銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

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 受験勉強の息抜きに書いたら書き方を忘れてました。
 夏だから水着回です。久しぶりに書いたせいかめっちゃ甘くなってしまいました。
 よければ、ぜひ。

 誤字報告いつもありがとうございます。





6話

 八月。夏の真っ只中。

 

「………」

 

 ざざーんという人工の波音を聴きながら、俺はなんの変哲もないプールサイドに腰を下ろしていた。眼前には、絵に描いたようなプール施設を楽しむ人々の姿が見える。

 トコナッツパーク。

 ウォーターアトラクションが数多く設置されているテーマパークは、休日らしく賑わっていた。

 

「きゃああああ!!」

「りんりん、しがみつくならボートにしてよー!」

 

 聞き慣れた声に目を向けた先にいるのは、ウォータースライダーに乗るRoseliaの面々。

 それぞれ水着に身を包んだ彼女たちは、夏の暑さも何とやらといった様子でボートの上ではしゃいでいる。

 いや燐子ははしゃいでるっていうか怖がってるけど。大丈夫かアレ。ボートから落ちたりしないか。だいぶ激しいコースだから普通に心配だ。

 

「……まあ、でも」

 

 普段から音楽に一生懸命な彼女たちが年相応に楽しんでいるのを見るのはやはり微笑ましい。

 そう笑うのは流石に年寄り臭いだろうか。なんて、どこか苦笑しながらも彼女たちの楽しげな姿につい頬を緩めていると。

 

「乗らなくてよかったのかしら、奏人」

 

 不意に、そう問いかけてくる声があった。

 声を頼りに顔を上げれば、そこには見慣れた髪色の、見慣れない姿が目に入ってくる。いつも通りの声が出せるか不安だ。なんとか目の前の眩しい素肌に目を奪われないようにしないと。

 

「こうしてのんびりする方が性に合ってるからな。ついでにあの中に入ったらここの男性客に殺されかねない」

「?どうしてかしら」

「……いろいろあるんだよ」

 

 実際、殆どの客は彼女たちを見ては微笑ましそうに笑っている。あの中に男子一人が入り込んだらどうなるかなんて……まあ、火を見るより明らかだ。……俺の精神の安定の為にもやりたくないしな、うん。

 

「ていうか友希那こそだろ。一緒にウォータースライダー乗んなくてよかったのか?意外と楽しめそうだけど」

「私はいいのよ」

「そりゃまたどうして」

「……本気で聞いてるの?」

「…………」

 

 頬を淡く染めながらむす、と不満げな顔でこちらを睨む友希那。

 いや、こういうデレはずるい。どう反応すれば良いか分からなくなる。

 

「……ま、まあこうして足だけ水に入れるのも気持ちいいぞ。友希那もどうだ?」

「……釈然としないけれど、奏人がそう言うのなら」

 

 わざとらしく話題転換をした俺に、友希那はそう言ってすとんと腰を下ろす。

 俺と拳二つほどの距離を置いて座り込んだ友希那は、ゆるりとした動作で指先を水面に浸し、それからぽつりと言葉を紡いだ。

 

「……水着」

「うん?」

「どうかしら。リサと買ったからそこまで不安ではないのだけれど」

「……」

 

 急な問いに、何と返したものか、と考えながら彼女の水着に目を向ける。

 黒いビキニ型の水着は、シックなその色が少女である彼女により一層大人の魅力を付与しているようで。

 元から片鱗を見せていた可憐さは何割か増し、暴力的なほどに俺を魅了してくる。まあ、うん。スレンダーな体もそれを底上げして……この話やめよう。細かく見すぎると気味悪がられそうだ。

 

「まあ、似合ってると思うぞ。友希那は大人びてるし、雰囲気が合ってる気がする」

「そう言う割にはしっかりと見ていないわよね。他のみんなにはいつも通り接しているのに」

「う……」

 

 友希那の刺すような視線に思わず言葉が詰まる。

 やっぱり視線ってバレるよな……まじまじと見なくて良かった。友希那にドン引きなんてされた日には生きていける気がしない。

 申し訳なさを感じながら、俺はどこか不満げな表情の友希那に言葉を返す。

 

「こう、何だろうな……皆は別に平気なんだけどさ」

「けど?」

「……色々違うんだよ、好きな人が相手だと」

「──────」

「いやごめんな、ちゃんと見る。せっかく着替えてくれたんだし」

「………」

「友希那?」

 

 謝罪の言葉を口にした俺に、しかし友希那は無言を貫いていて。

 恐る恐る視線を向けた先、彼女はその顔を耳まで真っ赤にしたまま俯いていた。

 数秒の沈黙の後。

 

「……そういうことをさらりと言うのはずるいと思うわ」

「……まあ、本心だからな」

「……そう」

 

 それなら、と友希那は言葉を続けて。

 

「その、存分に見てちょうだい」

 

 ぎこちなく言って、その場で立ち上がる。

 後ろ手を組み、恥ずかしげに視線を逸らす友希那に俺は目を向ける。

 引き締まった、それでいてちゃんと女性らしい華奢な体。

 陽光の下、惜しげもなく晒される白磁の肌。

 そして何より、恥じらいを帯びるその表情に胸がざわめいた。

 

「……綺麗だ、よく似合ってる」

「!……ありが、とう」

 

 心から告げた言葉に友希那は嬉しげに微笑んで、その顔を朱に染めたまま再び俺の隣へ腰掛けた。

 拳一つ分ほど離れた位置。

 ともすれば肩がぶつかってしまいそうな距離で、友希那はそっと口を開く。

 

「……その」

「ん?」

「少し、肩を借りても良いかしら」

「……?ああ、もちろん」

 

 俺が頷くや否や、友希那は俺の肩に頭を乗せ、身を寄せてきた。

 触れ合う肌が熱い。俺か、彼女か、はたまた両者の熱だろうか。

 

「……奏人」

「どうした?」

「胸が、痛いほどに高鳴る……これが、人を好きになるということなのかしら」

「……俺はそういう認識だけど」

「そう……悪くないわね」

 

 そう、万感の思いを込めた様に告げる友希那の手のひらをそっと握る。

 彼女もまた、小さく身じろぎをしておずおずと手を握り返してくる。

 鼓動は速くなり、俺たちの感情をありありと伝え合っている。

 握る手に力を込めれば、友希那は熱を帯びた眼差しで俺を見上げてきた。

 

「……好きよ」

「……俺も大好きだけど」

「ふふっ……」

 

 俺の言葉に友希那は幸せそうに笑い、それからそっと瞼を下ろした。

 ……これはまずい。今の彼女に羞恥心なんてものはまるで無い。見るからに俺への好意が溢れ出てる。

 

「………」

 

 勿論、その彼女をより一層愛おしく思う俺も俺なんだけど。

 自分の想いの大きさに苦笑して見つめるのは、目を瞑り、ついと顎を上げる友希那。

 そのいじらしさに今一度胸を締め付けられながら、俺は彼女と唇を触れ合わせようとして。

 

「………」

 

 視界の端、ウォータースライダーから降りてきてこちらを見つめるバンドメンバーたちの姿に気がついた。

 いやリサ、ニヤニヤしてゴーサインを出されても困る……ってあれ、ちょっと待て。

 

「?奏人……?」

 

 到着の遅さに不安を抱いたのであろう、恐る恐ると言った様子で目を開けた友希那に、俺は黙って視線で周りの状況を示す。

 そこでようやく俺の顔から視線を移動させた友希那は、

 

「………ぁ」

 

 周りの生暖かい目を目視するなり、かぁ、と頬を赤らめて俯いた。

 ええ……俺も気づかなかった……何この周りの視線。つら。ここって温水プールだっけ……紗夜に確認してみよっかな。いやていうか何。俺たちこの視線の中であんな会話してたの?死にてえ。

 

「………」

「………」

「……その、友希那。そろそろ移動しようぜ」

「…………」

 

 この場からの退避を促すも、返事をしない友希那。伝わってくる鼓動が彼女の動揺を教えてきて……ダメだこの子羞恥で動けなくなってる。いや俺もだいぶ恥ずかしいんですけど友希那さん。

 

「………」

「ちょっと友希那待って抱きしめるの止めて顔見られたくないの分かるけどもっと恥ずかしいから」

「………」

「まったく……」

 

 周りの視線に頬の熱が上昇するのを自覚しながらも、俺は抱き着いてきた彼女の背中を軽く叩いて。

 

「……好きだよ、友希那」

 

 その、誰よりも愛おしい名前を大事に口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

「どうだ、座り心地は」

「快適よ……こうして空を見上げるだけでも、意外と良いものね。普段は出来ない経験だわ」

 

 騒動からしばらくして、俺たちはゆっくりと流れるプールでくつろいでいた。

 店から借りてきた大きな浮き輪に友希那を乗せ、俺はその船頭を買って出ている。

 

「………」

 

 波に揺られながらぼーっと空を見つめる友希那。

 普段の彼女からは想像できないような緩み切った表情に笑みを溢しながら、俺は言葉を紡ぐ。

 

「あれがなければもっと楽しめたかもな」

「……あれは、忘れてちょうだい」

 

 おどけるように言えば、友希那は居心地が悪そうに目を逸らした。

 あの騒動の時。完全に浮かれきって周りが見えなくなっていた俺たちは、状況を把握した我らが頼れる紗夜が事態を収拾したことで無事激怒されることとなった。

 いやしかし、友希那が自業自得とは言え大人しく怒られてるのなんて初めて見た。それほど浮かれていた自覚があったのだろう……ちなみに俺はリサと紗夜二人の前で正座をしたのでこう、なんだろう、なんか色々と失った気がする。

 

「……お互いに悪かったからな。今度からは二人の時でも周りちゃんと見るってことで」

「………」

「え、どうした友希那その膨れ面」

「……いえ、何でもないわ。気にしないで」

「誤魔化し方下手くそか。いや、無理して言わなくてもいいけどさ」

「……笑わないかしら」

「……笑わないけど」

 

 それなら、と。友希那はそう言って俺の顔を見上げてから。

 

「……周りを見るより、その……あなたには私を見てほしいと、そう思ってしまったから」

 

 戸惑うような、恥ずかしがるような顔で放ってきた言葉に俺は固まった。

 今日の友希那さん殺傷能力が高すぎる。さっきからこういう殺し文句をぽんぽん放ってくるんだけどなにこれ。俺今日で既に三回くらい死んでるんだけどなにこれ。

 

「や、やっぱり忘れてちょうだい」

「……友希那、ちょっとごめん」

 

 言って、頬を朱に染める彼女の顔に手を軽く被せる。

 

「………」

「……どうしたのよ、私の目なんか覆って」

「いやちょっと、今顔見られたくないっていうか」

 

 問いかけてくる友希那に答えながらも、俺は感情の吐露を抑えるのに必死だった。

 鏡なんて見るまでもない。

 絶対ニヤニヤしてる。絶対だらしない顔してる。すれ違う親子連れの人すごい微笑ましそうにこっち見てるし……いや恥ずかしいなこれ。どうしよう。

 彼女からの言葉と羞恥に頬の熱を上げる俺の眼前、友希那は彼女の顔に被さる俺の手を握ると同時、それを視界から外して、

 

「別に、気にしないわよ。……どんなあなたでも、私は好きだから」

「………今日のお前、ほんとにずるい」

「ちゃんと、周りよりも私のことを好きになってもらうわ」

「徹底しておられる……」

 

 ふふ、と声を漏らしながら握った手の指を絡ませる友希那。

 可愛いかよ……可愛かったわ。とっくにベタ惚れなんだよなあ……。

 

「だから、二人でまた色々な場所で歌を作りましょう」

「ああ、それは勿論いいけどさ……場所をわざわざ転々とする必要はあるのか?」

「当然よ……見惚れるような私をまだ見ていないでしょう?」

「いや、もう十分見てるけどな」

「………」

 

 俺の作った料理やリサのクッキーを美味そうに食べる彼女も。猫に頬を綻ばせる彼女も。空を見上げる彼女も。そして、何よりもステージで歌う彼女も、俺の中ではいつだって絵になる姿なのだから。

 そう伝えると、彼女はその目を大きく見開いて。

 

「そう……だったわ。奏人は私のことを、知っているものね」

「ああ。友希那も俺のことはよく知ってるだろ?」

「……ええ」

「まあ、そういうことだ」

 

 言って、お互いに見つめて笑い合った。それと同時、二人の間に会話が無くなる。

 先ほどまでの甘ったるいものではない。相手を理解して心が通じ合ったような、そんな心地よい静けさ。これが共有できるのは彼女とだけだ。

 

「………」

「………」

 

 沈黙の中、再び浮き輪ごと波に乗り始めた友希那は、気持ちよさそうに目を細めて空を仰いだ。

 その、年不相応なあどけない笑顔に心を奪われる。

 ……ほんとにもう、この歌姫はいつだって俺を魅了し続けるんだから。いつだって惚れ直してしまう。困ったものだ、ほんとに。

 溢れた思いを誤魔化すように絡める指に力を込めると、友希那は淡くはにかんだ。

 そんな彼女の表情を愛おしく思いながら、俺もしばらく水に身を任せていると。

 

「友希那、奏人、ビーチボールで遊ぼー!」

 

 向こうからリサたちのそんな声が聞こえてきた。

 確かにちょっと友希那を独占しすぎたかもしれない。そろそろ行かないと拗ねられそうだ。

 

「向こうに遊びに行くか、友希那」

 

 二人の時間を少し名残惜しく思いながらも誘った俺に、友希那はこくんと頷いて。

 

「……そうね。皆とも遊んでみたいわ」

「よしきた」

「……」

「どうした?」

「……こうして浮き輪を引いてもらうのも少し申し訳ないと思って」

「そんなこと気にすんなよ。つうか逆は流石に格好つかないでしょうが」

「それでも、甘えすぎはよくないでしょう?」

「いや、そうでもないぞ?甘えてくれた方が男冥利に尽きるもんだからな」

 

 リサたちの方へ向かいながらそう言うと、友希那は半目でこちらを睨んできた。

 

「奏人、あまり私を甘やかしすぎるのも良くないわ」

「そうか?好きでやってるんだからいいだろいててててやめて友希那ほっぺつねらないで」

「ほら、こうして調子に乗るわよ」

「いや俺は別に嬉しいんだけど」

「………」

「違う、違うから友希那。その変質者を見るような目を止めろ心に来る」

「……何、頬をつねられるのが嬉しいのかしら」

「だから違くて……その、甘えてくれるのが、だ」

「……ああ、甘えられるのが嬉しいの。それなら、奏人」

「うん?」

 

 数秒のやり取りに気疲れしてげんなりと言葉を返した俺とは対照的に、友希那はにこりと笑って。

 

「あなたも甘える側になってみる?」

「は?」

 

 呆けた声を漏らした俺に、しかし彼女はその笑顔を崩すことはなかった。

 

 

 

 それから、Roseliaの皆で遊んだ後。施設内のレストランにて。

 

「……これ美味しいな」

「こっちのムール貝もどうかしら」

「お、じゃあもらう……」

「はい、どうぞ」

「え」

「えじゃないわよ。奏人を甘える側にするためだわ」

「いや一人で食えるんだけど。普通に取らせてくれよ」

「だめよ。ほら、あーん」

「………」

「ちょっと、口を開かないと食べれないわよ」

「いや友希那さんここ公共の場。人いるから。恥ずかしいだろ」

「今はみんなナイトステージを見に行ってるわよ」

「ああ、それで全然人いねえのか……隙がねえ」

「早く、奏人」

「ていうか何、友希那それするためだけにここ残ったの?俺を甘やかすために?」

「……そもそも、奏人は私が移動しないからここにいるのでしょう?」

「口に出さないでお願い。そういうのは察して恥ずかしいから」

「ふふっ………はい、奏人」

「え、やだそんな脳味噌蟹味噌カップルみたいなことしたくない……」

「………そう……」

「ああいや、冗談だ。あ、あー……」

「!はい、あーん」

「あ、あむ……」

「どうかしら」

「……味しないんだけどこれ」

「?そんなことないでしょう、貝料理よ」

「いや、なんて言うか……ほら、友希那も。あーん」

「………」

「おい顔逸らすなそれはずるだろ」

「……するのはともかく、されるのはちょっと」

「大丈夫だって人いねえし」

「…ちょっと、手を繋ぐのは反則でしょっ……あむっ」

「……どうだ?」

「……味がしないわね」

「だろ?」

 

 しっかりバカップルをかまして若干後悔しながらも夕食を済ませたり。

 

 

 

「わあ!花火が上がったよ!あこがドラムを叩くときも出ないかなー」

「いやそれはちょっと危ないかなぁ……」

 

 その後、皆に合流したナイトショーで。

 

「みんな、ショーにすっかり夢中みたいね」

「ああ、燐子は衣装に目キラキラさせてるしあこは演出に興味津々だしな」

「ええ、来てよかったわ」

「そうだな……」

「………」

「………」

「……私には二人ともお互いを見つめ合ってるようにしか見えませんが」

「…………」

「…………」

 

 紗夜の苦笑と指摘に二人して頬の熱を上昇させながらも手を握りあったり。

 そんなこんなでどこか甘ったるい雰囲気のテーマパークを、俺たちは時間を忘れるほどに楽しんだのだった。

 

 




 御拝読ありがとうございます。
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 では、また次回。

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