「ヨルハ計画で最後に廃棄されるのは要は敵に情報が行くのを防ぐためだろう?」
「肯定。故にあなたの提案は私は好ましいと思うが止める事は不可能」
「なら、敵が
「疑問。機械生命体を根絶する事は現状では難しいと言わざるを得ない」
ポッド042は機械的にそう返してくる。だが、別に機械生命体を全て破壊する必要はない。
「機械生命体と和平を結べるかもしれない。それでも難しいか?」
「驚愕。その様な事は不可能である」
「パスカル。知っているだろう?」
「肯定。機械生命体の中で友好的な関係の構築に成功した個体の名である。しかし、あれは特殊な個体である」
パスカル。機械生命体でありながら自我を持ち、アンドロイドとの融和を解く平和主義者。人類と機械生命体の歴史に興味を持ち色々と調べている学者と呼べる個体だ。ゲームだと自分が村長を務める村の機械生命体が暴走してしまい生き残った子供たちと逃げ出すが最終的には彼を残して村人は全滅。深い絶望を味わった彼に対してプレイヤーは3つの選択肢を選ぶ事になる。多分どの選択肢も辛い結果となっていたのだろうな。俺は公式でも正史として扱われているっぽい選択肢を取ったが滅茶苦茶トラウマを植え付けられたからな。
「パスカルは
「否定。その様な可能性はない」
「そうとも言い切れないさ。何しろ遠い未来にはなるが機械生命体も同士討ちを行う。人間のようにな」
約100年後に機械生命体は内部分裂を起す。原因としてはその前に起こる貴族の誕生だろう。格差は貧富の差を生み出し、負の感情を誕生させる。他人よりも上に立ちたい、良い思いがしたい。そう言う気持ちが爆発すれば武力による直接的行動に出る。それが個ではなく群として起こればどうか? それはもう戦争だ。人間が何千年と繰り返しし続けた愚かな歴史にそっくりだ。彼らが人間と同じ道を歩くのか、それとも別の道を模索するのかは分からないが始まりは皆同じって事だろう。
「内部分裂を起すようになる。それは利害の不一致が起こるという事だ。つまり、彼らは自我に目覚めるという事だ。同じ機械生命体同士で内部分裂できるほどの自我をな」
「回答。つまり機械生命体との和平は可能であると?」
「思考。その通りであるならば和平は理論上可能である」
「俺としては出来るうちに和平をしておきたい。機械生命体が内部分裂を起してからでは和平なんて出来ない。と言うかその時まで和平が出来ないのならいつまでたっても出来ないだろう。どちらかを滅ぼすまで戦争を続けることになる」
その前に地球が持たない可能性もあるがな。今でさえ昼と夜に分かれる程自転が傾いているんだ。これ以上何かあれば崩壊しかねないだろう。それは俺としては困るからな。
「それに一度は試すのも悪くはないだろう? 駄目なら駄目で戦争を継続すればいいだけの話だ。少なくとも前例を作る事は出来る。アンドロイド達が戦争を止めたいときに道を示す事が出来るだろう」
「……」
「……」
ポッドは情報を共有しつつ考えているのか無言になった。きっと全体で考えているのだろうな。人類軍司令部と言う名のポッドの集まり。ヨルハを殲滅できる力を持った彼らがどう出るかによって敵対するのか逃亡するのかが決まる。流石にこの戦力差を相手に複数存在すると思われるポッドを相手に出来るとは思えないからな。
「……確認。機械生命体との和平で生まれるメリットは?」
「メリット? ……まぁ、利益を得たいという気持ちは当たり前か。最大のメリットはもう戦う必要がなくなる事だな」
そもそも現状のアンドロイドでは一部の地域の奪還や略奪、破壊が限界だ。機械生命体の生産を止める事も完全に殲滅する事も出来ない。このまま戦争を続けてもアンドロイドが機械生命体を全滅させる事は出来ないだろう。それが出来ているのなら5000年近くも争う事なんてなかっただろう。
「多少の小競り合いは今後も起こるだろうが少なくとも大規模な戦闘は起こらなくなる。更に和平に成功すれば話し合いが可能だろう。場合によっては住み分けを行う事も出来る。そうすればアンドロイドの悲願である地球の奪還を多少形は違えど達成できるんじゃないか?」
「……」
「……」
「まぁ、あくまでこれは機械生命体が全体の総意として和平を結べるのなら、って話だがな。だが、アンドロイド側だけでも和平を結べる体制を整えておいたからと言って何か問題が起こるわけでもないだろう? 必要なのは心構えなんだから」
5000年に渡り戦い続けてきたのだ。直ぐに和平を結んで攻撃をしなくなるかと問われれば否だろう。必ず武器を構え警戒をする。そうならないための心構えだ。
「別に今すぐとは言わないが早い方が良い。俺はこれから機械生命体側の最大の障害を排除する。アイツを排除できれば機械生命体は弱体化するだろうしネットワークからハッキングされる可能性も低くなるだろう」
「確認。つまり返事はそれを見届けてからでも構わないと?」
「そうだな。どうせ今の段階で返事を出す事なんて無理だろうからな」
ヨルハは暴走し拠点たるバンカーは破壊された。まともに残っているのはA2に11B、2Bと9Sくらいだろう。俺としてはこれだけ手元で保護できているのなら拠点で永遠に引きこもってもいいんだけどな。今の俺にはそれが可能な資材に技術、人員があるからな。
だが、それでは駄目だ。せっかくこの世界に来たんだ。悲しい結末を少しでも変えてハッピーエンドにしてみたい。デボルとポポルと色々な場所を旅したいししっかりと対策をしたうえでアジを食べてみたい。残っているかは分からないがレプリカントの場所を訪れるのもよさそうだ。……ああ、そういやエミールもいたっけな。エンドを迎えた後に生きているのなら尋ねてみるのもよさそうだな。
人間のいない無機質で無音な地球。引きこもるには惜しい魅力的な所だ。
「そんな訳で暫くは俺達の行動を見ていると良い。それを基に和平を結ぶのか否か、決めるのも悪くはないだろう?」
「了承。我々は貴殿の事を監視し機械生命体との和平が可能かの情報とさせてもらう」
「確認。たった今決断を下した。レイン、貴方が敵対行動を取らない限り我々は貴方の邪魔をしない」
これでポッド側からの邪魔が入る事はないし和平を結ぶ一歩を踏み出させる事が出来た。後は塔と資源回収ユニットの対処だ。そしてそれらを攻略すれば残るのは最大の難関。
「(赤い少女。最悪な事に転生前の記憶でもあまり期待できる情報はない。不安が残るがA2や2Bに対処を任せてゲーム通りの結末を迎えさせるのが一番だろうな)」
若干の不安を残しつつ、いよいよニーアオートマタも最後の時を迎えようとしていた。