「嘘……」
「これは……!」
階段を降り切ったデボルとポポルの目の前には罅一つない白い壁と沢山の機械が並んだ工場のような施設だった。工場というよりは研究所といった感じのその施設に二人は茫然とする。今では見る事さえ少なくなった人類がいた頃の文明を示す施設。
しかし、すぐにポポルはハッとする。そしてそこでようやくこの施設が現在進行形で起動している事を察する。アンドロイドがここまで活動しているとは聞いてはいない。つまりここは機械生命体の施設という事である。ここでようやくデボルを連れてきた事に対して後悔するが幸いなことに機械生命体の気配はなく無人のようであった。施設の持ち主が外に出ているのかすでに放棄されたのかはポポルには分からなかったが直ぐに修理をしてこの施設を出ようと決意する。
「デボル。直ぐに修理しましょう」
「ポポル?」
「多分ここは機械生命体の施設よ。今のところ気配はないけど何時までもそうである可能性は低いわ。さっさと治せるだけ治してここを離れましょう」
「……そうだな。頼む」
ポポルの言葉にデボルは頷き歩き出す。施設はとても広く入口の部分からでは全容は分からないがそれでも修理に使えそうな機械は確認できていた。
ポポルは近い場所にあった台の上にデボルを寝かせる。
「少しだけ待っていてね。修理に使えそうな部品と機械を持ってくるから」
「ああ、頼むよ」
力なく微笑むデボルにポポルは優しく微笑み返す。そして痛む体を動かしながら施設の奥に向かう。そこでも機械生命体の姿はなく施設の大きさを見せつけるだけだった。
ポポルは周囲を警戒しながら部屋の一つ一つを確認していく。部屋はたくさんあったが使われていると思われる部屋は少なく大抵が寝台とテーブル、椅子が置いてあるだけの簡素なものとなっていた。そんな用途の分からない部屋に首をかしげつつ部屋を見ていくと漸く倉庫と思われる部屋にたどり着いた。そこにはレジスタンス組織が見れば羨むほどのたくさんの素材が置いてあり中には機械生命体からしか確保できない貴重な物も置いてあった。
とは言えポポルの目的はデボルの修理に必要な材料の確保である。ポポルは部屋の中から必要な素材のみを持って引き返す。あの倉庫を見た以上放棄されたという事はないと予想しており早くしないとこの施設の主に見つかる可能性があった。
そして、若干の焦りを感じながらポポルが戻るとそこには目をつぶり微動だにしないデボルとそれを見下ろす機械生命体の姿があった。
拠点に駆け足で戻った俺は直ぐに地下に向かう。勿論、入り口の偽装はきちんとしてな。幸いそれ以外で動かした形跡はなく周囲に機械生命体の反応はない。これなら拠点がバレる心配はないだろう。
それにしてもデボルとポポルか。まさかレプリカントの登場人物と出会うとはな。まぁ、同型機であって別の機体であるがそれでもレプリカントの世界から活動している数少ない名前持ちのキャラであることに変わりはない。とは言えどうしたものか。彼女たちを捕縛なり破壊するなりは可能だ。むしろ拠点がバレる可能性を考えればここから出す訳にはいかない。
だが、彼女たちはオートマタでは重要な役割を果たす。アダムに捕らわれた9Sの救出のためのスキャナーの提供に9Sの義体の修理、塔に突入するための時間稼ぎと身を挺しての入り口を開けるなど……。彼女たちがいなければオートマタは進まないし勝利は出来ない。加えてどちらか一方だけ開放しても無理だ。彼女たちは二人でいるから現状を耐えられる。二人でいるから罪をかぶって生きていける。一方だけではメンタル的に呆気なく潰れるだろう。それでは開放しても意味がない。
そんな風に二人について考えながら階段を降りていく。なるべく足音が響かないように気を付けながら。そうして階段を降り切るといつも帰投後にメンテナンスを行っている台にデボルが横になっている。眠っているのかこちらに気付いた様子はない。そしてポポルの姿はなかった。ボロボロだったし修理するための材料でも探しているのだろうと考えた俺はデボルに近づいた。そしてそこで初めて彼女の容体に気付く。彼女の体はまさに“死にかけ”と言う言葉がふさわしい程ボロボロだった。見た感じでも右腕は機能していないのが分かり、所々服は破けそこから皮膚の下の機械部分が露出している。心臓代わりのモーターは変な音を出している上に途中で止まりかけている。このままでは近いうちに機能を停止、死ぬという事が分かる程だ。
はて?デボルにこんな場面はあっただろうか?まぁ、ゲシュタルト計画後もずっと稼働しているのだ。多少こういう事はあったのだろうけどこれ俺がいなければ確実に詰んでいたよね?これが俺がいる事で起きた歪みという奴なのだろうか?
「デボル!」
そんな事を考えていたからだろう。俺は後方で声がするまで彼女、ポポルの接近に気付かなかった。俺が後ろを向くとポポルが材料を持って固まっている。彼女も戦う力がないのかただこちらを睨んだりデボルの方を心配そうに見ている事しか出来ずにいた。そして俺を睨みつけながらポポルが怒鳴った。
「貴方!デボルに何をしたの!?」
「……別ニ、何モシテイナイ。最初カラコウダッタ」
「……」
俺がそう言いながらデボルから離れる。それを見てポポルはゆっくりとデボルの傍により彼女を確認する。しかし……、何故俺の拠点なのに侵入者に気を使わないといけないのか……。彼女たちが原作に必要なアンドロイドじゃなければここまではしなかったのに……。
「……貴方は、ここの主なの?」
「ソウダガ?修理位ナラ構ワンゾ」
「……何が目的?」
「ソレハ貴様トソノ相方ノ修理ガ終ワッタラ話ソウ」
「……こちらが約束を守らないといけない状況にならないと交渉はしないって事ね」
「ソウダ」
流石にこの傷で動けるとは思えないがもしここの事を言わないと言っても修理しない場合はどうする事も出来ないからな。アンドロイドの襲撃を受ける前にここを放棄しないといけない。また、ここまでの施設をつくるのは骨が折れるからな。
「……分かったわ。修理をさせてちょうだい」
「イイゾ。素材ヤ機械ハ好キニ使ウトイイ」
「……随分と好待遇ね。何を企んでいるの?」
「言ウ必要ハナイ」
「……」
ポポルはそれ以上何も言う事はなくデボルの修理を始めた。数十分ほどだろうか。俺から見ても手際よくデボルの修理を終わらせた。我流の俺としては十分に参考になる。どうしても自分だけだと上手く行かないところもあるからな。次に自身の修理を行っていくが随分と器用に修理をしていく。駆動炉は異常がなかったのか、デボルが起きていない状況で直すのは無理と判断したのかは分からないが四肢や胴の修理のみを行い完了させた。この間僅か一時間程だろう。俺がやろうとすれば三倍くらいはかかっていたはずだ。流石は治療とメンテナンスに特化したアンドロイドだ。これで戦闘も行え、しかもヨルハ部隊並みに強いのだから恐れ入る。……あれ?これなおしたら用済みとか言って破壊されたりしないよな?ちょっと不安になって来たぞ。
俺が心の中でどう思っているのか知らないポポルはこちらを警戒しつつデボルに呼びかけている。
「ぅ、うん……。……ポポル?」
「デボル!良かった……!目が覚めたのね!」
「治った、のか……?っ!」
デボルは治った体を見て呟いていたが俺の存在に気付き一気に警戒する。よくよく見れば二人とも武器らしきものは持っていない。ここまでの道のりで壊れてしまったのかねぇ?
「ポポル!こいつは!?」
「……この施設の主よ」
「っ!」
俺を警戒しながらデボルが尋ねるとポポルは小さく呟いた。それを聞きデボルは驚くと同時にこの状況をどうするか必死に考えている様子だった。とは言えこちらから特に何もしない。約束を守ってもらうけどね。
「ソンナニ警戒スルナ。此方ハココノ事ヲ誰ニモ言ワナケレバ何モシナイ」
「……それを信じろと?」
「機械生命体ダカラ信ジラレナイカ?俺ハコノママ平穏ニ暮ラシタイダケダ」
「……」
「マァ、俺ハ機械生命体ノ中デモ異端デアル事ハ自覚シテイル。オ前等モ俺ミタイナ機械生命体ハ初メテダロウ?」
「……そうだな。アンドロイドを修理して見逃すなんて奴は初めてだよ。しかもただの口約束のみで開放するなんてな」
「フム、ナラ何カ追加スルカ?俺ハ別ニ要求ハナイノダガ……」
「……デボル、ここは相手の言うとおりにしましょう?」
「ポポル!?良いのか?」
「私達は武器を持っていないしこの機械生命体が私達に危害を加えるならとっくにやっているだろうし……」
「確かにそうだけど……」
「……サッサト決メテクレナイカ?俺ハコウ見エテヤル事ガ多インダヨ」
「……分かった。今回は施設を借りた礼として約束を守る。だけど、もし私達に何かするなら……」
「安心シロ。俺ハ約束ヲ守ル律義ナ機械生命体ダ」
「……余計に信用できないけどな」
俺のジョークにデボルが呆れたように突っ込みを入れる。
こうして俺とアンドロイドの最初の出会いはなんとか流血沙汰にならずに済んだ。そして、彼女たちには言っていないが修理中に隙を見てスキャンさせてもらった。彼女たちはレプリカントの世界で暮らしていける位には人間に近い。食事も出来るし酒も飲める。酔うという事も出来る彼女たちは現状最も人間に近い存在と言っていい。そんな彼女たちをスキャンして構造を把握出来た事は大きい。少なくとも今後俺の体をより人間に近づけるように出来ることは確実だ。
故に、彼女たちがここの事を言わないだけでも十分利益が出たのだ。騙したともとれるが彼女たちはあのままでは壊れていたのだ。その後にスキャンも出来たし彼女たちも修理が行えたのだ。感謝してほしいくらいだね。