高度育成高等学校に着任した男   作:主義

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邂逅

一通り挨拶が終わり、僕は生徒との顔合わせも終わった。僕が担当するのは一年の数学。数学は一週間に四単位もあるのでほぼ毎日顔を合わせる事になる。

 

そして入学して一週間も経てばクラスの特色が少しずつ出て来るものだ。途中結果だがDクラスはこの調子だとかなりマズイ結果になるだろう。逆にAクラスは歴代稀に見るほど良い調子だ。この調子でいけば凄い量のポイントが残る事になるのは言うまでもない。

 

 

「あなたが龍宮先生でしたか?」

 

 

 

名前を呼ばれた気がしたので後ろを振り返るとそこには……杖を右手で付いている白髪の少女がいた。この子は確か一年A組の生徒だった気がする…理事長の娘さんという事でよく覚えている。

 

 

 

「そうだけど…何か用があるのかな?」

 

 

 

「いえ、お父様からお聞きしていましたので…」

 

 

 

「理事長から?」

 

 

 

「はい、『今年から若い優秀な子が一年という期間付きで働く事になったんだ。』と仰っていたので一体どんな方なのか気になりまして」

 

 

理事長はそんな風に僕の事を言っていたのか……僕ってそんなに優秀な人じゃないんだけどな。期待されたとしてもその期待に応えられるか分からない。

 

 

「会ってみてどう?幻滅したかな?」

 

 

 

「いや、全然です。それよりこの後、少しお時間ありますか?」

 

 

 

「まだ授業が始まっていないから急いでやるような事はないけど」

 

 

 

「それなら少しお付き合いしていただけませんか?」

 

 

 

「別に良いよ」

 

 

 

 

 

 

僕は坂柳さんの後を付いていくと図書室の前で足が止まった。図書室という事は本でも読むのだろうか。でも、それなら僕が付いてくる意味がないと思うんだけど。

 

 

 

「坂柳さん」

 

 

 

「はい?」

 

 

 

「ここで何をするの?」

 

 

 

「チェスですよ。私はこれでも今までチェスで人に負けたことがあまりないんですよ。龍宮先生ともチェスをしたいと思いまして」

 

 

チェス……ルールについては知っているがあまり経験がない。それに坂柳さんはあまり負けたことがないと言っている。これはやってみるまでもなく絶対に強いのは決まっているようなものだ。僕が勝てる確率はほとんどないと言ってもいい。それなのにやる意味があるのだろうかと思ってしまう。

 

 

 

「…僕、あんまりやったことないから坂柳さんの相手にならないと思うよ」

 

 

 

「それはやってみないと分からないですよ。あまりやったことがない人がいつもやっている人に勝つ事だってありますよ。beginner's luckという言葉があるぐらいですしね」

 

 

そういうと坂柳さんはどこからか分からないがチェス盤を取ってきた。空いている席を見つけて僕と坂柳さんはチェスを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

だけど予想以上に僕にはチェスの才能があったようで……勝ってしまった。生徒相手に本気でやってしまうのもどうなのだろうかと途中で考えたりしたけど最終的には最後まで僕は本気でチェスをやった。だって手を抜こうとすると坂柳さんはそれが分かってしまうのか「手を抜かないでください」と言ってくるのだから手は抜けない。

 

 

坂柳さんの方を見るとそこには……悔しいのを必死に我慢して笑っている坂柳さんの姿があった。よほど負けたのが悔しかったのだろう。でも、ここまでゲームに本気になれるのは一つの才能だと僕は思ったりする。そこまでチェスに本気だったという事だろうからね。

 

 

 

「………もう一戦…」

 

 

消え入りそうな声で坂柳さんは僕の方を見ずに口にした。さすがにこれ以上、チェスで闘うのは避けた方が良いのではないか。このまま僕が勝ち続けたらさすがに坂柳さんのメンタルの方が持たなそうだしね。それにいくら暇と言っても生徒とチェスをやっていたなんて知られたら確実に怒られる。

 

 

「ここらで止めにしないかい…?どうしてもやりたいんだったら次の機会にまたやろうよ」

 

 

坂柳さんは今にも泣きそうだ……止めるにしてもこのままほっとく訳にはいかない。この事態を迅速に収束させるには一体なにをしたら良いのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

十秒近く必死に脳をフル回転して出した結論は………撫でるだった。幼い子供は泣いたら撫でてやると泣き止んだりすると聞いた事がある。この際、なんでもいい。何もしないよりはいいはずだ。

そう思い、僕は席を立ち坂柳さんの近くに行って頭を撫でた。坂柳さんは無言のまま静かな時間が流れた。

 

 

 

 

五分近く頭を撫でてさすがにこれ以上は良いだろうと思い、手を坂柳さんの頭から離した。

 

 

「ごめん……今更だけど嫌だったかな?嫌だったらごめん。でも、坂柳さんに落ち着いて欲しかったんだ。これはゲームだからね……生死を決めるデスゲームというわけじゃないんだからね」

 

 

 

「…………良いです…」

 

 

 

「うん?」

 

 

 

「……嫌じゃない…です……………撫でられるの…嫌じゃないです」

 

 

 

「そうか……なら良かった。少しは落ち着いたかい?」

 

 

 

 

「……は………い」

 

 

この様子じゃまだ万全ではないな。これほど負けず嫌いならチェスなんかするんじゃなかったな。次からは生徒と何かをする時はその生徒の情報を頭に入れてから行動する事にしようと肝に銘じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、坂柳さんが普段の調子に戻るまで二時間以上が掛かってしまい、全てが終わった頃には日が沈んでいた。

そして言うまでもないと思うが僕は真嶋くんに怒られる羽目になってしまった。忘れていたが今日は……一学年の教師が集まる事があったんだと…坂柳さんを送っていった帰りに気付いた。もう全てが遅かったけどね。

 

 

 

 

「これで一年間、何事もなく過ごせるかな……?」

 

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