銀髪の歌姫が恋愛初心者で可愛い   作:夕焼けの空

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 お久しぶりです。夕焼けです。
 リアルが色々と落ち着きました。
 久しぶりに描いたせいか友希那さんが甘えまくってます。
 少しばかり温かい目で見ていただければ。


7話

 

 

 

 秋。

 食欲の秋やら読書の秋、といった言葉が飛び交う季節だ。

 うん、美味しいものが食べたい。没頭できるような本も読みたい。秋万歳。

 

「……そう言うけれど、私とあなたは秋どころか一年中音楽と言ったほうがしっくり来るわね」

 

 予約の取れなかったライブハウスの代わりとして俺の住むマンションの一室で。

 音楽の休憩ついでに秋の娯楽を訴える俺に、隣の友希那は軽くため息を吐いた。

 

「まあ確かに一年中やってるけども……」

 

 思えば彼女とこうして二人で音楽をするようになってもう長い。

 ライブハウスで練習に打ち込む時間もいいけれど、今みたいに家のソファーに座ってのんびりと音楽を楽しむのも乙なものだ。

 お互い音楽家だからなかなか飽きも来ないし。飽きたら飽きたでそばにいる相方に絡めば大抵相手されるから退屈にもならない。

 けれども、季節感がほとんど無いと言うのはやはり寂しいもので。

 

「いや、せっかくの秋なんだから美味い物食いたくないかっていう話なんだけどな」

「美味しいもの、ね……」

 

 なんかないか、と問いかけた俺に隣に座る友希那はふむと頷き。

 

「……この前行った、紅茶の美味しいカフェくらいかしら」

「ああ、あそこか。確かに美味しかったけど」

「でも、そのくらいよ。私はそこまで食欲旺盛ではないから。あなたと音楽をする方が有意義だもの」

「まあ友希那はそうだよな。紅葉とか似合いそうだから勿体なくはあるけど」

 

 脳裏に、紅葉色に染まった木々を背に微笑む友希那の姿が浮かぶ………先週くらいに見たような、目を輝かせてクレープにかぶりつく姿よりははるかに絵になるな。いやあれはあれで健康的で可愛かったんだが、やはり友希那の持つ儚げな雰囲気には美しく儚いものが似合う。

 

「……それなら、今度見に行きましょうか、紅葉。少し遠いけれど、綺麗に染まるところがあるから」

「お、おう……今の話のどこに意欲が湧いたんだ友希那……」

「……別に、どこでもいいでしょう」

「いやいいけど顔背けるなよ……ま、まあアレだ。楽しみだな、紅葉」

「……楽しみなのは、紅葉だけなのかしら」

「……いやそういうのは言わなくても察してほしいというか」

「そう?」

 

 こちらの意図を読まれややげんなりとする俺の隣で、友希那は頬を赤らめながらいたずらっぽく笑っていて。

 答え分かってて聞いてるよなこれ……まあいいけど。俺の彼女が不器用で可愛いのはいつも通りだし。

 

「……その、いい絵になるだろうな、とは思った」

「…………」

 

 照れ臭くなりながらそう告げた俺に、隣に座る友希那はその顔をより一層赤くして、

 

「おっと……」

 

 ころん、と俺の膝へと寝転がってきた。

 

「ちょ、友希那?」

「………」

 

 慌てた俺の声に、しかし友希那は無言のまま。

 急に甘えん坊モードと化した彼女に頬の熱を上げる俺の眼前、彼女はいつになく満足げな顔でこちらを見上げて、

 

「いいわね二人で過ごすの……」

 

 漏れ出したのは、ファンやRoseliaの皆にはとても聞かせられないような気の抜けた声だった。

 危ねえ。顔真っ赤じゃなかったら思いっきり抱きしめる所だった。それで友希那がキャパオーバーになって動かなくなるまでがデフォ。うーん、可愛い。

 

「……あのさ」

「……何よ、何か言いたそうね」

「いや顔そんな赤くしながら言われても……無理すんなよ、恥ずかしいなら」

「別にいいでしょう、二人きりだから」

「……俺の精神的負担は考慮されないのか?」

「たった今私がダメージを受けたわ。これは正当な反撃よ」

「今そんな歯の浮いたようなこと言ったか?」

「言ったわ」

「そうかなあ……」

「……その、嫌なら言ってくれていいのよ」

「あれだ、俺が何もしてなくても甘えてくれていいからな。そんなの考えなくていいぞ」

「あ……。………」

 

 苦笑しながらその頭をそっと撫でると、彼女は一瞬驚いたような顔をした後、淡く笑みを浮かべた。

 というか相も変わらず甘え方が下手というか…いや一周回って上手いのか?甘えることを対価としてしか受け取れられない友希那、面倒臭可愛い。

 

「………」

「どうした?」

「……冷静に考えると恥ずかしいものね」

「あー……まあ平気だろ。二人きりだしな」

「……そうね」

 

 そう、彼女の真似をして告げたこちらの回答に笑顔を見せ、それから彼女はそっと、こちらの頬に触れてくる。

 俺もまた彼女の頬をふにふにと触れば、くすぐったそうに友希那が微笑む。

 

「……こういうの、慣れてきたよな」

 

 ぽつりと呟いた俺に、友希那も思うところがあったのだろう。

 

「……ええ」

 

 友希那は目を見開いて、それから淡く、その笑みに幸福を滲ませた。

 

「リサや紗夜、あこと燐子──それから、奏人。皆のおかげよ」

「……そうか」

「………」

 

 迷いなく頷く友希那。そこに、かつての『孤高の歌姫』の面影はない。

 

『私たちは言ってしまえば仕事仲間よ。わざわざ世間話をするような関係ではないでしょう?』

 

 話すことといえば業務連絡以外最低限、のスタンスであった彼女は、しかし。

 

『別に……他愛のない話をするくらいなら』

『どこかに出かける?別に構わないわ。たまには気を紛らわせないと』

 

 少しずつ俺やRoseliaの皆に心を開いてくれて。

 

『私は、私たちはRoseliaなの──この5人でこれからもずっと歌いたい』

『ありがとう。奏人に出会えて、本当に良かったと思っているわ』

 

 いつしか、共にある事を願ってくれるようになり。

 こうして今、俺の膝の上で笑ってくれている。

 

「……夢を見ているみたいだな」

「夢になんてさせるつもりは無いわ」

 

 夢見心地でそう漏らした俺に、友希那は微笑を浮かべ、それでいてどこかむっとした表情を見せた。

 手のひらを重ね、その耳を当然のように真っ赤にして、それでも俺を映す金色の瞳は、俺から離れることはない、という確信を告げている。

 そう迷いなくこちらを見つめる目は、あの時から少しも変わっていない。

 真っ直ぐで眩しい、いつだって見惚れてしまうその在り方。

 ……ああ、本当に。

 

「……友希那」

「?」

 

 この歌姫は、俺の心を掴んで離さない。

 

「絶対幸せにする……約束だ」

「!………」

 

 彼女の手を握りながら告げたプロポーズじみた言葉に、友希那は驚いたように目を丸くして、

 

「そうね、楽しみにしてるわ」

「いやちょっと顔を俺に押し付けないで。そういうのは俺の目を見て言うことだろ」

「……今は顔を見られたくないのよ」

「俺もさっきひどい顔してたと思うんだけど」

「たしかに、あなたも幸せそうな顔だったわね」

「いやそれは──」

 

 お互いの瞳に相手の姿を映しながら紡ぐ、他愛もない話。

 そうして二人、じゃれつくように軽口を叩き合いながら、俺たちは永遠にも感じられる時間を共有したのだった。

 

 

 

 それから数時間後。

 

「お待たせ友希那。寝る前だしミルクは多めに……と、マジか」

「ん……」

 

 マンションの一室にて。

 カップを載せたトレーを持ってきた俺を迎えたのは、新曲の楽譜片手に穏やかな寝息を立てる眠り姫だった。

 『今日は奏人の家に泊まる』と友希那から聞いていたので、寝る前に彼女の好きな甘い紅茶でも出そうと淹れてきたのだけれど、どうやら無駄になりそうだ。

 俺はトレーを近くのテーブルに置き、ソファーで眠る歌姫のもとへ向かう。

 ……穏やかな寝顔だ。こんなにも可憐で儚げな少女があんなにも力強い声で音楽を生み出すなんて、なかなか想像できるものではない。

 

「お疲れ様、友希那」

 

 絹のような髪を撫でながらそう告げると、彼女の表情には心なしか喜色が浮かんだ。楽しい夢でも見ているのだろうか。

 この前は俺の名前を寝言で呟かれたせいで一人悶絶する羽目になったから、寝言には気をつけてほしい。

 この子そういうところあるからな……ほんとに恋愛初心者なのか疑いたくなる。いや普段は思いっきりポンコツなんだけど。

 

「まあ、嬉しいのに違いないんだけどな……」

 

 苦笑を浮かべながらぽつりと呟くと、彼女は小さく身じろぎをした。

 ふと、流れゆく穏やかな時間に、胸の内に込み上げるものがあった。

 親愛なる歌姫。

 どこにいても輝く、紫炎の薔薇。

 こうして彼女のそばにいられることが、たまらなく幸福に感じる。

 最愛の少女に、俺はずっと恋をしている。

 

「……好きだ」

 

 自然と漏れ出た言葉と共に、その額に唇で触れる。

 我ながら浮かれてるとは思うが、当人が寝ているなら……まあ、問題ないだろう。

 なんて考えていると。

 

「………」

 

 先ほどから、眠り姫の頬がほんのりと赤くなっていることに気がついた。

 

「……あの、もしかして友希那さん起きてます?」

「……なんで敬語なのかしら」

 

 おずおずと問うた俺に、友希那はぱちりと目を開けて言葉を紡ぐ。

 やだ、これ恥ずかしい……何が悲しくて浮かれきった結果一人自爆してるんだよ俺。

 

「随分と積極的ね。リサにでも教わったの?」

「おい俺の信頼……てか友希那、鏡持ってきてやろうか。顔真っ赤だけど」

「私は少女趣味じゃないわよ……それで?」

「は?」

 

 呆けた声を漏らしたこちらの眼前、彼女は赤らんだ頬をそのままに上目遣いで、

 

「……その、額だけなの?」

「………」

 

 恥ずかしがるように、拗ねられたように告げられ、一度呼吸が止まった。

 そして我に返って駄目人間一歩手前であることに気がついた。

 いや大丈夫か俺。

 まあしょうがない。目の前の可愛い生き物が可愛いのが悪い。

 

「……友希那」

「……ん」

 

 込み上げる想いを含めて名を呼ぶと、銀髪の歌姫は瞼を閉じ、ついと顎を上げる。

 その表情に愛おしさを感じながら、そっとお互いの距離を失くす。

 

「───────」

 

 そして、永遠にも思える一刹那を共有したあと、唇を離した友希那は口を開き、

 

「……及第点ね」

「そんな幸せそうな顔してるのにか?」

「……次は言われる前に」

「精進します……」

 

 そう言う彼女は、しかし紡いだ言葉とは裏腹に幸せそうに微笑んでいる。

 いや俺たちにはこれで限界。もうお互いに一杯一杯だよほんと。一度のキスでこれなのに、世の中には外でこういうことをする頭蟹味噌カップルが存在するとか。この世のバカップル達は羞恥心をどこかに捨ててきたのだろう、間違いない。

 一人うんうんと頷く俺に、友希那はくすりと微笑み。

 

「……奏人」

「ん?んむっ……」

 

 もう一度、今度は彼女が俺に触れてきて。

 ああ、これもうどっちがバカップルか分かんねえな、なんて考える俺を他所に、最愛の歌姫は、

 

「好きよ、私も」

 

 ふわりと、蕩けるような声と共に微笑むのだった。

 

 

 

 





 ご拝読ありがとうございます。
 
 つい先日Twitterを始めたのですが、なんとこの作品に読了報告と共に感想を書いてくださっている方や、この作品をお勧めしてくださっている方もいて、心が温かくなりました。
 私の知らないところで読者様に「良かった」と言ってもらえるのは本当に嬉しい限りです。皆様いつもありがとうございます。
 ハーメルンサイト内、Twitterなどでの温かい言葉、いつも励みになっています。これからもお付き合いください。

 感想、評価なども是非。

ぶっちゃけ、どれが好み?

  • 付き合う前のやつ
  • 付き合った後の甘々してるやつ
  • 同棲モノ
  • 糖分控えめのシリアスとか切なげなやつ
  • どれも等しく好き
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