銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

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 同棲編の続き。
 まだやってなかった看病回です。



2話

「……風邪だな」

「………」

 

 体温計を眺めながら俺が判決を言い渡すと、友希那はベッドの中から潤んだ瞳で恨めしそうにこちらを睨んできた。正確には俺の手に持ってる体温計を睨んでいるのかもしれないが。というかそうであって欲しい。

 でかでかと表示された数字をそのまま読めば、38度1分。見紛うことなく高熱だ。

 

「……一応、風邪ひかないように気遣ってたつもりなんだけどな……」

 

 忙しくて栄養バランスが崩れがちだったから、出来うる限りバランスの良い献立を組んだり。

 手足や首を冷やさないようにと手袋や靴下、マフラーをプレゼントしてみたり。

 自分なりに手を尽くしたつもりだったのだが、それだけでは足りなかったらしい。

 

「……奏人が気にする必要は無いわ」

 

 こほこほと咳をしながら申し訳なさそうに目を伏せる友希那。

 

「……たまにあるのよ。こういう事」

「たまにって……高校生の頃は滅多に風邪引かなかったよな。むしろ初めてまであるんじゃないか?」

「…………」

「え、友希那?」

「…………」

「……いや待て、まさかとは思うけどRoselia作る前……て言うか俺といた頃たまに喉の調子悪い時あったな」

「…………」

 

 言うと、友希那は痛いところを突かれたとでも言うように俺から顔を逸らした。

 その表情が、彼女の心の内を何よりも雄弁に語っている。

 ほう、なるほどなるほど。

 

「…………」

 

 変わらず居心地悪そうに逸らす小さな額に、軽くデコピンを打ち込む。

 

「いたっ……」

「馬鹿か。いやまあ友希那は音楽以外はポンコツだけど」

「……随分と失礼な言い分ね」

「事実だろ。……なんで風邪引いてんのに歌なんて歌ってたんだ」

「…………」

 

 うーん、だんまりを決め込むか。

 仕方がないので汗の滲む頬に貼り付いた髪をタオルで拭いてやる。

 

「……楽しかったのよ。あなたと一緒にいるの」

「…………」

 

 タオル越しに撫でると、友希那は心地良さそうに目を細めながらぼそりと告げた。

 え、何それ。俺そんな乙女な友希那さん初めて聞いたんですけど。

 あの頃の友希那は音楽至上主義で、ライブハウスでライブしてるバンドに飛び入り参加してはその実力で心を折った挙句、年上だろうがなんだろうがそのバンドメンバーを完膚なきまでに批判して号泣させたこともあった。……あの後処理大変だったなあ。友希那は友希那で悪いことをしたと思ってなかったから尚更。

 まあそんなこともあったから、その時は俺が彼女と対等に話せる相手であったのは分かっていた。ただ、その空間を彼女もまた心地良いと思ってくれていたのは予想外で。

 

「……そうか」

「…………」

「…………いって」

「?どうして自分で頭を叩いてるのかしら」

「いや……何でもない。ちょっと早い蚊だ」

「?」

 

 おかしい。

 今の友希那は体調が悪くて、俺が看病しているだけの筈だ。過去の惚気を思い出す流れではない。

 どうして俺たちはこの状況の中無惨にラブコメっているのだろう。

 

「だいたい、それで喉壊したり死んだりしたら元も子もないだろ。やめろよ、絶対。ぽっくり逝ったら皆号泣するから」

「勝手に死んだことにしないでちょうだい」

「死にそうだから言ってんの」

「………あなたも?」

「そりゃ泣く。なんなら後を追いかねない」

「……そう」

 

 友希那はこくりと頷いて。

 

「それなら、死ぬわけにはいかないわね……奏人の泣き顔は、みんなに見られたくないから」

「そんな酷い顔だったのか……」

 

 げんなりする俺に彼女はくすりと微笑みを返し、それからこほこほと咳をした。

 

「だ、大丈夫か。ほら、背中さすってやるから」

「大丈夫よ、こほっ……過保護ね」

「リサたちに連絡は入れとくから、とりあえず友希那は寝ててくれ」

「……奏人は、大学に行かなくていいのかしら」

「まあ、元々そんなに講義入ってるわけでもないし、友希那は一人だと何も出来ないし」

「………本音は?」

「ごめん、見栄張った。友希那が心配なので看病します。させてください」

 

 半目でこちらを睨んでくる友希那。

 おそらく俺が大学を休むことに納得していないのだろう。

 無駄に真面目というかストイックというか……。

 ここで友希那が悪いわけじゃない、と言っても彼女は受け入れないに違いない。

 

「まあ、とにかくアレだ。さっさと風邪治そう。ボーカリストなんだから喉は大事にしなきゃダメだろ」

「そもそも風邪をひかない方がいいのだけど」

「そりゃどうしようもないな。馬鹿じゃなきゃみんな風邪はひく」

「迷信ね……」

「だから、今日は全力で風邪治してくれ。寝て起きてご飯食べて寝て」

「……まるで引きこもりじゃない」

「いやそうだけどそんな自堕落にはならなくていいから……まあそういうことだから、友希那。俺も療養を全力で手伝う。どんなワガママも聞くから」

「ワガママ?」

「風邪の子特権って言うんだけどさ。風邪ひいてる時はどんだけ甘えてもいいらしい」

 

 これはリサ情報だが、どうやらそういう不文律があるらしい。

 かく言う俺も昔は親に果物をねだったりした。

 友希那ももう大人だが、風邪の日くらい甘えん坊になってもいいだろう。

 ……いや、最近は常に甘えん坊みたいな感じだけど。全然風邪とか関係なく甘えてくるけど。これがまた可愛いから困る。

 

「……看病してもらえるだけでも十分なのだけれど」

「そこは気にする必要ないんじゃないか。友希那だって俺が風邪ひいたら看病してくれるだろ?」

「それは、そうだけど……」

 

 むぅ、と難しそうな顔をする友希那さん。

 ……いやそうか、看病してくれんのか。

 俺が看病するために練習休むのは反対なのに自分の立場だと良いのか……ノータイム返答すぎてびっくりだよ、まったく。

 

「…………」 

「いや、いつまで考えてるの。適当にして欲しいこと言えばいいだろ」

「………あなた、私のワガママなら大抵聞いてくれるから」

「…………」

 

 そうだった。……いや自分でも甘い気はするけど断るのは無理。

 目の前の歌姫に甘えられてワガママ言われたら聞く。誰だってそうする。そもそも友希那はあんまり甘えてくれるわけじゃないのが拍車を掛けてる気もするけど。

 俺が友希那の甘やかし具合に頭を抱えている間、彼女はやはり難しい顔で何かを考えていたが、やがて。

 

「じゃあ、その……」

「お、なんかあるか」

「……ゼリーが、食べたいのだけれど」

「ゼリー……」

「……ダメ?」

「…………」

「か、奏人?」

「……悪い。ゼリーな。その辺で買ってくる」

 

 言って、俺はそそくさと寝室を出て玄関へと向かった。

 

「何なのあいつ……殺す気かよ……」

 

 いや何アレ。掛け布団から目だけを出した状態から至近距離で放たれた一撃に心臓が貫かれたんですけど。ズルじゃんあんなの。

 

「はあ……心臓に悪い」

 

 一体何年目だと思ってるんだと自問自答するも、こればっかりは惚れた弱みなのでしょうがないというか、そもそも甘えてくる友希那ってだけで理性が崩れかけるというか。

 致命傷を受けながらも、何とか持ち堪えた俺はそのまま近所のスーパーへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

「入るぞ」

 

 部屋の前で声をかけてから入室してから、ベッドの上で起き上がりぼんやりとスマートフォンを見ている友希那と目が合った。

 

「おかえりなさい、奏人」

「おお、ただいま……何見てるんだ?」

 

 横から覗き込むと、そこには先日彼女たちが公開した曲のMVが流れている。

 

「せめて音楽の勉強はしようと思って」

「……友希那、真面目だよな。俺としては寝ててほしいんだけど」

「奏人と作って、Roseliaが歌った歌よ。もっと高いところを目指せる筈だわ……それで、ゼリーはあった?」

「ああ、買ってきたけど今食うか?」

「いただこうかしら」

「はいよ。桃とみかんとぶどうあるけど」

「桃をお願い」

「よしきた」

「………………」

「友希那?」

「………………」

「なんだ、実物見たら食欲失せたか?食べたくないなら片づけとくけど……」

「いえ、そうではなくて」

「じゃあ何」

「………………」

 

 友希那は無言のまま、スプーンと共に差し出したゼリーと俺を交互に見つめるだけ。

 ……いや、まさか。流石にうちの歌姫はそこまでバカップル指数の高いことは出来ない。まあでも、一応……。

 

「…………あむ」

「おお……」

 

 震えながらゼリーを乗せたスプーンを差し出すと、友希那はぱくりとそれを口にした。

 餌付けに成功した時のような感慨がある。動物に餌付けしたことなんてないけど。大人しい友希那が小動物みたいだからかもしれない。

 

「早く、もう一口」

「……はいはい、分かったから歌姫様」

 

 明らかに風邪だけのせいではない赤く染まった頬に、半ば愛おしさと半ば呆れを感じてゼリーを掬っては友希那の口に運ぶ。

 照れるんならしなきゃいいのにと思わないでもないが、俺としては役得なので何も言うまい。

 

「……うまいか?」

「ありふれた味よ」

「そりゃそうだろうな……」

「……でも、冷たくて美味しい」

「…………」

 

 なんだろう。

 今日の友希那はいつになく色っぽく見える。役得って言うか目に毒になってきた。

 

「……はむ……ん………」

 

 ついに脳内でお経を唱え始めた俺を他所に、友希那はゼリーを食べ進め、あっという間にカップを空にした。

 

「お、お粗末様でした」

「……ごちそうさま」

 

 言って、友希那は上機嫌そうにこちらを見てきた。

 

「な、なんだよ」

「いえ、たまには風邪をひくのもいいものだと思って」

「……馬鹿言うなよ」

「あなたが風邪をひいた時が楽しみね」

「…………」

 

 明日から本気で健康に気をつけよう。

 友希那に甲斐甲斐しく看病なんてされた日には、熱にかまけて何をしでかすかまるで分からん。

 

「……ご飯作ってくるから。ちゃんと寝てろよ?」

 

 風邪ダメ絶対と、そう心に誓いながら俺は寝室を出た。

 

 

 

 

 

 

「……ごちそうさま」

「お粗末様でした。ちゃんと食べれて良かった」

 

 昼飯にと俺が作ったうどんを朝のゼリーをリピートする形で食べた友希那は、枕にぽすんと頭を預けた。

 正直食欲がなかったらどうしようと心配だったのだが、それが杞憂に終わって一安心だ。明日には治ってるだろう。

 食欲が満たされたことで今度は睡眠欲が顔を出したのか、

 

「ん、ふぁ……」

「寝るか、友希那?」

「ごめんなさい、少しだけ眠るわ」

「少しと言わずたくさん寝てていいから。俺は……」

 

 食器を片しとくから、と言って立ち上がろうとしたその時、シャツの端に抵抗を覚えた。

 視線を移せば、友希那の細い指がシャツを遠慮がちにつまんでいて。

 

「……友希那?」

「…………」

 

 返されたのは無言。

 とはいえ、俺と友希那はもう数年の付き合いだ。さすがに慣れた俺は何も言わず食器の乗った盆を床に降ろしてからベッドの側に腰を下ろした。

 それから伸ばされてきた彼女の手を握り、その顔を見つめる。

 見れば見るほど綺麗な顔してんな。可愛い。

 

「……風邪、移らないと良いけれど」

「移るんなら昨日の時点で移ってるだろ。一緒に寝てるんだから」

「それは、そうだけど。その、今日も隣で寝てくれるのかしら」

「邪魔じゃなければな」

「……そんなことないわ」

「ん、じゃあ良い。隣で寝させてもらうから」

「…………」

「どうした?」

「……幸せだって、そう思ったの」

「俺といることが?」

「ええ、勿論」

「……変な趣味してるな」

「奏人こそ」

 

 くすりと微笑んで、それから友希那は絡めていた指に少し力を込めた。

 

「……私こそ、あなたの邪魔になってないかしら」

「そんな訳あるか」

「本当に?」

「もちろん。家事自体も楽じゃないんだけどな」

 

 それに加えて二人で音楽活動で忙しかったり、朝が弱くて風邪もひく彼女の傍にいることが。

 

「全然辛くないんだよ。友希那のためだと思うと」

「……そう」

 

 凛とした声がほどける。

 瞼を重そうに持ち上げながら、うとうとと友希那はおぼろげな表情になって言葉を紡ぐ。

 

「たくさん、甘えてるから、これ以上は、ダメになる……から……」

 

 最後まで何とか言い切って、友希那は寝息を漏らし始めた。

 

「……ほんと、相変わらず」

 

 相も変わらず、ストイックな歌姫だ。

 普段から甘えてはいるものの、そんなのダメでもなんでもない、ごくごく普通の範疇だろうに。

 

「すぅ…………」

 

 朝のハグも、一つの布団で一緒に寝ることも、ゼリー一つ食べさせてもらうのも甘えだと思う、そのいじらしさがどこまでも愛おしい。

 

「……いつだってやってやるよ、そのくらい」

 

 そう言って小さな手を握ってやると、淡く握り返してきた。

 まあ、うん。もっと甘えられても俺なら受け入れちゃうんだろうけど。困るんだよな、これで当人としては無意識なのがまた。

 

「……惚れた弱みってやつか」

 

 しかし困った。夕飯の買い出しに行こうと思っていたのだが、このままでは身動きが取れない。

 ……仕方ない。

 ここは頼れるバンドメンバーに助けを求めるとしよう。

 ポチポチとスマートフォンを触りながら、俺は安らかに寝息を立てる眠り姫兼歌姫を眺めていた。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで。

 一夜明けると、友希那の風邪は無事完治した。

 

「迷惑をかけて悪かったわ」

「いや全然……」

 

 それはいい。それはいいのだが。

 

「どう?調子は」

「最悪だ……」

 

 バトンを渡すように、今度は俺が風邪をひいた。

 いやまあ、予想していなかったと言えば嘘になる。ほとんど熱も冷めていたし咳もなかったからと油断して友希那の隣で寝たのが確実に悪かった。

 

「本当に隣で寝なくても……」

「おっしゃる通りで……」

 

 発端は友希那のワガママではあるが、それを追求するのはさすがに人としてダメだろう。

 そもそもそのお願いを聞いたのは俺だし、後悔はない。幸せそうに笑ってたもんな、友希那。好き。

 

「……風邪だからストッパーが外れてるのかしら」

「え、何。声に出てた……?」

「…………」

「……まじか。………死にたい」

 

 羞恥に天を仰いだ俺に、友希那は構わずれんげを差し出してくる。

 

「ほら、食べないと治らないわ」

「……いや、自分で食えるから」

「……あーん」

「いや照れるんならやらなくても……」

「ほら」

「……んむ」

 

 予想通り、友希那は熱心に看病をしてくれている。

 お粥を作ってくれるとはつゆにも思わなかった。

 いや、まあ。慣れてないのは分かるけど、それでも嬉しいもんは嬉しい。

 

「私も食べようかしら」

「ああ、昼飯用に作ったんだっけか」

「そうよ。一人も二人も変わらないから。……いただきます」

「…………」

「……奏人。私これ砂糖と塩間違えてるじゃない。なぜ言わなかったの」

「いや、友希那の初手料理だから。何だって美味いだろ」

「……作り直してくるから、食べるのやめてちょうだい」

「て言っても元からそんな量入れてないから。ほんのり甘いくらいだし全然平気だ」

「変なところで頑固ね、あなたは」

「まあ、慣れてないことさせてる俺が悪いのもあるからな」

「……気にしなくて良いのよ。お互い様だから」

「友希那……」

「……それに、私の過失が大きいし」

「うん?」

「何でもないわ。それより奏人、口を開けて」

「……あーん」

「水も用意したから、飲む?」

「おお、さんきゅ」

「……………」

「……あの、友希那?」

「……な、何かしら」

「そんな見つめられると飲み辛いんだけど」

「……何のことかしら」

「……まあいいけど」

 

 渡されたペットボトルを再度傾けると、再び俺をじっと見てくる友希那。

 何見てるんだ一体。

 そしてその時折唇に触れる所作の意味は何だ。

 疑問に思いながらも、

 

「奏人、寂しくないかしら。手を握ってあげるわ」

「……頼む」

 

 至れり尽せりな状況に、俺は思考を放棄するのだった。

 




 感想くださると嬉しいです。
 では、また次話で。

 

ぶっちゃけ、どれが好み?

  • 付き合う前のやつ
  • 付き合った後の甘々してるやつ
  • 同棲モノ
  • 糖分控えめのシリアスとか切なげなやつ
  • どれも等しく好き
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