「ひぇっ!?」
(なっ、何あの人……怖い……?)
ライスシャワーは驚いて、身の毛もよだって耳もピンと立ってからしなびていく。それは自分より大きなウマを見たからだ。ただしそのウマが今まで彼女が出会ってきた中で、一番大きな体をしていたわけではない。
もっと大きな体の持ち主なら見たこともあるし知っている者もいる。具体的にはヒシアケボノとかゴールドシップなどが代表例である。そも彼女自身が比べるまでも無く小柄だというのも事実である。
「あ、シンザン先輩だ! うっららー!」
「────ま、お前さんはいるよな」
「ハルウララは今日も元気ですよー!」
(えっ、ハルウララちゃ────あれ)
ただハルウララが呑気にはしゃいで向って行くその先にいるのは、ただ大きいというだけでは言い表せない威圧感があるとライスシャワーは感じている。
しかし桃色の少女をじっと見つめる黒く深い瞳に、少しライスシャワーも見つめ返してやれば、何故か安心感すらあるだが一方で威厳もある不思議な瞳と言うのをようやく理解した。
(何か、変……何で?)
結局どういう結論に行きつくのかと言うと、恐怖──または怯えや畏れに近かった。
確かに力強さと言う物はあるし、歴戦の勇士特有の戦うものとしての気配を醸し出してはいる。きっと彼女に嘗てこのウマは牛だどうだと言われて、下手すれば君より期待されていなかったといわれても、全く信じる事は無かっただろう。
「あ、あの……こんにちは!」
「……おう」
だからほんの少しだけある勇気を振り絞って、弱弱しくもはっきりと挨拶をしようと頭を思いっきり下げた。シンザンは、それにようやく気付いて、優しい瞳を彼女にもちゃんと向けるのだった。そう先ほどまでライスシャワーの気配が薄すぎて、と言うより少し前まで怯えるあまり、いつものように気付かせないように気配を薄めておこうと思ったのだ。
「え、えっと……」
勇気は出しても結局もじもじして気後れしてしまうライスシャワーに助け船、近くにいたハルウララは明るい顔で大丈夫だと言ってあげる。
「この人はね、とっても優しい先輩なんだ! なんだか、こう……そうあれ、大きな桜の木みたい!」
「……その例え方は、どうかな……あ、いえ、違うんです!」
「おいお前さん達、落ち着きな」
シンザンは慌てふためく二人に言って聞かせるが、ポケットから手を出すことも、それどころかそこからほんの少しも動くことはしなかった。ホールの中央で衆目を集めているというのに、しかも何者だと噂され始めて静まり返っているのにだ。
ちなみにその隣にはたづなはいなかった。のんびり気付かずに歩いているうちにはぐれてしまったので、この状況を止める人も気に掛ける人も今はいない。
「俺はシンザンだが、お前さんはだれだい」
「あ、ええっと……ライスシャワー、です……」
まじまじと見つめるシンザンに、何か無礼を働いたのではと、オドオドした態度を崩さず不味い顔をしていたが。
その心配はしなくてもいい、彼女はただライスシャワーをじっと見つめて思いに耽っているだけだった。こんなウマ娘確か一人いたなと。尤もそのウマ娘は、そもそもこんなふうに挨拶も出来ずに、いつの間にか彼方に去っていくというとんでもない奴だったとシンザンは述懐する。
「ほう、ライスシャワー……良い名前じゃねえか」
それはそれとして彼女の、つまりライスシャワーの内側に、果たして何があるのかと言うのを見定める眼差しを向ける。性格や主義などでは無く、彼女の素質だけ
ところが先ほどからやいのやいの騒がしいハルウララが、突如静かになったかと思って、流石に耳だけは彼女の方に向いたが、お蔭で直ぐ彼女の頼みにシンザンは気が付いてやれた。
「────あ、そーだ! シンザンセンパイ、実は頼みがあるんですっ」
「……えっ」
「!」
突如頼みごとがあると聞いて、ピクリと反応するシンザン。真っ先に反応したライスシャワーの反応にも流石に察知して、彼女が問題なのだなと思えば、ずっと待ちかねていたとばかりに、ハルウララは続けざまにその頼みの綱に賭けて。
少し眉を八の字にしならせて、問題を投げかけてくるのだった。
「えっと、つまり! 助けてほしいことが、あるのですっ!」
ところ変わってあの桜の木の下。三人のウマ娘大小揃って話し合っているのは、本日夕方の選抜についての話し合いである。特にライスシャワーの一件について、ハルウララはきちんと説明をしたつもりだし、ライスシャワーもある程度口は出したし、その熱意はシンザンは納得はした。
「つまりはだ。自信がないから、どうかしてくれと」
「うん、色々考えたしちゃんと頑張ってたけど、すっかり忘れちゃってたから自信がないから、助けてほしいなって!」
「とりあえず出て走れ」
あくまでも
「ええ~!?」
だからハルウララとライスシャワーはそれを聞いて、一方は真っ白になったし、もう一方は不服不満をあらわにするが。残念ながらこの御仁情け容赦なし、いや彼女としては当然の対応と言うべきか。そして何よりそこら辺の融通は全く利かないのである。
ただ分かりやすく説明してくれるのだから、全く手厳しいだけと言う物でもない。
「大体いいか、お前たち。結局自分のやってきた事に、何にも意味の無い事は無い。何もしていない事に、怯えるようになるのは止しておけ」
「え……?」
「因果応報の法則は、悪いことも良いことも全部に当てはまる。じゃあ後は野となれ山となれ……てのは流石に言いすぎだが、要はそういう事よ」
更に隠された意味まで読み取るまでできたなら、結局何も成し得ないで不安視をするのは、どうなんだとも言っているのだ。ハルウララがこれを聞いても解るかは不明だし、そもそもそんな話とは全く縁のない話であるだろう。
しかしライスシャワーにとっては、先輩のその一言一言が突き刺さる。
「な、なんだか、難しいこと一杯言っているー……けど、がんばれってことなのかな?」
「……頑張って、みるしか、ないのかな……」
「うん、きっと皆応援してくれるかもだし! ライスシャワーちゃん、がんばれ~!」
自信を持たせるというには少々投げやりな方法であるし、結局結論付けたのは彼女らである。シンザンは一言二言含みを持たせただけで実質何もしていないに等しい。
彼女は理論づけているわけでもなく経験則かつ本能的に、外に出て彼女らをリフレッシュさせて、自分の事について口を出すことなくとにかく話させる。そういう事をしていたから、コードの様に絡み合った思考がクリアになったのだろう。単純ではあるがまあ有効な手段ではあるし、そう言った方法で色々と機転を利かせた者はいくらでもいる。
「それに、何だったら俺が見ていてやろうか?」
「はい、ありが……えっ」
「ホント!?」
ハルウララは驚いた。純粋に嬉しさだったが、とにもかくにもそんな言葉が、そしてセンパイが自分たちの走りを見てくれるとは、思いもしなかったからだ。現にライスシャワーの表情は氷の様に固まって、目を白黒させている。
一方のシンザンはと言うと、ただ優しさをたくわえた瞳と微笑みを浮かべるだけで、しばらく間をおいて顔を頷かせるだけ。やがてその瞳を閉じるとまた思い出に耽ってしまった。
「良かったね、ライスちゃん!」
「よ、良かった。うん、良かった……あ! ありがとうございま、す……あれ?」
確か昔もこうして見ておいてやるなどと言うと、自分が練習嫌いだったせいか、それでも先輩としての義務を務めろと口酸っぱく言われていたからか、この二人の様に驚かれていた。
尤も今では、別の意味で驚かれそうな立場にいる彼女であるが。名伯楽の二つ名が蹄鉄よりも重くのしかかると、その時特に思うのだった。
(……)
ただいまはそんな考えで向かうのだろうと言われれば、やはり先ほどの表情でああそれは違うなと言ってやるだけだ。じゃあなんだと続けざまに問われれば──果たして何だろうかと彼女らを見て思う。
ただ春先の桜まだ散り切らぬ頃、太陽に当てられて輝く彼女らをまじまじと見るのは────流石のシンザンも少しだけ照れくさくて、ふっと横を向いてしまうだろう。
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