。

 

理由なんてわからない。

彼の行動はいつだって理解不能だ。

本に対してすごく酷いことを言った。

本に修正だと言って、堂々と落書きした。

……それでも、彼は言ってくれた。

『図書館はいい所だ』と。

たった一言。その一言が私の心を開いた。

気づけば私は惹かれていた。

なんて単純なんだと自分でも思う。

 

でも、この感情は言葉にできない。してはいけない。

彼女が——歩美さんが、傷つくから。

 

ちょうど彼と時を同じくして私の前に現れたとても活発な少女。

彼女は彼と恋人関係なのだろう。

少なくとも彼女は彼に好意を寄せている。世情に疎い私でも表情を見ればわかる。

彼女を傷つけたくはない。

だって、やっと話せるようになったのだ。

普通に話せて、普通に本を薦められて、こんな私を受け入れてくれる。

そんな優しい彼女を傷つけるようなことを私はしたくない。

だから、私はこの感情を心の奥深くに仕舞い込んだ。

……もう、開くこともないだろう。

私は、彼を好きにはならない。

 

すると、私の意志とは関係なく身体が動き出した。

でも、何をしているのかは不思議と理解ができた。

何故なら、それは私がやろうとして、出来なかったことだから。

私の好きな物を守るために行動しようとして、でもそんなことしてはいけない。自分なんかにはそんな大それたことは出来ない。そう思っていたこと。

『図書館で籠城する』

それは大切な本を……私の大切な居場所を守るための行動。

気づいた時にはもう図書館の中に居た。

広い広い図書館の中に私一人が立っている。

こんな大それたこと、今すぐやめなきゃ……そう思うのに、私は一歩を踏み出せない。

図書館から出られない。

そして……

私は後ろを振り返る。

そこには「処分されてしまう」本の山があった。

それを見ていると、この本達は私が守らなければいけない。

そう思えてくる。

そうして、私の短い図書館籠城が開始された。




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