竜が辿り着いた幻想郷・後日談   作:ベヘモス

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本当はこの話だけで終わらせようかと思ったけど、短編ではなく連載にしました。……と言っても三話くらいで終わりですけど。


後日談その一

「これでよしっと。……如何ですか霊夢さん。袖を通してみた感想は」

「なんていうか……全体的に派手ね」

 

結婚式を数日後に控えた今日、私は式で着る事になる白無垢の衣装合わせを行っている。

リュウが告白してくれた翌日から挙式に向けての準備が始まり、彼方此方に振り回されていたら何時の間にか結婚式が数日にまで迫って来ていた。

式はウチの神社でやるから場所の確保に奔走しなくて済んだけど、必要な小道具を用意したり、知り合いに紹介状を書いたり、当日に振舞うお酒や料理をどうするかで揉めたり、引き出物の品をどうするかで頭を悩ませたりしていたら本当にあっという間だったな。

 

「派手なのは仕方のない事ですよ。一生に一度の花嫁衣装、多少派手なほうが思い出に残るものです」

「確かにそうかもしれないけど、私の知っている白無垢じゃないわよ、コレ」

 

出来たばかりの衣装に袖を通して、衣玖に着飾ってもらって改めて思う。私の知っている白無垢じゃない。

白無垢ってのは名前の通り白一色で仕立てられた和服の事だけど、コレは白を基調にしていながらも嫌味にならない程度に金の糸で刺繍が施されていて、この時点で既に白無垢じゃなくなっている。

まぁ金の刺繍はそれほど目立たないように作られているけど、問題なのは小物の方ね。

金の扇子はいい、コレはまだ分かるから。でも、懐剣(かいけん)筥迫(はこせこ)の飾りには文句を言いたい。

昔から剣は神に通じる物として神聖視されてきたのは知っているけど、懐剣の鞘と柄は派手すぎでしょ。黒の下地に金の飾りってそんな豪華なのは求めていない。てか、鞘に太陽の飾りがあるんだけど……これ作ったの天照じゃないでしょうね。

通常の筥迫も華やかな刺繍が施されているものだけど、なんで刺繍が月を象った物なのよ。普通は金襴(きんらん)緞子(どんす)羅紗(らしゃ)などでしょうが。

それに髪型だって文金高島田(ぶんきんたかしまだ)にしないってどういう事よ。頭に煌びやかな簪を挿してまとめるだけってどういう事よ!?

 

「……やっぱり天照が花嫁衣裳を用意するって言った時に止めるべきだったかなぁ」

「そ、その様な事を仰らないで下さい。太陽神が人間の為に花嫁衣裳を作るなど本来有り得ない事ですよ」

「それは分かってるんだけどさぁ~。私の知っている白無垢と此処まで違う物だと文句の一つや二つ言いたくなるわよ」

「普段から結果が同じなら過程なんて如何でもいいと仰っている言葉ですかソレ」

「アーアーキコエナーイ」

「やれやれ。……まぁ霊夢さんのお気持ちも分かりますが此度の衣装は色打掛も兼ねていますので、多少派手なのは仕方のない事ですよ」

「多少じゃないから文句を言ってるのよ。それにこう言う時くらい着替えがめんどくさいとか言わないって」

「霊夢さんはそうかもしれませんが、リュウ様は仰いましたよ。なんで着替えなくちゃいけないんだと」

「……つまり今回の原因はアイツにあるわけね。こんな時に物臭を発揮しないでよ」

「今更遅いですよ、霊夢さん。それとそろそろ脱いでください、折角の衣装に皺ができてしまいます」

「はいはい、分かりましたっと」

 

衣玖に手伝ってもらいながら白無垢を脱いで、普段の巫女服に着替える。

何時もの服に着替えたから分かる事だけど、天照が作ってくれた白無垢は生地からしてかなり上質な物みたい。

袖を通したときの肌触りが違うと言うか、普段の服の方がゴワゴワしているというか、着慣れている筈の服の方が落ち着かない感じ。

まぁ神様が作った服だし、素材からして人間が使う様なものじゃないんでしょうね。

 

「それで如何でした霊夢さん。白無垢を着てみて」

「ん~……派手なのを除けはコレと言って不憫な点はなかったかな。元々動き回るための服じゃないし、多少の動きづらさは眼を瞑るわ」

「さようですか。ではその様にお伝えしておきます」

「お願いね。……それじゃ私はダラダラさせてもらうから、後の事は宜しく」

「式が近いのですから余り葉目を外さないようにしてくださいね」

「分かってるって」

 

面倒な後片付けを衣玖に任せて、私は一人台所に向かってお茶の用意をする。

結婚式が間近に迫ってきているから最近はドタバタしていて、あまりのんびり出来ていなかったのよね。

それに今はリュウも出かけていて居ないし、衣玖が言っていたように式が近いし、外に出かけて妖怪に絡まれたくないし、今日は家にいるのが良さそう。

……ま、話す相手もいないから一人でお茶を飲んでいても楽しくないんだけどね。

 

「最近忙しかった反動か、こうして急にやる事がなくなると暇で仕方が無いわ」

 

台所で一人愚痴を零しながらお茶を淹れ、茶菓子を持って縁側に向かう。

今日は天気もいいし、日向ぼっこでもしながらお茶を飲んでのんびりしよう。

そう考えた私は、日当たりのいい場所に腰を下ろし、裏庭の風景を見ながらお茶を飲んで一息つく。

こうしていると普段は誰かがやって来るはずなのに、今日に限っては遊びに来るような暇人も居ない。

普段は呼んでなくても来るくせに、私が暇を持て余しているときに限って誰も来ないんだから。私がもうすぐ結婚するからなのか知らないけど、余計な気を遣ってるんじゃないわよ。

 

「……それにしても結婚か。改めて考えてみるといまいち実感が湧かないのよね」

 

五年もリュウと一緒に暮らしていた所為なのか、もうすぐ結婚するんだって実感が沸いてこない。

今までの準備も何かの模様しみたいで、自分がその中心にいるようには感じれない。

皆が盛り上がっているのに巻き込まれているだけな様な、何処か他人事の様に傍観している自分がいる。

当事者である筈なのに、自分には全く関係の無い様なひどく曖昧な感じ。

リュウは一緒に幸せになろうって言ってくれたけど、こんなんで本当に幸せになれるのか不安になってくる。

よくよく考えてみると私はリュウと結ばれたいとは考えていても、結婚する事なんか考えていなかった気がする。

リュウと恋仲になる事ばかり考えて、その先の事なんか全く考えてもいなかった。

アイツと結婚するのが嫌なわけじゃないけど、そこへ至るための過程が無いから結婚に実感が持てないんだ。

 

それに結婚するって事はリュウとの間に…その、子供を作らないといけないわけだけど、本当に子供を作れるのか凄く不安でもある。

私は人間でアイツは竜族。違う種族である私達の間に子供が出来るのかなんて考えたこともなかった。

霖之助さんみたいに人と妖怪の間に子供が出来るから、私達も出来ない事はないと思うけど……人と竜の間に子供が出来たなんて話聞いた事無いから、こうして考えてみると不安ばかりが募る。

永琳に協力してもらって妊娠を促す薬とか作ってもらうけど、もしそれでも出来なかったら私は何処の馬の骨とも知れない男の子を孕まないといけないのかな? それだけは絶対に嫌ッ。

家を継ぐ子を産まないといけないのは分かっているけど、私の後を継ぐ子はリュウとの間に出来た子がいい。他の男との間に出来た子なんて私が耐えられそうに無いもの。

 

「……はぁ。こんな事を考えても仕方が無いのは分かっているけど、独りになるとどうも駄目ね」

 

溜息を零しながらお茶請けの煎餅に手を伸ばし、口の中に放り込んで噛み砕く。

頭に浮んだくだらない悩みも一緒に噛み砕いて飲み込めたら良いんだけど、頭に浮んだ悩みは簡単に消えてはくれない。

誰かが傍に居てくれたらこんな事悩まなくて済むのに。心の中でそう思いながらお茶に手を伸ばすと、視界の隅で草むらが不自然に動くのが見えた。

今はそれほど強い風が吹いていないから風ではないだろうし、リュウがいる所為なのかこの辺りには野生の動物は余り住み着かない。里の人間が神社の裏庭に隠れる様な事はないし、妖怪か妖精が妥当な所かしらね。

私はお茶を一口飲みながら、掌に霊力弾を作り出して、今さっき揺れた草むらに向かって放った。

 

「ぎにゃッ!? いった~い、どこの誰! 今攻げきしてきたの!!」

 

草むらから出て来たのはこれまた随分と変わった子だった。

見た目は里の子達が良く着ている着流しをきた八歳くらいの少女だけど、私に凄くよく似ていた。

顔立ちや髪の色なんか私にそっくりだけど、瞳の色は黒ではなくリュウと同じ空色の瞳をしている。

世界には自分そっくりな子が三人はいるって聞いたことあるけど、この子もその類なのかしら? でも、只のそっくりさんで片付けるには……妙な親近感があるわね。

 

「ちょっとそこのアンタ、そんな所で何してるのよ。此処は博麗神社よ、幻想郷の住人なら知ってるでしょ」

「……もしかしてわたしのこと見えちゃってる?」

「えぇ、見えてるし聞こえてるわよ。だからそんな所で何してるのよ」

「ど、どうしよう、どうしようッ!? ぜったいに会っちゃいけないってきつく言われてるのにッ!?」

「誰にそんな事を言われたのよ。てか、私の話しをちゃんと聞きなさいッ!!」

「は、ハイッ! ごめんなさいッ!!」

「宜しい。…………ん?」

 

なんか勢いで叱っちゃったけど、あの子随分と素直に私の言う事を聞いたわね。

あんな素直に言う事聞く奴なんて滅多に居ないのに、本当になんなのかしらこの子。

 

「えっと……あの、おか…じゃなくて、霊夢さん。話しはちゃんと聞くので、となりにいってもいいですか?」

「え、えぇ。それは別に構わないけど」

「ホントッ!? やった!!」

「そんなに大喜びする様な事じゃないでしょうに、変な子ね」

 

呆れ果てる私など気にも留めず、少女はコッチにやって来て私の隣に座る。

その顔は凄く嬉しそうで、とても上機嫌だった。

 

「……随分と嬉しそうね。さっきはあんなに慌ててたのに」

「たしかにこの時代のおか…じゃなくて、霊夢さんに会っちゃいけない言われてるけど、見つかっちゃったものはしかたがないかなって」

「つまりは開き直ったわけね。まったく調子のいい子なんだから」

「あははは。よくみんなに言われる」

「その性格直した方が良いわよ。……ところでアンタ名前はなんて言うの?」

「わたしはりゅ―――」

 

少女は自分の名前を言おうとして何故か言葉が詰まる。

私に会ってはいけないと言われていたみたいだし、此処で自分の名前を言うのを戸惑っているんでしょう。

別にそんなの気にしなくても良い様な気もするけど、深くは突っ込まないであげましょう。

 

「りゅ……りゅ……リュシカッ! そう、わたしリュシカって言います!」

「リュシカねぇ……ま、それで納得してあげるわ」

「あ、わたしのこと信じてない」

「じゃあ、今の名前は本名なの?」

「それは……その……」

「ま、私に会うなって言われてるのに本名が言えるとは思ってないから別に良いわよ」

「どうもです……」

「それで一体何しにきたのよ。アンタ、この辺りの子じゃないでしょ」

「えっとですね、霊夢さんが結婚すると聞いてお祝いしに着ちゃいました!」

「それはどうもありがとう。でも、挙式は今日じゃないわよ」

「え、違うのッ?!」

「違う違う、式は数日後よ。どうも嘘を吐けない性格みたいね、貴女」

「た、たはははは……」

 

私が指摘した事を笑って誤魔化そうとするリュシカ(偽名)。性格的に嘘を吐けないみたいだけど、そうやって笑って誤魔化そうとするところとか、なんだかリュウに似ているような……。

 

「それじゃ霊夢さん。思い切ってしつもんさせて下さい!」

「え、えぇ。別に構わないけど……何を思い切るのかしら」

「あのね、今霊夢さんは幸せなの?」

「……え?」

 

リュシカの予想外の質問に流石の私も戸惑ってしまう。まさか面と向かって幸せなのか聞かれるなんて思いもしなかった。

この子の質問の意図は分からないけど、今が幸せだと言う事ははっきりとしている。

もうすぐ結婚するって時にそんな当たり前な事を再認識させられるとは思わなかったな。

 

「ねぇどうなの? いま幸せ?」

「えぇ、凄く幸せよ。ずっとリュウと一緒に居たいって願っていたんだもの。それが確約されて幸せに決まっているわ」

「それじゃどうしてさっき暗い顔をしていたの?」

「別に大したことじゃないわ。ただの悩み事よ」

「なやみってなぁに?」

「……別に貴女に話す様な事でもないのだけどね」

 

首を傾げて不思議そうに尋ねてくる少女を見て、自分でも何を思ったのか胸の内に溜まっていた悩みを吐き出していた。

こんな話この子に聞かせる様な物でもない筈なのに、如何してか話してしまう。

 

「リュウと一緒にいられる、それは疑いようの無いくらいに幸せよ。でもね、如何してかそれを実感する事が出来ないでいるのよ。誰にも反対される事なく、気兼ねなくアイツと一緒に居られるのにそれを実感できない。矛盾してるわよね、幸せなのにそれを感じられないだなんて。それにアイツとの子供が出来るかも分からなくて、どうしても不安になっちゃうのよ」

「う~ん……むずかしくてよく分からないけど、霊夢さんは今まで不幸せだったの?」

「そんな事ないわよ。アイツと出会って色んな事があったけど、あの日々が不幸だと思ったことは一度も無いわ。確かに出会った頃のアイツには苦労させられたけど、今までの全てが幸せだった。喧嘩したり泣いた日もあったけど、それらも全部ひっくるめて幸せな毎日だった」

「……そっか。それなら幸せを感じられないのも仕方が無いんじゃないかな」

「仕方が無いってなんでよ」

「だって、今も昨日と同じ幸せの中に居るんだよ。きっと幸せ過ぎてそれが当たり前になっちゃってるんだよ」

「幸せが当たり前になっている?」

「うんッ。わたしも偶にあるもん。今が幸せ過ぎてそれが実感出来なくなること」

 

諭す様に話すリュシカの言葉を私は反発する事無く素直に受け入れていた。

昔の私なら生意気な子供だと一蹴していだろうし、この子の言葉に説得力なんて無いけど、でも不思議と納得することが出来る。

リュウとずっと一緒に居たいと願い、私はアイツから離れた日なんて今まで殆ど無かった。

傍に居なかった日なんてお互いになにか用があるときだけで、それ以外の日は常に一緒に居た。それが当たり前だったから。

その日々が幸福だった間違いないけど、その幸福が何時の間にか当たり前になっていたんだ。

あって当然なものを意識したりしないように、私もこの幸福があって当然なものだと思っていた。だから実感が持てなかったんだ、この幸せな毎日に慣れてしまっていたから。

 

「……そっか。私、幸せに慣れちゃってたのか。あの日々があって当然なものだったから」

「きっとそうだよ。でも心配しないで、その日々が当たり前になっちゃっても二人の幸せが終わったりしない」

「随分と嬉しい事をいってくれるけど、どうしてそんな事がいえるのよ」

「だって、わたしが知ってるから。たしかに偶に喧嘩したりもするけれど、二人が幸せなの知ってるもん」

「………………」

「それに子供の事も気にしなくて平気だよ。二人の間に子供は生まれる。それは絶対にたしかな事から、だから大丈夫」

「……そうね。貴女がいうならきっとそうなのよね」

 

そう言ってみせるリュシカの笑顔を見て、何時の間にか私の悩みは綺麗に消え去っていた。

初めて会う子に悩みを解決してもらうだなんて変な話だけど、でもこの子なら私の悩みを払ってくれても不思議じゃない。多分、この子は私の……。

 

「あ、やっとおか……じゃなくて、霊夢さん笑ってくれた。うんうん、そうやって笑っている方がいいよ。怒った顔や怖い顔だと幸せが逃げていくから」

「普通ならそうかもしれないけど、私の幸せはリュウが運んできてくれるから。だから逃げたりしないわよ」

「あははは。それもそうだね」

 

二人して笑い合っていると突然リュシカの身体が徐々に透け始めた。

余りにも突然の出来事に私が目を丸くして驚いていると、リュシカは透け始めた自分の身体を見て落胆の表情を浮かべる。

 

「ありゃ、もう時間か。ちょっと干渉し過ぎたかな」

「ちょっと身体が透けてきてるけど大丈夫なの?」

「うん、平気だよ。ただもう帰らないといけないみたい。……本当はもっとお話がしたかったけど、たっちゃんも余り長い事干渉する事は出来ないっていってたからしかたがないよ。」

「そうなの。……それじゃまた何時の日かお話をしましょう」

「……えっ?」

「流石に何年後になんて約束はできないけど、また必ず会えるわ。だからその時に今日の続きをしましょう」

「……もしかしてわたしの正体に気付いちゃってるの?」

「アレだけ何度もいい間違いをしていれば気づくわよ。素直ないい子に育ってくれているとは思うけど、もう少し上手く誤魔化せるようになりなさい」

「うぅ……。ちょっと前に同じ様なことを言われたばっかりなのにまた言われた」

「何度も言われたくなかったら精進すること。いいわね」

「は~い」

 

リュシカは若干拗ねたように返事をするけど、身体の大部分が既に透過してしまっていて、今では薄っすらと輪郭が見える程度。

こうなってしまっては私にはもう如何する事も出来ないけど、今の私がこの子に伝えて挙げられる事は何もない。

必要な事はきっと未来の私がこの子に伝える筈だから、きっと大丈夫よね。

 

「それじゃもう思い残すことは無いわね」

「うん、大丈夫。わたしが知りたかった事もちゃんと知れたから」

「貴女が知りたかった事? そういえば一体何を調べにきたのよ」

「二人の結婚が本当に幸せだったのかどうか。お父さんってば、部屋でお母さんを押し倒して毎晩何かしてるんだもん。だから二人の結婚は本当に良かったのかなって。……でも心配いらなかったみたい」

「そ、そうね。貴女が心配しなくても私達は幸せだから大丈夫よ」

「そうみたいだね。……それじゃわたしもう行くね」

「分かったわ。気をつけて帰って来なさいよ、未来で待ってるから」

「うん! それじゃまた後でね、お母さん!!」

 

その言葉を最後にリュシカの姿は完全に消え去り、この時代から姿を消した。

最後は顔を見る事が出来なかったけど、あの子はきっと笑顔を見せてくれていたと思う。だって、別れ際のあの子の声は凄く嬉しそうだったから。

……それにしてもあの子が言っていたリュウが私を押し倒しているのってアレよね。夜の営み的なやつ。なんで娘が覗いている事に気が付かないかな、私。

 

「……とりあえず、部屋に結界を張って覗かれないようにしよう」

 

覚えていられるか怪しい事を心に決めながら、私はすっかり温くなってしまったお茶を飲み一息ついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

あの子が帰ってから数日が経ち、今日はいよいよ挙式当日となった。

事前に招待状を送っていたりした為、境内には普段では考えられないほどの人数が集っている。

普段からコレくらいの参拝客が来ていれば母さんに文句を言われなくて済むのになぁ。境内に人が集るたびに心の中でそんな事を思ってしまう。

 

「はぁ……。どうして私の周りってお祭り好きしか居ないんだろ。普段からこのくらい参拝客が来て欲しいもんだわ」

「その様な事を言っても仕方がありませんよ。それよりも今日は結婚式なのですから、しゃんとして下さい」

「はいはい、分かってるわよ」

 

天照が作った白無垢に身を包んだ私は、衣玖に先導されてリュウが待っている母屋の裏庭に向かう。

ウチの神社の広さでは室内で式を行う事ができないから、今回は特別に野外で行う事になっている。

階段を昇って会場である境内に入る事は出来ないから、裏庭をぐるりと回って入場する手筈になっている。

この手の祭事にトコトン縁のない家だったから仕方のない事だけど、流石にコレは不便よね。……あの子が結婚する前に神社の敷地を何とか広く出来ないかしら。

衣玖の後を付いていきながらそんな事を考えていると、待ち合わせの裏庭には既にリュウの姿が会った。

裏庭で佇むリュウの姿は普段の格好とは違い、黒の上着に灰色のズボンを履いて、白金色の具足と篭手を身に着けていた。

この結婚式に合わせてリュウもたっちゃんから衣装を貰ったとは聞いていたけど、何処からどう見ても結婚式で着るような服装じゃない。

物凄く似合っているし、端から見ても超一流の戦士だって分かるんだけど、絶対に結婚式で着るような服装じゃない。天照もそうだけど、たっちゃんも何を考えてるんだかさっぱりだわ。

 

「お、やっと来たのか。待ちくたびれたぞ」

「ごめん、リュウ。それによりアンタのその格好……」

「ん? なんか変か?」

「いや、似合ってはいるけど……新郎が着る服じゃないわよね」

「俺はあんまりそう言うのは分からないんだが、コレを作った龍神曰く「お主に袴は似合わん」だそうだ」

「あ~確かにリュウの袴姿って変かも。ねぇ衣玖」

 

隣りに居る衣玖に声を掛けてみたけど、彼女からの返事が無い。

なんとなく不思議に思った私は衣玖の顔を覗き込んでみると、彼女は顔を赤らめてウットリとしている。恐らくは格好良く決めたリュウに見惚れているんでしょう。

衣玖の気持ちはなんとなく分からなくも無いけど、なんとなくムカつくから彼女の脇腹を肘で小突いておく。

 

「あうッ。……霊夢さん、痛いです」

「ふんッ! 呆けている衣玖が悪いのよ」

「それはそうかもしれませんが……」

「……お前等、こんな時に喧嘩するなよ」

「分かってるわよ」

「はい。…それではそろそろ会場へと向かいましょうか」

 

話を上手く切り上げた衣玖が先導し、私とリュウは並んでその後を付いていく。

裏庭を抜けて母屋の玄関前へと回ると境内には紅白の垂れ幕と、そこへと通じる道に紅い絨毯が敷かれていた。

本殿の脇には母さんが控えていて、私達が来るのを待ちわびているのか、珍しくソワソワしている。

あんな母さんを見られる日が来るなんて思わなかったな。流石の母さんでもこういうのは慣れてないか。

思わず出てしまいそうになる笑いを堪えながら、私達は紅い絨毯の上を歩き、皆が待っている会場へと足を踏み入れる。

境内の中は既に沢山の参列者で溢れており、私達が会場に入ると拍手で迎えてくれた。

私とリュウは本殿前に設置された椅子に座り、衣玖は参列者に向かって一礼した後、席を離れて脇に控える。

そして衣玖と入れ替わる形で母さんが私達の前に立ち、皆に向かって一礼をする。

 

「……それでは只今よりリュウと我が娘霊夢の婚儀を執り行います」

 

今回の式を取り仕切る斎主(さいしゅ)である母さんが挨拶をすると、突然辺りが暗くなり始める。

何事かと空を見上げてみると、蒼天の空を覆うように深緑色の鱗を持つ巨大な龍が私達の頭上に現れた。

龍は自身の巨体が神社に影を落としてしまうことを嫌ったのか、身体をよじり会場の日の光が差し込むように自身の位置を調整する。

龍神が姿を現し、場が整ったのを見計らって母さんはお祓い棒を手に修祓(しゅばつ)の儀を執り行う。

儀を行い私達と参列者を心身を清めた後、母さんは龍神の顔が見える位置に座り、祝詞奏上(のりとそうじょう)を読み始めた。

幻想郷の最高神に私達の結婚を報告する大切な祝詞だけど、隣に居るリュウは凄く暇そうな顔をしている。

 

「……ちょっとリュウ。大切な儀なんだからちゃんとしてよ」

「そうは言うけどこうして座ってるだけってのも結構暇で」

「気持ちは分かるけどまだ続くんだから頑張って。三献(さんこん)の儀が終わったら誓詞奉読(せいしほうどく)があるんだから」

「あ~……そういえばそんなのも有ったな。アイツ等の前で誓いの言葉を読み上げるんだったか」

「そうよ。大事な事なんだからしっかり決めてよね」

「……分かりやすく一言で纏めるか」

「それはそれでどうなのよ……」

 

こんな時でも相変わらずなリュウに呆れながらもホッとしてしまう。

ガチガチに緊張してヘマをやらかすよりもずっと良いし、リュウが何時も通りで居てくれるから私も緊張せずに普段通りで居られる。

こう言う所がリュウの魅力の一つなんだと再認識するけど、誓詞奉読を簡素に済ませようとするのは止めてもらいたいわね。折角の結婚式なんだし、此処は一つかっこよく決めてもらいたいけど……リュウだし無理か。

自分の中でそう結論付けると思わず笑みが零れてしまう。

 

「ふふっ」

「ん? どうかしたか?」

「うんん、なんでもない。……ねぇリュウ。今幸せ?」

「突然どうしたんだよ。お前ならそんなの聞かなくても分かるだろ」

「確かにそうだけどちゃんとリュウの言葉で聞きたいのよ」

「変な奴だな。そんなの幸せに決まってるだろ」

「うん。……私も凄く幸せよ」

 

リュウの方を振り向いて微笑むと彼は一瞬不思議そうな顔をするけど、直ぐに微笑み返してくれた。

二人で話している間に祝詞奏上が終わり、三献の儀へと入る。

脇に控えていた衣玖が私達の前に小・中・大の三つ重ねの盃を持って来てくれる。

コレを飲み交わすことで私達は永遠の契りを結ぶことになる。

人間である私がどれだけリュウと一緒に居られるのかは分からないけど、この命が有る限りリュウと共に歩いていこう。

心の中でそう誓いながら私はリュウから渡された盃を口にする。……この幸せがずっと続く事を願って。

 




今回の二人が着た服装を一言で表すと、霊夢のは荘厳な巫女服で、リュウのは戦神の礼装って感じです。本編でも言ってるけど結婚式で新郎新婦が着るような服装じゃないな。

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