銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

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 描き納めです。




ちょっとどころじゃなくて

 

「……終わるなあ」

「何が?」 

 

 反応されることを想定していない独り言だった。イヤホンを耳に挿して、ギターの弦を弾いて、たまにコーヒーを喉に流しながらタブレットPCに指を滑らせる。そんな緩み切った状態からぽつりと漏れ出た言葉を、隣に座る歌姫は耳聡いことに拾ったらしい。

 

「いやほら、今年が」

「まだ大晦日まで数日あるけれど」

「今年はRoseliaの年末ライブがあるだろ?で、明日からはそれまで練習漬けなわけで。実質今日が大晦日みたいなもんだ」

「無理があるわ」

 

 昼下がりの我が家にて、大学入学以降の同居人である友希那は小さくため息を吐いた。いかにもほとほと呆れたと言わんばかりの表情は、こちらの脈絡のない話題に小首を傾げてるようだった。

 

「急にそんなことを言って、どうしたの?」

 

 ソファの背もたれにぐでんと身を投げ出してから、「いやあ」と気の抜けた言葉を紡ぐ。

 

「今年もいろいろあったなって思うことがあって」

「たとえば?」

「友希那と暮らし始めたこととか、Roseliaのツアーライブとか、Roseliaのメディア出演とか」

「……そう考えると、確かにいろいろ変わったわね」

「だろ?」

 

 Roseliaとしての活動の幅はもちろんのこと、彼女にとっては帰る先まで今年は変わっている。激動の一年と形容しても何ら不思議じゃない。

 ふむ、と考える友希那を横目に見る。なんというか、それこそ俺と彼女の距離感も変わっている気がする。慣れたのかどうか分かんないけど、パーソナルスペースがお互いに寄り始めてる、ような。たとえば、そう。

 

「……友希那」

「どうしたの」

「ちょっと、近くないか」

「……いけないかしら」

「どんとこい」

 

 こうして友希那からこちらに寄りかかってくるアクションにも、もう慣れたものだ。いや嘘。全然慣れてない。触れ合うたびにドギマギして、結局お互い照れる羽目になるのを今年は何度も繰り返してる。この初心な感じはいつまで続くのやら。

 

「少し、考えてみたのだけれど」

「うん?」

「ほら、今年変わったことについて」

「ああ、そういえばそんな話だったな」

 

 言って、腕の中にある華奢な体躯の柔らかさから意識を戻す。意識してると理性がすごい勢いで削られて危ない。この歌姫破壊力がすごい。油断してると撃ち抜かれるんだよな、心臓とか庇護欲とかもろもろ。

 

「学校生活も、Roseliaとしての活動も……あなたとの距離感も少しずつ変わってきているわ」

「そうだな」

「なら逆に、変わってないものもあると思わないかしら」

「なるほど?」

「例えば、その……」

「?」

 

 顔を真っ赤に染めながら言いよどむ友希那。なんだろう、彼女にしては歯切れが悪い。あとその照れながら上目づかいでこっちを見てくるの、抱きしめたくなってくるから抑えてくれ。俺がダメ人間になりかねない。

 

「リサや紗夜、燐子もあこも、私の大切な友人だわ」

「ああ、変わんないってそういう……」

「ええ。きっと、皆との音楽が楽しいことも」

 

 とても大切で、変わらないものよ。噛みしめるようにそう言って、友希那はそっと目を閉じた。

 

「それから、もちろん奏人も」

「俺?」

「当然よ」

 

 やわらかく頷いたかと思うと、火照る頬にひんやりとした指先が触れる。

 

「あなたへの想いも、変わっていない。今年が終わってもきっと変わらないわ」

「……そりゃ、ありがたいな」

 

 照れ隠しのつもりなのか、顔を見られたくないのか。真意はぼんやりとしか掴めないが、こつんとかかる肩への重みはここ何年かで慣れ親しんだものだ。

 

「変わらないといえば」

 

 からかうように、笑うように。不意に呟かれた声色には、彼女のそれにしては珍しいことにそんな感情が滲んでいて。

 

「奏人の癖も変わらないわ」

「癖なんてあるか、俺」

「なくて七癖、という言葉を知らないの?」

「俺が知らなければないってことにしてもよくないか?」

「私が知っているわ」

「俺より?」

「そうね。あなたのことはよく分かっているから」

 

 何年一緒にいると思ってるの?と言外にそう含ませた目線を向けられては、俺は何も返せない。素直に両手を小さく上げて降参の意を示せば、友希那はくすりとした微笑をこぼした。

 

「照れ隠しが下手ね」

「誰かさんに似てな」

「それで、さっきは何を見ていたのかしら」

「……バレてたか」

「奏人、隠し事があるときの癖は分かりやすいから」

「…………」

「急に黙り込んでどうしたの?」

「いや……俺も知らない癖を友希那が把握してるの、なんか嬉しいな、と」

「…………いいから」

 

 可愛い。頬を真っ赤にして目線を逸らす歌姫が可愛い。こちらの腕を抱きしめてくるあからさまな照れ隠しに吹き出しそうになりながら、膝の高さほどのテーブルに視線を向ける。開かれたままのタブレットPCは、角度からして肝心の液晶は見えていないようだ。

 ……できれば教えたくなかったんだけどなあと思いながら、俺は観念したように口を開いて。

 

「せっかく年末だからな。今年最後の買い物になんか買おうかと思って」

「それで?」

「クリスマスプレゼントも用意できなかったし、せっかくならサプライズで何か贈ろうと」

「え?」

「化粧品とかは肌に合うかどうかもあるし、小物をいくつか買うのもいいけど。どうせなら一つ、それなりのものを、と思ってて」

「待って」

「で、そうこうしてるうちにもう年末間近まで差し迫ってると」

「ちょっと」

「そういうわけで」

 

 友希那の趣味嗜好はある程度理解しているつもりではあるし、何を贈っても喜んでくれるだろうな、とは思う。とはいえ、できるだけ良いものを選びたい。彼女に少しでも感謝が伝わるように。そんな考えばかりが先行した結果──

 

「終わるなあ、今年」

「今ならその言葉の意味が分かるわ」

 

 先ほどの焼き直しの台詞に、友希那は苦笑いを浮かべた。

 

「要するに、サプライズプレゼントを選ぶ期限が近づいていて焦っていたということね」

「いやほんと、面目ない……」

「別に怒っているわけではないわ。少し驚いたけれど」

「驚いた?」

「あまり聞かない気がするわ。年末に贈り物をするなんて」

「まあなんていうか、個人的に特別なんだよ、今年は」

「どうして?」

「友希那と年越しできるから」

 

 去年は、というより今までは、当然ながら友希那は家族と年越しを過ごしていたはずで。今年もそうだろうと思っていたところに、彼女からこの家で新年を迎えると伝えられたのは記憶に新しい。

 本来なら家族で過ごす日を俺と一緒にいてくれるというのは、それだけで。

 

「言っちゃえばそれだけなんだけどな、ちょっと嬉しいんだ。友希那と、お父さんお母さんには怒られるかもしれないけど」

「……確かに、少し」

「どうぞ」

「“ちょっと”嬉しい、なの?」

「怒るのそっちかよ」

「……それ以外ないと思うけれど」

「それ以外ないのか」

「復唱しないでちょうだい」

「ちょっと恥ずかしくなってきたか?」

「…………“ちょっと”じゃない、かもしれないわ」

「なんだそれ」

 

 会話が落ち着いてから、お互い噴き出したように笑い合う。

 中身のない、なんでもない会話にも案外乗ってくれるのは彼女の意外な魅力だ。

 ひとしきり笑って落ち着いたところで、ソファから起き上がってタブレットPCを手元に寄せた。

 

「候補はどんなものなのかしら」

「それが結構迷ってて。アクセサリーとか、美味しい焼き菓子の詰め合わせとか、大きめのクッションとか。そもそも消え物にするか残るものにするか」

 

 友希那とともに液晶を覗きこむ。候補がいくつか載ってる通販ページをスクロールしても、これだと言えるものは見つからない。

 

「友希那、でっかい猫のぬいぐるみいるか?」

「………………置き場所がないわ」

「結構迷ってた……」

「ここは思い切って家具を買い替えてみるのはどうかしら」

「家具……て言ってもそんな壊れそうなやつあったっけ」

「最近、ベッドの弾力性に問題があるような気がするわ」

「老朽化か?いやでもそんな極端な使い方してないような……」

「あとは、そうね……」

 

 そう呟く横顔がやけに真剣で、思わず笑い声が漏れる。この子音楽以外でこんな真面目な顔つきになることあるんだ……。

 

「すっかりサプライズ感なくなったな」

「そこまで拘っていたの?」

「……まあ、一応。友希那に手伝わせるのもなんか悪いし」

 

 結局のところ、これに関しては俺のわがままでもある。一人でなんとかしたいという思いは常々あって、けれどなんだかんだで友希那の手を借りるのが多くなるのもまたいつものこと。

 二人でこうして雑談に身を任せる時間が心地良くて、ついついそれに甘えてしまう。その結果、今まさにこんなことになっていて。

 

「なんていうか、俺の決断力不足に呆れてる」

「……もしかして、結構本気で焦っていたのかしら」

「サプライズの内容を一緒に考えてるこの現状をサプライズにしようか、なんて考えてるくらいには」

「どこか奏人らしいわ」

 

 みっともない俺の言葉に、友希那は淡い笑みを浮かべ。

 

「別に気にする必要はないわ。気持ちだけでも嬉しいと言えばいいかしら」

「いやでもなあ……」

「それに、結構楽しいから」

「楽しい、か」

「こうして二人で決めるのも、昔は無かったことよ」

「確かに」

 

 言われてみればそうだ。サプライズ云々は関係なく、友希那と買い物をするのはそれだけで距離が縮まったのを実感できて楽しい。……うん。ならやっぱり、友希那に喜んでもらえるようなものを選びたい。ここはサプライズではなく、正面から。

 

「アクセサリーはさ、結構いいのを見つけたんだよ」

「なら、それは?」

「良いものってそれなりの値段するから。で、金額も金額だから勝手に買うのもなあと思って」

「別に、好きに買って構わないわ」

「いやだから……これから俺だけの家計じゃなくなるわけだし、今のうちから気をつけないとっていう」

「……どういう意味かしら」

「……わかってて聞いてるよな?」

 

 少なくともそんな顔赤くしながら訊くことじゃない。絶対確信犯だこの子……どうすんだこれ。揶揄う手札なんて手に入れた友希那、俺耐えれる自信無いんだけど。

 

「ま、まあそんな感じでアクセサリーの候補はいくつかあるんだ」

「……たとえば?」

「んーと、ほら、これとか。軽めの腕時計。そこまで高くないけど良い感じの色じゃないか?」

「それもいいわね。でもこっちもどうかしら。シックな雰囲気で小さめ」

「あー、それもいいな。比較的手頃だし」

 

 これはもう決まりだ。友希那からのお墨付きもあることだし、悩んだ分思い切って躊躇わず購入ボタンをクリック──

 

「──待って」

「友希那?」

「その、もう少し、考えてみても良いと思うわ」

 

 液晶にタッチしかけた指が、華奢な両手にすっぽりと覆われる。ひんやりとした指先は、先ほどよりもほんのりと温もりを帯びていた。

 

「これはあくまで私の周りの子の価値観の話であって、私個人の好みではないのだけれど」

「保険が多い……」

「せっかくアクセサリーを買うのなら、もう少し意味を持つものにしても良いと思うわ。種類も豊富よ。例えば指輪とか、ネックレスとか、指輪とか、ブレスレットとか、指輪とか、髪飾りとか、指輪とか」

「なんかラインナップに偏りがあるような」

「……予行練習にもなるわ」

「……なるほど」

 

 二人しておもむろに立ち上がってから、上着を羽織る。

 

「行くか、アクセサリー探し」

「……そうね」

 

 とはいえ、何を購入するかはとっくに指し示されている訳なんだけど。お互いに分かっているくせに触れないのは、口に出した瞬間照れて収拾がつかなくなるからだ。いやわけわかんない。恋愛に強いのか弱いのかはっきりしてくれ。俺の心臓のために。

 そうぼやいてから、俺は住み慣れたマンションのドアノブを握った。

 

 

 

 我が家を後にして、肌寒い舗道を靴で叩く。年末だというのに、昼下がりの時間でも街にはあまり人が見られなかった。

 

「やっぱり年末ライブって練習の予定が詰まるよな」

「ええ。休日は今日1日だけだわ」

「スケジュールがハードすぎる……俺はともかく、友希那たちは無理しすぎるなよ」

「これでも楽な方よ。事務所との話し合いも奏人が大半を請け負ってくれているから」

「役に立ててるか?」

「当然よ」

 

 自信を溢れさせた声色でそう断言してくれるのだから、これ以上に安心することはない。

 声だけじゃなくてこうして歩く佇まいまでかっこいいんだからこの子すごいよな……なんで私生活は緩んじゃうんだろう。いや友希那に限らずRoseliaって基本的にはかっこいいのにどこか抜けてるというか、年相応の微笑ましさがある。そういうところも魅力なんだろう。

 

「ライブか……アクセサリーとか付けてもいいのか、ああいうのって」

「……その手があったわ」

「どの手だ」

「指輪をして歌うのもパフォーマンスになるかもしれないわ」

「ならないだろ、絶対」

「……それか、奏人に付けておいてもらおうかしら」

「俺に付けて何になるんだ」

「売り切れのサインになるわ」

「そんなことしなくても、俺はとっくに友希那のものだって」

「…………」

 

 頬を赤くしてはあ、と大きめのため息を吐く友希那。

大人びた顔の彼女にしては幼なげな表情に熱い頬を緩めていると、彼女は目を細めながらこちらを睨んできて。

 

「そういう不意打ち、いつまで続ける気なのかしら」

「友希那がそういう反応してくれる間はずっとかもな」

「今年で終わりだわ」

「その自信はどこから来てるんだ……そもそも今年はもう終わるんだって」

 

 おかしいな、声色はさっきと同じなのにちっとも信憑性がない……。そりゃそうだ。俺も友希那も恋愛は不慣れというか、奥手というか、こと恋路に関しては進歩が遅いわけで。初心な時期が長いのは当然と言えば当然のこと……これ言ったら皆に呆れられたんだよな。俺と友希那は結構本気でそう思ってるんだけど。ともかく、少なく見積もってもあと3年はこんな感じのやり取りが続く気がしている。

 

「……そう考えると、いつか当たり前になるのか」

「なにが?」

「今年こそ初めてだけど、二人での年越しが。あと何年こういうやりとりで年を越せるのか、結構楽しみになってきた」

「……ずっと二人とは限らないわ」

「えっ」

「奏人が考えているようなことじゃないから、そんな悲しそうな顔しないで。だから、その……何年かしたら増えるかもしれないでしょう、人数」

「…………」

 

 ため息を吐くのは、今度はこちらの番だった。

 なんなのこの子。いじらしい表情でそんなこと言ってくるの反則。これもあと3年以上続くの?大丈夫か俺。ちゃんと生計が安定するまで我慢できる気がしない。

 

「……そういうつもりで買った方がいいか、アクセサリー」

「別に、急ぐ必要はないわ。いつか、もうちょっと高価な贈り物をお願いするから」

「それ本当に“ちょっと”か?」

「あなた次第ね」

「……もう少し待ってもらえると」

「ライブはともかく、お正月に家に帰るときくらいはつけて行くわ」

「急に銀行までUターンする必要が出てきた」

「冗談よ」

 

 いや半分くらい本気だった……声のトーンが真面目だった……。据え膳、なんていう脳裏に浮かんだ言葉を何とかしてかき消す。こういうのは勢い任せにしちゃいけない。だからまあ、間違ってはないと思うんだけど。

 

「……待ちぼうけにさせちゃってるか」

「?」

 

 きょとんと首を傾げた友希那は、それからかけられた言葉の真意に納得がいったのか朗らかに笑って。

 

「気にする必要はないわ。ゆっくりで」

「ゆっくりでいいのか」

「ずっと隣にいてくれるから」

「……それは、まあ」

 

 淡くはにかむ笑顔に、ぼんやりとした返答を返す。

 友希那のそばにずっといるつもりではあるものの、改めて彼女の口からそう聞くと信頼がこそばゆいというかなんというか。受け取る時のテンションが難しい。どう捉えるのが正解なんだろう、これ。

 

「私こそ、急かしているかしら」

「それこそ気にすんな」

「……そう?」

「歩調を合わせるのって、難しいからな」

「そうね」

「だからまあ、ゆっくりで」

 

 ただでさえ俺たちは距離の測り方が不器用な部類の人間だ。普通よりも時間がかかっていることは自覚してるし、焦ってもうまくいかないことくらいは分かる。恋愛めちゃくちゃ得意な友希那とか想像できないし。俺も然り。だからこうして、不器用に、不安定にくっついて歩幅を合わせていくしかない。

 「それに」と、いたずらっぽく言葉を続ける。

 

「早いと皆になにか言われそうだし」

「たとえば?」

「付き合うのはあんなに遅かったのに、とか」

「ああ……」

 

 容易に想像がついたのか、友希那は小さく笑みをこぼした。皆のことを思い浮かべて何よりも微笑ましさが先に出るあたり、彼女のRoseliaへの想いが見てとれる。

 

「なら、早すぎるのも考えものね」

「そういうこと」

「遅すぎるのは?」

「……待たせないよう善処します」

「期待しているわ」

 

 何気ない動作で、ゆっくりと手を取る。少しだけ冷たい手は特に驚いた様子も見せずに、小さな隙間を埋めるように指を絡めてきた。

 

「寒くないか、友希那」

「別に平気よ。奏人の手は温かいから」

「じゃあ友希那は心が温かいんだ」

「どういうこと?」

「そういう迷信。手が冷たい人は心が温かい、みたいなやつ」

「手が温かい人は?」

「もしかしたら俺は心が冷たいのかもしれない」

「その迷信は信じられないわ」

「即答」

「だって、奏人は温かいから」

「手が?それとも心が?」

「両方よ」

 

 合わせ慣れた歩調に、時間の経過を実感する。軽口の応酬をしているうちに、つないだ手のひらはとっくに二人分の熱を共有するようになっていて。

 

「友希那の手も温かくなってきたな」

「嬉しそうね」

「そりゃ、寒がってほしいわけじゃないし」

「……手だけじゃなくて、全身を温かくできる方法があるのだけれど」

「……家じゃダメか?」

 

 隣の歩調に合わせ足を止める。そっと視線を移すと、そこには心なしかむすっとした表情で抗議の念を送ってくる友希那が。

 

「別に、今さら照れるようなことでもないでしょ」

「いやそんな顔赤くしながら言われてもな」

「鏡でも見てみたら?」

「俺、そんな顔赤いか?」

「顔色というよりも、表情が嬉しそうだけれど」

「……わがまま友希那だ」

 

 見透かされてる恥ずかしさから意識を逸らすように、ため息を一つ吐いてからこちらに寄せてきた体躯を抱き寄せる。頬の紅潮をそのままにした友希那は一瞬硬直し、それからすぐに全身を弛緩させた。まるで信頼の証とでも言いたげに体重を俺に預けながら、彼女はその見惚れるような顔をゆっくりと上げて。

 

「恥ずかしいのかしら」

「それはこっちの台詞。まあ、一応外だし。人通りがそんなになくても恥ずかしいものは恥ずかしい」

「どのくらい?」

「そうだなあ……」

 

 友希那に甘えてもらえるのは嬉しさが大部分を占めるんだけど、確かに公衆の面前という若干の気恥ずかしさはある。ただ改めて考えてみると、この笑顔の前にその割合なんて微々たるものだ。

 

「まあ、ちょっとだけ」

「その“ちょっと“、いつか無くなりそう?」

「今年で終わりだな」

「ほんとうかしら」

 

 すぐに終わるわよ。どこか可笑しそうに、俺の腕の中で友希那は微笑をこぼしてみせた。

 





 ちょっとだけじゃなくて、たくさん。



 さて、3話だけでしたが今年もありがとうございました。
 来年も未練がましく続けるかは今のところ未定です。
 みなさん、良いお年をお過ごしください。
 
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