まちがったシンジくんをエヴァパイロットにしてしまった 作:鰹節の丸煮
エヴァ破みて、自分がなーんもわかっていなかった事に気づかされてしまった......。
そーいやyoutube にエヴァ考察の神がいきなり降臨してましたね。唐突すぎる。主人公が死んでいるとか......どういう事だってばよ。ソラユニさんはよ。
碇シンジも朝は早い。もとより中学生にしてみても早いほうではあったけれども、この日は特に早かった。
学校をその日休んだのはただセカンドチルドレン……式波と顔をあわせるのが辛かったからだけではなかった。
シンジはその日の晩、ほとんど寝ることができなかった。はじめは式波にキレたせいで頭が煮えくり返るように沸騰していたせいで、そのあとはだんだんと冷静になるにつれて自分が
そんな罪の意識はシンジの胸を
気づけばシンジは学生服を着て、リビングに立ち、紙の切れ端にいくつかの葛城ミサト宛のメッセージを記していた。行きたいところがあるので、今日は学校を休むこと。行き先についてのメモ。いつぐらいに帰ってくるのか。朝ご飯を作らずに行ってしまうけれど、昨日の残りがあるからそれを温めてもらえればいいということ。(どうせミサトのことだから失敗するだろうとふんで、そっとレトルトカレーをリビングのテーブルに出しておいた)何かあれば電話してもらえればすぐに駆けつけるということ。勝手なことをして申し訳ないという詫び言……。
これっぽちも眠れなかったというのに目はぱっちりとしていて、頭は冴えたままというのが、自分のことであるというのにヒドく気色悪く思えたのを覚えている。自分が未だに冷静になれていないのはわかっていた。それでも、この家にいることは、彼女にこんな気持ちのまま再び顔を合わすことは、煩わしかった。きつかった。痛々しくて、たまらなかった。
(ーーー)
綾波レイに手を引かれて、あやされるようにして芦ノ湖から自分の家というべきなのであろう、コンフォート21のあの部屋へと戻った。
綾波レイは道中では、静かに何かドイツ語らしい文字でかかれた本を読んでいるばかりだった。なにもいうことはなかった。ただ、バスを降りるとき、電車から降りるとき、だんだんと第三新東京市に近づいてゆく、その節目節目においては、「碇君」といつも通りの口調で、ただまっすぐとシンジの目を見て、その色白で肉細な手をさしのべた。
碇シンジは心中でそんな綾波レイのすがたに──シンジの一歩先を先導しつつも決してシンジのことを見捨てようとしないような、冷淡をよそおったようなその思いやりを秘めたその背中に対して酷く罪悪の気持ちをいだいた。同時にいいようもない情けなさばかりに苛まれた。
自分を嫌悪しつつ、蔑視しつつも綾波レイという少女の優しさにすがりつく自分をみとめ、どうすればいいのか、どうすべきなのか、そもそもどうしたいというのか……そんなことばかりに思いを巡らせていた。
そうして、第三新東京市駅に電車が到着したとき、碇シンジは綾波レイに言った。列車の中へとさしこむ、斜陽の天光が車内を茜に染めていて、綾波レイの
「あやなみ、ねぇ」声がうまく出なかった。喉が、渇いていた。
「なに、碇君」綾波レイは相も変わらず、手に持った本へと目を落としたままだった。
「あ、綾波、降りないの」
「碇君は、どうするの」
「……どうするもこうするも、ないよ」
なにせここは終点なのだ。
降りることが乗客には義務づけられている。それが乗った者であるかぎりの、契約なのだ。
線路はどこまでも続くなんてことは絶対になく、分岐したとしてもいずれは終着する。そうしてこの駅はそのうちで
「降りよう、綾波」
「……いいの?」綾波レイは静かに問うてくる。
「結局は僕らはレールの上に、造られた道の上にいるだけだ」
「そう……わかったわ」
綾波レイは静かに席を立った。碇シンジはすでにたちあがり、綾波レイのまえに立って手をさしのべようとしていた。
「……碇君?」
「あ、ごめん」碇シンジは自分でも、己の為した行動に戸惑っているようだった。
そうしてやはり戸惑うように、おどおどとその手を戻そうとする。
「まって、碇君」そういって綾波レイはシンジの手を、溺れる者が藁をつかもうとするかのように、それでいてどこか怯えるように、それでもしっかりと掴んだ。
太陽が過ぎ去ってゆくように車内はふたたび薄暗くなった。
うつむき気味な綾波レイの顔色はシンジにはどうにもわからず、彼女の空色の髪ばかりが暗い中においても相も変わらず鮮やかな色彩を発しているのが眼に入った。
自分の男らしいとは到底いえぬ、細っこい腕の先に付属するかのようなやはり女々しいくせに節々ばかりが骨太の手……それにゆだねるかのように重ねられた
「…………綾波……」
「外、行くんでしょう」
「……うん」
だが碇シンジにはもう、正直そんなことはどうでもよかったのだ。
ただ、彼女のことを、綾波レイのことを抱きしめたくてたまらなかった。
自分のことを不器用ながら、不慣れながら思いやってくれる彼女のことを。
そうして、謝りたかった。
芦ノ湖の淵でだれも彼もが自分をおとしめようとしているのだと疑い、罵倒し、うらみ、ねたんだことを。そのなかで彼女を勝手に“裏切り者”としたことを、“偽善者”と決めつけたことを。実のところ彼女が自分の“お願い”を無感情に一蹴してくれることを期待していたことを。
それでいて彼女が自分の無理難題を──式波のことをどうか、どうにかクラスになじめるように、あるいは式波がクラスで彼女なりに楽に過ごせるように、どうかうまく取りなしてくれないか……なんていう、お願いというにはあまりにもムチャクチャで要領をえない、泣き言じみた、それでいていってしまえば自分の犯した罪の尻拭いにちがいない……そんな“お願い”を──叶えてくれることを、どこかで期待していたことを。
綾波レイという少女のことをどこかで、都合よく扱っていたことを。
結局、僕はなにも変わっちゃいないんだ。あのときから、ずっと。
そうして、いまだって
なんて、愚かで、あさましいのだろう。卑しい。
「……いこうか。……ごめんね、綾波」
こんな言葉一つで償えることじゃないことなのは、分かっているけれど。分かった気でいるだけかもしれないけれど──そんな言葉一つすらいえない奴には、なりたくない。
そう思うことすら、おごがましく思えてしまったけれど。
碇シンジはそれでも、綾波レイの手をひいて、自分の居場所たる居心地の悪い窮地へと舞い戻る。
それはなぜかと問われるのなら、碇シンジは自分がまだ子供にすぎないからだと答えるだろう。自分の居場所を作ることができず、まだ決められたレールの上を進むしかない子供であるからだと。
同時にこう答えるだろう──もしかしたらこれも自分自身に対する言い訳なのかもしれないと自嘲しながら──決められたレールの上すら進めない者が、自分の線路を造るなどどうしてできるというのか? 自分は線路の作り方を学ぶために、あるいはそれができるような
(ーーー)
「ねぇ、式波さん。碇シンジ君って知ってる?」
そうふとクラス委員長たる女子──洞木ヒカリはいまクラスの話題の中心たる転校生の美少女こと、式波・アスカ・ラングレーに尋ねた。そうして、その返答はすぐに、率直に、かつ大胆に得られた。
ボッファアッ↑ と当の少女は飲んでいたタピオカミルクティーを文字通り、吹き出した。それでもタピオカ本体が飛び出すのは乙女の意地で抑えたらしい。吹き出す際もヒカリの方向に向かないように、瞬時に顔の向きを変えたあたりに彼女の優しさが
「な、なんでわたしとアイツが──」
「“アイツ”ってことは、知ってるんだ」
「言葉の綾よ!!」
そういって机に備え付きの紙ナプキンで机に飛び散った茶色い滴を拭く。スタバのあの銀色のストイックな丸テーブルの表面がすこし濡れた以外はそもそも店外の席であったから、近くには他の客もいなかったしそこまで大変なことにはならなかった。
「ねぇ、式波さん。碇君てどんな子なの」
「……ただのガキよ。あんなヤツ」
「ほんとうに?」
そういってまた一口ミルクティーをすすりながら、尋ねる。ちょうど上目遣いみたいな具合になって、地味ながらかわいげがある。そばかすですらも、赤毛のアンみたいな良さがあるみたいに思える。なんというか、どうにも憎めない。
ほおづえをつきなおして、相手の顔をあえて見ることもなく、店の前の道を行く人々に目を向けながらも見ているわけでもなく……、そうしながら、
「ま、ね。あたしも悪かったのよ。あいつの大切にしてるっぽいモン手荒にしちゃったし」
そうして、昨日の晩の顛末を話す。どうにも、話さない限りは離さない、みたいな目をしているからこれは仕方がないと、いわば腹をくくったのだ。なにがそんなに必死にさせるんだか、なんて思いながら。
「……じゃあ、式波さんはこれから帰ったら碇君とまた顔をあわせなきゃいけないの?」
「まーそうね。しかたないわよ、なんせわたし、エヴァパイロットですから」
「うん、それはなんとなく分かってた」
「ちぇー」
「……碇君、今日学校こなかったよね」
「まーだ怒ってんでしょ、ほっんとうにガキよね。いやまあ、ワタシも悪かったですケド」
でもそれでキレて、それでいて頑固ムーブなんて大人げないわよねぇー、なんて水を向けてみる。
「ね、式波さん。碇君がそこまで大切にしてたのって本と、あと何かのテープっていってたよね」
そうするといきなり、もとからクリクリとしていた大きな目をことさら大きく、キラキラとさせて、まるで秘密の内緒話でもするみたいにその体をあたしの方に寄せてくる。
「そ、そうだけど、なによ」
「どんな本だった!?」
「ええっと、なんだっけ、あの、寺元うんたらの少女詩集とかいうヤツ……」「寺山修司の『寺山修司少女詩集』ね! へぇ~、碇君そんなの読むんだァ、じゃあ、やっぱり……」
ええと、とりあえず、近い。んでもって、息が荒い。なににここまで発憤してるというのか。
「ね、式波さん。もしかしたら、もしかしたらね、その本とカセットテープとやらは碇君にとってほんとうに大切なものかもしれなかったかもしれないのよ」
「いやどーゆうことよ」いやどーういうことだ、本気と書いてマジで。
「もしかしたら、それって初恋の
……いや、「ね!」じゃないでしょ、それを懇切丁寧に大切にしてる方が、なんというか、キショい。
「キモくない?」口に出てた。
「えぇーっ!? 一途で可愛くない!? いいなあ、もしそうだったら碇君、すっごいいい子じゃない、鈴原なんかとは大違いもいいところよ。それに相手の
……はいはい鈴原鈴原。というか、
「ありえなッ!!」ありえない、ありえなすぎ!!
というか相手の
「そおう? 碇君、こっち来た直ぐの頃はけっこう明るかったのよ、話すと面白いし。学校休んだのも今日が初めてじゃない? ──綾波さんとかと、よく話してたのよ」
「レイと!?」おもわず大声が出た。
そうよ、とそばかす気味の頬にぴんとたてた人差し指をあてて、首をかしげてみせる。
「綾波さん、ずっとお人形さんみたいで、それで、その、まあ、無愛想だったりしたんだけど……、ほら今日なんてあんなふうにしてみせたじゃない」
「ああ」
それであたしは今日のホームルームでレイのみせた変顔を思い出す。……なんというか、あれは、うん、もうやっちゃだめなやつだった。
「ああいうふうになったのも、碇君が綾波さんに話しかけはじめてからなの。このごろなんて、ときどき笑うのよ、ふふふっ、て」
「女子なんてどうにかしてウケさせてみたいって言う子ばっかよ。ぜったいいい顔して爆笑するはずだって。男子も、なーんか怪しいのよね。相田君なんて隙あらばあのごついカメラ構えてるし、鈴原なんて! 芸人魂がもえるで! なんていってあのきったない変顔とか妙ちきりんなポーズに格好をすんのよ? このまえなんて髪ワックスで全部逆立てて、コーラを頭に鬼のツノか何かっぽく着けて「どや! これが本当の怒髪天抜き!!」っていって同時に両方のふたを開けて、そうしたら中身が一気にブシューッて吹き出して……。おかげで教室がビチャビチャ!! でも鈴原ったら中身は強炭酸水にしてたから、ベタベタにはならなかったんだけど……、なーにが「人様に迷惑はかけん!」よね、アイツ、わざわざ強炭酸水さがしに駅三つ遠くのほうにまでいったっていってたわ。──バカよねぇ」
そう一息に舌もかまず言って、またミルクティーを一口。
…………こいつ鈴原のこと大好きだな……。あのジャージ封建的頑固男のどこがいいんだか。
「まー鈴原のことはいいとして」
「へぇ゛っッ、そ、そうよね、あんなやつのコト!! ……ええとでね、綾波さんなんだけどね、このごろはあんまり碇君と話してないの。というか綾波さんからときどき話しかけにいって、碇君もすこしは話すんだけど……そっけないの。ううん、誰に対してもそう。あのね」
そういってヒカリはまたあたしの方に、今度はおどおどと、近くに知っている人がいたときのためといわんばかりに手で口元を隠し、顔を近づける。
「碇君ね、みんなから嫌われてるの」