銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

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 お久しぶりです。夕焼けです。
 一週間放っておいたのに評価もお気に入りも増えていてありがたい限りです。なんで?


 お試しで同棲編を書きました。お楽しみ頂ければ。


同棲してる銀髪の歌姫が可愛い
1話


 じゅう、と油が跳ねる音。

 心地よい生活音を聞きながら、俺は一人朝食の準備に励んでいた。

 今日は週にたった一度しかない日曜日。

 ここ最近は忙しかったので軽いものばかりで済ませていたから休日くらいはしっかりしたものを、とわざわざ早起きして作っているわけだ。

 ……まあ、朝食と言っても既に午前十時を回っているのだから、もはや昼食ではあるのだが。

 

「ん、よし」

 

 フレンチトーストの程よい焦げ加減に自然と顔が綻ぶ。

 メニューはフレンチトーストにフルーツ、サラダにスープ。

 食パン一枚、酷い時はヨーグルト一つで済ませる日頃のそれと比べれば随分と充実したものだ。

 

「……そろそろだな」

 

 軽く皿に盛り付けをしてから、俺はキッチンを出た。

 およそ6年間住んでいる1LDKのマンションの一室を慣れた足つきで進みながら俺は寝室の扉を開く。

 休日だからとひたむきに眠りこけている同居人を起こすためにだ。

 

「…………」

 

 部屋に足を踏み入れた瞬間、まるで異世界にでも飛ばされたかのような。そんな錯覚に陥った。

 それほどまでに、彼女が眠る姿は神秘的だったから。

 

「ん、すぅ……」

 

 初夏だからということでタオルケットをかけながら、彼女は吐息を漏らしていた。

 陶器のような白い肌。窓辺から差す日光に明るく煌めく銀髪。人形のような端正な顔。

 絵に描いたような、御伽噺の眠り姫がそこにいた。

 

「……いや、ダメだろこれ」

 

 ……うん、間違いなくダメな気がする。少なくとも一年間寝顔見てきたのにこの感想が最初に出るのはまずい。恋は盲目とはよく言ったものだ。

 ほんとにもう。俺彼女のこと好きすぎだろ。

 

「……ほら、起きろ友希那」

 

 若干自分の重さに頭を抱えながらも、肩を優しく揺する。

 

「んぅ……」

 

 一瞬眉根を寄せて身を竦める友希那。

 なにこれ猫みたい。可愛い。

 

「もう十時半だ。朝ご飯もできてるから」

「んん……?」

「お、よく起き上がったな。そのまま目を開けて……」

「奏人……?」

「ああ、おはよう友希那。もう朝って言うか昼になるから起き──ちょ」

「んー……」

 

 緊急事態発生。眠り姫が寝ぼけたままこちらの首根っこに抱きつき、そのまま体重を預けてきた。

 薄手のパジャマから高校時代よりプロポーションの良くなった体の柔らかさが押しつけられる。

 未だ慣れない感触に息が止まりそうな俺を他所に、当の友希那は二度寝を決め込もうとしていて。

 

「いや待て目閉じるな友希那。起きて、もう十時半だから」

「……まだ、十時半じゃない」

「休みだからって寝てばっかじゃダメだろ」

「……休日は…休むための日でしょう……」

「いや、それはそうなんだけど……」

「……なによ」

「せっかくの休日だし……ほら」

「……むぅ」

 

 言い淀む俺に、友希那は眉根を寄せ。

 

「……仕方ない、わね」

 

 半目で、起床を約束した。

 

「よし。じゃあ早速朝ご飯を……」

「ん」

「え、いや何ですか友希那さん。なんで腕広げてるんですか」

「………」

「いやいやいくら人目がないからって朝っぱらからハグなんてそんな友希那さん」

「………」

「……友希那さん?」

「………」

「……本気か?」

「……ん」

「……甘えん坊だな」

 

 まずい……これはいよいよまずい……。

 友希那も友希那で出来上がっちゃってるのも、そんな彼女を見てときめいている俺も。なんだその顔。幸せそうだな。絶対幸せにするわ……。

 

「……ほら、早く」

「分かったよ、歌姫様」

 

 苦笑しながらその華奢な体との距離を無くした俺の肩に、友希那は額を擦り付けて、

 

「おはよう、奏人」

「……ああ。おはよう、友希那」

 

 心底幸せそうな声で、そう言葉を紡いだのだった。

 

 

 

『お、お邪魔します……』

 

 ありふれたマンションの一室にて。

 おずおずと入室した友希那に、先に玄関へ上がっていた俺が苦笑を浮かべたのは、つい一ヶ月ほど前のことだった。

 

『そんな緊張しなくてもいいだろ。これまで何回も入ってるんだから』

『……人のことを泥棒のように言うのはやめてくれないかしら』

『照れ隠しにしてはこじつけすぎる……』

『………』

『なんでそんなほっぺ膨らませてるの友希那』

『……照れ隠しって分かってるならわざわざ言わないでちょうだい』

『……ま、まあほら、そのへんは少しずつ慣れてけばいこう。これからは友希那の家でもあるわけだし』

『はあ……そうね。お邪魔します』

 

 熱い顔を隠すように、律儀に挨拶をしてからそそくさと玄関に入ろうとした友希那に、俺は一つ提案をした。

 

『……うん。友希那』

『何かしら』

『こういう時は形から入っていこう』

『どういうこと?』

『「お邪魔します」じゃ他人行儀な感じがするから。今日から「ただいま」の練習もした方がいいと思う。たかが言葉だけど、それでだいぶ馴染みやすさも変わるだろ』

『まあ……一理あるわね』

『だろ?じゃあ早速』

 

 と、そんな調子で彼女は頷いていたのだけれど。

 

『え、ええ。じゃあ……ただいま、奏人』

『ああ。……お帰り、友希那』

『っ………』

『?どうした、そんな顔赤くして』

『い、いえ、別に……』

『いや別にじゃないだろ。どうした。風邪薬なら中にあるぞ?』

『そうではなくて……もう、私ばかり不公平ね』

『は?』

『次は私が奏人を出迎えるわ』

『えーせっかく靴まで脱いだのにまた外出るの俺』

『いいじゃない、ほら早く』

『……まぁいいけど』

『……入ってきていいわよ』

『あ、ああ……た、ただいま』

『おかえりなさい、奏人』

『………』

『……私の気持ちを分かってくれたかしら』

『いや、確かにいいな、これ……』

『ええ、そうでしょう。誰かに迎え入れられるのは奏人慣れてないだろうし』

『それもあるんだけど』

『?』

『その、相手にもよるな、と』

 

 ぽかんとした表情を浮かべた友希那は、俺の真意を理解したのかぽんっと顔を赤く染める羽目になり。

 

『そ、そろそろ上がるか。ほら友希那もその手離して』

『……延長してちょうだい』

『……了解』

 

 そんな会話に、顔に朱色を浮かべたまま笑い合って。

 そうして俺たちは、大学入学と同時に同棲を始めたのだった。

 

 

 

 

「友希那、今日は買い物に出かけるから」

「え?」

 

 朝食後、すっかり目を覚ました友希那は食後のはちみつティーを飲みながら怪訝な顔を見せた。

 改めて思うけど寝ぼけてる状態でああいうことするの反則だろ。覚醒して自分の行動認識した時の慌てようからして天然なのがこう……。そんなところも愛おしく感じるの我ながらもうダメになってきてるな……。

 

「ほら、最近食材も減ってきたからな。いろいろ買い出しに行かないと」

「そういうこと……」

 

 こくんと頷く友希那。

 可愛い。違うそうじゃない。なんでこんな日常の一幕で俺はいちいちときめかなきゃいけないんだ。……好きだからだろうな。

 はぁ、と自分にため息を吐く俺に、友希那はことんと首を傾げる。

 

「どうかした?」

「いや、なんかもう俺はダメだなって……」

「そんなことないわ。もっと自信持ちなさい」

「あ、ああ……ありがとな……」

 

 励ましてくる友希那には悪いが、やっぱダメだな、人として。

 微笑んでくる友希那に胸を撃ち抜かれてるこの図とか。

 ていうかなんでこの子は首傾げてるの。そういう小首傾げる動作とかが原因だと思うんですけど友希那さん。可愛いけど。自覚ないの可愛いけど。

 

「じゃあ、その……デート?」

「……まあ行くのは都心のスーパーだけど」

「そう……久しぶりね」

「あー確かに。ここ最近忙しかったしな」

 

 しみじみと呟く彼女に頷きを返す。

 メジャーデビューをしてからのRoseliaは、俺たちが予想していたよりも数倍は人気が出た。

 包み隠さず言えば、出過ぎた。

 友希那たちはもちろん、あくまで補助に回っている俺にさえ仕事が回ってくる始末。未だ高校生のあこも連れた事務所での打ち合わせは当たり前。バンド全体での練習も、回数は増えるし時間は多いし濃度が濃くなるしで忙殺されまくり。つい先週大きなライブイベントを終えて、ようやく落ち着いたような形だった。

 ……そう考えると申し訳なくなってきたな。

 

「……なんか、悪いな。折角久々のデートなのに買い出しとかで」

「いいのよ、普段は忙しいんだから」

「って言ってもなあ……」

 

 休日なのだからもっと大学生らしいデートは無かったものか、と一人後悔に苛まれる俺に、友希那はそっとテーブル越しに指を絡めてきて。

 

「私は構わないわ。奏人となら、どこでだって楽しいもの」

「…………」

 

 ……危ない。愛おしさが増して危うく朝食味のキスが生じるところだった。

 まったく、俺の彼女はほんとうに心臓に悪い。

 

「…………」

「いや、照れる羽目になるのにこんなことしたの友希那」

「……悪いかしら」

「……もう、存分にやってもらって」

「…………」

「……あー、なんだ、急にごめんな」

「……別に、構わないわ」

 

 嬉しいから、と言いながら照れたようにそっぽを向く彼女を見て、まだ慣れてないんだな、と苦笑して。

 こちらを向き幸せいっぱいの顔をしてはにかむ彼女に、俺もまた微笑み返して日常を噛み締めたのだった。

 

 

 

 

 

「やっぱり二人で出掛けるのはいいものね」

 

 ふふ、と上機嫌そうに微笑みながら俺の隣を歩く友希那。

 すごい幸せそうな顔しながら歩いてらっしゃる……。

 この子自分がどれだけ可愛いか分かってねえよな絶対。

 豊かな銀髪も、その人形みたいな容姿も、高校時代からより女性らしくなったプロポーションも、いよいよもって魅力的な女性の極地に達し始めているって言うのに。いやまあ、他にも高校時代と変わったところはある。深くは言わないけど。

 そんなわけで、そろそろ彼女の俺への熱が冷めてしまうのではと危惧しているわけだが。

 

「こうして歩いてるだけでも幸せね」

「…………」

 

 ……まぁ、うん。まったく問題ないなこれ。ていうか大丈夫かこれで。将来が不安になる。いや現時点でも既に不安だけど。

 でもあれか、俺がこれからも一緒に居ればいいのか。

 

「……シャンプーなんか見て、どうしたの?」

「……いや、シャンプー見てたっていうか隣見てたら心臓に悪いというか」

「?」

 

 いやなんで分かんないみたいな顔してるんですかね。その顔が致命傷だって分かんないかなあ……。

 

「……今のが気に入ってるのだけど、変えた方が良いかしら」

「え、そこ俺の意見参考にされるの」

「だって奏人、よく嗅ぐじゃない」

「……まあ、そうだけど」

「日本人は黒髪が好き、みたい言うし、髪には気を使っているつもりだから」

「へえ、そりゃ知らなかったな。でも俺は友希那のが一番好きだぞ」

「そういうところ、あなたって……」

「ん?」

「……負けた気分だわ」

「ええ……」

 

 半目でこちらを見てぷいっと頬を膨らませる友希那。怒っているのも可愛いとか死角が無いんだけどどうすりゃいいんだ。

 

「……その、嗅ぐと安心するの?」

「いや街中でこの話続けるの正気か?さっき親子連れの人めっちゃ見てたぞ?」

「で、どうなのかしら」

「……まあ、一応」

「そう……」

「………」

「………」

「………そういえば、友希那も手握るの好きだろ。俺の匂いじゃ悪いからハンドクリーム香り付きのやつにするか?」

「……それでは意味がないわ」

「え」

「…………」

「………なんだ、俺の匂いは安心するのか?」

「まあ、一応」

 

 俺を真似るように言ってドヤ顔をする友希那。可愛いなちくしょう……。

 

「手握るの、そんなに良いもんかね」

「……そうね、好きだと思うわ。だって」

 

 絡めた手に力が入る。自然と、俺も合わせるように力を込めた。

 

「ほら、ちゃんと握り返してくれるじゃない?」

「……そっか」

「ええ」

 

 言って、満面の笑みをこちらに向ける友希那。

 つらい。俺の恋人が良い子すぎて生きるのがつらい。

 珍しい彼女からの攻めに頬の熱を上昇させる俺の眼前、何故かその当の友希那もまた顔を赤く染めて俯いて。

 

「…………」

「……友希那?」

「…………」

「……どうした?」

「……忘れてちょうだい」

「……いや、無理だろ。今更恥ずかしがったってお互い様だぞ」

「………」

 

 真っ赤になった顔を見られたくないのか俺の肩に額をぶつけてくる彼女に苦笑して、俺は頬の熱さを自覚しながら食料品売り場へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 食事の後は二人順番に入浴して、しばらく曲作りに励んでから、就寝の時間となった。

 

「夕食、とても美味しかったわ」

「そりゃ何より。休日だし、少しは腕によりをかけないとだからな」

「……私も今度作ってみようかしら」

「ええ、大丈夫かよ」

「多分平気よ……多分」

「今なんか間がなかったか?」

「…………」

「ねえちょっと待てなんでそこで目逸らすのやめて」

「……でも、いつも奏人が作ってくれてるじゃない?だから私も何かしようかしらって思ったのだけど」

「別に気にしなくて良いんだぞ?それに友希那も最近は手伝ってくれてるし」

「……でも」

「だから、良いんだよ。好きでやってることだから」

「私の為だから?」

「ああ」

「…………」

 

 からかい混じりの友希那の問いにノータイムで答えると、彼女は暗がりでも分かるほどに顔を赤らめて、俺の腕を枕にして額をこちらのそれと合わせてきた。

 

「……ずるいわ」

「……何が」

「昔はそんな素直じゃなかったじゃない」

「友希那こそこんな甘えん坊じゃなかったぞ?」

「……困るわ」

「何にだよ」

「あまり、かっこよくなりすぎないでちょうだい」

「俺より友希那の方が問題だと思うんだよなあ……」

「……なら、お互い様?」

「……まあ、そうだな」

 

 同じ布団の中で、額を合わせたまま微笑む。

 

「友希那、腕枕って寝づらくないか?」

「そんなことないわ。とても安心するから」

「そんなものか……」

「奏人にもする?」

「頭乗せたら腕折れそうだから怖いよ俺は」

「そんなにか弱くないわ」

 

 照れたように笑いながらポコスカと俺の胸にパンチをしてくる友希那。

 なんでこんなに可愛いんですかねこの歌姫様。ちょっとスキンシップが激しい気もするが、同じ布団に入ってるあたり今更ということで納得する。

 

「家具買う時に真っ先にダブルベッド買いに行ったのがなあ……」

「結局奏人もノリノリだったじゃない」

「……そりゃあ、まあ。あんな風に言われたらな。俺も嬉しかったし」

「…………」

「…………」

「……ねえ」

「うん?」

「……奏人は今、幸せかしら。こうして私と一緒に生活してて」

「……もちろん。ずっと言ってるだろ」

 

 不安げな表情を浮かべる彼女の体を抱きしめる。

 

「俺は友希那に会えて、こうして二人で生活して。一番幸せだって」

「……そう、ね」

 

 そう言って、友希那は俺の背中に回した腕に力を入れた。

 うん、こうして甘えてくれた方が俺としても良い。

 言葉にしないと分からないものだ。……色々と。

 

「……友希那こそ、今日は幸せだったか?」

 

 つられて問いかけた俺に、彼女は腕の中で確かに頷いて。

 

「……ええ、勿論。あなたといると、毎日が楽しい」

「……そうか」

 

 それは何より、と友希那の髪を撫でる。

 

「……好きだ、友希那」

「……私も」

 

 俺の何回目かの告白に対してそう言葉を紡いでから、薄桃色の唇が寄せられる。

 そうしてお互いに赤くなった頬に苦笑して、目を閉じた。

 

 これは、そんな物語。

 同棲している歌姫と穏やかに過ごす日々の記録。

 





 ご拝読ありがとうございます。
 例の如く感想をいただければ続き書こうと思います。

 ゆっくり更新ですが待っててくださると嬉しいです。

 それでは、また次話で。

ぶっちゃけ、どれが好み?

  • 付き合う前のやつ
  • 付き合った後の甘々してるやつ
  • 同棲モノ
  • 糖分控えめのシリアスとか切なげなやつ
  • どれも等しく好き
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