銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

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 こんにちは。夕焼けです。
 定期テスト中なので投下します(?)
 糖分少なめ。赤メッシュさん出るよ。
 



4話

『ごめんなさい、今日は少し遅れるわ』

 

 放課後、いつものようにライブハウスのカフェテリアで友希那を待っていると、彼女からそんなメッセージがチャットアプリに飛んできた。

 

『わざわざ集合時間を早めたのに本当にごめんなさい。ちゃんと埋め合わせはするから』

「気にするなよ、と」

 

 彼女が気負わずに済むよう返信してから、ふうと息を吐いた。

 生真面目な友希那が遅刻なんてのは、外せない急用が出来たとかRoseliaやその他の友人と出かけるとかに限られるのだ。

 俺にそれを邪魔する権利もなければする気も全くないから、落ち込んでいても仕方がない。

 そう、仕方がない。それは理解しているのだが。

 

「だけどなあ……」

 

 頭で理解している一方で、思いのほか俺の気分の落ち込みは激しかった。ほとんど毎日顔を合わせているからか、思っていたよりずっと彼女と会うルーティーンに楽しみを抱いていたらしい。

 とはいえ誰も悪くないので誰かを責めるわけにもいかない。なんとなくやるせなくなった俺は小さく肩を落とした。

 

「「……はぁ」」

 

 軽くため息を吐くと、偶然にも落胆の声が重なった。後ろのテーブル席からだ。

 不謹慎ながら親近感を覚えながら、何気なく視線を向けた先。

 

「あれ、音無さんじゃないですか」

「……ああ、美竹さんか」

 

 そこには、黒髪に赤メッシュを添えた『反骨の赤メッシュ』こと美竹蘭が俺と同様に肩を落として座っていた。

 

「どうしたんだ?そんな声出して」

「いえ、練習する予定だったんですけど予約の時間を一時間ほど間違えてて……というか音無さんの方こそ。何かあったんです?そんなに気落ちして……湊さんいませんけど」

「ちょっと待て、なんで俺と友希那がセットの前提なんだ」

 

 自然と告げられた言葉に反論を返す。

 最近はこういう勘違いが多い。

 別に俺と友希那はいつも一緒にいるわけじゃない。お互いに一人の時間が欲しいこともあるし、それをお互い理解しているから。

 ていうか今ならまあ分かるんだけど……彼女と付き合い始める前からもちょくちょくそういう勘違いをされてたのは謎だ。

 

「この前だって。一人で予約取りに行ったらまりなさんにめちゃくちゃ驚かれたんだよ。一人で予約とろうとしたら『喧嘩したの!?』って。俺だって一人でスタジオ借りることもあるのに」

「…………」

「何その顔。当たり前でしょみたいな顔しないでくれ美竹さん」

「あの、無理があると思うんですけど」

「は?」

「湊さんと付き合ってるんですよね?」

「……いやまあ、そうだけど。何だよ、別に公共の場でイチャイチャとかしてないぞ俺たち」

「してます」

「してないって」

 

 むむむ、と顔を強張らせる美竹さん。

 その凛とした表情に、思わず言葉を詰まらせる。

 いやほんと美人って得だよな……こんなに顔しかめても可愛いんだからすげえわ。近頃のガールズバンドの子たちはみんな可愛いからな……まあ、友希那がとびきりで可愛いんだけど。あくまで個人的には。

 

「やっぱり心当たりないんだけど。特にAfterglowの前でなんて手も繋がないぞ」

「……本気で言ってますか?」

「……ちょっと考えさせて」

 

 俺も友希那も、人前でイチャイチャするバカップルになりたいわけじゃない。その分家とか二人きりの時は甘えてくるし甘やかすけど……え、これが見られてたってことか?

 急にわたわたと慌て出した俺を前に、目の前の赤メッシュははあ、とため息を吐いて。

 

「別に、音無さんたちが手を繋いだりしてるところを見たわけではないです」

「イチャついてないじゃんか」

「……この前のライブですけど」

「はあ」

「終演後のフロア、覚えてますか?」

「まあ、覚えてはいるけど」

 

 急に声のトーンを変えた美竹さんに、頷きを返す。

 確か目の前の赤メッシュ含めたAfterglowの面々がRoseliaと衝突した件だったか。結局双方のファンも増えて、お互いのバンドを認め合うという円満の結果に落ち着いた大成功の2マンライブになった記憶がある。

 

「……あ。そういえば、ニ回目のライブの曲は音無さんが作るって湊さんに聞いたんですけど」

「ああ、メインのメロディーとパート分けは出来てるぞ。取り敢えず三曲くらいできたけど、後でデモ送るよ。お気に入りのフレーズがあったら教えてくれると助かる」

「あ、ありがとうございます。早いですね、是非………って、そうじゃなくて!」

 

 ドン、と勢いよく手を突いて、彼女は語気を荒げながら俺を睨んできた。

 女の子のすることにしては力強いが、彼女に限っては魅力にさえ映るのだから大したものだ。

 

「あの時の湊さん!」

「フロアで言い争ってる時の?」

「そうです」

「そんな変わったことなかった気がするんだけど」

 

 言って、思い出す。目の前の彼女が友希那たちRoseliaに見下されてると勘違いして、勝負を吹っかけてきたあのライブ。

 その時の事だろうけど……なんだろ、強いて言うなら友希那がやけにこっちを見て微笑んでたことぐらいじゃなかろうか。

 

「それです。その、あたしが勘違いしてたのが悪いですけど……二人で目を合わせて笑い合ってから勝負を受けたじゃないですか」

「いやまあ、うん。て言っても、ただのアイコンタクトだろ、あれは。イチャつきに入らないんじゃ」

「あのタイミングで湊さんの意図が伝わってたのは音無さんだけでしたよね」

「あー、そうだったかも」

「それです」

「ん?」

「その滲み出る『通じ合ってる』感がイチャついてるってことなんです」

「理不尽だ!」

 

 さも当たり前のように言い切る美竹さんに思わず声を荒げる。

 全然話が通ってない。助けて早く来てくれ友希那。俺じゃ美竹さんの相手は分が悪い。経験弱者はこういう時に弱いんだ……美少女相手ってメンタル削られるから。悲しい。

 

「……何その微妙な反応」

「いや分かった。俺が友希那とセットなのは納得する」

「折れるのが早くないですか?」

「まああながち間違いじゃないし」

 

 特に最近なんて友希那と一緒じゃないことの方が珍しいかもしれない。休日は二人で出かけたりするし、ライブハウスの予約がない日もRoseliaのみんなと遊んだりしてる。

 この間のトコナッツパークとか楽しかったな。友希那も終始笑顔だったし、みんなで水遊びをするのは思った以上に楽しいものがあった。

 まあアレだな、俺の彼女は水着でも可愛いってことが証明されたのが一番良かったけど。美人ってのは何着ても似合うんだから。

 そうして友希那の水着姿を頭に浮かべながら先日の思い出に頬を緩ませていると、

 

「……それで」

「うん?」

 

 じと、と目を細めてこちらを睨む美竹さんが口を開いた。

 

「その、なんで湊さんはいないんですか?」

「ああ、何か用事があるらしくてな。今日は遅れるんだと」

「へぇ……」

「何だ?気になるのか?」

「まあ、そうですね。『一応』ライバルなので」

「……友希那は不器用なとこあるから。許してやってくれ」

「いいですよ。気にしてないので」

 

 そう言いつつも、美竹さんは頬を少し膨らませながらふい、と顔を背けてしまう。こう、素直じゃないところとか友希那に似てる気もしなくもない。本人に言ったら微妙な顔されるんだろうけど。しかしそっか。彼女にとっては友希那の「あなたたちは一応ライバルよ」発言がいまだに尾を引いているらしい。

 

「友希那だってちゃんとAfterglowはライバルだと思ってるからさ」

「……そうですか」

 

 俺の苦し紛れのフォローもバッサリと切り捨てる赤メッシュ。

 うーんこのツンツンボーカル。どうしたもんかね……。取り敢えずこの前みたいな『RoseliaがAfterglowを見下している』っていう勘違いは解けてはいると思うんだが。

 ていうかこの空気は気まずい。めちゃくちゃ居心地悪くなる。俺は美竹さんに対しては苦手意識はないとはいえ、彼女からしてみれば一歳年上の男だ。多少なりとも忌避感が……いやどうだろ、あんまり気にしない気もしてきた。

 

「あの、音無さん」

 

 なんと言って空気をよくしようか、なんて一人考えていると、恐る恐るといった様子で美竹さんが話しかけてきて。

 

「音無さんはどう思ってるんですか?」

「何がだ?」

「その……Afterglowのことです。いいバンドだと、そう思ってますか?」

「ああ、思ってるよ。間違いなく、Roseliaに並べるレベルのバンドだ」

 

 俺にとっての一番はRoseliaだけど、と。不意の質問につっかかりながらも、答えを口にする。

 その言葉に嘘偽りも気遣いも無かった。

 ただ、脳裏に浮かんだ彼女たちの姿が。頭の中で思い出される音楽が、そう口に出させただけだった。だからあくまで自然に。当たり前のことのように答えた俺に、美竹さんは目を丸くして。

 

「…ありがとう、ございます」

 

 それから、安心したように息を吐いた。

 

「一度、音無さんがどう思ってるか聞きたかったんです」

「どうして俺に?」

「この前、湊さんと話したんですよ。『自分の歌が好きか』って」

「それで?」

「私は勿論好きだって言ったんですけど。湊さん、なんて言ったと思いますか?」

「多分、はっきりとは言えない、とか言ったんじゃないか?」

 

 容易に想像できる台詞に苦笑いしながらも、そう答える。

 2年前。俺が友希那と出会ってすぐの頃。自分の音楽が好きかと、俺が彼女に尋ねた時。

 

『好き……とは多分言えないわね。今の私の歌は、お父さんを追いかけてるだけだから』

 

 悩ましげな、不安そうな表情を浮かべて、彼女はそう答えていた。

 だから、その答えは今でも変わっていないと。そう思って質問に応えたのだが。

 

「違いますよ」

 

 問うた先で、美竹さんは彼女に珍しく淡い微笑を浮かべて。

 

「Roseliaのみんなで、音無さんの歌を歌う時が好きだって、湊さんはそう言ったんです」

「─────」

 

 告げられたその言葉を聞いて。

 不意に、視界の中で銀色の髪が煌めいた。

 ちょうど、あの時と同じようにカフェテリアに姿を見せた友希那だ。

 そう、あの時。1年前、彼女のスランプに向き合った時。

 それを思い出した、刹那。

 

『……私はあなたとの歌、好きよ』

『そうね。あなたと歌を歌っている時は、本当に楽しい』

 

 春風のように、いつかの記憶が脳裏を横切った。

 

『ずっと、分からなかったわ。何のために歌っているのか。……でも、ようやく答えに辿り着けそうな気がするの』

 

 自分の歌う音楽に疑問を抱いていた、遠い日の少女。

 ……ああ、そうか。

 友希那はこんなにも、俺との音楽を……。

 

「音無さん……?」

「……あぁ、いや」

 

 不思議そうに、というか心配そうな顔をする美竹さんに、俺はふるふると首を横に振って。

 

「友希那は、自分の歌を好きになってくれたんだな」

 

 その一言に、どんな思いが込められているのか分からなかったのだろう。

 きょとんとした顔をする美竹さんを見る……ああもう、くそ、視界が滲んで輪郭も朧げになってきやがった。

 

「ちょ、ちょっとなんで泣いてるんですか!?」

「なんかうるっと来ちゃって……」

「これじゃまるで私が泣かせたみたいじゃないですか……」

 

 年下の女の子の前で涙を流してしまったという事実に、照れ隠しの意味も込めて慌てて袖で目を拭おうとしていると。

 

「───何をしているのかしら」

 

 そんな、凍てついた声が差し込まれた。

 

「み、湊さん」

「こんにちは、美竹さん。どうして奏人が泣いているの?」

 

 いつの間にか俺たちの横に立っていた友希那は、そう言葉を告げて。

 

「…………」

 

 絶対零度もかくやと思わせるような目線で美竹さんを睨んでいた。

 なるほど。これアレだ。美竹さんが俺を泣かせたと思ってるやつだ。

 いや間違いじゃないけど。俺そんな年下の女の子に泣かされるように見えるかね……。

 逆に言えば俺が心配されるくらい想われてるってことだから喜んでもいいとは思うんだけど……とりあえず誤解を解かないと。

 

「あー友希那、これはだな……」

 

 若干自分の頼りなさに苦笑を浮かべつつも、涙を拭ってから友希那に話しかける。

 

「ちょっと良い話聞いただけだ。こう、なんて言うんだろうな、報われたっていうか」

「……美竹さんに泣かされたわけではないの?」

「いやそんな頼りないか、俺……」

「ふふ、冗談よ」

 

 そう言ってくすりと笑いながら、友希那は美竹さんに視線を移した。

 

「驚かせてごめんなさい、美竹さん」

「いえ、平気ですよ」

 

 さすが反骨の赤メッシュ。さらりと友希那の謝罪を流して……おいなんでこの子は微笑ましそうに笑ってるんだ。なんでちょっと生暖かい目で俺を見るんだ。そんな優しい目できたの君。それは今俺に向けるべきじゃねえぞ。もっとお父さんとかに向けてあげなさい。

 

「それで、奏人とどんなことを話してたのかしら。なぜ泣いてたか気になるのだけど」

「ちょっと友希那さん傷口に塩塗るのはやめて」

「ああ、それは……」

「おい言うな赤メッシュ今度なんか奢るから」

「気にしないで、美竹さん。何を言ってたの?」

「ええと……湊さんが音無さんの歌が好きだってこと言ったら急に……」

「…………」

「…………」

 

 不思議そうに尋ねていた友希那は、しかしその言葉を聞いた直後、スッとスイッチでも入れたかのように頬を真っ赤にした。

 

「そ、そう……私のことだったのね」

「いっそ殺してくれ……」

「私のことで泣いてくれたのでしょう、悪い気なんてしてないわ」

「いやこう俺の羞恥心的にだな……」

「………むしろ嬉しいから。安心してちょうだい」

 

 言いながら、照れたように指を組んでもじもじとする友希那。

 ああもうほら美竹さんの前だから平静を保とうとしてるけど口元緩んじゃってるもんこの子。

 嬉しそうでいいな友希那……俺は恥ずかしさで死にそうです。

 

「……ほんと、お似合いですね」

 

 遂に両手で顔を覆った俺と、未だ照れている友希那を見てため息を吐いてから、美竹さんはその甘ったるいであろうコーヒーを口に運ぶのだった。

 




 ご拝読ありがとうございます。
 これからもスローペースにはなりますが頑張っていきたいので応援していただけると幸いです。
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