銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

13 / 20
 
 魂の二日連続投稿。
 同棲モノの一幕と思っていただければ。
 小悪魔か弱い系友希那さん概念。



挿話三

「………」

 

 腹が、減った。

 そんな自覚と共に、俺はぱちりと瞼を開いた。

 時刻は11時半。就寝から既に30分ほど経過している。

 

「夕飯、ちゃんと食べたんだがなあ……」

 

 大学生となった今でも、未だ育ち盛りということなのだろうか。

 そっと、右隣を盗み見る。

 

「……ん……すぅ……」

 

 俺が寝ているすぐ隣で、眠り姫は寝息を立てていた。……この眠りの深さなら起こしてしまうこともないだろう。

 そのいつ見ても可憐な寝顔に思わず笑みをこぼしながら、俺はそっと寝室を抜け出した。

 

 

「……お、あった」

 

 台所上のスペースを物色して、インスタントラーメンを取り出す。

 手頃な価格でありながらそこそこのボリュームもあるこのインスタント食品は、まさに現代のマスターピースと言える……健康面に目を瞑ればだが。

 

「前はずっと食ってたんだけどな……」

 

 一人で暮らしていた当初は、自炊なんて面倒くさいとか何とか言ってインスタント食品ばかりを食べていたものだ。

 あれはあれで美味しかったのだけど、友希那と会ってから自炊をするようになった。健康に気をつけようと思ったのもその時だ。

 ……まあ、うん。友希那にちゃんと美味いの食わせたいってのが7割くらい占めてるけど。一緒に食べに行ったりするとよく笑ってくれたからだけど。

 我ながらチョロすぎるな……。

 

「……満たされてるなあ」

 

 お湯を注いで蓋に重しを適当に乗せてから、先ほど出てきた寝室を傍目に思わず呟いた。

 二人で大好きな音楽をして。

 二人でささやかな幸せを噛み締めて。

 二人での将来に、思いを馳せて。

 

「感謝してもしきれないよな」

 

 あの日。あの冬の日に彼女と出会えてなければ、俺はこの幸せを今堪能することは出来なかったのだから。

 

「………ありがとう」

 

 あの日あの場所にいた友希那にも、彼女と出逢わせてくれた運命にも。

 あともう少しで出来るであろうカップラーメンを見ながら呟いて、珍しくそんな感傷に浸っていると。

 

「……何がありがとうなの?」

「うわっ!?」

 

 突然耳元で囁かれた声に、思わず悲鳴を上げた。

 このエンジェルボイスはまずい……頭くらくらする……。

 

「友希那……驚かせないでくれ」

「随分と楽しそうなことをしているわね」

 

 なんとか耐えて振り返った先には、パジャマ姿の美少女がいる。同居人である湊友希那は、眠たげに目を擦りながら俺の後ろに立っていた。

 

「起こしちゃったか?悪い、少し小腹が空いて……」

 

 謝罪の言葉を告げる俺に、友希那は申し訳なさそうに顔を俯かせた。

 

「……やっぱり、色々と任せすぎたかしら」

「あ、いや違う。家事は俺がやりたくてやってるから。これはその……ほら、まだ育ち盛りだから」

「……そう」

 

 苦しい言い訳をする俺に、友希那は安堵しながらも目を細めて。

 それからぎゅっと、こちらに抱きついてきた。

 

「ゆ、友希那?」

「…………」

 

 身を固くするこちらに構わず、感触を確かめるかのように俺を抱きしめる友希那。

 おかしい。俺の同棲相手はバカップル指数がこんな高くない……あ、これあれだ。寝起きの友希那だから甘えん坊なんだ。

 こう、なんだろうな……幸せなんだけど、なんだろうな、こういう普段なら恥ずかしいことをポンポンやってこられると俺の心臓がもたないし俺だけ恥ずかしいのがなんかな……。

 あれ、やっぱりおかしくないか?この子も俺に惚れてるんだよな?平等に恥をかくべきでは?

 

「ええ、確かに。縦はともかくとして、少しくらい横に育った方が抱き心地はいいかもしれないわね」

 

 ほら、もう笑顔でこんなこと言っちゃってるもん。絶対寝ぼけてるもん。普段こんなこと言ったら自爆してるはずなのに……。

 誰だよこんな対人兵器ほったらかしにしてたの。近距離爆撃食らって致命傷の男性がいるんだけど。

 ……どっちも俺だから何も問題がなかった。

 

「……よ、横はまあ、俺が痩せ型だからだろうけど……縦はどう困るんだ?」

 

 俺の身長はこの歳の平均くらい。

 もう少しスラッと高い方が、隣に立つ友希那としても嬉しいんじゃないだろうかと。

 そう思って、慌てながら尋ねたのだが。

 問うた先、友希那はそっと爪先立ちをして。

 

「…………」

 

 一瞬、俺の唇に柔らかな感触を与えてきた。

 

「……ほら、ちょうどいいでしょう?」

「……そう、だな」

 

 気ごちなく頷きを返す俺に、頬を赤くしながら満足気に微笑む友希那。

 辛い。俺の恋人が可愛くて生きるのが辛い。

 なにこれ。なんなのこれ。俺こんな小悪魔系友希那さん知らない。

 こんな攻め攻め友希那さんの耐性俺ないんだけど。

 困る……マジで困るこれ……。

 

「……友希那」

「え?ふわっ……」

 

 愛おしさが溢れて、思わずその華奢な体を抱き寄せた。

 

「ありがとな、友希那。俺のことを想ってくれて。満たされてるなって、そう思ってたんだ」

 

 誰よりも愛おしい、『かつて孤高だった』歌姫へ心からの感謝を述べる。

 

「やっぱり俺には友希那が必要……あれ、友希那?」

「あ……ぅ……」

 

 え、ちょっとこの子めっちゃ顔赤い顔赤いって。もしかして目が覚めたか?……このタイミングで?

 

「お、落ち着け友希那。大丈夫だから。恥ずかしいことしてたっつってもここには俺以外いないから」

 

 羞恥でプルプルと震える肩を優しく叩きながら言った俺に、

 

「…………っ!」

 

 友希那は顔を茹蛸のように真っ赤にしながら、俺の腕の中で胸板にぐりぐりと額を押し付けてきた。

 

「まったく……」

 

 ほんと攻めに弱すぎる。

 こう、寝ぼけるたびに毎回自爆するのもまた可愛いんだよな……今のこれは多分俺からの攻めも原因だろうけど。

 いやまあ普段からずっと可愛いし見慣れてるとはいえだ。可愛いもんは可愛い。世界の真理だからこれ。

 それでいてしっかりしてて、良い子で、優しくて。

 ……やばいな。良いところしか見えない。これが惚れた弱みってやつか……。

 そう考えている間にも未だ俺の胸板に頭を預ける友希那に愛おしさを抱きながら、俺はその頭を撫でるのだった。

 

 

 

 

「………ずるずる」

「…………」

 

 深夜のリビングで、ズルズルと音を立てながら麺を啜る。そしてそれを目の前で見て複雑な表情を浮かべる友希那。やだ、視線が辛い……。こう、俺の体を心配してくれてるからだとは思うからありがたくはあるんだが。

 ……食べにくい。

 

「……ちょっと食べるか?」

「別に、食べたいわけではないわ」

「だよなあ」

 

 友希那はあまりこういう食べ物を好まない。彼女の見た目だけ見てもジャンクフードとかインスタント食品なんて好んで食べるようには見えないから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれないが。

 

「奏人が何考えてるか当てるわ」

「……何だよ」

「反例は紗夜よ」

 

 ふふん、とドヤ顔をしながら言う友希那。

 すげえなこの子エスパーかよ。

 いやまあ、確かに。あんないかにもクールビューティーな見た目と声と性格とでポテト大好きなんて想像できないけれども。

 ……待てよ。

 

「そう考えるとアレか、友希那にも見た目からは想像つかない趣味趣向があるかもしれないってことだよな」

 

 俺の知らない友希那の趣味か……なんだろうな。意外と遊園地とか好きだったりするのか?騒がしいところは好んでいかなそうなイメージがあるけど。今度連れて行ってみるか……。

 と、そこまで考える俺の眼前で、眼前の友希那は顔を赤らめながらこちらを見ていて。

 

「それを私に言わせる気なの?」

「……いや、うん。知ってたわ」

「……私が甘えるのは奏人だけだわ」

「……………」

 

 普段の彼女からは考えられないようなか細い声で告げられた言葉に、心臓が大きく跳ねる。

 そうだな、クールな見た目してる友希那が猫好きなのに俺に対してはもろ猫みたいになるのイメージつかないもんな。ついでに自分でそんなこと言っておいて恥ずかしがるのもいつものことだ。……可愛いが過ぎるでしょこの子。

 

「恥ずかしがるなら言うなよ……せっかく目逸らしたのに」

「……言わなきゃ分からないこともあるでしょう?」

「それはそうだけどな……」

 

 俺の言葉に顔を真っ赤にしながらも嬉しげにはにかんでみせる友希那。

 

「………」

 

 危ない。危うく醤油スープ味のキスが生じるところだった。

 

「ぁ……ふふ」

 

 せめてものお返しとばかりにテーブル越しに手を繋いでみれば、友希那は上機嫌そうに笑ってテーブル下で裸足を触れ合わせた。

 

「……奏人」

「うん?」

 

 不意に、友希那が呟いた。

 

「私も、感謝してるわ」

「……ほんとに珍しいな、友希那からそういうこと言うの」

「たまには考えることもあるわ。Roseliaとしての活動をしなかった自分や、あなたと出会わなかった自分を。だから私もきっと、満たされているのよ。十分すぎるくらいに」

 

 いつもの友希那からは考えられない弱々しい声に、耳を疑った。

 その達観したような儚げな瞳に、胸が締め付けられる。このまま消えてしまうんじゃないかと、そう思わせてしまうようなアンニュイな表情に、無意識のうちに握っている手に力を込めた。

 

「……奏人?」

「ダメだぞ」

「……何が?」

「今だけで満足しなくて良い。これからもずっと、友希那が求めてくれる限り俺は隣にいるから」

 

 友希那が驚いたように目を丸くした。

 らしくないのは分かっている。でも俺は決めたのだから。

 

「一緒に幸せになりたい。一緒に音楽をしていたい。だから……」

 

 だからどうか、幸せそうに笑ってくれと。

 心のうちを、そう吐露し切る前に。

 

「……籍」

 

 俺が望んだような、幸せそうに笑う友希那が告げた言葉に、紡がれた言葉が断ち切れた。

 え、なんて言った?

 せき?籍?いやいやそんなまさか。

 

「……え、と。友希那さん?今なんて」

「だから、籍」

「俺たち大学生だけど」

「……減点ね」

「………」

 

 むす、と一転して不機嫌そうな顔で言葉を返す友希那に、げんなりとしながら俺もまた半目で返す。

 

「……不意打ちだろ」

「それはそうだけど、きっぱりと言って欲しかったわ」

 

 そう言いながらも、言葉と反対に表情は晴れやかだ。……どうやら一本取られたらしい。……まあ、いいか。幸せそうだし。これで許しちゃうのが俺が甘いところだよ、反省しろ俺。

 小さくため息を吐いて、俺はその華奢な手を両手で包み込む。

 

「今はまだな」

「……『まだ』?」

「ん?そうだけ、ど………あっ」

 

 あれ、これ墓穴掘った?

 

「……私は、別にいつでも」

「い、いやこれはそのだな、言葉の綾って言うか流石に大学生のうちは早すぎるって言うか……」

「そ、そう……」

 

 手を繋いだまま、お互いに目を逸らす。……いや気まずい。何この初々しいカップル感。中学生か俺たち。リサがいたら揶揄われて穴を掘ってでも隠れた。絶対。

 

「……その、すまん」

「い、いえ……からかった私も悪かったから」

「友希那」

「何かしら」

「……そういう言葉は、もっと慎重に選ぶから」

「……」

「だから、待っててくれ」

「……遅すぎたら、私からするわ」

「そこらへんの甲斐性は俺にもある。できるだけ早く決めるから」

「怪しいわね」

 

 言って、絡ませた指に力を込める。

 

「でも、期待しているわ」

「任せてくれ」

 

 その可憐な笑顔に胸を撃ち抜かれながらも返した俺の言葉に、友希那はどこか安心したような笑みを浮かべて。

 

「……待っているから」

 

 そう、蕩けそうな声で語りかけてきたのだった。




 今回は友希那さんの方を励まされる側に。
 こういう支え合う関係良いよね……よくない?
 次話からRoselia以外のキャラも出したいなあ、なんて思ってみたり。
 
 また何日か開くと思いますが、是非覗いて行ってください。
 では、また。

ぶっちゃけ、どれが好み?

  • 付き合う前のやつ
  • 付き合った後の甘々してるやつ
  • 同棲モノ
  • 糖分控えめのシリアスとか切なげなやつ
  • どれも等しく好き
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。