銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

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 友希那さんとラブコメしたいなぁ、と思うがままに書き殴っただけ。
 会話文多めです。地の文が好きな方はブラバ推奨。
 それでは。


銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い
1話


 

 ──すぐ隣で聞いた彼女の声が、あまりに美しかったのを覚えている。

 あの日、あの冬の日。俺は駅前で愛用のアコースティックギターと共に自作の音楽を奏でていた。

 昔から、音楽の才能はあった。自分で作っておいて良い出来だと自負できるくらい自信を持った音を奏でるために、冷える空気の中でも手元のギターはその弦を震わせていた。

 

『その曲、あなたが?』

 

 1時間ほど、自分の音楽を奏でていたとき。彼女の方から声をかけられてから、二人でセッションをした。

 珍しかったと、今でも思う。当時の俺は、音楽家である両親にスキルを叩き込まれた。大きなコンクールで常に高成績を残した。それが当然のことだと驕っていた。

 だからこそ、珍しかった。

 

『あなたの曲を歌わせてもらえるかしら』

『こっちからお願いしたいくらいだ。よろしく』

 

 普段ならつまらないと一蹴して聞く耳も持たない他人の音楽を美しいと思ったのが。

 普段なら雑音にしかならないはずの駅前のロータリーで流れる歌声は、しかし一瞬のうちに俺を虜にした。

 そして、きっと彼女も。

 その日、お互いにお互いの音楽に魅せられた。

 彼女もまた、自分の声に価値を見出していた。

 銀色の髪をした女の子。

 金色の綺麗な瞳をした女の子。

 俺が知っていたのは、それだけ。

 あの時の俺は、何も知らなかった。

 名前も、年齢も、学校も、趣味も。

 ただその日、駅前でセッションをしただけの関係。

 歌詞のない俺の歌に、二人で作った即興の歌詞を載せて歌っただけの関係。

 それが、俺と湊友希那の最初の繋がりだった。

 

 

 

 

「やっぱりここのコード……」

 

 放課後。ライブハウスの一室で、俺はギターを抱えながら自分の作ったスコアと睨めっこを決め込んでいた。

 昔から趣味の作曲は楽しくて飽きもないのだが、いかんせん自分の満足する楽曲に辿り着くまでに時間がかかるという欠点がある。

 それに、今は自己満足で作曲をしているわけじゃないのだから尚更。

 

「精が出るわね」

「当たり前だろ、Roseliaが歌うんだ。中途半端に作ると誰かさんに怒られるからな」

「ええ、そうでないと困るわ」

 

 部屋の扉を開けて微笑みと共にそう俺に声をかけた銀髪の少女は、そのまま俺の隣に座って譜面を覗き込んできた。

 

「このAメロのフレーズかしら?」

「そう、その指さしてるとこ。ちょっと歌詞の合わせ方に無理がないか?」

「そうね、もっとここを……」

 

 呟きながら、彼女は俺の持っていたペンを取ってスコアに書き込んでいく。

 流石に歌う本人からすると作曲した俺自身とは違う目線で見られるから、なかなか勉強になる。

 こうして二人で音楽を作るのも慣れたものだが、未だに新しい発見があるのは創作の醍醐味だろう。

 

「こういうベース、奏人(かなと)はよく使うけれど、リサならもう少し速いコードでもいいんじゃないかしら」

「でもここ速めると歌い辛くないか?」

「……あら、私に出来ないとでも言いたいのかしら」

「いや、そんな半目になられても……」

「私に歌えないって言ったのは奏人よ」

「……実力は信用してる。

 喉の心配してるだけだ、無理しがちだろ友希那」

「……………」

「そういうわけで、ここの拍は変えるつもりはないんだけど……」

 

 そこまで言って隣を覗くと、彼女は顔を俯け、髪から覗く耳を赤色に染めていた。

 どきり、と胸が跳ねる。

 その事実に気が付きながら、努めて頭で否定する。平静を装いながら、いつも通りに彼女に話しかける。

 

「友希那、大丈夫か?風邪とか……」

「……平気よ、少し考え事をしていただけ」

「いや、そんな顔赤くしながら言われても……」

「……この部屋、暑くないかしら」

「冷房ついてるけど」

「……………」

「あ、そうだ。もう一つ見てほしいフレーズがあって」

「はぁ……構わないわ、どこ?」

「ここなんだけど……」

「ああ、ここ。そうね……変えるとしたら……」

 

 ぶつぶつ言いながら、さらさらとペンが動いていく。

 ………俺の膝の上で。

 なるほどなるほど、と彼女に合わせて感心したように相槌を打つのはもちろん現実逃避のためだ。

 

「……と、こんな風に変えればどうかしら?こっちの方が自然だし、私も合わせやすいのだけど、でもそうね、もう少し変えるなら寧ろ……」

「……あのさ、友希那?」

「何かしら、この修正で大分良くなるわ」

「……ああ、そこはいいんだけど、その……」

「歯切れが悪いわね」

「いや、なんで俺の膝で書いてんだ?」

「……………」

 

 赤くなった顔を隠したかったのか、彼女は俺の膝にあるスコアをクリップボードごと動かさずに、隣から倒れ込むようにして書き込んでいた。

 先ほどまでは手だけだったのでまだ良かったのだが、体ごととなると話が違う。

 夏だからということで薄着なのもまずい。

 具体的には体が密着していい匂いがするわ柔らかいわで、俺の理性がゴリゴリと削られてる。年頃の男子にはいささか刺激が強すぎるからやめてほしい。何が問題ってこの子見た目が良すぎる。顔真っ赤にしてるのがそれに拍車をかけてる。

 

「友希那さん?」

「…………」

「友希那?」

「…………………」

「あの、そろそろ戻ってもらえると助かるんだけど……」

「………悪かったわ頭を冷やしてくるわね」

「あ、ああ……外は真夏日だけど」

「この部屋よりはマシよ」

 

 息継ぎもせずそう言い切って俺に背を向けて退室した彼女を見ながら、ため息を吐いた。

 同時に、張り詰めていた身体の感覚が緩む。

 

 可憐な容姿。堂々とした立ち振る舞い。

 そしてなによりも、圧倒的な歌唱力と音楽センス。

 彼女はおおよそ必要なものをすべて持っていた。

 一人のアーティストとして、人を魅了するために持つべきものを。

 

「なんであんな顔すんだよ……」

 

 だから、あそこまで急接近した赤く染められた頬に心を動かされるのは、ある種自然なことで。

 勘違いしそうになるだろ、と言いかけた言葉を飲み込む。

 これが勘違いだとしたら、彼女は間違いなく魔性の女だ。

 いやほんと、察してほしいのかほしくないのかわかりづらい中途半端なデレは初心な男子高校生の心臓にはオーバーキルすぎる。心臓がもたない。つらい。

 しかもこれが通年だから殊更にたちが悪いし、なんなら同じ部屋で二、三分くらいしか話してないのにこの破壊力だから手がつけられん。

 いやまあ、こう、俺から動いてあげた方が良いとは思うんだけど。

 

「いやいや、早とちりだろ……」

 

 彼女からすれば、『二年間一緒に作曲してきた距離が近いだけの男子』っていうだけの可能性があるわけで。俺は今でも必死に勘違いの可能性を捨てられずにいる。

 とはいえ。とはいえだ。

 あの音楽以外にはまるで興味ないですみたいなスタンスの友希那が、その関係とはいえ好意のない男子にあんなことするかと問われれば……いや、やっぱ分からん。

 なまじ音楽以外ポンコツだからなあの子……。異性との距離の測り方が分からないなんてありそうだしな……これさえはっきりしてればとっくに告白してるんだが。

 相手の想いが不明瞭な中で『ただの音楽仲間』に告るのと『今を時めくガールズバンドのボーカリスト』に告るのは心持ちのハードルが違いすぎる。

 それこそバンドを組む前に気がついていればまだしも、自分の気持ちを自覚したのがつい最近というのが、間が悪いというかなんというか。

 

「分かんねー……」

 

 はあ、ともう一度ため息を吐いて、熱くなった頬から意識を逸らすように俺はスコアとの睨めっこを再開した。

 想い人と俺が恋愛初心者で辛い、とぼやきながら。

 

 

 

 

 友希那がバンドを作ると言ったのは、お互い高校二年生に上がった頃のことだった。

 あの日駅前で音楽を奏でた一件を契機に俺も彼女のお眼鏡にかなったらしく仲良くなり、二人で曲を作っては歌ってを繰り返して一年を超えたあたり。

 カフェテリアの一端で、彼女の吐いた言葉に一人唖然としたのを今でも覚えている。

 

『え、何言ってるの』

『何って……バンドよ、バンド』

『そんくらい分かる。そうじゃなくて、バンド?友希那が?』

『……そうだけれど。そんなに意外かしら』

『意外っていうかなんていうか……』

 

 あの時の驚愕は今も覚えている。

 一年間一緒に過ごして分かっていた。彼女は俺と同じ人種だ。

 常に高みを目指して、音楽に対して妥協しない。持てる力全てを自分の音楽に文字通り懸けている精神力。

 正直なところ、彼女についていける人間がそうそういるかと言われれば、俺は真っ先にノーと言うだろう。その実力は音楽業界に目をつけられるほどには折り紙つきだ。

 

 とにかくその頃の俺は、そんな友希那に波長を合わせることのできるバンドというのが、どうしても想像がつかなかったのだ。

 価値観も、音楽に対する姿勢も、可能性も、才能も、実力も、彼女を構成するあらゆる要素は明らかに他を凌駕していたから。

 

『……バンド云々の前にさ、友希那についていける人を探すのが難しいだろ』

『?そうかしら』

『なんで疑問形なんだよ』

『少なくとも奏人は私と一緒にいるじゃない』

『……まあ、そりゃ』

『……………』

『……照れるくらいなら言わなきゃいいだろ』

『……あなたが顔赤くするからよ、そういう意味で言ったわけではないのに』

『……そういう意味って何だよ……』

『………あっ』 

 

 そういうやりとりが、心地良かった。

 そういう時間を過ごすのが、いつの間にか大切になっていた。

 そう思っているのは、自分だけだと思っていた。

 

『しかし、そっか………じゃあもうこうして過ごしたりできないんだな』

『え?』

『いや、だってそういうことを言うために報告したんだろ、バンドのこと。バンド作るから俺の曲はもう要らないって』

『別に、そんなことはないわ』

『えっそうなの』

『私はバンドを作った後でも奏人の曲を歌いたいから』

『そ、そうか……』

『奏人も言ってくれたじゃない、私のためだからいい曲を作れるって』

『やめて、超恥ずかしいからやめて。あの時の友希那スランプで落ち込み気味だったから……』

『知っているわ、励ましてくれたんでしょう?』

『………もちろん』

『それに。奏人から私がいなくなったら、もう今くらいにいい曲作れない、とも言っていたわ』

『それは……まあ』

『……否定しないのね』

『……事実だからな』

『……………』

『……………』

『……そ、それで、誰かアテはいるのか?』

『いないわよ』

『なんでさも当然のような顔してるのこの子……』

『でも、奏人が手伝ってくれるわ』

『おい何勝手に確定事項にしてんだ。俺は友希那本人じゃないから無理だぞ』

『奏人は私と同じタイプでしょう。適任だと思うけれど』

『いやちょっとこの曲作るのに忙しいから……』

『そういうつもりなら、言うわ』

『……何を』

『私がスランプ気味だった頃の奏人の様子』

『……誰に』

『まりなさんに』

『よし、すぐ探しに行こう。地下スタジオでバンドがライブしてるぞ、今日は休日だしいい人材がいるかもしれない』

『……単純ね』

 

 と、そんなこんなで俺も彼女のバンド作りに奔走して、なし崩し的に件のバンドのために曲を作ることになったわけだが。

 

 

 

「別段、なにも変わってないよな……」

 

 バンドを作る前と同じようにこうしてライブハウスの一室で歌を作る現状に、俺は内心首を傾げながら先程友希那に修正をもらった部分をギターで試奏していた。

 そんな俺の目の前に座りながら、友希那がじとりとした目線でこちらを見てきていて。

 

「……一応、香水をつけ直してきたのだけれど」

「あっ悪い、気づかなくて」

「構わないわ。けれど、面と向かって言われると少しは傷つくわね」

「あ、いや、変わってないっていうのは友希那のことじゃなくて、俺たちの関係っていうか……」

「関係、ね……」

 

 ふむ、と頷きながら、それから友希那は淡く頬を染め、

 

「それは……何、そろそろ進展がほしいということかしら」

「いや、違う。全然違う。そういうことじゃなくて」

「そう………」

 

 若干テンションを下げる友希那。

 ていうか進展ってなんだよ。俺たちの友情だけは永遠で永劫でパーマネントなフォーエバーだってこの地球に誓ったじゃないか。まったく何を言ってるんだろうこの子は。

 

「リサに『そろそろ奏人ともランクアップしたら?』なんて言われたから、そういうことなのかと思ったけど……」

「おい幼馴染」

「いやほら、分かるでしょ?」

「何も分からない」

「ほら、幼馴染としては、色々と気になっちゃうの!」

「はぁ……紗夜から何か言ってくれ、このギャル風ベース担当に」

「私も音無(おとなし)さんがどこまで考えているかは気になるのですが」

「ほら、紗夜もこう言ってるしこの話は終わり……え、今なんて言った?」

「ですから、私も気になると」

「何が」

「音無さんと湊さんの関係です。そろそろはっきりしてください」

「友希那に聞いても奏人に聞けって言われてさ〜」

 

 じとり、と背中に嫌な汗が流れた。

 気がつけば、ついさっき全員集合したRoseliaの5人が練習を止めて俺を見ている。

 いや待て、今は練習中だろ?なんでこの子達はニヤニヤしながらこっち見てるの?そんなに余裕あるの?

 おいそこの幼馴染、紗夜を味方につけたからって笑ってるんじゃない。

 

「い、いや、今はそんなことより次のライブへの練習をだな……」

「湊さん、スケジュールは詰める必要がありますか?」

「いいえ、誰かさんが曲を作ってきてくれるおかげで時間の余裕はあるわよ」

「だってさ、奏人!」

「こんなことで完璧なチームワークを見せてくるな」

 

 思わずぼやいた言葉にもハリがない。

 俺は俺で、半ばこの状況に諦めているようだ。今の今まで彼女との関係を曖昧にしてきたツケが回ってきたのかもしれない。

 だが、諦めるわけにはいかない。どれだけ往生際が悪かろうと、最後の抵抗をしようと口を開き───

 

「………黙秘権は」

「認めないわ」

「なんで友希那が言うの……」

 

 そんな会話を最後に、リサが嬉しそうな笑みを浮かべたまま「じゃあひとつめ〜!」と一言。なんでこんな元気なんだこの子は。

 

「ずばり、友希那と二人で出かけたのは何回くらい?」

「えー、何回くらいだ……?」

「50回はあるわ」

「そんなに出かけたっけ」

「平日の放課後は此処で練習で、基本的には休日だけよ」

「まあ、そんなもんか」

「先週末行ったあのアイスクリーム屋さん、また行きたいのだけれど」

「いいけど……あれ、今週末は俺の家でダラダラするって言ってなかったか?」

「行ってからでいいじゃない、最悪奏人の家に泊まればいいし」

「どれだけ外に長居するつもりなんだよ」

「いつもの事でしょう。行く場所を決めても、結局私かあなたの家での作曲に落ち着くんだから」

「そうなった場合は俺の家な。友希那の父さんは、ほら……」

 

 何と言うか、友希那のお父さんは気まずい。娘に寄る悪い虫だと思われてるような気がする。まあこんな可愛い娘いたら警戒するか……それにしたって警戒されすぎな気がするけど。結婚報告か何かだと思ってるレベルだぞあの圧。

 微妙な顔をする俺に、友希那はむ、と眉をひそめる。

 

「お父さんは会いたがっているわ」

「……いやほら、俺は一人暮らしだから気軽に来れるし。泊まり込みなら何回もしてるから慣れがあるだろ?やっぱ俺の家で」

「そうね。そういえば、あのマグカップちゃんと洗ってるのかしら」

「ああ、柄が色違いのやつか。安心しろ、毎晩洗ってる」

「そこまでしなくていいと思うけれど」

「まあ、たしかに。でも友希那が急に来ることもあるし。あとは気持ちの問題だな」

 

 なんせ初めて友希那と選んだ食器の類だ。今ではマグカップだけじゃなくて数種類の皿まで増えて俺の家に置いてあるけど、初めて買ったし頻繁に使うしでなんだかんだ一番愛着がある。

 

「とまあ、こんな感じだけど」

「…………」

「……友希那、リサも紗夜もなんかダウンしてるんだけど。疲れか?」

「そうね、最近は練習を詰めていたし。二人とも、一応奏人と買ってきたチョコレートがあるわ。糖分補給が必要なら食べてちょうだい」

「美味いんだよこれ、この前友希那と出かけた時に買ったんだけど」

「いやもうなんか、甘いものはお腹いっぱいっていうか……」

「え、どういうことなんだそれは……」

「聞いた私が間違いでした。日菜に愚痴ろうかしら……」

「この前すれ違いの件は解決したんじゃ……ていうか何を愚痴るつもりなんだ」

「ちょっと、大丈夫?」

 

 そう言って俯く二人の背中をさすりに行く友希那の後を追おうとすると、今度は後ろから「奏人さん」と無邪気な声。

 声の出どころを振り向けば、そこにはにこにこと笑うあこと、やや遠慮がちな表情を見せる燐子が。あこはその大きな目を興味に輝かせ、燐子は……なんだろう、呆れ?呆れと心配の混ざった視線を向けている。前者は俺に、後者はリサたちに向けたものか。待って俺同い年の女の子に呆れられてる?なんで?

 

「どうした、二人とも」

「奏人さんと友希那さんってとっても仲がいいですよね!」

「?まあ確かに。俺の友人の中では一番仲がいいな。なんだかんだ付き合いも長いし」

「奏人さん……具体的には、どのくらいですか?」

「おおう、答えにくい質問」

「答えにくいのね」

「いや友希那、睨まないで紗夜とリサの介抱をしといて」

 

 背中からの声に軽口を放りながら、む、と考える。どのくらい、か。友情の尺度としてはまあ俺からの矢印は最大なわけだけど。自分の人生全部賭けるって言ったし。

 

「いやむず……」

「……そこまで悩むことかしら」

「いやまあ、人生単位で考えてみても友希那が居てくれればそれでいいしな……」

「うわ………」

「待って何その顔。俺あこのそんな声初めて聞いたんだけど」

「奏人さん、友希那さんが……」

「え?……うわ、ダウンしてる人数が増えてる」

「え、友希那さん!大丈夫ですか!?」

「あ、あこちゃん、ちょっと……」

「二人とも、走んなくてもいいから」

 

 ダウンしている先輩三人のもとへと向かうあこと、それを追いかける燐子。……これは、俺は追うべきじゃないだろうな。女の子だけのほうが気も楽だろうし。一旦スタジオから出て……。

 

「……待たせたわね」

「復活が早い」

 

 いつの間にか若干顔の赤い歌姫が目の前にいた。どうやら早くも落ち着いたらしい。いや落ち着いてんのかこれ……なんか五人で話してたような気がするけど。ガールズトークには俺は参加できないから、何を言ってるのかさっぱりなんだよな。

 

「で、何話してたんだ?」

「……私にとっての奏人について」

「……答えにくい質問だな」

「奏人、友希那がなんて言ったと思う?」

「ちょっと、リサ」

「いや、分かんないな」

「奏人は少し考えて」

「ええ……」

 

 目を細められても困る。困るけどでも気になる。

 ……なんだろう。友人としての枠に入ってるとは思うんだけど。不器用な彼女のことだから、人間関係の距離感の測り方がややバグっている可能性があるんだよな……。

 むむむ、と一人考える俺の眼前、リサはにやにやとした笑みを浮かべながら友希那の背中を押すように触れ。

 

「奏人分からないみたいだから。友希那が言ってあげたら?」

「分かったから、リサ。奏人、あなたは………私にとって特別な友人よ」

「…………」

「顔を伏せないでください音無さん」

「紗夜が厳しい」

 

 鋭い声に言われるがまま顔を上げると、友希那の周りで皆が笑いながら会話に花を咲かせていた。

 わいわいとはしゃぎながら、彼女たちはめいっぱいの親しみを込めて思い思いの言葉を紡ぐ。

 

「じゃあ友希那、アタシは?」

「もちろん、リサも紗夜も、あこも燐子も大切な友人よ」

「友希那ーー!」

「友希那さーん!」

「ちょっと……ふふ、どうしたのよ急に」

 

 感極まったように、ばっと友希那の周りにメンバーが集まった。皆が皆笑顔でスキンシップをとり合ってる光景は微笑ましい。ここまで彼女が慕われているのは今までの積み重ねあってのものだ。

 多くの経験を超えて、深く結びついた絆。青薔薇が咲くまでの、長い旅路。その道程を自然と思い出して、目頭が熱くなる。

 

「……変わったな、友希那」

「何を達観しているんですか。顔が赤いので格好つきませんよ」

「さっきから紗夜が俺に厳しくない?」

「湊さんを変えたのは音無さんでしょう」

「いや、俺が作ったのはきっかけだけだ。遅かれ早かれ皆はこうなってた。だろ?」

「否定はしません」

「ほら、紗夜も混ざりに行けばいいのに」

「ええ、そうですね……音無さん」

「うん?」

「……私は、『大切』と『特別』は意味が違うと思います」

「…………」

「……それだけです」

 

 微笑ましそうにそう言い残し、紗夜は友希那たちに近づいていく。

 そんなこんなで時間は過ぎていった。

 まともな練習もほとんどせず、ただ和気藹々と喋っていただけで……その中で、友希那が楽しそうにしていたのが印象的だった。

 かつての彼女なら絶対にあり得ないことだ。彼女がくだらないと言って切り捨てただろうものだ。

 その変化を見られたことだけが、どうしようもなく嬉しかった。

 

 

 

 二人、ライブハウスを出て帰路に着く。

 空はすっかり茜色に染まっていた。

 夜は冷えるからと軽くジャケットを羽織った友希那はぐっと伸びをしながら、俺に微笑みかけて。

 

「練習、あまり進まなかったわね」

「ああ、そうだな。結局最後まで俺が恥ずかしいだけだったし」

「被害を被ったのはむしろ私じゃないかしら…」

「なんで友希那が恥ずかしがるんだ?」

「私はなんで奏人が恥ずかしいなんて言えるか分からないわよ」

「いや、なんで」

 

 なんでもよ、と言葉を告げた友希那は、余った俺のジャケットの袖で襟元を掴み、目を細めていた。

 その、子供のような仕草に目を奪われる。

 普段は凛としていて。

 バンド一つを変えられるほどに力強い声を持っていて。

 歌姫と呼ばれるほどにクールな彼女が年不相応に微笑んでいるのを、俺以外の誰かは見たことがあるのだろうか。

 

「……夕焼けね」

 

 ぼそりと呟かれた言葉に、慌てて思考回路を再起させる。

 

「……ほんとだ。今日全然作れなかったから完成は夜になるかもな」

「あまり頑張り過ぎなくてもいいのよ?奏人は作るペースが早いんだから」

「いいんだよ、曲作るの好きだから」

「私の為だから?」

「……………」

「顔赤いわよ」

「………気のせいだろ。夕日が差してるからじゃないか?」

 

 分かりやすく言い訳を並べる俺に、しかし友希那はくすりと笑って。

 

「見て、奏人」

 

 つい、と指さした先には、一つだけ輝く一番星がある。

 

「まだ夕方なのに、ちゃんと見えるのね」

「そうだな」

「私たちも、あんな風に……」

「なれるさ。Roseliaなら」

「そうね……」

 

 ぽつり、と言葉を残して、友希那が立ち止まった。

 

「あの星のように、何よりも輝けたらいいのに」

「……輝いてるよ。少なくとも、俺にとっては一番な」

 

 本当に眩しいほどに輝いていると思う。

 誰よりも、何よりも。

 どこに居たって輝ける、銀色の華。

 俺なんかには勿体ないくらいに綺麗な一番星。

 それでも、いや、だからこそ、隣にいたいと思う。

 支えてあげたいと思う。

 ずっとそばにいたいと思う。

 

「友希那」

 

 すこしだけ大きな声で呼んだ俺に、彼女がゆるりとこちらを向く。

 

「あの日、俺の向かいで演奏してるのが友希那じゃなかったら、俺は声なんてかけてないからな」

 

 だから、と続ける。

 

「ありがとな。俺は多分、今一番幸せだよ」

 

 そんな、馬鹿げた台詞に。

 

「……そう」

 

 友希那は、その銀色の髪を茜色に染めながら前に向き直った。

 

「なら、もっと幸せになったらどうなるのかしら」

「どうだろうな、甘い言葉しか口から出なくなるんじゃないか?」

「作詞もしてるんだから言葉のレパートリーは多いんじゃない?」

「それは友希那にも言えると思うんだけど」

「そもそも、もっと幸せになるにはどうすればいいのかしら」

「確かになんだろうな……相手を好きになる、とか?」

「……いい考えね」

 

 顔色は見えない。冗談のように言い合って、また二人で歩き出す。

 心地よい空気。 沈黙が苦でない空間というのは、どうしてこうも安心するのだろう。

 

「……奏人」

「ん」

「……もしも。もしもの話だけれど。好きになったとしたら」

「……」

「……その時は。告白は、奏人からお願いするわ」

「……任せてくれ。そのくらいの甲斐性はある」

「ほんとうかしら」

 

 友希那の隣で、不器用に歩調を合わせる。

 隣り合っても、顔色は見えなかった。夕日の茜色が思っていたよりも強かったらしい。

 そうしてゆっくりと──本当にゆっくりと歩いて、俺と友希那の一日は終わる。

 

「奏人、歩くのが遅くないかしら」

「いや友希那に合わせてるから」

「……あなたが遅いのよ」

「……確かに、ちょっと疲れてるかもしれない」

「そう。なら仕方ないわね。あなたに合わせる」

「助かる」

「気にする必要はないわ」

 

 なんてことのない、特別でもなんでもない一日を切り取った色褪せない風景画に耽る。

 きっと、お互いに思うところはあって。俺にとっても彼女にとっても、それに慣れているとは言えない。だからこうして、不器用に歩幅を合わせて歩いていく。いつか、告げることができるのだろうか。

 

 伸びた影が前より重なっていることから意識を逸らしながら、すぐには難しいだろうな、と思った。

 

 なんせ、俺と銀髪の歌姫は恋愛初心者だから。

 





 皆「早よ付き合え」って思ってるけど、当の本人たちが鈍感なわけでもないのに距離の詰め方が不器用すぎてため息と砂糖を吐いてる。そんなラブコメも良いと思います。
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 好評だったら続き書くかもしれません。書くならデート回。
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