銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

15 / 20
 お久しぶりです。
 私情で忙しく、一ヶ月以上投稿できませんでした。楽しみにしてくださっている方には本当に申し訳ないです。

 今日は友希那さんの誕生日。というわけで誕生日ネタです。
 よろしければ是非。
 


湊友希那生誕記念(.21 10/26)

 10月26日。

 放課後のライブハウスの一室に、心地よい音を奏でる声が部屋の中に響いていた。

 ずっと──具体的にはおよそ二年間聞いてきたそれは、その長い時を経た今でも美しいまま。

 

「────」

 

 視線の先には、この声の出元。

 聴くこちらの心を魅せる音を響かせるのは、細く綺麗な形の喉。

 俺の作った曲に彩りを与える銀髪の歌姫は、額に汗を滲ませながら必死にマイクに向かって口を開いていた。

 

「────……」

 

 友希那は絶え間なく喉を震わせていたが、やがてマイクから口を遠ざけ、やや前のめりだった姿勢を起こしてから、ふぅと一つ息をついた。

 

「お疲れさん」

 

 弾いていたギターを提げ、それから労いの言葉と共にタオルを投げた俺に、友希那は珍しくポニーテールにまとめた髪を揺らしてから満足そうな微笑みをこぼした。

 

「相変わらずいい曲を作るわね」

「そりゃありがたいな。友希那の喉も万全だし次のライブに間に合いそうじゃないか?」

「そうね、リサたちも各自で練習を進めているでしょうし、今度は合わせる練習にしましょう」

 

 人一人分ほどの間を開けて俺の隣に座った友希那は、手に持った楽譜を一瞥してから、心なしか寂しそうな笑みを浮かべて。

 

「……今日リサたちが計画してくれた誕生会、あなた本当に行かないの?」

「いやさすがに女子会にしとけ……男が行くのは俺もみんなも気まずいから」

「そう……」

 

 友希那が、はあと嘆息を漏らす。そういう顔されると申し訳なさと、もしかして行くべきかと悩んでしまうのは俺が彼女馬鹿だからだろうか。

 ……しかし、ここまで引きずるのもまあ珍しい。普段からこういうことはメリハリつけてるはずなんだけどな友希那は。

 とまあ、そうなるとアレだ。誕生日に初めてどこかの誰かとの二人っきりになったから浮かれてちょっと鈍っているのかもしれない。彼女の誕生日を知ったのがそもそも去年のことだし、その頃の彼女とはもう少しドライな関係性だったはずだ。

 彼女が浮かれきってることって、喜ぶべきなんだろうか。今はともかく、公共の場とかだと怪しいレベルの浮かれ具合だからな……可愛いからなんでもいいんだけど。

 

「……まあ、一緒に誕生日を祝うなんて初めてだからな。気持ちが浮かれるのは分かる」

「そういうことでは無いわ。私はあくまでみんなが折角企画してくれたから誘っているのであって私があなたに来て欲しいとかでは」

「分かった分かった、俺が悪かった」

 

 急に早口で反論を始める友希那に苦笑を浮かべながらそう言うと、彼女はその端正な顔をむっとさせて。

 

「………」

「……なんでそんな顔するの友希那」

「……私は来て欲しいのだけど」

「ごめん友希那我慢して」

 

 主に俺の精神の安寧と周りからの目のために。

 

「………しょうがないわね」

 

 言外にそう含みながら頭を下げて謝った俺に、友希那は残念そうにそう言った。

 罪悪感がひしひしと響いてくるが、こればっかりは我慢してもらうしか無い。

 毎日のように顔を合わせているからこそ感覚が麻痺しがちではあるが、Roseliaのメンバーは全員とびきりの美人なわけで。そんな美人で同い年の少女たちに男子高校生一人が混ざってパーティだなんて、ほとんど火薬庫みたいなもんだ。爆発でもしたら俺の平和な日常と社会的地位がお先真っ暗。ただでさえ周りの男からの目が痛いのだから、それに火を注ぐわけにはいかない。越えてはいけないラインをわきまえるくらいの理性は残っている……と、信じたい。

 そうは言ってもまあ、そんなこと友希那もちゃんと分かっているだろう。だからこそわざわざ二人の時間を作ろうと、俺とライブハウスに来てくれているんだから。

 

「ま、あれだ。初めてって結構良いよな」

 

 話題転換も兼ねてそう言うと、友希那は少し考えるような素振りを見せた。

 そう、『初めて』。

 ファーストキスしかり初恋しかり、みんな何かと初めてを大切にしたがる。

 それはやはり、新鮮で印象的だからだろうか。

 俺にもよく分かる。

 初めての恋人……友希那とかいや待て目の前にいるのに何考えてるんだ俺は。

 相変わらずの彼女馬鹿な自分に頬の熱が上昇するのを感じる俺の眼前、顎に手を当てて考えるようなそぶりを見せる彼女は、

 

「……ええ、そうね。初めてのものは、いろいろと大切だもの」

 

 そんなことを呟きながら、片手でそっと髪を──髪をポニーテールにまとめている髪飾りを撫でていた。

 俺がちょうど一年前にプレゼントした、紫色の髪留めを。

 10月26日。

 彼女の誕生石に似せたアクセサリー。

 それを、認識した途端。

 

「─────」

 

 思わず言葉を失う俺に、友希那はハッとした表情を見せ、それから耳を真っ赤にして俯き、

 

「……違うのよ」

「な、何が」

「プレゼントは、リサたちから貰ったことがあるの」

「そ、そうか」

 

 そう、弁解のように告げられた言葉に、心臓の鼓動が早まる。

 誕生日プレゼントを貰ったのは初めてではない。だからこの髪飾りも彼女の『初めて』を向ける対象では無い。

 勘違いするな、と。友希那はそう言いたいのだろうか。

 けれど、彼女は初めてと聞いてその髪飾りに触れた。

 なら、彼女が想起した『初めて』の対象は。

 その髪飾りは、彼女にとって一体何の、誰の象徴なのか。

 

「………」

 

 言葉を失い、ただ見つめるしかない俺に、頭を上げた彼女の揺れる視線がぶつかる。

 

「奏、人……」

 

 震える声で、彼女は俺の名を呼んだ。

 

「その……」

「……友希那」

 

 言って、どちらかともなくお互いに顔を近づけ合う。いつの間にか、俺と彼女の間にあった距離は手が触れ合うほどに短くなっていた。

 俺の目に映るのは、切なげに目を潤ませてこちらに身を乗り出す友希那。

 

「………」

「………」

 

 指を絡めあい、そして今にもその距離をゼロにまで縮めようとしたとした俺たちの体の動きは、

 

 ──ビピピピピッ。

 

 そんな、電子音に遮られた。

 

「………」

「………」

 

 無言になり、鼻の先にある俺から体を離してスマートフォンの電源をつけた彼女は、その画面をじっと眺めてから、はぁ、とため息を吐いた。

 

「だ、誰からだ?」

「……リサから。そろそろ準備ができたからおいでって」

 

 仕方ないわね、と名残惜しそうな顔をしてから、友希那はふっ、と穏やかな笑みを見せた。

 

「そういうわけで、奏人」

「うん?」

 

 彼女は、いつかの夕焼けを思い出すように、スマホの画面から顔をゆるりと振り向かせてから、

 

「一緒に行きましょうか、誕生会」

「いや待てそれは行かないって話じゃん」

「いいじゃない、リサも『奏人も捕まえてきて』って言ってるわよ」

 

 ほら、と言いながら見せられた彼女の携帯の液晶には、確かにリサからのそんなメッセージが映っていた。一応皆にも断ったんだけどな……全員諦めが悪いというか危機感が無いというか自覚が無いというか。

 うーん、いいのかこれ。こうまで言ってくれている分みんなは不満には思わないだろうけども……流石に抵抗心が勝る。

 

「……それに、せっかく誕生日プレゼント買ってくれたんでしょう?」

「……気づいてたのか」

「当然よ。奏人からわざわざ誘ってきたのだし、気が付かないはずがないわ」

 

 ふふん、とドヤ顔を浮かべながら髪をかきあげる友希那。いやまあ片手がこっちの手握ってるから全然様になってないんだけど。可愛いが勝ってるんだけど。

 しかし……まあいいか、ここまで頼まれてるし、何より俺も行きたい。プレゼントも渡せてない。別に同級生に見られることなんてないからな、うん。きっと大丈夫だ。

 

「……そうだな。ちゃんと喜びそうなもの買ってきたから。楽しみにしてろよ?」

 

 自分を納得させ、ドヤ顔のお返しとばかりに言ったこちらに、友希那はくすりと笑みを溢して。

 

「あなたからの物なら、何だって嬉しいわ」

「……ズルいなほんと」

 

 思わぬカウンターアタックに肩を落とす。何ですかこの子。全然恋愛初心者じゃないですけど。めちゃくちゃ良い子で訝してくるんですけど。いつの間にこんなに……いや俺のせいかこれ。

 

「……なんか甘えるの上手くなったな、友希那」

「……あなたが甘えさせ上手なのよ」

「そうか?」

「ええ」

 

 お互いに淡く微笑みながら、温かな空気を共有する。

 似たもの同士だとこういう空気が心地よい。叶うならこのままでも良いくらいだ。

 とはいえ、

 

「……よし、そろそろ行くか。皆でちゃんと誕生祝いしてやるからな」

 

 せっかく皆が計画してくれた誕生日パーティーを無下にするわけにもいかない。

 気持ちを切り替えるためそう言って歩こうとした俺は足を踏み出し、

 

「………ん?」

 

 そして、不意に訪れた淡い引力と、温かな手の感触を覚えた。

 

「……えと、友希那?」

 

 振り返って見た先、そこには俺の手をぎゅっと握りしめた友希那が。

 足を動かさない歌姫に戸惑いつつもその顔を見つめる俺に、彼女はどこか照れくさそうな面持ちで口を開いて。

 

「その……あなたこそ誕生日、楽しみにしていてちょうだい」

 

 そんな、魅力的な言葉をこちらに送ってきた。

 

「───」

 

 突然の言葉に反応する余裕もなく、思考に空白が生じる。

 ……まったく。そんなこと、言わなくても楽しみにするのに。相変わらず不器用というか生真面目というか。そういうところがどこまでだって愛おしい。

 

「……気の長い話だな」

 

 一歩遅れて溢れたいじらしさに、胸を締め付けられながらそう言って笑うと、彼女もまた笑みを浮かべた。

 その空気に安らぎを感じながら、俺は彼女の小さな手のひらをそっと握り返し、

 

「何がいいかしら。猫用のグッズなんてどう?」

「おい俺に猫飼わせようとするな。せめてちゃんと生活の目処が立ってからな」

「……二人で暮らす時はいいわよね」

「………」

「ちょっと、奏人?」

「……ごめん今抱きしめたい欲を抑えるのに忙しい」

「聞いたこともないわよそんな欲……」

「あっちょっとやめて友希那今くっつかないで」

「………ふふ」

「やだこの子めっちゃ幸せそう」

 

 夕闇に染まる町の中、彼女と二人目的地を目指し歩み進んだのだった。

 

 

 

 

 

 ちなみに余談ではあるが。

 

「あら、奏人……どうしたのかしら、どんよりとして」

「ああ、友希那。いや、ちょっとさっきな……」

「?」

「こう、なんか勘違いされたというか。弁解に手間取ったと言うか」

「よく分からないけど……大丈夫?熱がある……いえ、額の温度は私とそんなに変わらないわね」

「いや友希那ここ外だから。なんならライブハウスの正面だから。こういうスキンシップが怒られる原因なんだけどな……」

「?嫌なのかしら」

「……嫌じゃない自分がいるのが悔しい」

 

 

 翌日。

 他のガールズバンドの少女たちに先日の様子を目撃され、次いでその周りを気にしないやり取りに冷たい目を向けられることとなったのだが、それはまた、別の話。

 

 

 これは、そんな記録。

 俺と彼女との穏やかな日々を切り取った、その端々。

 

 




 後書きが長いのでご注意ください。


 ご拝読ありがとうございました。
 今話をもちまして、拙作を完結としたいと思います。
 ネタが無いながらに絞り出してましたが、読んで下さる方々にお応えできるクオリティには至らないようになってきて、限界を感じました。我ながらよくこんな書けたなと感心してるまであります。
 勝手な都合で申し訳ありませんが、どうか受け入れていただければ。

 この作品、実は目標として「ハーメルン内で一番甘い友希那二次創作」を目指して作っていました。どうでしたでしょうか。甘かったでしょうか。綺麗だったでしょうか。少しでも皆様の幸せを生み出せていれば、それ以上に幸せなことはありません。
 
 毎回のように楽しみにしてくださっている読者の皆様に感謝を。
 目を運んでいただいた皆様に感謝を。
 感想を書いてくださる方、Twitterで読了報告やフォローをしてくださる方の存在は、この作品を書く上で大変なモチベーションになっていましたし、励みにもなっていました。

 最初は個人の願望で「友希那とラブコメしてえなあ……」と思い書いたこの小説も、皆様のおかげでおよそ半年続きました。読者の皆様あっての活動でした。
 
 そのうちネタが浮かべばぽろっと投稿することもあると思います。その時はぜひ見ていただければ。
 重ねてにはなりますが、読者の皆様、お付き合いいただき本当にありがとうございました。また、どこかで。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。