お久しぶりです(一ヶ月ぶり)、夕焼けです。
模試と模試と部活と課題に殺されそうになってました。
リハビリがてら書いたのですが、楽しんでいただければ幸いです。
時系列は二話の後だと思ってくだされば。
某月、休日。
ライブハウスの一室にて、ガールズバンド『Roselia』は普段通り次のライブに向けて練習に励んでいた。新曲の練習は始まったばかりで、手探りながらに皆練習に精を出している。
自分自身の一番の出来を作り出す。無駄な時間を減らし、気を抜く時間も控えめなこの練習風景にも慣れたものだ。このストイックさはRoseliaの魅力であり、強みでもある。そもそも友希那がそういうタイプだから、皆が彼女に波長を合わせた結果なのかもしれない。
「……そのはずなんだけどな」
「何かしら、奏人」
「い、いや……なんでもない」
「そう」
俺の返答に対して素っ気なく返し、しかしにこにこと上機嫌そうに笑みを浮かべながら、Roseliaが誇るボーカルの友希那は、楽譜と顔を合わせる俺を眺め続けていた。
おかしい。普段なら滅多にRoseliaの練習中に気を抜かない友希那が、どう見ても上機嫌に曲のフレーズを口ずさんでいる。今にも花のエフェクトが舞いそう。
彼女のことを知っている人たちからすれば、多重人格なのではと疑われていたに違いない。まあ、俺や皆は乙女な友希那さん知ってるからそこまで驚かないけど。にしたって珍しい。これで練習に手が回らないどころか調子がめちゃくちゃにいいんだから、まあ、いいのか。
「……いやいや」
さすがに見て見ぬふりはできない。可愛いのはそうだけど怖い。友希那が、ではなく友希那が何故かめちゃくちゃに上機嫌な理由がわからなくて怖い。俺なんかやらかしたか……?
「ちょっと奏人、何したの〜?」
「……いや、マジで思い当たらない」
小声で責めるような口調のリサに俺もまた小声で返しながら、もう一度今いるライブハウスの一室を見渡した。
紗夜はギターで試奏してるし、あこと燐子もまたそれぞれ練習中、それでもって俺が曲の調整をしているというこの現状。友希那は全体的なアドバイス中。
やっぱり普段と変わったことはないように思える。
「でも先に来てたのは友希那と奏人でしょ、何かしたんじゃないの?」
「いや、先来たって言っても途中で寝たんだよ、俺」
「え、そうなの?」
そう。
練習の時間よりも早めにライブハウスまで足を運び二人で感覚を慣らすという、いつものルーティーンを今日も遂行してたわけだが。
『ふぁ……あ……』
『あら、欠伸なんて珍しいわね』
『あぁ、ちょっと昨日夜更かししすぎてな……』
『そうでしょうね。ここのベーステンポなんて普段より大分違うもの。大方、夜まで調律してたんでしょう?』
『……その通りです』
『いいかしら、奏人。あなたが私たちの曲を作ってくれるのは嬉しいし、実際助かっているわ。あなたの歌はいいものばかりだから』
『お、おお……そこまで言われると照れるんだが……』
『でも、そこで体調を崩したりしたら本末転倒よ』
『……まあ、はい。仰る通りで』
『そういうわけだから、仮眠を取りなさい』
『……今?』
『今』
『どこで?』
『此処で』
『……いやフローリングの上で寝ろって?体痛くなるんだけど』
『………』
『ちょ、何してんの友希那さん。なんで椅子並べてるの』
『ほら』
『……いやほらじゃなくて。足ぽんぽんじゃなくて。此処ライブハウスの部屋だぞ?誰か来たらまずいだろ』
『ここ角部屋よ』
『いや皆来るし……』
『集合時間まで一時間半くらいあるわ』
『いやでも……』
『別にいいでしょう。家だと私が膝貸してもらってるんだから、偶には』
『いやいやいや、流石に悪いから寝るなら床で寝るごめん友希那、分かった。膝借りるからそんな悲しそうな顔しないで俺に効く』
とまあ、そんなやり取りがあり。
『……どうかしら』
『すごく……柔らかいです』
『そ、そう?寝辛くないかしら』
『いや、全然。毎日ここで寝たいくらいいい』
『もう。からかわないでちょうだい』
『……まだ早いか』
『……せめて大学に進学してからかしら』
『…………』
『奏人?』
『……悪い、友希那。ちょっと寝るわ……』
『ええ、おやすみなさい。リサ達が来たら起こすわ』
『……ん、頼む………』
少し眠かったからこのライブハウスの一室で膝枕を堪能するとかいう周りの見えないカップルみたいなことをしただけだ。
我ながら浮かれすぎだろ。周りに人いないだけマシだったとはいえ、最近は俺も友希那もブレーキをまともにかけられてない。反省しないと……。
いや、振り返ってみても全く分かんない。
俺は俺で友希那が夢に出て来たから機嫌はいいんだけど……どう考えても友希那との関連性が見当たらない。
「だから、ほんとに分かんないんだよなあ……」
「……いろいろ言いたいことはあるけど、確かに不思議だね〜」
「……何かしらに怒ってて、その当て付けをしてるとか?」
「うーん、どうだろう……」
「おい幼馴染」
「し、仕方ないでしょ?友希那に恋沙汰なんて無かったんだから分からないの!」
そうやり取りをしながら、紗夜と会話を弾ませている友希那を見る。
なんだかんだ起こされた時にはまだ誰も来ていなかったから、誰かに見られた照れ隠しっていうのも考えられないんだよなあ……。
「でも、友希那は怒る時はちゃんと怒ると思うけどね〜」
「まあ、確かに……」
ふと呟かれたリサの言葉に頷きを返す。
まだ友希那と恋人関係になかった頃、曲を作るのが楽し過ぎた等の理由で多忙なこともあり、一日三食カップ麺で済ませていたことがバレた時はギターを取り上げられて一時間正座させられた。正座自体は辛くなかったのだが、そのまま友希那の家に連行され彼女の親にも軽く説教を受け、最後の方は責任感と心配が入り混じった友希那が今にも泣きそうになってしまった。あの事件は相当堪えた。
考えてみると、友希那は怒って当たりに来るより自分で抱え込みがちなタイプだ。怒ってるわけじゃない、気もする。
「だから、気にすることないんじゃない?友希那がそれだけ奏人と上手くいってるってことでしょ?」
「そういうもんか……」
「そういうものだよ〜」
あくまで気楽に言うリサに、俺のちっぽけな不安は瞬く間に消えてなくなった。
「……まあ、ここで膝枕はさすがにやりすぎだと思うけどね」
「うっ……それは、返す言葉がないんだけど」
「どうせ家だとお姫様抱っことかしてるんじゃないの〜?」
「………」
「……え、ほんとに?」
「やめてリサ距離取らないで寝落ちした時運ぶだけだから。公共の場で膝枕する友希那よりマシだろ」
「でも、そういうところも可愛いよねっ」
うーんこの甘々幼馴染。いやそうなんですけど……可愛いからってなんでも許すのは流石にどうかと思うじゃないですか……。
「じゃあ、そろそろアタシも練習混ざってこよっかな〜。友希那拗ねちゃうし」
「あ、ああ。ありがとな、リサ。相談乗ってもらって」
「いいよ、全然。奏人と一緒にいる時の友希那はすっごい可愛いから」
「……それは理由になってるのか?」
「まあ、アタシは応援してるってことだよ」
「そっか。……じゃあこれ、新曲のベースのキー調整したから。練習頑張って」
「き、切り替えが速いね、ほんと……」
そんな調子でややげんなりとしながら練習に加わったリサを尻目に、
「……よし。頑張るか、俺も」
改めて気合を入れ直し、楽譜との睨めっこを再開しようとして。
「………」
「どうかした?」
「いやなんで練習参加してないの友希那」
「今は楽器だけで合わせてるのよ」
「……隣に座る意味は?」
「……ダメ、かしら」
こちらの服裾を掴んで至近距離から上目遣いで見上げてくる友希那。
あ、これやばい。あまりに致命傷すぎる。
ちょっと待て理性、ここで抱き締めるのは流石にまずい。いくら愛おしくなったからって触れるのはダメここ外だから……!だから耐えて。頑張れ理性。負けるな理性。
「……いや、問題ない」
「そう」
俺の理性とのせめぎ合いを制して絞り出した苦し紛れの返答に頬を緩ませながら、友希那は指を絡ませてくる。
……いや、これ絶対なんかあったろ。この浮かれっぷりはやばい。普段は外で手繋ぐのも顔赤くするのに。
「…………」
そんな俺たちをニヤニヤとしながら見つめるRoseliaの面々。紗夜に至ってはため息吐いてるし。いや視線でなんとかしろって言われても困る。惚れた弱みなんだ。
「……はぁ」
珍しく人前で甘えてくる友希那の猛攻に頬を赤く染めながらも、俺は内心首を傾げて、その手を撫でることで思考を放棄した。
「そろそろ帰りましょうか」
「お、もうこんな時間か」
いそいそと後片付けをする友希那に倣って、俺も荷物をまとめる。
夕暮れ時。一足先に他のメンバーが帰って一時間ほど経過してから、友希那と一緒にライブハウスを出て茜色の道を歩く。
「今日の練習は大分進んだわ」
「ああ、一曲目なんて完成に近いだろ。二曲目も手を出していいんじゃないか?」
「そうね、視野に入れてみるわ」
「……喉は特に問題ないよな?」
「なに、本人より喉が心配なのかしら」
「い、いやそういうことじゃなくて……」
「分かっているわ」
あたふたとする俺に友希那はくすりと微笑んで、それからそっとこちらの手に指を絡めてきた。
「あなたの作る歌は、私のことをちゃんと想ってくれてるから。心配していないわ」
「信頼されてるようで何よりだ。でもアレだ、辛かったら言ってくれよ?」
「安心してちょうだい。奏人に嘘はつかないから」
「俺も友希那のことは信じてるぞ?」
「それも分かってるわ」
紡いだ言葉とともに、友希那はこちらにゆっくりと身体を寄せてくる。
そういうことされると抱きしめたくなるから困る。ほんとに。
同時に降って来た沈黙も、彼女と二人なら心地良い。
そのまましばらく、無言のまま互いの手を確かめ合うように指を絡めながら帰路を歩いていたのだが。
「……そういえば」
「何?」
「今日のはなんだったんだ?」
友希那の家が見えてきたあたりで、ふと気になっていたことを問いかけた。
「今日?」
「妙に上機嫌だっただろ?なんかいいことでもあったかなって思ったんだけど……」
「……ああ、あれのことね」
「いや何その含み笑い。初めて見たぞ」
友希那はにっこりと笑い、そして得意げな顔で言葉を続ける。
「あなたの寝言を聞いたのよ……その、私のことが好きだって」
「は?」
「奏人、夢の中でも私に惚れているようね」
「────」
悪戯っぽくそう話す友希那に、思わず言葉を失ってしまう。
じゃあ何か。
寝言で名前を告げられただけで、好意を告げられただけで。それだけで人目も気にせずに俺とスキンシップを取るほどに上機嫌になったって、そう目の前の歌姫は言ったのか。
それは……可愛すぎるだろ、あまりにも。
「……はは」
「な、何を笑ってるの」
「いや、悪い。でも、友希那もこの前俺の名前呼んでたぞ。寝言で。泊まりの時」
「っ………!?……どうして教えてくれなかったのかしら」
「悪かったから、目を細めないでくれ……だって可愛かったし」
「……顔が赤くなっているわよ」
「……友希那も手震えてるけど」
どちらかともなく足を止めて、お互いを見つめ合う。
……ああ、ダメだな。俺はどうやら、彼女の良いところしか見られないらしい。
悪戯がバレた子供のように拗ねた顔を浮かべながらも顔を赤くする友希那に、たまらず愛おしさが溢れてしまう。
その輝く銀髪も、凛とした声も、俺を映す金色の瞳も、彼女の全てが俺の目を奪う。
「友希那」
「……なに」
「好きだ」
「………」
歯止めが効かなくなって告げた言葉に、友希那は目を見開いた。
それから、そっと近づいて爪先立ちをして、
「──────」
一瞬。ほんの一瞬だけ俺に触れて、そしてすぐに離れた。
「ゆ、友希那……」
急な唇への感触に困惑する俺に、友希那は照れ臭そうにはにかんで。
「私も、あなたが好きよ」
その頬を茜色に染めながら、そんなことを言って来た。
参った。
俺の想い人は、あまりにも可愛すぎる。
「……今度は奏人から、期待しているわ」
「……あ、ああ」
俺の返事にくすりと微笑むと、また明日、と言って友希那はもう大分近づいていた家の中へと去って行った。
「……やばいな」
残された俺はぽつりと呟きながら、自然と触れられた唇を撫でていた。
ファーストキスのお話。
さて、まずは謝罪を。多忙を言い訳にしてはいけませんので。更新滞ってしまい申し訳ありませんでした。
ぶっちゃけお気に入り減ってるだろ、とか思ってたんですが寧ろ増えてるし、一定数UAもあるしで嬉しくもあったんですが申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまいました。
すごい読者様に恵まれたな、と感慨深くなっております。
なんとあと5件で評価50件です。びっくり。なにこれすごい。
次の更新がいつになってしまうか分かりませんが、是非覗いてくださると嬉しいです。
では、また会いましょう。
ぶっちゃけ、どれが好み?
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付き合う前のやつ
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付き合った後の甘々してるやつ
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同棲モノ
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糖分控えめのシリアスとか切なげなやつ
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どれも等しく好き