銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

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 お久しぶりです、寒くなってきましたね。最近布団から出るのも辛い夕焼けです。
 クリスマスのイベントストーリー良かったね……良かった……ということで半ば衝動的に書きました。
 甘めです。よろしければ是非。



白丁花

「リサ、こっち切り終わったけど」

「ありがと〜奏人、次はこっちお願いしていい?」

「はいよ」

 

 12月25日。つまりはクリスマス。今井家のキッチンにて、俺は料理作りに精を出していた。

 キッチンに並ぶ食材の数々は、これからパーティの主役を飾ることになる料理の材料だ。

 

「それにしたって多いな……」

 

 俺が調理を開始してから十数分。目の前の材料の山の減りはどうにも遅いように思える。まあ六人分だもんな……こんなものかもしれない。

 苦笑をこぼしながら、俺がまた野菜に手を伸ばそうとした辺りで。

 

「………」

 

 見慣れた容姿の美少女が、俺の隣に寄ってきて。

 手伝ってくれるのか、と尋ねようとした俺は、しかしその言葉を発する前に凍りついた。

 

「………友希那?」

 

 俺の恋人──友希那は料理ができない。というか音楽以外に関しては基本的に不器用だ。プールに行った時のビーチバレーといい、出会った当初の勉学といい、無頓着が故に出来なかったのだろう。

 とはいえ最近、泊まる時なんかは俺の家で手伝いをしてくれることもある……のだが、それは専ら料理の盛り付けだったり食卓の準備だったりで、調理という調理に手を出したことはない。

 そんな彼女が、俺の隣で包丁を握っていた。

 

「友希那、なにを……ちょちょちょ友希那待って待って」

「何かしら」

「いやきょとんとしないで……何してんの今。紗夜たちと飾り付けしてたんじゃないのか?」

「飾りつけの作業は終わったの。何か手伝うことはないかしら」

「それはありがたいけどその包丁を一旦下ろしてくれ頼むから」

 

 慌てながら言葉をかける俺に、友希那は淡々と答えつつ包丁から手を離さないままで。

 よく見ると、その目には確かにやる気で満ちている。この子なりに何か手伝いたいってことなんだろう。まあ、うん……もう高校生だもんな、野菜を切るくらいなら大丈夫だろ多分。ちょっと不安ではあるが。

 

「この野菜を切ればいいの?」

「そうだけど……待って早まるなちゃんと教えるからその包丁を下ろして」

「……奏人が教えてくれるのかしら」

「悪いな、皆手離せないから……」

「別に不満なわけじゃないの。むしろ……」

「友希那?」

「…………」

 

 あ、この子照れてる。

 めちゃくちゃ口もごもごさせてる。可愛い。

 

「………っ!」

 

 あ、目があった。

 ハッとして表情をいつものものに戻した。可愛い。

 まあ基本的にはクールだもんな友希那。慌てて表情を取り繕うところも意外に子どもらしい彼女の魅力だ。

 

「な、何でもないわ。早く始めましょう」

「ああ、うん……ってだから待て待てまずその手が危ないから友希那。野菜切るときは手丸めないと」

「手を……?」

「ほら、猫みたいにさ」

「にゃーん……」

 

 ほとんど聞こえないような小声で呟きながら笑う友希那。可愛い。

 

「…………」

「ど、どうしたの?顔が険しくなったけど……」

「い、いやなんでもない」

「本当に?大丈夫かしら」

「いやほんと、何も問題はない」

 

 ただちょっと連続でクリティカルダメージをもらったから悶えそうになっただけで。

 この子さっきからいちいち可愛いななんて思いつつ、友希那の背中にまわり、頬の熱を誤魔化すように後ろから彼女の手を握り猫の手の形に包む。

 

「………」

「ほら、これが猫の手で……」

「………」

「友希那?」

「………」

 

 問いかけた俺に、しかし友希那は何も反応を示さず。

 俺は遅れて、彼女の体躯を後ろから抱きしめる形になっていたことを自覚した。

 

「あ、悪い……」

 

 慌てて離れようとした俺は、しかし胸板に感じた質量によって止められてしまい。

 

「えっと……友希那、離してくれないか。色々問題だから」

「……別に問題ないわ」

「………」

 

 慌てるこちらを肩越しに細めた目で睨む友希那は、不満げに赤らんだ頬を膨らませながらそう呟いた。

 小動物みたいなこと無意識でしてくるこの子……場所関係なく抱きしめたくなるから控えめにして欲しい。

 

「いやまだ料理終わってないから……」

「…………」

「ゆ、友希那は盛り付けしといてくれ。俺野菜切っとくから」

「…………」

「友希那、俺の肩は枕じゃないんだ……」

 

 言葉を出さずに、拗ねた顔のまま俺の肩に後頭部ををぐりぐりと押し付けることで不満の意を表明する友希那。

 うーんこの甘えん坊が可愛い。最初はもっとこう、遠慮がちだったんだけどな……おかしいな……。まあ、うん、遠慮されるよりは甘えてくれる方が嬉しいっちゃ嬉しいんだけど。これが俺やこの子の家だったら思いっきり甘やかしてたね。危ない、俺にも自制はできた。

 数日前、自制してくださいと苦笑いしながら言ってきた紗夜に向かって内心でガッツポーズをする俺を他所に、友希那は此処が今井家だと思い出したのか、はたまたひとしきり満足したのか。

 

「……ごめんなさい、浮かれていたわ」

 

 そう言って、名残惜しそうにようやく俺の腕を解放してくれた。

 そういう顔されると甘やかしたくなるから困る。友希那には悪いが、流石に人の家でイチャつけるほど俺も彼女もメンタルは強くないからしょうがない。しょうがないんだが、心なしか罪悪感がある。

 

「……また今度な」

 

 せめてものお詫びにとそっと言ったこちらに、友希那は手元の野菜から目を逸らさないまま。

 

「期待しておくわね」

「………」

「……何よ?」

「……いや、また甘えてくるんだなって」

「今更でしょう?ほら、早く準備しましょう」

「……ああ」

 

 少し箍が外れていたのを自覚したのか早口で話す友希那。結局照れ臭くなって慌てるんだからもう。

 

「じゃあまずは───」

 

 その様子に微笑を浮かべ、それから俺は、ぎこちない空気を誤魔化すように料理のレクチャーを始めるのだった。

 

 

 二週間前。

 

『クリスマスパーティをしましょう!』

 

 バンド練習の終わり際、そう声をあげたのはあこだった。

 

『実はですね──』

 

 彼女曰く。

 ポピパの戸山さんが、パーティで使う全てを自分たちで用意するという本格的なクリスマスパーティを計画しているとの事。

 

『へえ、手が込んでるな』

『あこはそれが羨ましくって!Roseliaでも同じようにパーティをしようと思ったんです!』

『私は……いいと思うよ……』

『私も賛成です。ただでさえ最近は練習を詰めていたのですし』

 

 賛同と共にとんとん拍子で話が進んでいく中、

 

『良いんじゃない?私は賛成かな〜。友希那は?』

『そうね、たまにはこういうのも良いかもしれないわ』

 

 微笑みながらそう告げた友希那に、俺は彼女の成長をひしひしと感じて感極まっていたのだけれど。

 

『じゃ当日はみんな頑張ってな。おじちゃん一人で家にいるから……』

『?奏人さんも来るんですよね?』

『え?』

『『『『え?』』』』

 

 そこでまた、彼女たちとの認識の差を実感させられることとなり。

 

『最初から来るつもりがないのはどういうことですか』

『いや待って紗夜さんが怖い。だって女子会の方が良くない?俺要らなくない?』

『奏人さんもRoseliaの一員なんですから来てください!』

『友希那さんの誕生日パーティと……同じです……』

『だからヤバいんだって燐子。俺あの後めっちゃ冷たい目向けられてたんだけど』

『う〜ん、来なかったらどうしようか、友希那?』

『いやリサさんそれ半分脅しなんですけど。もっとこう、交渉の方面で来て欲しいなっていう……』

『そうね……』

『友希那さん?』

『例えば、みんなに奏人が私に告白してきた時のことでも──』

『行きます』

『変わり身はや……』

『音無さんは扱いが簡単ですね』

『それはもう支配者側のセリフなんだよ紗夜』

『湊さんはどう思いますか?』

『間違ってはないわよね』

『あれ、扱いが……』

『でも奏人は私の頼みなら基本的に──』

『ちょっと友希那まだやるの?』

 

 とまあ、俺の黒歴史もとい友希那甘やかしエピソードが赤裸々に語られかけるという事件も起きたのだが。

 それはともかく、そんなやり取りの末、俺はRoseliaのクリスマスパーティに参加することになった。

 

 

 

 

 しかしまあ、やはり男1人というのはどこか申し訳なさもあるわけで。

 

「やっぱ女子会にすべきだろ……」

 

 二人料理の盛り付けをしている中思わずそんなことを呟くと、友希那はじとりと目を細めてこちらを睨んできた。

 

「Roseliaでのパーティならあなたも参加してちょうだい」

「いや……こう、普通は女子だけがいいとか気にするもんじゃないかってことなんだけど」

「みんなが嫌がるとでも思っているの?」

「それは、まあ、うん」

「なら問題無いじゃない。あなたはもっと周りからの信頼を自覚した方がいいわ」

「そういうもんかね……」

「ええ」

 

 うーむ。いまいち納得いかないが、まあ彼女が言うのならその通りなのかもしれない。

 なんとなく納得して、お互いの家で料理をする時のように二人並んでキッチンに立ちながら言葉を交わす。

 

「ていうか、今更だけど飾り付けだけじゃなく料理まで手伝って平気か?向こうで休んでてもいいぞ」

「任せっきりは私が良くないの。それに、ほら」

 

 言って、微笑を浮かべながら移した視線の先には、リサとあこを手伝う紗夜と燐子の姿があった。

 

「みんなで準備するから良いのだと聞いているし、私が何もしないのはおかしいわよ」

「まあ、たしかに……無理だけはすんなよ?」

「……あなたは少し過保護だと思うわ」

「大切だからな」

「……そう」

 

 それだけ言って、嬉しそうに笑みをこぼす友希那に俺もまた笑みを返し、それから味付けの終わったサーモン一切れを菜箸でつまみ差し出す。

 

「友希那、ちょっと味見して」

「いいわよ……あー……」

「美味いか?」

「ん……そうね、味付けはちょうど良いと思うわ」

「よし、じゃあこれで……」

 

 完成、と言葉を紡ごうとしたその時。

 俺の視界の端に、ぽかんとした表情を浮かべるバンドメンバーの姿が映り。数秒遅れて、俺はここがリサの家だったことを思い出した。

 

「…………」

「……奏人?」

 

 急にフリーズした俺を不自然に思ったのだろう、友希那は自分の背後に目を向けて、

 

「っ………」

 

 彼女たちを認識した途端、俺と同じく事態を把握してぽんっと顔を赤く染めた。

 ……これ今思いっきりハグしたら気絶したりするのかな。いやまあしないんだけど。案外この子普通に受け入れてきそうだし、なんか友希那には一緒になってどろどろしていきそうな危うさがある……まあ何より俺の心臓が先にダメになるんだが。

 

「えっと〜、奏人……?」

「あ、いや、違う。違うんだってリサ。家だとこうやって料理してたからその癖が出ただけで」

「……家だと料理中に湊さんに食べさせているということですか?」

「まあ、そうだけど……」

「………」

「………いやあの、すいません」

 

 沈黙が漂う雰囲気に耐えられず、呆れ半分驚き半分の表情を浮かべる彼女たちに頭を下げて謝る。

 

「じゃ、じゃあアタシたちは料理運んでおくね〜」

「待て待てリサさんあなたの幼馴染が爆発しそうですけど」

「……早めに終わらせてくださいね、音無さん」

「紗夜まで何?何を終わらせるの?」

「あこちゃん……行くよ……」

「ほえー………」

「いやちょ、燐子まで待ってってすごいあこがぼーっとしてる……」

 

 みんな羞恥でプルプルしてる友希那を置いてリビングへ行ってしまった……いや当事者の俺に任せるってことなんだろうけど。羞恥で色々限界なのは俺も同じなんすよね……。

 

「…………」

 

 まあ確かに、最近ちょっと浮かれすぎていたような気もするけど。最近色ボケしてるってよく言われてるし。家と同じノリでやるのは失敗だったな……これからは気をつけないと。

 

「友希那、そろそろ皆のとこに……」

 

 言葉を続けようとしたところで、手に暖かな感触があった。

 

「…………」

「友希那?」

 

 無言に問うた先、俺の隣に近づき指を絡めてきた彼女は、その耳まで真っ赤にさせながら上目遣いで言葉を紡ぎ。

 

「……少しだけ、このままでいさせてちょうだい」

「……あ、ああ」

「………」

 

 それきり黙って身体を寄せてくる彼女を見つめる。

 何かいつも以上に声に余裕無かったな……まあでも、うん、そうだ。俺だって友希那と変わらない。

 恋愛初心者で、初心で、小さなスキンシップだって人前なら恥ずかしくて照れ臭くて、それで余裕が無いのは俺も同じだ。

 それはきっと、これから先も変わることはない。

 だから、二人で少しずつ歩幅を合わせる。ゆっくりと進んでいく。

 つくづく不器用な人間だなほんと……お互いに。

 

「……まあ、俺たちらしいっちゃらしいけど」

「………」

 

 苦笑いと共に放った言葉に、隣からの返事はない。その代わりとばかりに、こつんと肩に淡い衝撃が走った。

 こちらの肩へと頭を預けてきて肯定を示す友希那は、俺と出会った日以降よく見せてくれるようになった穏やかな微笑を浮かべていて。

 胸の中があたたかなもので満ちるのを感じながら、俺は彼女の手をぎゅっと握り返した。

 

 

 

 

 それから俺たちは、クリスマスパーティを存分に楽しんだ。

 みんなで作った料理に舌鼓を打ったり、リサとあこの作ったケーキを頬張ったり、ボードゲームではしゃいだり。

 時間を忘れて楽しんでいる間に、とっくに日は暮れていた。

 

 

 

「楽しかったですね、友希那さん!」

「ええ、そうね」

 

 夜、六人で言葉を紡ぎながら帰路につく。

 笑顔を浮かべながらあこに頷いた友希那を横目に歩いていると、前を歩くリサが振り返って口を開いた。

 

「それにしても、ありがとね奏人。わざわざ着いてきてくれて。あこたちを送るだけなのにさ」

「まあな、女の子ばかりじゃ危ないし」

「意外ですね。てっきり湊さんがいるから着いてきたのだとだと思っていました」

「いや違……くはないけどそれだけじゃないから。あれか?最近ちょっと色ボケしてきたから信用が無くなったのか?」

「そんなことはないですよ」

「お、おお……ありがとな」

「いえ」

 

 思いがけない即答に照れ臭くなりながら告げた返事に、紗夜はくすりと笑みを浮かべ。

 

「あっ………」

「……?」

 

 あれ、なんか表情が硬くなったような。

 

「紗夜?」

「いえ、何でもないです……あ、宇田川さんはしゃぎすぎないでください」

 

 急にそう言って、笑顔のままあこたちの方へ寄って行く紗夜。

 え、なんだ急に。なんか苦笑いみたいな笑みになってたけど。俺変なことしたかな……。

 

「……奏人」

「おお、友希那……」

「…………」

「えっ何その顔は。怒ってるのか?」

「……別に、怒っていないわ」

「じゃあなんでそんなむすっとしてるのお前」

「随分と仲良さそうに話していたわね」

「いやまあ友人なんだからいいだろ」

「……紗夜も美人よね」

「ちょっと待って友希那勘違いしてるぞお前」

「……どうかしら」

 

 むす、と顔を膨らませて俺を睨む友希那さん。やだ、この子すごい可愛い……面倒臭可愛い……。

 しかしなるほど、紗夜はこの友希那を見て笑ってたのか。いや確かに拗ねてる友希那も可愛いけどこの誤解はちょっと良くない。

 

「紗夜とはそういうんじゃないから……だってほら、俺には友希那がいるし」

「……本当かしら」

「当たり前だろ。こうして手を握るのだって友希那だけなんだから」

「そう……」

 

 華奢な手を取ってそう言えば、一応納得してくれたのか、友希那は軽くはにかんでみせた。

 いや女の子としての自信なさすぎませんかねこの子……確かにRoseliaの面々は綺麗だし可愛らしいんだけれども、友希那はその中でもとびきり可愛いんだけどな……あくまで彼氏視点だから当然なのかもだが。

 とまあ、そんなことを考えながら歩いた矢先。

 

「あ………」

「雪………」

「ホワイトクリスマス、か〜」

「見て見て、クリスマスツリーが光ってる……!」

 

 前を歩く彼女らの賑やかな声に釣られて上空を見れば、そこには確かに雪が舞っていた。

 ホワイトクリスマス。

 しんしんと降る白の結晶とクリスマスツリー、そしてライトアップされた街による幻想的な風景を見ながら、俺は友希那、と彼女の名前を呼ぼうとして。

 

「──────」

 

 隣に視線を移し、そして何も言えなかった。

 彼女は空を見ていなかった。

 その瞳に、クリスマスツリーも映してはいなかった。

 ただ、一箇所。

 Roseliaのメンバーが集う温かな空間だけを、友希那は微笑ましそうに見つめていた。

 その光景が、あまりにも輝かしかったから。

 

「……何かしら、奏人」

 

 怪訝な目と共に放たれた言葉に、俺は何も返せなかった。

 ──友希那は変わった。

 音楽だけを貫いてきた孤独の歌姫は、いつの間にか彼女らの気持ちを理解できるまでに成長し、同時に大切に思えるようになっていた。

 

「ちょっと、奏人。大丈夫?」

「……あ、ああ」

「何かあった?」

「いや、ちょっとな」

 

 未だ心配そうにする友希那をそう言ってなだめて、俺もまた彼女の見ていたものを見つめる。

 

「りんりん、クリスマスツリーに雪が降ってるよ!」

「あ、あこちゃん……走り回ったら危ないよ……」

「まったく……。宇田川さん、白金さん、周りに迷惑ですよ」

「あはは。二人とも、気をつけてね〜」

 

 友希那が大切に思う彼女らは、この貴重な日を存分に楽しんでいる。

 ──良かったと、そう思った。

 他人を理解しようとしなかった孤独の歌姫。

 自分の音楽に疑問を抱いていた紫炎の薔薇。

 その彼女が、今や同じバンドメンバーを大切に思えるようになったこと。それだけであの日友希那と出会えて良かったとさえ思う。

 ……だから。

 

「………」

 

 だから、俺もまた彼女の支えになろう。

 彼女が一人にならないように。

 俺以外の前でも、穏やかな笑みを浮かべられるように。

 滲んだ視界を拭き、溢れんばかりの想いを抑えてから、俺は隣に立つ彼女の手を握り問いかける。

 

「……いいクリスマスになったか?」

 

 万感の思いを込めたこちらの言葉に、友希那は俺の手をぎゅっと握りなおして。

 

「……ええ。忘れられない日になったわ」

 

 そう応えながら、慈しみの目を彼女たちに向けていた。やっぱりこう、どこか母性があるよなこの子……。なんだかんだで世話焼きなところといい、いい母親になりそうだ。

 

「……何、奏人。何か言いたそうだけど」

「ああ……いや、友希那はいい母親になりそうだなって思ったただけ」

「それはどうかしらね……一人娘なんて生まれた日には、あなたと一緒に甘やかしてそうな気もするけれど」

「………」

「?急に黙り込んで、そんなに意外だったかしら。あなたは私に厳しいイメージでも持ってるの?」

「いや……俺も一緒なんだな、と」

「……奏人以外いるわけないでしょう」

「その、すまん……」

 

 赤面と共にそう言った彼女を愛おしく思いながら、俺もまた頰の熱が上昇するのを自覚して言葉を紡ぐ。

 

「えっと……ありがとう、でいいのか?」

「なぜ疑問形なの」

「いやどう返すのが正解か分かんないから……」

「それは……たしかにそうかもしれないわ」

 

 ふわりと微笑し、友希那はあくまで自然に俺に身を寄せてきた。

 防寒具から覗く肌が赤く染まっているのがなんともまあ可愛らしい。

 去年と変わった関係性に思わず顔が綻ぶ。

 ……そうだった。去年の雪も。

 

「……思い出って雪みたいだよな」

「急にどうしたの?」

「いや……去年も初雪は友希那と見たなって」

「そういえば、そうね」

 

 そうだ。去年も、俺は彼女と雪を見た。

 その関係は恋人関係ではなく、ただの音楽仲間としてだったけれど。

 

「だから、雪みたいだって」

「……確かに。雪も思い出も、降り積もって、なかなか消えてくれないもの」

「まあそういうことだ……これから、もっと降り積もらせないとな」

「……ええ」

 

 思い出が、溶けて消えてしまわないくらい。多くの思い出を残そう。

 

「目指すは永久凍土だ」

「……ロシアにでも引っ越すの?」

「そんな極端な……まあ確かに永久凍土だけども」

 

 永遠はないと分かっている。それは、俺も彼女も理解している。

 それでもきっと願うところは同じだ。

 

「来年のクリスマスもこうして迎えられるといいな」

「来年もホワイトクリスマスなんて考えにくいけれど」

「いやそうだけどな……そういうことじゃなくて」

「私と皆と一緒に、ということでしょう?」

「……お見通しか」

 

 笑みをこぼす友希那にため息混じりでそう言って、空を見上げる。

 いつかは、こういうことも格好良く言えるのだろうか。なんとも決まりが悪いな、と一人項垂れている俺を他所に、友希那は俺の手に指を絡め、

 

「……奏人」

「何だ?」

「これからもずっと、あなたと」

 

 降りしきる雪を邪魔しないような、そんな静かな声で言う友希那に頷く。

 

「……ああ、勿論」

 

 遅れて返事をしてから、俺もまた彼女の手を握りなおして。

 

「「メリー・クリスマス」」

 

 これからも彼女と共に在れるようにと、雪降る聖夜に、ただそう願った。

 

 




 本話のタイトル「白丁花」は、イベントストーリー「Snow Rose」から。

 書きたかったところを書けました。イベントストーリーの中で、他のメンバーは皆雪を見てるのに友希那さんだけメンバーのこと見てるんすよ。尊い。Snow Rose全人類読んで。Roselia推せる。いやまあオリ主くんには友希那さん見つめてもらってラブコメさせましたけど。最近、私は友希那さんは勿論ですがRoseliaが大好きなんだと再認識する機会が多くて幸せです。
 そういうわけでキャラ崩壊等には特に気をつけているのですが、何処か気になるところがあれば教えてくださると嬉しいです……恋愛してる友希那さん書いてる時点でキャラ崩壊も何も無いかもですが。


 どうしてこんなに後書き欄が荒ぶっているのかというと、明日クリスマスなのに私に予定はないからです。独り身でこんなどろどろに甘いクリスマスを書いてるという現実に向き合ってしまったからです。……餅でも食べようかなクリスマスだけど。

 高評価多かったらまた番外編書きますので、是非。
 ではまたどこかで。
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