好き勝手準備後自滅した神様転生者のせいで全方位魔改造されるけど、おっぱいドラゴンが新たな仲間と共に頑張る話 旧名:ハイスクールL×L 置き土産のエピローグ 作:グレン×グレン
感想は書かないと明言していた九尾さんから高評価をもらって目を疑いました。見てはいてくださって大感謝!!
日美子忌憚もあとちょっと! 今回の話は恩讐に泥酔していた彼女が醒める、そこに至るまでの流れを書いていきます。
炎がいくつもの箇所で燃えている室内で、誠にぃは槍でおっさん達の頭を切り落としていた。
周囲には首が斬り落とされた死体が山ほどある。そこにいるのが全員、私や乙女ねぇを犯して楽しんでいた連中だ。
そして少し離れたところでは、赤ん坊用のベッドで泣きわめている田知がいる。
……そして、部屋の片隅には、頭から血を流している乙女ねぇの姿があった。
「な、んで……?」
混乱のあまり、当然といえることを態々聞いてしまった。
少し考えれば分かるだろう。道間誠明が、おっさん達を許す理由はない。
乙女ねぇにしてもそうだ。こんな変わり果ててしまった乙女ねぇを見たくないという、そんな感情があるとしてもおかしくない。
そして何より、今度は私だ。この流れで私を殺さないなんて、それこそあり得ない。
そんな、道間誠明の覚醒を知らない私に、誠にぃは安心させるように微笑んだ。
それが、どこか寒気を感じさせる。
だけど、誠にぃは怖がらせないように気を使った表情で私に笑いかける。
「大丈夫だよ。そりゃかなり恨んでるから暴発したし、勢い余って乙女も深手を負わせてしまったけどね。日美子をどうにかするつもりはないし、乙女も治療するつもりだよ」
この時、私は誠にぃが壊れたのだと思っていた。
実際別の意味で壊れているのだが、そういう意味ではない。
誠にぃの魔術の腕では、あんな深手を負った乙女ねぇを治せるとは思わない。私がおっさん達に頼んで用意しいた宝石魔術でも、たぶん無理だ。そんな深手だった。
誠にぃが幽世の聖杯を持っている可能性に思い至っていなかった私は。誠にぃが私に手を差し伸べていることに気が付いた。
「日美子。できれば一緒についてきてほしいんだ。やりたいことに、一緒に付き合ってくれるととっても嬉しいんだ」
美しい物を見て感激しているような表情で、誠にぃは私を誘う。
この時、私は誠にぃにどこか魅了されていたのかもしれない。
手を取りたいと思っていた自分がいる。一緒にいたいと思っている自分がいる。
それは、どす黒い悪意ですべてを裏切り蹂躙した私が、彼の純粋な悪たる姿に憧憬を覚えてからなのだろうか。
だから、あの時私は手を伸ばして―
「……ぃ……こ」
―その言葉に、ふと振り返る。
「……ぅぇ……ぇぇぇん……!」
ぐずる赤子を守るように、乙女ねぇは体を引きずろうとしている。
でも一センチも動かせないその体で、乙女ねぇは私に手を伸ばしていた。
「……大丈夫……日美子……助……から」
―その時だろう。道間日美子が完全に表替えったのは。
下劣な悪に蹂躙されて歪み続け、そして反転した私は。
それすら凌駕する悪意の権限に歪みを叩いて治されて、そして憎しみすら向けていた相手の本心からの慈愛で、表返ってしまったのだ。
気づいた時、私が辿り着いたのはかつて作った秘密基地だった。
思えば、アイネスが帰って七緒が行ってから一度も来たことがなかった。だからか、少しぼろくなってしまっていた。きっと、誠にぃも乙女ねぇも来てなかったんだろう。
そんな風にぼんやりと思いながら、私は真っ白になって覚えていない記憶を探すことを諦めた。
周囲を確認すれば、仮眠用に用意していた簡易ベッドに乙女ねぇを寝かしていた。すぐ近くにのクッションに、和地もきちんと寝かせている。
……その頃になって、私は自分にこびりついていた泥が全部そぎ落とされたと実感した。
肉体的な意味ではない。精神的な比喩だ。
そして、それは救いでもなんでもない。
私は今になって、漸く自分がしてきたことを実感した。
自分のことを大切に思ってきた、私の為に己を犠牲にできる人を台無しにした。海外にいる、何も知らない友人達が憎悪すら浮かべるだろうことをしてのけた。何より大事で大好きな、愛する男を想定外とはいえ暴走させてしまった。
……何より、何も知らない小さな赤ん坊に、汚濁としか言えない因縁を塗り付けた。
「……ぁ……ぁあ……ぁあああああああっ!」
堪え切れず、私は髪をかきむしりながら絶叫する。
私はいったい何をやっている。何をしているんだ。
……自分が破滅するリスクすら鑑みて、それでも相手を脅せるのなら全部しゃべればよかったんだ。それが無理でも、さっさと自殺でもなんでもすればよかったはずだ。
それがなんだ? ずっと何も知らなかっただけの、私を大切に思ってくれる人達を、壊して汚して裏切った。その果てに、何も罪がない赤ん坊に、どす黒い汚濁を背負わせている。
「……ごめんなさい……っ」
そんな、今更どうしようもない意味の無い言葉が、口をついて出てくる。
本当に今更だ。手遅れになっておきながら、何を被害者ぶった言葉を出している。
私は加害者だ。私は罪人だ。私は邪悪だ。
無垢な少女の恋を踏みにじった。
愛した男の心を踏みにじった。
何も知らない友人達の信頼を踏みにじった。
それも、自分を汚した連中を悪意をもって利用して。
私が邪悪でなくて何だという? 何年も前の砕けた恋心に、それも背徳的なそれに縋りついて八つ当たりをした女だぞ? 被害者であることを免罪符にして、どんな悪行をしても心を痛めなかった女だぞ?
自分が酷い目にあっているのなら、どんな酷い目を他人に与えてもいい。そんな理屈が通るものか。
人には守るべき一線と、通すべき筋がある。その一線を踏み越えた物には、報いがなければいけないはずだ。邪悪は邪悪で正義は正義という、その区別だけは絶対に成されなくてはならない。
そう、私は絶望していた。
「ごめんなさい……乙女ねぇ」
私は後悔していた。
「ごめんなさい……アイネス……七緒……っ」
私は嘆き悲しんでいた。
そんな感情のままに、誰にも聞かれずにただ謝っていた。
そして、それでも謝らない。誠にぃと、幸香に田知には謝らない。
誠にぃに謝るとするなら、それは断罪される時だけだ。そんな心の僅かな考えが、今この場で謝った気になることを許さない。
幸香と田知は無垢な赤子だ。あの子達に私の行動を謝れば、あの子達は存在そのものが罪になってしまう。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……っ」
もう私は、このまま朽ちるしかないだろう。
邪悪の権化がこれ以上生きていて、いったい何ができるというんだ―
「……だぁ……ぶぅ?」
―声が、聞こえた。
振り返れば、そこには達がいた。
ハイハイで歩いて、私を気遣うように見ている。
「だぁじょぶ……?」
その声に、私は何かが醒めた。
「げぇき……だし……ぇ……?」
道間家に関係しているから、教育関係に魔術的な手法は組み込まれていた。
だからこそ、舌ったらずだけど少しだけ言葉をかけることができる。それは分かった。
だけど、それが、私を、気遣う言葉だった。
……その言葉に、私は気持ちを奮い立たせる。
私は邪悪だ。罪深い女だ。この業は私が私である限り背負っていくべきもので、脱ぎ捨てることを誰にも許しはしないだろう。
だけど。
私が邪悪であったことと、その後も邪悪であることは別だ。それはただの開き直りだろう。
私が踏みにじったからといって、乙女ねぇがこのまま踏みにじられたままでいいわけがない。そんなままでいいわけがない。
そして何より。幸香は違う。
私が邪悪だという理由で、この子達が悲劇のままで終わっていい理由なんて、かけらもない。
「うん、そうだね。……そうだよね」
そうだ。ここで終わるな。
許される為じゃない。償う為でも贖う為でもない。
ただ純粋に、この子達を嘆きのままで終わらせない為に。
「……
立ち上がれ。
「
忘れるな。
「アイネスも、七緒も生きてるし」
開き直るな。
「……乙女ねぇも、死んでない」
「……私は間違えた」
邪悪だったからって、邪悪でい続けようとするな。
「道を踏み外した」
正義を踏みにじったからって、正義をないがしろにするな。
「越えちゃいけない一線を越えた」
何が正しくて何が間違っているか、考え続けることを放棄するな。
「……それでも」
私は涙をこぼしながら、それでも決意を決める。
これは嘆きの涙じゃない。
大切なことを思い出させてくれた、
「……そのままでいいわけがない」
そっと田知の頬に触れながら、私は自分を見つめ直す。
愚かな邪悪だ。間違えた女だ。罪を犯した罪人だ。
だけど、そこで終わって何もかも台無しにして、悲劇をまき散らす人生を続けていいわけがない。
そう思う私の前で、田知は私を元気づけるように笑顔を見せてくれる。
思い込みだろう。偶然だろう。幼子にそこまで求める道理はない。
それでも、私は感謝の涙と笑顔をもって、彼に応える。
「君が笑顔をくれるなら、それが間違ってないって……少しでも、示さないと……ね」
そう、この子の笑顔を裏切るな。
今迄が邪悪であったから、そのまま悲劇と嘆きを生み続ける。そんな道理を認めるな。
「元気を出すし、頑張るよ」
そう、私が邪悪であったこと。尊ばれるべき正義がこれからも踏みにじられ続けること。
それはイコールじゃない。むしろ逆だ。
邪悪であることを認めたのなら、そのままでいることだけは自分に許すな。
だから、その想いを偶然と言え浮かべさせてくれたこの子に、今できるお礼を返したい。
「せめて私が不幸にした分は、君を幸せにしたいし、償いたい」
―そっと、私はこの子に微笑んだ。
「君のおかげで、絶望したままでいいわけがないって気づけたから」
ありがとう、田知。
私が生み出した悲劇の結果。でも同時に、誰かを心配できる心優しい素質がある子。
君は本当に優しい子だ。そう成長できる余地がある。
「だから……ね?」
そんな子に、私は意味もなく願いを持った。
そんな気持ちを込め涙をこぼしながらを私は笑う。
「ありがとう。そして、笑顔でいて……欲しいかな」
そんな笑顔を共に、私は誓う。
この子の笑顔は裏切らない。
少なくとも、裏切らない生き方をし続けよう。その為に命を懸けていこう。
命尽きるその時まで、私はこの子の笑顔に恥じない自分でい続けよう。自分が許せなくても、この子が笑顔を向けてくれたことだけは許せるようになりたいから。
……瞼の裏に、今でも焼き付くその笑顔。
私の泥を流してくれたその笑顔に誓い、私は私をやり直すと、心の誓った。
それはまさに、銀弾の運命が始まった時。
嘆きの涙を拭う救済者。その原点たる瞼の裏に残った笑顔。
だがその時、邪悪を祓う銀の魔弾も、瞼の裏に笑顔を焼き付けた。
今この時、彼女は悪鬼としての勝利とは違う、もう一つの勝利に触れたのだ。