機械生命体「俺ハ人間サ」   作:鈴木颯手

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第二話「11B」

 11Bを台に置いてすぐに修理を開始する。幸か不幸か11Bは抵抗することはなく終始運ぶ俺に体を預けていた。俺はそれだけ11Bがやばい状況にあると感じ急いで拠点に戻ってきた。廃工場跡地からだとアネモネのキャンプより遠い俺の拠点は急がないと手遅れになる可能性があった。A2もそれを察してくれたのか道中の機械生命体を全て排除してくれた。流れ弾すら当てさせないとばかりに大分先を行って道を作るA2に頼もしさを感じつつ拠点に滑り込むように入った。

 

 義体の修理と並行して内部のウイルス除去も行っていく。11Bの体内は7割近くが汚染されており中にはこのまま使っては危険という部品まであったが拠点内のサーバーも用いてウイルスを除去していく。義体もブラックボックスを中心に治していく。ブラックボックスはA2のをスキャンしたものを参考に慎重に直していく。ヨルハにとってここは心臓部でありこれが壊れればいくらウイルスを除去し、義体を直そうと11Bが死ぬ。故に俺はこれまでの生活の中で一番集中して取り組む。

 

そうして修理を開始して数時間程が経過しただろうか?ようやくブラックボックスの修理が終わった。義体も使えない物は交換したりまだ使えるものは修理をしたりしてほぼ完了している。ウイルスの方は少し手間取っているが順調に除去が進んでいる。所々ウイルスごと除去しないといけないデータや記録などがあったが見逃すことは出来ない為それごと除去する場面もあった。

 

 そうしてさらに一時間程経過して漸く11Bの修理が完了した。大分時間が掛かってしまったが無事に直すことが出来て本当に良かった。最悪の想定すらしていたからな。

 

 11Bの再起動までには少し時間が掛かるだろう。それまでの間に俺は一息つく事にした。体は機械の為汗をかく事も体に疲労が溜まる事も無いが精神的な疲労は普通に感じる。俺は自分の部屋に戻るとそのまま愛用する椅子に座り体を預けた。肉体的にはなんともないが精神的にはかなり楽に感じた。

 

「……無事に修理出来たようだな」

「A2。ああ、何とかなったよ」

 

 俺が修理を終わらせたことに気付いたのかA2が俺の部屋に入って来た。流石に数時間放置していたから何か言われるかなとも思ったけどA2は何も言わずにベッドに腰を下ろした。ベッドを置いたはいいけど全く使っていない為専ら俺以外、A2やデボルとポポルが椅子代わりにしていた。

 

「知っての通り11BはA2よりも後の機体だ。ポッドを用いた戦闘に慣れてしまっているだろうからポッドなしの状態で戦えるように教えてやってくれ」

「お前が教えればいいのではないか?」

「冗談を言うな。戦闘に関しては同型機のお前の方がより良く教えられるだろ?それに俺はものづくりや改良は得意だが戦闘は苦手なんだ」

「未だに白兵戦が苦手だからな」

「それは言わないでくれよ。結構気にしているんだから」

 

 そんな風にたわいのない話をしていると拠点内部のセンサーに反応があった。モニターに切り替えると上半身だけを起こして辺りを見回しながら困惑する11Bの姿が映っていた。それを見た俺はにやりと笑みを浮かべるとA2に言った。

 

「11Bが目覚めたようだ。俺が対応するからA2は悪いけどここにいてくれ。今君が行けばヨルハの追っ手と間違われかねない」

「分かった」

 

 俺はA2に指示を出すと椅子から立ち上がり部屋を出る。そしてすぐに11Bと視線があった。

 

「やぁ、アンドロイド。目覚めの気分は良いか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?どうした?喋れるはずだが……」

 

 私が黙ったままでいると目の前のアンドロイドはそう言って首をかしげた。彼は私に異常があると思っているようだけど実際には違う……、と思う。

 

 何せ最後の記憶ではウイルスに汚染され義体はボロボロだったのに再起動したら私の体は直っているし先ほどまでいた廃工場跡地ではない白い空間だったのだから。だから喋れないのではなくて今の状況に理解が追い付いていなくて言葉にならないんだと思う。

 

 私は混乱する頭を必死に回転させて答える。

 

「……だい、じょうぶ」

「うん、特に問題はなさそうだな。……ああ、言い忘れていたな。俺はレイン。廃工場跡地でボロボロだったお前を修理した者だ。お前は?」

「……11B」

「11B?名前の響きからして噂のヨルハ部隊のアンドロイドか?」

 

 彼、レインは私の名前からヨルハにたどり着いた。確かにヨルハ以前のアンドロイドはきちんと名前があるけど私達は番号で呼ばれている。正式に稼働してからそれほど時が経ってないからだと思うし特に気にした事は無いけどやっぱり目立つのかな?

 

 私は彼の言葉に頷いて返答した。そして改めて周囲を見る。部屋は白い空間だけど機材は普通の物と大差ない様に思える。今私が横になっていた台も違和感はない。すると察したのかレインが言った。

 

「ここは俺の拠点だ。訳あってレジスタンス組織とは別行動を取っているんだ。あの廃工場跡地には偵察に出ていたんだけどそこで君を見つけてね。かなり危険な状況だったから君をここに運んで修理をしたんだ」

「そう、だったんですか。ありがとうございます。……あの、バンカーに連絡はしていたりしますか?」

「ん?いや連絡はしてないよ」

 

 レインの言葉にひとまず安堵する。バンカーに報告されていれば私は直ぐに逃げ出さないといけなかった。レインをどれだけ信じていいのかは分からないけど修理してくれたし少しは信じてもいいのかな?

 

「……何やら訳アリのようだな。もしよければ聞かせてくれないか?」

「え、でも……」

「勿論、君さえよければ。だけどね」

「……」

 

 レインの言葉に私は悩んだ末にポツリポツリと話し始めた。機械生命体と戦い続ける事に疑問を感じた事。日に日にその疑問が大きくなって戦う事が嫌になった事。降下作戦で撃墜されたように見せかけて脱走した事などをゆっくりと話した。その間レインはただ黙って聞いていてくれた。そして、私が話を終えるとそっと言った。

 

「そうか……。機械生命体との戦いが……」

「私は、私達は何時までこんな事を続ければいいんでしょうか……。もう、私にはわからなくて」

「……ふむ」

 

 レインは顎に手を当てて何かを悩んでいるけど私はそれどころではなかった。今まで誰にも言ったことが無い本心をさらけ出したことでいろいろな感情が沸き出てきた。機械生命体と戦う事への疑問、ウイルスに侵されて死にかけた時の恐怖、脱走したことによって追われる立場になった事への恐怖。一人だけ逃げ出した事への罪悪感が私の心を押しつぶすように吹き出てくる。

 

 するといつの間に私の頭に手が置かれていた。そしてそのまま頭を撫でてくる。何処かぎこちないけど優しい手つきに自然と私の中の負の感情が消えていった。

 

「……君には話しておこう。来年、機械生命体とアンドロイド。その両者に取って記念すべき日が訪れる。両者の長年の対立関係に終止符を打つ出来事だ」

「……そんなの」

「起きるさ。だが、具体的には言えない。今の君にはね。さて、突然だが11B。俺と取引をしないか?」

「取引?」

「ああ、君の義体のメンテナンスを含むバックアップをこちらが受け持とう。代わりに俺の協力者になってくれ」

「……」

「すぐに決める必要はない。ここには俺の他に数名しかいないが全員バンカーへの通信機能は持っていないしここにもそんなものはない。バンカーは君が撃墜されたままだと思っているから追っ手の心配もない。ゆっくりと決めるといいさ」

「……ありがとう、ございます」

 

 私は自然とそう言っていた。まだ彼の事を信用したわけじゃないけど彼の言葉は自然と信じられるような気がした。

 


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