好き勝手準備後自滅した神様転生者のせいで全方位魔改造されるけど、おっぱいドラゴンが新たな仲間と共に頑張る話 旧名:ハイスクールL×L 置き土産のエピローグ   作:グレン×グレン

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はい、結構長いですが特訓も始まる話になります!


魔性変革編 第八話 特訓、頑張ります!

 和地Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺達が呆気に取られていると、でっかいドラゴンの内、蒼い方が舞い降りながら小さくなる。

 

 上に乗っていたカズホともう一人が飛び降りるのに合わせて、そいつも青い髪の人間型になった着地した。

 

「先日ぶりですお姉さま。汚名を灌ぐべく、鍛え直しと教導の支援をさせていただきます」

 

「姐御! 和平会談ではなんか変な奴に変なこと言われたって聞いてますぜ! 大変だったすねぇ! 俺がいたらぶっ飛ばしやったのに残念でさぁ!」

 

 半ば食いつく勢いで、カズホとドラゴンだった奴がカズヒ姉さんに声をかけるけど、その首根っこを眼鏡をかけた最後の一人がひっつかんで止めた。

 

「お待ちなさい。感極まる気持ちは分かりますが、それを理由に礼を失していいという狼藉はカズヒ殿の沽券に係わります。泥を塗っていいのは自分の顔だけにしなさい」

 

 お、おぉう。

 

 これまたアグレッシブというかエキセントリックというかルナティックというか。

 

 俺が最適な言葉を思いつかないでいると、その眼鏡がふと視線をあらぬところに向ける。

 

 強化魔術で視力を強化する先には、城の家事業務を手伝っていたメリードが。

 

 作業の手は止めず、しかし確かに視線をぶつけ―

 

「……ふっ」

 

 ―眼鏡が会釈するのに合わせて、こちらも静かな笑みを浮かべながら会釈した。

 

 なるほど、敬語を使うのと実際に敬うのは全く別という御仁ですかぁ。目と目で通じ合っちゃいましたかぁ。

 

「僭越ながら自己紹介を。私はプルガトリオ機関のホテル部隊に属するディック・ドーマク。隣のコレは、ロメオ部隊に属するラトス・スプライトです」

 

「おう! ラトスってーんだ。ちなみにホテル部隊は人間以外の異形も多いプルガトリオ機関での治療衛生部隊で、ロメオ部隊はドラゴン専門部隊だからよろしくな!」

 

 目を伏せて強引にラトスの頭も下げながら、目が名の人のディックとやらが自己紹介。それに続いてラトスの方も片手をあげて軽く挨拶する。

 

「和平会談で会ったばかりですが、デュナミス聖騎士団のカズホ・ベルジュヤナです。私達三名、教会側からカズヒお姉さまからの協力要請で、コーチとして参加させていただきます」

 

 最後にカズホが笑顔で一礼するけど、ちょっと待った。

 

 情報量が多くてちょっとついていけない。異形に対応できる治療部隊とか、ドラゴン部隊とかちょっと待って。

 

 異形を治療できる回復能力って貴重ってもんじゃなかっただろ? あとドラゴンって基本アンチキリストの象徴だろ?

 

 専門部隊が結成されるほどいるのかよ!?

 

「へー。じゃ、あんたもアーシアみたいな神器を持ってるのか?」

 

「というよりは、私がカズヒ殿と親交が深い中で唯一聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を持っていることからの要請です。ホテル部隊全体としては、元七十二柱のフェニックス家のような癒しの特性を持つ特異体質や、禁手によって異形の治療能力を得た神器保有者が主体ですね」

 

 イッセーにそう答えるディック・ドーマクは、ちらりとアーシアを見る。

 

「……話に聞く限り、聖母の微笑を保有していることを差し引いても優れた回復速度と治癒範囲を持つアーシア嬢には興味がありました。管轄外とはいえ彼女を保護できなかった負い目もありますし、可能な限りこちらが持つノウハウをお教えしたいと思っています」

 

「あ、ありがとうございます! 私も頑張ってお勉強します!」

 

 ふむ、この調子ならそこまで酷いことにはならないか?

 

 なんかキッツい雰囲気があるけど、意味もなく酷いことをする人ではなさそうだしな。

 

 イッセーもなんとなくそう悟ってそうだけど、イケメンということでアーシアが粉掛けられないか心配らしい。警戒心が結構見えてる。

 

 何故そんな心配をするレベルなんだが。べた惚れなことぐらい見て分かるだろうに。

 

 そんなことを思っていると、そんなイッセーの背中をラトスがバンバンと叩く。

 

「あんたが赤龍帝だったよな! 俺はあんたのスパークリング相手だ! ついでに二天龍と訓練すりゃぁ俺も強くなれそうだし、よろしく頼むぜ!」

 

 ノリがいいけど、たぶん馴れ馴れしく対応しすぎるタイプっぽいな。

 

 ま、ドラゴンは他の雄が嫌いっていう割にはフレンドリーだし……大丈夫か?

 

「お、おう。でもプルガトリオ機関って、ドラゴン専門部隊もいるんだな」

 

「ま、アンチキリストの象徴だから意外だよな? 俺も色々あってドラゴンだって自覚がなかったからショックだし、育ての親が俺がドラゴンだって気付いて逃げ出したこともあるから、ドラゴン仲間で部隊が出来るってのには意外だったぜ」

 

 さらりとキッツい過去を言うな。

 

 正直ツッコミを入れるべきか真剣に悩んだけど、そのタイミングででっかいままの赤いドラゴンが声をかけた。

 

『……で、だ。そろそろ俺も名乗っていいだろうか、リアス嬢にアザゼル』

 

「あ、ごめんなさいタンニーン。イッセー、みんなにも紹介するべきね。彼はかつて五大龍王が六大龍王と呼ばれていた時の一角で、転生悪魔になり最上級に至った伝説のドラゴンなの」

 

魔聖龍(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)、タンニーン。聖書に記されしドラゴンをタンニーンっていうんだが、こいつがそれでな」

 

 と、部長と先生がそう説明する。

 

 ……また凄いのが来たな。

 

 確か匙の神器には、ヴリトラの魂の一部が封印されてて? 総督は隠し玉として、ファーブニルを封印した人工神器を持ってる。で、今回コーチとして悪魔になった同格のタンニーンさんが来訪、と。

 

「……龍王と続けざまに三人も会えましたの! この調子なら生きてる間に残りの三人とも会えそうですのー!」

 

 と、テンションが上がったヒマリがそんな希望的観測を告げた。

 

 その反応に、先生とタンニーンさんが苦笑いを浮かべている。

 

 ん、何がどうした?

 

「どうだろうかねぇ? 他の連中は隠居決め込むか行方知れずだからな」

 

『ああ、特にミドガルズオルムは難しいだろう。あいつは常に深海で眠ってるから、下手するとあと数百年は寝たままかもしれんぞ?』

 

『……というより、ティアマットは勘弁してくれ。俺はあいつとだけは会いたくないんだ』

 

 先生にタンニーンさんはともかく、ドライグがあえて声を出すとは、何があった?

 

 痴情のもつれ? それとも二天龍同士の闘いに巻き込んで恨みを買ってるとかか?

 

 ま、プライベートに迂闊に深入りするわけにはいかないか。介入するならそれなりに覚悟を決めないとな。

 

 と、そんな感じでちょっと空気が緩んだ時、先生がパンパンと手を鳴らした。

 

「ま、積もる話はまた後程な。……イッセー、ゼノヴィア、あとアーシアはもうさらりと言われたが、こいつらがお前らのコーチになる」

 

 え、どういうことだ?

 

「まずはゼノヴィア、お前はカズホとマンツーマンで、デュランダルの扱いを磨くと同時にもう一本の聖剣の練習も並行で行う。カズホは聖剣の制御を教えつつ、デュランダルと模擬戦を行うことで自分を高めたいんだったな?」

 

 先生にそう振られ、カズホは真剣な表情で胸に手を当てる。

 

「はい。先日の会談では盛大に不覚を取りました。デュナミス聖騎士団として今後は禍の団との大規模戦闘に関与することがまず間違いない以上、このままではいけないと猛省しております。……デュランダルを伸ばしつつ、私自身も鍛え直すつもりです」

 

 ガチの目だ。

 

 よっぽど、前回停止したのが屈辱だったらしい。カズヒ姉さんやリュシオンに負担を背負わせたのが本気で申し訳なかったようだ。

 

 まあ、あれ凌げたのは魔王クラスでもない限りは何かしらの例外とか特例だけだからなぁ。部長もイッセーの手を握っていたからこそのところがあったし、ゼノヴィアに至っては「慣れた停止感覚だったから弾き飛ばした」だし。

 

 まあ、だから止まってしまったことを仕方ないで流すのもあれか。

 

 そういう精神で行った方がいいこともあるだろうし、応援した方がいいんだろうな。

 

「あまり無理しても、自分を痛めつけるだけだからほどほどにね? ゼノヴィアも、カズホを変な方向でたきつけない程度に高め合ってちょうだい」

 

 カズヒ姉さんがそう言うと、ゼノヴィアは機嫌よさそうに頷いた。

 

「ふむ、かのデュナミス聖騎士団の実力者としのぎを削り合えるのは僥倖だ。胸を借りると言った方がいいのだろうか?」

 

「いえいえ。かのデュランダルの使い手と鍛え合うのですから、胸を借りるつもりで行くのは私の方でしょう」

 

 そんな風に笑みを交わし合っている二人から、先生はアーシアに視線を向ける。

 

「次にアーシア。ぶっちゃけお前の神器は回復力という点じゃあ禁手になる必要もねえ。ただし、問題点が一つある」

 

 そう言うと、先生は指を一本立てる。

 

「それは距離だ。瞬時に回復できるとはいえ、負傷した直後の相手を回復させるのに負傷した地点まで行くってのは、当然だが負傷させた相手に狙われるリスクがある。……ただし、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)は接触せずに回復することが可能だ。カズヒができる奴に心当たりがあるといっていて、それがお前だってことでいいんだな?」

 

 そう告げてから、先生はディック・ドーマクに尋ねるように視線を向ける。

 

 それに対して、ドーマクは気負うことなく頷いた。

 

「ええ。衛生兵である以上は負傷者に接触してある程度避難させる事もありますが、継続して戦闘可能なら遠隔回復、早急な要救護者が複数いる時は範囲回復を行ってます。同神器保有者が遺してきたノウハウも参照しているので、一通りは教えられるかと」

 

 当たり前のようにはっきりと言っているからこそ、それが本当だと確信できる。

 

 先生もそう思ったのか、満足げに頷いた。

 

「最もアーシアは優しすぎるところがあるからな。範囲回復での敵味方識別はまず無理だろうから、そこは飛ばしといて構わないぜ?」

 

「……ふむ。戦闘中に敵を回復しかねないというのはいただけませんね。出来ればその辺りを割り切れるように荒療治もしたいのですが?」

 

「ひぅっ!?」

 

 なんかぎょろりと見られて、アーシアが盛大に肩を震わせる。

 

 当然だけどグレモリー眷属、総出で怒気を見せてきた。

 

「おい! アーシアの優しさを否定するなよな! 全然必要ないから、むしろ俺達が必要とさせないからな!」

 

「全くね。不必要だからしなくていいわ。グレモリーの名に懸けて命令するわよ?」

 

 イッセーと部長が盛大にすごむが、ドーマクは盛大にため息をついた。

 

「戦場という非情な世界において、優しさとは無条件ではいけない時があるのですがね。……まあ、カズヒ殿からも「甘ったれてるけどそれを良しとしてる集団だから」とは言付かっていますから、此処はよしておきましょう」

 

「手間をかけるわね。個人的にはどうかと思うけれど、それをフォローする気満々の連中がいるなら遠隔回復との使い分けで行けるでしょう」

 

 あ、カズヒ姉さん的にはそこを問題視するのは変わってないのな。

 

「そこはちゃんと理解して欲しかったんだけどな」

 

「そっくりそのまま返すわ。第一、親友だろうと家族だろうと、十割全部同じ思想ってわけでもないでしょう?」

 

 イッセーにそう返すカズヒ姉さんだけど、なんか遠くを見てる気がする。

 

 ……ストリートチルドレンって聞いたけど、家族に捨てられたとかなのか? 生まれた時からとか言ってたような気がするけど、世の中たまに赤ん坊の頃の思い出を覚えてる人がいるらしいからそれか・

 

 俺がちょっと首を傾げていると、アザゼル先生がゴホンと咳払いをする。

 

「で、イッセー。お前は自力の禁手化が目標だ。同時にシャルロットにも指示を出す」

 

「というと?」

 

 シャルロットが首を傾げると、アザゼル先生は指を一本立てた。

 

「お前らの欠点は二人羽居りでないと戦力として換算しづらいことだ。だからイッセーにはシャルロット無しでも禁手に慣れるようにするのが最善で、それができればシャルロットの禁手もより効果を高めることができる」

 

 そこは確かに。

 

 今の段階では神滅具が二つがかりであるけど禁手としては1,5ってところだろうからな。

 

「まずシャルロット。お前さん達サーヴァントは、終了した状態から全盛期で呼び出される都合上、身体能力での強化は自力じゃほぼ不可能。だからこそお前はここに行って、戦闘技術の方を覚えることに徹底しろ。そういう意味じゃあ一番簡単にメニューが組めたわけだがな」

 

 そう言って先生は一枚の紙を渡す。

 

 それを見たシャルロットの、なんというかすっごい「なにこれ?」を体現した表情はなんだ?

 

「……あの、それはいいんですがこの「市販品戦闘研究会」とは一体?」

 

 ………あ~。

 

 そこか~。確かに最適解だわ~。最適解だけどそこ勧めるか~。

 

「あ、そこはカンフー映画とかに感銘を受けて「その辺に転がっている者で異形を倒す技術を確立する」を目指している神の子を見張る者(グリゴリ)の研究グループですの」

 

「……趣味人多すぎません?」

 

 ヒマリにマジ返しするシャルロットの意見が正論すぎる。

 

 本当にマジで研究してるからな。その為に結構金も回ってるからな。

 

 しかも意外と成果出てるから、職業を偽って潜入する奴とかはマジで講習に行かされる時とかあるから凄いよなぁ。色々な意味で。

 

「お前はサーヴァントとしての都合上、包丁だけは確実に用意できるからな。研究会において包丁は「大抵の家に一本はあり、かつ殺傷性も高い」ことから定番の研究ネタだ。そこでしっかり技術を磨いてこい」

 

 そう自信満々に宣言してから、今度はイッセーに振り返った。

 

「そしてお前はさっき言った通りだが、まあ禁手なんてそう簡単にはなれねえから、並行して地力を鍛える感じだな。そしてその方法だが―」

 

 そう言ってから、先生はイッセーの両肩に手を置いた。

 

「ラトスと一緒にタンニーンにしごかれろ。そして一日の扱きが終わったら、ラトスと組手だ」

 

「………はい?」

 

 イッセーが盛大に首を傾げ、その肩にラトス・スプライトが手を回す。

 

「ドラゴンの修行ってのは基本的に実践あるのみって奴でな。ま、戦闘勘や度胸に判断力はつけるだろうが、そこだけだと生かせねえ点があるってもんだ」

 

 そう言って、にやりと笑った。

 

「人間という存在が代々数千年積み重ねた各種戦闘の為の技術、俺も全部ゲットしてるわけじゃあねえが……ま、基礎は叩き込めるだけ叩き込んでやるよ」

 

 あ、コレ鬼教官コースだ。

 

『うむ、盛大に苛め抜いてやろう。ドライグの宿主を鍛えるとは思ってなかったが、厳しいが耐えて見せろ』

 

『ある程度は加減してくれよぉ? 相棒は歴代で最も才能がないし、荒事慣れしてないんだ。お前が本気を出せばその時点でお陀仏だろうしな』

 

 というか凄いこと言ってる。

 

「イッセー、死ぬなよ?」

 

「敬礼ですの、ビシィッ!」

 

「縁起でもねえよ!?」

 

 俺とヒマリの態度にそんな文句が飛ぶけど、俺は少なくともマジで行ってるからな?

 

 あ、ラトスが龍の姿に戻って、タンニーンさんがイッセーを鷲掴みだ。

 

『リアス嬢、向こうの山を借りていいだろうか?』

 

「構わないわ。誰もいないし名前も無いから好きに使ってちょうだい」

 

「……え、ちょっと待って?」

 

 タンニーンさんとリアス部長の会話にカズヒ姉さんが突っ込むけど、なんか二人とも聞いてない。

 

 既にタンニーンさんは飛び立っており、イッセーは泣いている。

 

「うぁああああああん! 部長ぅううううう助けてぇぇええええええええ!?」

 

「気張りなさいイッセー! コカビエルやヴァーリ・ルシファーとの死闘に比べたら。たかが山籠もりなんて大したことないわ!」

 

 ………ま、まあ確かにそうなんだろうけど―

 

「いやサバイバル技術も原生生物の知識もないのに山籠もりなんてできるわけないでしょ! ちょ、ラトス待ちなさい、サバイバルキットとか缶詰とか出すから、それ持って行って!」

 

『あいよー姐御! 蒼雷龍(スプライト・ドラゴン)を運送に使うたぁ流石だぜ!』

 

 ―やっぱり、カズヒ姉さんは厳しいけど優しいぜ.

 

「頑張れイッセー! 後で差し入れぐらいは送ってやる!」

 

「うわぁあああああん!! 鬼が多すぎるよぉおおおおおお!!」

 

 俺は涙をこぼしながら、ドラゴンにドナドナされるイッセーに手を振るほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 そして、誰もが鍛錬を積み重ねることになる。

 

 そのうちの一人であるゼノヴィアは、今真っ向から戦士としての力量で格上である相手と模擬戦をすることになった。

 

「行くぞ! これが、私の、全身全霊だぁああああ!」

 

 振り下ろされるはデュランダル。それを絶大な力を放つことに意識を向けて、最大出力で振り下ろす。

 

 直撃すれば最上級悪魔すら深手を負うだろうその斬撃。真っ向から受ければ、人間では星辰奏者であっても即死は免れない。

 

 冗談でも、模擬戦で放っていい物ではないのだが―

 

「まだまだです!」

 

 ―対峙する相手もまた、ただものではだんじてなかった。

 

 カズホ・ベルジュヤナはその斬撃に対して斜めになるように結界を具現化。更に手に持つ剣から斬撃を放つと、ゼノヴィアの一撃を逸らしにかかる。

 

 放つオーラにより起動が若干ずれたゼノヴィアの斬撃は、そのまま傾斜装甲の要領で展開された結界によって、逸れていく。

 

 それを理解したゼノヴィアは、デュランダルを片手に警戒。攻撃の余波で視界が塞がれる中、それでも呼吸を整えながら、耳を澄ませ殺気を読むことでカズホの位置を探る。

 

 そして、ほんの僅かな攻撃の意識と音に、瞬時に反応した。

 

「―セイッ!」

 

 振るう一撃は盛大な音を立て、襲い掛かる攻撃を吹き飛ばし―

 

「もらいました!」

 

「なんだと!?」

 

 ―ゼノヴィアの真上から、カズホの本命の一撃が襲い掛かる。

 

 そして同時に双方の攻撃は寸止めされる。

 

 カズホの剣はゼノヴィアの目の前で止まり、ゼノヴィアの反撃の一撃も、カズホの胴を横なぎにできる寸前で止めていた。

 

 これは模擬戦であり、本当に殺し合っているわけではない。お互いがそれをわきまえているからこそ、命の奪い合いにはならなかった。

 

 だが同時に、このままいけば相打ちになっていただろう戦いでもある。

 

「……全く。流石は準神滅具の担い手だ。星辰奏者でもあるというからには、今の私ではこれが限界か」

 

「煽てないでください。転生悪魔になって強化されているとはいえ、悪魔である以上聖剣には弱いでしょう? 其のディスアドバンテージがある以上、得物で負けていても引き分けでなら十分そちらが上ですよ」

 

 そうお互いを褒め称えながら、ゼノヴィアは降り立つカズホと共に休憩に向かう。

 

 その道を歩きながら、ゼノヴィアはカズホが持っている剣に視線を向けた。

 

「しかし、デュランダルにあやかりエクスカリバーに近い性質を持つ準神滅具か。その担い手と模擬戦ができるというのは、かつてエクスカリバーも使っていたデュランダルの担い手としては光栄に思うべきだろうか?」

 

「それはこちらのセリフです。デュランダルそのものの担い手であり、またエクスカリバーも使っていた貴方と剣を交えられる私こそが光栄に思うべきですよ」

 

 そう返すカズホに、ゼノヴィアは首を横に振る。

 

「何を言う、殉教四聖剣(デュリン・カリバー)といえば、敬虔な信徒である悪魔祓い(エクソシスト)なら誰もが憧れる神器だろう? 宿主になることはもちろん、その礎になりたいと願う者も多いからね」

 

 そう言いながら、ゼノヴィアは消えゆく聖なる鎧騎士達の残骸を見ながらカズホの剣に憧憬すら向けて言い切った。

 

 そう、カズホの手に握られる剣こそが、彼女が持つ準神滅具。

 

 殉教四聖剣(デュリン・カリバー)。四人の聖人や聖母の聖遺物が柄に込められたといわれるデュランダルのように、殉教者の聖遺物が宿る封印系神器に近い特性を持つ、聖なる準神滅具。

 

 性能はデュランダルにこそ劣るが、エクスカリバーが相手であっても七つに分かれた状態では勝てないとされる、極めて高性能の聖剣であり、更に四種の能力を持つ、デュランダルと真なるエクスカリバーを足して三で割った程度の性能を持つ聖剣型神器。

 

 先ほど見せただけでも飛翔能力、聖なる騎士団の具現化、結界発生といった元を使っており、更に今はかすり傷を治癒の加護で癒している。

 

 この四種の加護と高い聖剣としての性能は準神滅具の一角を名付けられるだけの代物。それゆえに神器を知る信徒、それも戦闘を基本とする悪魔祓いからすれば垂涎の神器だ。

 

 同時期に確認されたのは同時期に四本。その一人に選ばれるというのは、数多くの信徒からやっかみ交じりで羨望の的になるだろう。

 

 最も、デュランダルの使い手に選ばれたゼノヴィアも対外ではあるが。

 

「しかしデュランダルの扱いにもだいぶ慣れた。周囲を破壊しても問題ない場所を部長が提供してくださったおかげだね」

 

「全くです。私達クラスとなると全力で動くと相応の被害が生まれますからね。こればっかりは土地がありまあっている冥界側のアドバンテージです」

 

 そう言いながら二人が振り返る先、そこには巨大なクレーターが近くの河から水を引き込んで、湖となる下地を作り出している。

 

 デュランダルと準神滅具の真っ向からの激突。それが引き起こした破壊の後としては当然と言ってもいい、絶大な()()()の跡であった。

 

 これだけの破壊力を発揮できるものですら、咄嗟の迎撃を叩き込まなければ停止される。それが、前哨戦としか言いようがない戦いで行われたのだ。

 

 その意味を強くかみしめ、二人はそれぞれ強くなることを誓う。

 

 一人は恋する男と仕える主の為。

 

 一人は慕う女性と信仰の祖の為。

 

「では、休憩を終えたらもう片方の方に行きましょうか」

 

「ああ。そちらもしっかりと使いこなさなければいけないからね」

 

 強くなろうという、強い決意の下動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして同じように、強くなろうとする者も指導を受ける。

 

「ではアーシア・アルジェント。まず我々のような者が強く心掛けなければならないことをお教えしましょう」

 

 眼鏡を光らせ、ディック・ドーマクはアーシアを見据える。

 

 それに若干気圧されながらも、アーシアは背を伸ばして向き直った。

 

 その対応に若干目を細めながら、ディックはアーシアに心構えとするべきものを告げる。

 

「我々、戦闘中の回復を行う者にとって、戦闘とは自衛や治療対象を狙った攻撃以外では極限まで避けなければなりません。可能ならばそれも、他の戦闘が可能な者に擦り付けることも必要になります」

 

 そこまで一息で告げ、ディックはアーシアを値踏みするように見据えた。

 

「何故か分かりますか? 教えてない以上間違えるのは当然ですから、とりあえず考えて答えてみてください」

 

 その言葉に、アーシアは素直に考える。

 

 そして、比較的早く答えが出た。

 

「回復することでしか、お役に立てないからでしょうか?」

 

 それは本心からの答えだったが、ディックは首を横に振った。

 

「違います」

 

 はっきりと言われ、アーシアは肩を落とした。

 

「そうですよね。ディックさんは体つきもしっかりしてますし、回復以外でもお役に立てますよね……」

 

 アーシアがそう考えたのは、自分が回復しかできないと思っていることが原因だろう。

 

 アーシア・アルジェントはグレモリー眷属全員から心優しいと言われるが、それゆえに自分が仲間達が傷ついているときに回復ぐらいしかできないことに負い目を持っている節がある。

 

 だがしかし、ディック・ドーマクからすれば逆である。

 

 彼はただ顔を向けて視線を合わせるのではなく、しゃがみ込んで平行にアーシアの顔を見て、はっきりと告げる。

 

「回復担当が傷つき倒れるようなことになれば、いったい誰が死に瀕する負傷者を治すというのですか?」

 

「あ……」

 

「我々治療する側は、治療する側であるからこそ、可能な限りされる側にならないようにしなければなりません。だからこその自衛であり戦闘回避であり、むしろ我々が直接戦わないようにすることこそが、回復担当以外の責務でしょう。我々の価値を我らが卑下してはいけないのです」

 

 そして立ち上がり、ディックは悪魔の駒を模したチェス一式に手を触れる。

 

 駒の一つを弄びながら、彼は目を細めた。

 

「こと悪魔同士が戦うレーティングゲームにおいて、回復担当とはいることそのものが本来存在しない。貴女という存在は、単純な殺傷力の高い眷属を超える、最大のアドバンテージと言えるでしょう」

 

 そして、そこでだからこそと彼は一息を溜める。

 

「必然、レーティングゲームはもとより重傷を負うだけで足を引っ張るお荷物となる実戦においてこそ、貴方という存在が機能することは最大の持ち味になります。士気を高める者や潤滑剤のような信条的要素を取り除いて考えれば、貴方という存在はレーティングゲームでは負ければ終わる王の次、実戦においては最も優先して安全を確保しなければならない存在であり、敵からすれば優先的に倒したい存在です」

 

 そして、ディックは目を閉じながらもはっきりと告げた。

 

「カズヒ殿もかつて似たこと仰ったと聞いておりますが、優しさと甘さは違います。人に嫌がられないことだけをするのは甘さ。例え人から嫌悪されようと、心を鬼にしてしなければならないことをすることこそが優しいということでしょう」

 

「……正直、できる自信がありません。誰かが傷ついて苦しんでいるのに、それを放っておくことなんて、私には………」

 

 アーシアは正直にそう告げるが、あえてディックはそれに対して嫌悪感を見せようとはしなかった。

 

「きちんと自覚しているならば及第点でしょう。自分が甘さを捨てられないのなら、それを補ってなお仲間に貢献できるだけの能力を得なければいけません。でなければ、己だけではなく仲間の心や命を奪い取られます」

 

 そう言って、ディックは何故か数枚の映像記録媒体とそれを映し出す装置を見せる。

 

「その為には、総督が用意したメニューだけでは足りないでしょう。まず自らが脅威を避け命を守れるよう、余計な甘さを抱えたまま、過酷な戦場で救うべき命を危険にさらさぬよう、可能な限り教授しましょう」

 

 その言葉に、アーシアは真っ直ぐに前を向く。

 

 アーシア・アルジェントは心優しく、しかし甘さという領域に至っている。

 

 それを捨て去ることなどできず、むしろ捨てたくないと仲間達も思ってくれている。だからこそ、それに甘えてはいけない。

 

 少なくとも、その甘さを抱えたうえでどうにかできるよう努力してくれているディックに答えられるようになるべきだと思うから。

 

「よろしくお願いします、ディック先生!」

 

 その気持ちを言葉に乗せ、アーシアは決意を新たにする。

 

 それをきちんと受け止めたのか、機器を操作するディックに口元は僅かに弧を描いていた。

 

「では、まずは遠隔回復を行った者の記録映像を見ることから始め、そのあと実戦練習です。百聞は一見に如かず、人はどうしても身をもって経験しないと学べぬ者です。私の指導は厳しいですので、腹はくくっておきましょう」

 

「はい、先生!」

 

 ……アーシアは知らない。

 

 プルガトリオ機関ホテル部隊は、神の祝福を受けてない者達を治癒できるという稀少特性が多い都合上、最も損耗されないよう、護衛班の用意だけでなく回復担当そのものに厳しい訓練で危機に対処する技量を叩き込むことを。

 

 そしてディック・ドーマクという男は、常に集団に守られるというデメリットを必要としない、単独で最上級悪魔クラスが出張る戦場でも安全を確保できる、過酷な訓練と経験を積んだ、トップクラスの生存能力を持つ男であることを。

 

 アーシアの性格をある程度はプロファイリングしたうえで、甘さを抱えたまま厳しい現実を乗り越えられるように調整したディック・ドーマクのメニューは、厳しさが心身どころか自他にとっても厳しいことを。

 

 実戦練習の為、動けないように拘束した状態で自ら10m以上離れたところで腕をへし折ったディックを遠隔回復で治療させるという、双方の心身に多大な負担がかかるトレーニングメニューが第一弾となることを。

 

 並行して「味方の足を引っ張る甘さを持つのなら、可能な限り自分で全部背負わなければならない」と、オフェンスメンバー並みのトレーニングメニューが待っていることを、アーシアはまだ知らない。

 




 カズヒというキャラクターを設計するにあたって、そのカズヒの影響で頑張っているキャラクターを表裏問わぬ形で設計しようと思っており、それなりの下準備を行ってました。本来は全員この特訓編のコーチ役として出す予定でしたが、表側用に設計したカズホを「和平交渉の場に暗部だけ送るとか、大抵の奴らは抵抗あるから何か言うだろ」と思ってフライング気味に登場させたりしました。
 現状設計しているキャラはこの三人だけですが、もし機会があれば新たに作ってみようかとも思っています。

 そんな三人組の追加により、特訓もより激しくなることに。

 ついに明かせたカズホの準神滅具、殉教四聖剣。比較的強力な聖剣であり、四つの能力を持つエクスカリバーとデュランダルのデッドコピーを足した感じの準神滅具です。準神滅具なので複数存在するから、何かしらの形でほかの保有者を出したいとも思っております。
 もちろん他にも準神滅具は設計しており、最低でも一つはヘルキャット編で出せると思っております。

 そして慇懃無礼を基本とする、メリードと目で通じ合ったホテル部隊のディック・ドーマク。
 名前の由来はメ「ディック」及び、ドクターストーンで自分は初めて知った無機物版抗生物質「サルファ剤」を発見したドイツ人のゲルハルト・ドーマクから取っている、完全治療特化型の人物。
 回避・離脱・隠匿を徹底しながらも、だからこそそこに徹した場合は強大な存在です。いずれ機会があればバトルさせたいところ。
 そんな男のコーチチングを受けることでアーシア魔改造フラグが立ちました。ディオドラを強化することに定評がある自分ですが、今回も強化しましたけど果たしてその分の歯ごたえを用意できるのか自分で不安になってきました……

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