銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

14 / 20
いつかの、未来の話。
短めですが、それでもよければ是非。


桜が散る前に。





番外編
花吹雪


 桜。

 いつの世も春の、はたまた日本の美しさの象徴として人を魅了し続けてきた木。

 花見という国特有の文化に日本国民が心を躍らせていた頃。

 俺もまた、彼女と二人桜を眺めていた。

 

「…………」

 

 二人、並んで座るのは持参したレジャーシートの上。

 見渡す限り続く山桜の樹々は、春の夜風に吹かれさぁさぁと心地の良い音を奏でている。

 電車でおよそ一時間半の、とある山。

 わざわざ足を延ばしただけあって、夜桜を見るには絶好の場所のように思えた。

 

「…………」

 

 隣に座る友希那の顔は穏やかで、慈しみさえ感じる眼差しを山桜へと注いでいる。

 美しいと、そう思った。

 ずっと隣にいて、目を閉じれば浮かんでくる彼女の瞳。

 安らいだ微笑。

 三年経てど変わらない、永遠にも思える不変がそこにはあった。

 

「……何?奏人」

 

 視線に気がついたのであろう、こちらへと顔を向けた友希那は微笑を滲ませる。

 

「桜よりも私を見て楽しいのかしら」

「……楽しいって言うか、まあ。見惚れてはいた」

 

 照れ臭さよりも見栄を張ることを嫌がるのは、彼女の前だけのこと。

 友希那の前では素の自分でありたいし、勝手に素の自分で振る舞っている。

 いつだって、俺は彼女の前で自分を偽ることはできないのだ。

 

「……………」

 

 気恥ずかしい言葉に、友希那は何も言わずただこちらの肩に頭を乗せてきた。

 心地よい重み。

 そこにかけられた信頼も、或いは愛情も、背負っているような感覚。

 

「……友希那は、桜が好きか」

 

 何の気無しに、口を開いた。

 

「嫌い……ではないけれど」

「特別好きではないって感じか」

「そうね」

 

 言って、友希那は俺に向かってはにかんでみせる。

 

「でも、これからは好きになれそう」

「……そりゃ、ありがたいな。誘った甲斐があったってもんだ」

「奏人は、桜が好きなのかしら」

「俺は……ああ、俺は好きだよ、桜。儚い感じがどうにもな」

 

 言った俺の言葉に、友希那はふむ、と頷いて。

 

「じゃあ、月は?」

「月?……あ、そういえば今日は満月か」

「満月と夜桜。いい景色じゃない」

 

 こちらに身体を寄せたまま、友希那は呟くように言う。

 

「覚えている?」

 

 何を、なんて訊かなくても分かる。

 

「掘り返されると恥ずかしくなるんだが」

「あら、私は嬉しかったわよ。『二人で見ればいつだって見る月は同じだろ』、だったかしら」

「……忘れてくれ」

「嫌ね。人生で一番嬉しかったし驚いたんだから。そうそう忘れないわ」

「……負債の返し方は」

「安心して。奏人ならすぐに返せるものだから」

「そんならいいけどな」

 

 くすりと微笑む友希那に、目を奪われる。

 友希那は、この半年で驚くほど綺麗になった。

 いや、ずっと昔から綺麗だったのは間違いないけれど。

 俺が彼女を恋人として見るようになったからだろうか。

 笑顔が増えた。恋人らしい行動にあたふたする初々しさは無くなった。

 Roseliaも変わった。

 頂点を目指すその意志は変わらない。寧ろ強くなったと言っていい。

 それでも、その在り方は変わった。ただ上を取るためだけに存在しているわけでは無くなった。五人の輪には笑顔があって、調和があって、その真ん中には友希那がいる。

 これからもきっと変わっていく。

 彼女も、彼女を中心としたRoseliaも。

 それでも。変わらない彼女の笑みが、声が、手の温もりが。俺の心を掴んで離さない。

 だからこそ、だろうか。

 

「……友希那」

「なに、奏人」

「……好きだ」

「………………」

 

 友希那は無言で俺の手を握った。

 隣で俺を映す友希那の目が、不安そうに揺れながら俺に問いかけてくる。

 

 ───不安になったの?

 

 ああ、その通りだ。

 彼女の心に確かに俺は居る。二人で前へ行こうとしている。それは間違いなく自覚している。

 それでも。綺麗になっていく彼女に、不安を覚えた。

 喩えば、目の前の桜のように散ってしまうんじゃないだろうか。

 それが俺の想いか彼女の想いかは分からないけれど。彼女が変わってしまっても、俺は傍にいることは出来るのだろうか。

 そんな、いつかのセンチメンタルな思考とは少し違った感情に、

 

「離れないわよ」

 

 彼女は小さく呟いた。

 

「絶対に離れない」

 

 泣きそうになる程愛おしい声。

 しかし、それは力強い誓いのようにも聞こえた。

 

「分かった?」

 

 優しげな笑みのまま、彼女は問うてきた。

 何を、なんて聞くのは野暮だ。

 

「……悪かった。これじゃ前と一緒だ」 

 

 自らのやったことを謝罪した俺に、彼女はにっこりと微笑んで。

 

「それなら良かった」

 

 そう、見惚れるような笑みで返してきた。

 

「………似合うな、山桜」

「?どういうこと?」

「いや、なんでもない」

 

 さっきまであんなに格好良かった彼女が、きょとんと首を傾げるのが少し可笑しくて。

 くすくすと笑う俺の右腕を、友希那はむっとしながらぎゅう、と抱きしめた。

 

「いや、夜桜と満月あるのにどうして俺を見上げてるんですかね友希那さん」

「月と桜には悪いけど、見上げるなら奏人の方が良いわ」

「……そうか。見上げられるほどの身長差があって良かったよ」

 

 いつも通りのやり取りが、後ろ向きな思考をすっかり消し去った。

 自分自身の単純さに苦笑し、それから見つめ合う。 

 美しい金色の瞳は、月明かりの横光と共に俺の顔を覗き込んでいる。

 不意に彼女はその目を閉じ、ついと顎を上げた。

 暗黙の了解。

 俺と彼女だけの合図を確かに受け取って、その淡い薄桃色の唇に唇を寄せる。

 一瞬。

 一瞬触れ合うだけの、挨拶代わりのようなキス。

 それを、友希那は好んでいた。

 

「…………ねえ、奏人」

「なんだ、友希那」

 

 唇へ手を当て、その頬を淡く染めながら、彼女は桜と、それから月へと目を向ける。

 

「今夜は、月が綺麗ね」

「……今夜も、だろ」

 

 俺もまた、月を見上げる。

 燦然と輝き桜を照らす月へ、その想いを込めるのは少しばかり不安があるのだが。

 

「……これからも、ずっと綺麗だろうよ。友希那と見るものならなんだって」

「……そうね」

 

 頷き、すり寄ってきた彼女の肩を優しく抱く。

 壊れてしまいそうなほど華奢な体。

 今なお俺を魅了してやまない大切な人。

 その温もりを感じながら、桜へと目を向ける。

 やっぱり、この気持ちは桜に喩えないようにしよう。

 

「来年」

「ん?」

「来年もまた、桜を見に来ましょう」

「……来年だけか?」

「……分かってるくせに」

 

 言って、指を絡ませてくる。

 

「また、春が来るたびに桜を見るか」

「今度はリサたちも誘う?」

「……いや、2人で来よう」

「そうね。でも、花見はいつかしましょう」

「それは、もちろん」

 

 互いに頬を朱に染めながら繋げる他愛もない会話。

 その温かさに触れながら。

 どうか彼女と見るものが、いつまでも美しくありますようにと、そう天上の月に願った。

 




山桜の花言葉は「あなたに微笑む」「美麗」

場所のイメージは茨城県の愛宕山です。

「よかった」と思ってくだされば感想を。励みになりますので。

ぶっちゃけ、どれが好み?

  • 付き合う前のやつ
  • 付き合った後の甘々してるやつ
  • 同棲モノ
  • 糖分控えめのシリアスとか切なげなやつ
  • どれも等しく好き
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。