好き勝手準備後自滅した神様転生者のせいで全方位魔改造されるけど、おっぱいドラゴンが新たな仲間と共に頑張る話 旧名:ハイスクールL×L 置き土産のエピローグ   作:グレン×グレン

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 というわけで、長すぎたので切ったサイラオーグVSノア・ベリアルです。









 あ、それと全設定資料集を追記修正しましたので、もしよろしければご確認のほどを。

 仮面ライダーの部分は別枠にすることも考えてましたが、アンケート部分の調整が非常に面倒臭いことになるので無しにしました。そのため詳細情報が出ているマクシミリアンとラクシュミーもしっかり書いているのでご確認のほどを。


魔性変革編 第三十六話 大王封殺の計略

 

 

 

 

 

 

 

 

祐斗Side

 

 

 

 

 

 

 

 そのレーティングゲームは、僕達がソーナ会長達と行ったレーティングゲームに近い試合形式だった。

 

 大型の高層ビルを舞台としたレーティングゲームで、舞台の過度な破壊はNG。試合開始までに三十分の準備期間があって試合時間は二時間。そして部隊に一定の損害を与えただけでも評価が下がって場合によっては敗北扱いになる試合形式だった。

 

 そんな中、サイラオーグ氏はたった一人の兵士(ポーン)を参加させないという試合形式で挑んでいる。

 

 そしてその戦闘は最初から意外性のある展開だった。

 

『へーいサイラオーグ・バアルさん? 眷属とは別に(キング)同士でバトロうぜぇ?』

 

『いいだろう。その挑戦に答えなければバアルの次期当主は名乗れないな』

 

 開始前の準備時間にいきなり、フィールド全域に聞こえるように魔力を使いノア氏が挑発。それにサイラオーグ氏も応え、開始と同時に中央部で二人の戦いが始まった。

 

 ノア氏は魔力を収束させて七本の槍という形で展開し、それを正確かつまっすぐに加速させてサイラオーグ氏を狙う。同時に距離だけはしっかりとり、決して彼の間合いに入ろうとしない立ち回りだった。

 

 サイラオーグ氏はその攻撃をすべからくただの両手で粉砕しながら、接近するべく動くけど詰めれない。ノア氏の立ち回りによるものだろう。

 

 ノア氏は三本ほどは連射の形で使用しているが、残りの四本はサイラオーグ氏の接近を阻むたときだけ使用している。

 

 同時に二人の眷属達も戦闘を開始するけど、こちらもあまり白熱はしていない。

 

 ベリアル眷属は全員が守りに徹して少しずつ退避する動きを徹底しており、バアル眷属は有利に立ち回りつつも決定打を打てない形だ。その過程でベリアル眷属が散開することで、バアル眷属も分散しつつ益を追いかけている。

 

 ベリアル眷属の負傷はごくわずかだが、少しずつ確実に蓄積している。このままなら、二時間もすれば限界を超えて負けるだろう。

 

 だけど、戦局が一気に動くのは二十分と少し経った頃だった。

 

「じゃあ、そろそろ決定打を撃つとするか」

 

 少し汗を流しながら、ノアは不敵な笑みを浮かべ、いくつもの魔方陣を展開する。

 

 そしてその瞬間、明らかに先ほどとは威力が違う規模の魔力の槍が七本形成された。

 

 それを見て、サイラオーグ氏もまた、腰を深く落として迎撃の構えをとる。

 

「……なるほど。今までの戦闘中、その攻撃を放つため少しずつ魔力を練っていたのか」

 

「そういうことだ。この七極の魔槍が、このレーティングゲームの趨勢を決める決定打になる

 

 まっすぐに向き合いながら言葉を交わし、二人はお互いをまっすぐ見据えた。

 

 間違いない。この絶大な魔力量からいって、この一撃を喰らったことでサイラオーグ氏は敗北するのだろう。

 

 一発一発が先ほどのゼファードルが放とうとした一撃より数段上。少しずつとはいえ二十分強の時間をかけて練っただけのことはある、絶大な威力の魔力。全て当たれば最上級悪魔でも敗北必須だろう。

 

 サイラオーグ氏もそれを理解しているからか、静かに息を整える。

 

 そのにらみ合いが続くこと数分、ヴィールは何か好機を見つけたのか、目を光らせた。

 

「喰らうがいい。これがバアル眷属の()()を作る七撃だ!」

 

 大きな声で宣言するとともに、ノア氏はその魔槍を放つ。

 

 それに対してサイラオーグ氏は拳を放ち―()()()()

 

「何!?」

 

『『『『『『『『『『えぇ!?』』』』』』』』』』

 

 映像のサイラオーグ氏も驚くけど、僕たちも思わず声を上げた。

 

 ノア・ベリアルが放った魔力の槍は、途中でサイラオーグ氏を避けるように軌道を曲げ、周囲の壁を貫きながら明後日の方向に飛んで行った。

 

 そんなバカな。ありえない。

 

 サイラオーグ氏を倒すこともできるだろう七つの攻撃をそらす理由がない。そもそも周囲を破壊してしまえば、規模によっては即座に敗北だし評価は間違いなく下がる。

 

 僕たちが何も言えないでいて、映像のサイラオーグ氏もわけがわからないといった表情でノア氏を警戒している。

 

「……まさかぁ、そういうことなのぉ……っ!」

 

 そんなリーネスさんの声に、僕たちは振り向いた。

 

「どういうことですのリーネス。ここからノアとかいうのが負ける要素が見えませんのよ?」

 

 ヒマリさんが首をかしげるけど、リーネスさんはそれを見ないで画面を注視してる。

 

「安心しなさぁい。……この後一気にノアが有利になるわぁ」

 

 どういうことだろうか?

 

 けげんな表情浮かべている自覚はある。はっきり言って状況がさっぱりわからない。

 

 そんな時、映像で試合のアナウンスが鳴り響いた。

 

『サイラオーグ・バアル様の戦車(ルーク)二名、騎士(ナイト)一名、僧侶一名(ビショップ)一名、リタイア』

 

『なんだと!?』

 

 目を見開くサイラオーグ氏に対して、ノア氏は驚くことなく胸を張ると、息を吸った。

 

『兵士八名は女王の援護、騎士と僧侶は二対一で相手を殲滅、戦車はこっちに合流して援護! 慌てることなく油断せず行け!』

 

 この即座の指示、最初から想定内なのか?

 

 いや、何より不可解なのは通信用の備えをしている風に見えないことだ。

 

 連絡用の魔方陣も展開せず、いったいどうやって?

 

 僕が怪訝な表情を浮かべていると、サイラオーグ氏は何かに気づいたのか、ノア氏をにらみつける。

 

『そういうことか、貴様は最初から、俺を倒すつもりなどなかったのか……っ!』

 

 どういうことだ? サイラオーグ氏は何に気づいたんだ?

 

 僕たちが怪訝な表情を浮かべていると、リアス部長が椅子をけって立ち上がり、カズヒもリーネスに振り向いた。

 

「そういうこと……っ! あの大量の魔方陣、通信用を隠すためのデコイ……っ!」

 

「最初から集団フルボッコが本命ってことなの、リーネス!?」

 

 え、ど、どういうことだ!?

 

「ちょ、ちょっとカズヒさん! 状況わからないんですけど説明が欲しいっす!」

 

「部長もどういうことなんですか!?」

 

 アニル君とイッセー君が二人に質問するけど、それに答えたのはアザゼル先生だった。

 

「答えにすれば単純だ。ノアがぶちかました大技はサイラオーグじゃなくて奴の眷属に当てるための大技。大量の展開された魔方陣も、本命はそれをするために必要な通信や索敵の本命と、それに気づかせないように上乗せするカバーとしての必要ないのがほとんどだってことさ」

 

 なんだって?

 

 それはつまり―

 

「挑発して一対一に持ち込んだのは、自分の狙いが()()()()()()()()()()()()のフェイクなんですか!?」

 

 僕がそれに悟ると、リアス部長とリーネスさんはうなづいた。

 

「そうでしょうね。もちろんそんなことは困難だけれど、この策を最大効率で成功させるには、自分の眷属の損害を最小限に抑えることが必要不可欠だもの」

 

「しかもその間ずっと()()()()()()()()()()()()から、さらに力を超めた一撃が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わぁ。その上言い回しも嘘は言ってないけど、流れから言ってサイラオーグ(自分)自身を狙うと思うよう誘導もできるから、迎撃されにくくなってるわねぇ」

 

 なんて男だ。自分の身を危険にさらす代わりに、本命を成功させる布石をいくつも同時に打っていたのか。

 

 これが、本家当主以外で会合に参加した、有数の若手上級悪魔の一人。

 

 僕たちが愕然としている中、サイラオーグ氏は歯噛みして猛攻を仕掛けるが、ノア氏は素早くそれをかわしている。

 

 動きが先ほどより早い。さっきまでの戦闘も、本気を見せていなかったのか。

 

 さらに戦車二人の援護が入ってサイラオーグ氏の意識が若干それた瞬間、ノア氏が七本どころか数十本に及ぶ魔力の槍を連続で精製する。

 

 それらはサイラオーグ氏の周囲を旋回しつつ次々と襲い掛かり、迎撃するサイラオーグ氏の動きを少しだが確実に縫い留める。

 

 その間に戦車二人はノア氏に合流。戦車の特性の一つである防御力強化を生かし、ノア氏と共に強大な防壁を展開した。

 

『サイラオーグ・バアル様の女王リタイア』

 

『サイラオーグ・バアル様の騎士一名リタイア』

 

『サイラオーグ・バアル様の僧侶一名リタイア』

 

 その間にも次々に鳴り響くリタイアの報告。

 

 瞬く間に孤立無援になったサイラオーグ氏の周囲を、気づけばノア氏の眷属達が取り囲んでいた。

 

 そしてノア氏の戦車はノア氏から離れると、戦闘に参加しないような位置に離れている。おそらくは緊急時にキャスリングでノア氏の安全を確保するための備えだろう。

 

 圧倒的有利な状況を演出したうえで、更に油断なく保険を重ねている。ここからの巻き返しは困難と言っていいだろう。

 

『……ふぅ~。ここまで持っていけるかどうかは賭けでもあったが、何とか上手くいって良かったが、だからって油断すんなよー?』

 

『上手くいって良かった。だから、此処からも慎重にいくように』

 

 そんな風に、サイラオーグ氏の女王を兵士達と共に打倒した自分の女王と共にノアは眷属達に注意を促す。

 

 ノア氏の女王は黒髪をサイドテールにしている眠そうな目の少女だけど、同時にその目はノア氏と同様に冷たい色をサイラオーグ氏に見せていた。

 

 一気に優勢になりながらも、万が一の逆転を考慮して備えている。それが丸分かりだ。

 

『いやいや、ランキングで()()()()()()()()()()よなぁ? もとから敗けて当然だから負けても評価は大して落ちないし、どんな形でも勝てればそれだけで俺の評価は上がるだろう。なによりあんたの評価には盛大に傷がつくからな』

 

「あーなるほど。その辺りをしっかり割り切ってたからこそのこの作戦ね」

 

 ノア氏の発言を聞いて、カズヒは納得したのか少し呆れたような表情を浮かべる。

 

「どうしたんだよカズヒ。どういう作戦なんだ?」

 

「簡単よイッセー。この作戦は最初から、ノア・ベリアルがサイラオーグ・バアルに()()()()()()()()()()()()()()()に組み込まれているの」

 

 イッセー君にそう答えながら、カズヒは頬杖をついて映像を見る。

 

 既に戦闘はサイラオーグ氏の足止めに徹定しており、倒そうという気概が碌に見えないものになっていた。

 

 兵士は本陣に向かってからだったのかプロモーションしているけど、全員が戦車にプロモーションして遠距離から攻撃を叩き込んでいる。

 

 僧侶と女王は魔力でサイラオーグ氏の動きを抑制することに徹しており、騎士はその速度でかれの移動を阻害できる位置取りに回ってからの攻撃だ。

 

 全員が戦車になったことで、キャスリングの対象が増えている。これでサイラオーグ氏が突破しても自由自在に安全圏に避難できるだろう。

 

 そんな詰将棋のような動きを見ながら、カズヒは何処かげんなりとしていた。

 

()()()()()()()()()()負けても大して損がないって割り切りで、決定打を叩き込むためにノアは博打じみた手法を取れた。そして引き離されながら決定打を撃たれた時点で自分の評価は上がるから、ルール的に悪手なフィールドの損害も許容した。そしてここまでやればサイラオーグを倒さなくても十分だから、あとは判定勝ちで逃げ切るのが一番確実と見なして徹底的な足止め戦術にしてるのよ」

 

 なるほど。そう言われればすべてが腑に落ちる。

 

 この戦略はすべてが「サイラオーグ・バアルの眷属を全滅させてからの()()()()()()()()()()()」で一貫している。そこに至るまでの博打をいくつも仕掛けてはいただろうけど、それらはすべて決定打を撃つ為に必要なところだけを博打にしている。

 

 サイラオーグ氏の思考を誘導する為に自分から一対一の闘いに誘導したけど、決定打を撃ってからを考慮して、眷属達は全員防戦に徹させていた。だからこそ、決定打を撃った瞬間に一気に畳みかけてサイラオーグ氏の眷属を打倒することができたわけだ。

 

 ……必要な博打を打ちつつ必要ない博打は避ける。堅実さと大胆さを備えた、恐ろしい作戦だ。

 

「……そして結果はもう言えるが、カズヒの言った通りノアの勝ち逃げだ」

 

 そう、アザゼル先生は言い切った。

 

「サイラオーグはよくやっている。才能の欠片もない男でありながら、この圧倒的不利な状況下でも自身が撃破されることはなったんだからな」

 

 そう、僕達グレモリー眷属の古株も知っている。

 

 サイラオーグ・バアル氏は若手悪魔ナンバーワンと呼ばれながら、若手悪魔で最も才能がない悪魔だ。

 

 だからこそ、この敗北は彼にとってあまりにも痛い……っ

 

「え、あんな強いのに才能がないって、マジなんですか?」

 

「そうですよ。あれだけ強いのに才能がないなんて多方面に失礼です。世の中には才能があってもあそこまで強くなれない人や、強くなりたくても才能がなくてなれない人だっているのに……っ」

 

 割と本気で驚いているイッセーくんや、むしろ何て言うかつらそうな表情すら浮かべているルーシアさんを見て、リアス部長は静かに首を振った。

 

「残念ながら事実よ。サイラオーグはバアル本家の生まれでありながら、家系の特色である消滅どころか、一切の魔力すら持たない無才の悪魔なの」

 

 そう、彼はバアルの歴史において最も才能がない悪魔だ。

 

 イッセー君ですら小さな子供より下とはいえ、転生した時点で魔力は持っていた。だけどサイラオーグ氏はそれすら持っていない。

 

 苦戦しているサイラオーグを見ていられないのか、リアス部長は目を伏せた。

 

 そして、ため息をつくように言葉を放つ。

 

「上級の貴族に生まれた悪魔にとって、魔力は一番重要なステータスと言ってもいいわ。それを持たないサイラオーグは幼少期から実の父親にすら侮蔑され蔑まれ、下級中級の子供達にすら虐められていたこともあるの」

 

「……当たり前のものを持ってないってのに、子供ってホント残虐になれる奴が多いからなぁ」

 

「で、でも! サイラオーグさんは若手悪魔のナンバーワンなんでしょ!? 魔力の才能が全くないってのに何で!?」

 

 うんざりした口調で九成君がそう言うと、イッセー君は反論するように声を上げる。

 

「簡単さ。そんな上級悪魔の貴族が、絶対にしないようなことをして這い上がったんだよ」

 

 それに対して、アザゼル先生が魔方陣を操作しながらそう告げる。

 

 ゼノヴィアはそれに対して首を傾げた。

 

「それはなんだ? 才能の無さを補えるほどのものだというのか?」

 

「口にするなら簡単だが、そこに至るまでし続けるのは誰にでもできることじゃない。……文字通り、血の吐くような努力の積み重ねさ」

 

 そう言いながら先生が浮かび上がらせるのは、今回の上級悪魔のそれぞれの資質を見せた一種のステータス評だ。

 

 魔力やパワーなどの性能に、資質を示すのか王の部分もある。こと王の部分はリアス部長が高く示されているけど、サイラオーグ氏やフロンズ氏は更に高い。

 

 そして何より見せつけられるのは、パワーのステータスだ。

 

 サイラオーグ氏のパワーは絶大と言ってもいい、パワーだけなら二番目のゼファードルを圧倒し、天井に届いて更に伸びているほどだ。

 

「……まあ出し惜しみや夏休み中の鍛錬などで変わっているだろうが、それでも見える範囲であの会合前のパワーはサイラオーグが圧倒的に上だ。ノアとは比べるべくもない」

 

 アザゼル先生の言うとおりだ、ノア氏のパワーも高い部類だけど、サイラオーグ氏の半分にも届いていない。

 

「純血悪魔でありながら魔力を持たないことが、貴族達の世界でどれだけの屈辱であり汚点であるか。その味を知り、それでも這い上がってきたサイラオーグは間違いなく本物だ」

 

 全方位からの猛攻に晒されながらもしのいでいるサイラオーグ氏を見ながら、アザゼル先生ははっきりとそう言い切った。

 

 そう言うほかない。あれだけの強さを持っている若手悪魔は、彼以外にはヴィール・アガレス以外にいないだろう。

 

 だが、そんな彼ですら戦術的に嵌められれば制圧されるのが、レーティングゲームという世界の厳しさであり奥深さだというのか。

 

「……この敗北の後、サイラオーグの後援者は殆どが彼から手を引いたそうよ」

 

「……え、ちょっと待ってくださいよ! たった一回で!?」

 

 リアス部長の言葉にイッセー君は愕然とするけど、部長は静かに首を横に振った。

 

「……サイラオーグは自分の経験もあって、努力して魔力以外の成果を出せた者が認められる社会を目指していたわ。彼の後援者の多くは立場もあって大王派で、本来なら受け入れられないそれをお兄様達現魔王に一泡吹かせたいという判断から協力していたの」

 

「だが大きく下馬評で劣っているノアに負けたことで、そこまでする価値がないと判断したってことか」

 

 アザゼル先生がそう言うけど、リアス部長が言いたいことはそれだけではなかった。

 

「それ以上の問題は、ノアが率いている眷属にあったのよ。……彼は女王以外の眷属を、会合前にトレードしていたのだけれど―」

 

 そう言いながら、部長は数枚の資料をのせる。

 

 それに目を通した僕達のうち、悪魔歴が長い者達は皆が気付いた。

 

「こ、これって……!」

 

「どうしたギャスパー? こいつらがどうかしたのか!?」

 

 驚いているギャスパー君にイッセー君が問いかけるけど、これはそういう心配はしなくていい。

 

 だけど、これはまた厄介なというほかない。

 

 朱乃さんや小猫ちゃんもそれを理解したのだろう。資料と映像を交互に見ながら、ノア氏に非難じみた視線を向けている。

 

 とはいえ気持ちは分かるよ。これは何の策にしても、サイラオーグ氏に対して意地が悪すぎる。

 

 これは―

 

「ノア・ベリアルが眷属としてトレードしたのは、全員がかつてサイラオーグ氏と模擬戦をして心を折られた上級悪魔の眷属だ」

 

「「「ぇええええええっ!?」」」

 

 僕が告げると、イッセー君やヒマリさんにアニル君が絶叫する。

 

 気持ちは分かるさ。ここまで全員がそうだと、もうわざと彼らを集めたとしか思えないからね。

 

「……ってことは何か? ノア・ベリアルは最初からサイラオーグを()()()()()()()()()()に、事前に準備しまくってたっていうのかよ?」

 

 九成君がそう考えるのも無理はない。

 

 アザゼル先生も同意見なのか、サイラオーグさんに同情的な視線すら浮かべている。

 

「フロンズ・フィーニクスは政治的にしっかり根回しする男で、ノア・ベリアルはその親友だったな。……会合前から若手悪魔同士でレーティングゲームが起きると踏んで、事前に準備していたってことか」

 

「でしょうね。サイラオーグと模擬戦をした上級悪魔の中には、生まれ持って成長した魔力を生まれつき持ってないサイラオーグに打ち破られたことで心が折れた者も数多い。主がそんなことになった眷属から、サイラオーグの経歴に傷をつけ、名誉に泥を塗り、足を引っ張れる機会を望む者が出てもおかしくないわ」

 

 リアス部長がそう言うと、アザゼル先生も頷いた。

 

 貴族主義で排他的な思想を持つ者を見てきたリアス部長や、長い年月を生きてきたアザゼル先生からすれば、好ましくはなくても理解はできる動きなのだろう。

 

 そしてそれはつまり―

 

「ロアやその親友のフロンズは、この一勝でサイラオーグに心折られた連中の関係者や、不快感を持つ奴らから()()()()()()()()()()()()()だろうさ。ましてあいつらの所属は大王派だ。利用価値があるとはいえ相容れない理想のサイラオーグより、立場が近く理想も合わせやすい奴の後援者になる方がましだと思いたくなるだろうさ」

 

 先生が語っていることが事実だろう。

 

 ノア・ベリアルはそこまで考えて布石を打っていたんだ。

 

 サイラオーグ氏を負かすだけでなく後援者から手を引かせることで、サイラオーグ氏を嫌う大王派の者達を味方につけた。更に彼によって心折られた主を持つ者達からは強い感謝の気持ちを得ただろう。

 

 むしろサイラオーグ氏を負かすことができればという条件で何かしらの契約を結んでいるかもしれない。そしてよしんば負けたところで、下馬評で大きく水をあけられているから失うものはさほどない。

 

 やはり彼らは厄介な人員だ。

 

 政治のフロンズ・フィーニクスにに軍事のノア・ベリアル。しかもレーティングゲームを中心に考えられている今の()()()()()()()()()()()()()()()、大王派の若き才児達。

 

 彼らは間違いなく、優秀極まりない人物だ。

 

 僕達グレモリー眷属が息を呑む中、試合はそのあと誰一人撃破されることなく決着した。

 

 誰もが再び別の意味で沈黙する中、アザゼル先生はわざと切り替えるように大きく息を吐いた。

 

「とまあ、こんな形で色々と大番狂わせも起きているが、まだまだレーティングゲームは残ってる。で、次だが―」

 

 そう言って話を変えようとしたその時だった。

 

 部室の片隅で転移用の魔方陣が展開される。

 

「えぇ!? いきなり何が!?」

 

「警戒しとけ! もしかしたら敵襲かもしれないぞ!」

 

 イリナさんが驚き九成君が構えるけど、見る限りは襲撃というわけではない。

 

 いや、むしろこれは―

 

「……アスタロトの」

 

 小猫ちゃんが言う通り、あれはアスタロト家の紋章だ。

 

 そしてその紋章の通り、一人の少年がそこから姿を現した。

 

「……久しぶりだね、リアス・グレモリー。アーシアに会いに来ました」

 

 ―ディオドラ・アスタロトがそこに姿を現した。

 




 ノア・ベリアルによるサイラオーグ封じ。これに関してはノアは三割博打を打ったことで王手となりました。

 視点的なところで分かりにくいので、大まかな解説も踏まえます。

 入念な情報収集と根回しでサイラオーグに主の心をへし折られた者たちをチームメンバーのほとんどとすることで、対サイラオーグの士気を向上。さらに大王派ゆえに伝手やそのあたりの情報収集でサイラオーグの能力と戦い方を推定し、ノアは対サイラオーグで力を溜めつつ時間を稼げる戦い方を確立。

 そして原作通り、リアス達の試合以外はルールの通達も前からあり、それを踏まえて作戦は確定。戦闘ルールはリアスVSソーナに近く、ノアはこれを逆手に取ることで「フィールドを積極的に壊す必要のある作戦」により相手が作戦を読みにくいよう盲点に設置することに成功。さらにその根幹の一手を打つ自分自身が最強戦力のサイラオーグと一対一をするように思わせることで、サイラオーグも眷属も「ノア自身がフィールドを意図的に壊す策をとる可能性」を浮かばせないように思考を誘導しました。とどめに時間稼ぎ中はシンプルな直射魔力攻撃を徹底させることで、サイラオーグの思考から少しでも「自分を狙った直射の魔力攻撃がノアの戦闘手段」という刷り込みをさせることで、本命が対応される可能性を少しでもそぎ落としてます。

 眷属側も守りに徹した遅滞戦術を敢行し、同時にそれぞれの眷属を分断し、自分達も合流をしないよう徹底。これに拠って眷属側も、もともとまっすぐな勝負を好む主であることもあって「ノアがサイラオーグを倒すまでの時間稼ぎ」と思い込ませて隙を作り、また「合流する可能性」を想定させないようにしました。

 で、その仕込みと溜めが十分になったところで本番。あえて業を煮やして必殺の攻撃でサイラオーグを倒すつもりだと誤解しやすい言い回しをし、サイラオーグの性格から真っ向勝負になるように思考を誘導。そして必殺技のそれと誤解されるような形で大量のデコイと本番の伝達とバアル眷属の位置確認を行う魔方陣を展開。
 全ての仕込みで生まれた間隙をついて、「評価低下を許容した、眷属を倒すための壁抜き砲撃」でサイラオーグの眷属達を一斉に攻撃。これで全員潰せるならよし、全員凌いだとしてもその不意打ちのダメージと混乱をつけば最小限の被害で全部潰せる。中間部分ならまず空いた眷属達で相手無い眷属達をフォローして、まずはサイラオーグだけにする。そしてそのあとは全員総出による時間切れ狙いの逃げ切り作戦を敢行して、判定勝ちを取る……というのがノアの作戦です。

 現段階ではリアス達が知らないので本文では書けませんが、ノアは大王派でもあることからもちろんサイラオーグの兵士についての情報も収集しており、今回の試合ではたぶん出さないとも踏んだうえでの作戦です。自分とサイラオーグの下馬評なら、たとえ兵士分の差とフィールド破壊の減点があっても十分な自分の功績となり、サイラオーグは評価が削られる。その結果トレードで集めた眷属達やその主に関係者はサイラオーグに意趣返しができたことで感謝し貸しをつくれ、またサイラオーグに思うところがある大王派の重鎮たちの覚えもよくなる。負けても下馬評からみて損はそこまでないし、サイラオーグを苦戦させれるのなら大王派で成り上がるのには十分……という感じです。

 ノアはこういった戦術的な作戦を行使する策士タイプ。個々の戦闘能力より一定の戦闘能力を持つ集団での動きで戦場の流れを操作するスタンスで勝利をつかみます。

 これなら戦闘能力の高いサイラオーグをあまり下げずに、全く別の観点からフロンズ達の強みを見せれると判断しました。

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