起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、夏の予定が増える

「これを着けなさい、アリス」

 

 差しだされたのは短いベルト状のものだった。

 材質は革のしなやかさとエナメル的な滑らかさを併せ持った何か。色は黒だが、若干の透明度があるのか奥深い色合いが作り出されている。

 ベルト穴はなく、シンプルなバックルにかちっと嵌めるだけのデザイン。

 銀色の金属でできたハートチャームが付属しており、可愛らしいと言えば可愛らしい。

 

「これがあればあなたの邪気集積能力を抑えることができるわ」

 

 まあ、いわゆるチョーカーである。

 コスプレ系の趣味がある女子が店頭で見つけたら手に取ることもあるだろうが、

 

「いえ、これ首輪ですよね?」

 

 お洒落アイテムで済ませるにはベルトが少々幅広過ぎる。

 ついでにバックルには小さなフックが付いており、そこに細いチェーンが繋がっているのだから疑う余地はない。

 俺にそれを差し出してきた桃色の髪の美少女──ラペーシュは心外だという風に首を傾げて、

 

「名前の違いなんて些細なことでしょう? さあ、早く着けなさい。一度嵌めれば私以外には外せない親切な作りだから、失くす心配はないわ」

「正体を現しましたね魑魅魍魎。アリス先輩から離れなさい」

 

 気合いの問題か、あるいはラペーシュは敵判定なのか、にわかに召喚された秘刀『俄雨』の切っ先がラペーシュの細い喉に突きつけられる。

 部屋の中でやるには物騒すぎるやりとりだが、当の魔王は余裕の笑みを浮かべるだけで、

 

「私を傷つけられない癖に、その刀でどうするつもり? それに、着けるか着けないかはアリスの自由でしょう?」

「詭弁です。……どうせ、その首輪に余計な機能も付いているでしょうに」

「あら。邪気集積能力のついでにアリスの神聖力も制限されるだけよ? 契約魔法の応用だから同意のない効果は得られないもの」

「十分危険ではありませんか!」

 

 いや、うん、俺もこの首輪は物騒だと思うが、瑠璃の剣幕を見ていると逆に冷静になってしまう。

 というか床や天井が傷つくと困るのだが。

 

「あの、朱華さんも何か言ってください」

「ん? ……そうね。着けるんなら衣装着てからにしなさい。メイド服もいいけど、ここはやっぱりいつもの聖職者コスで」

「もの凄く絵面が駄目そうですよ!?」

「それがいいんじゃない。魔王に敗北した聖職者が首輪を嵌められて隷属するプレイ。……興奮しない?」

「百歩譲って、当事者でなければ同意してもいいですけど」

 

 さすがに聖職者としての能力まで制限されると困る。

 俺はラペーシュに首輪を返して「他の方法を考えます」と言った。

 半ば冗談だったのだろう。魔王もあっさりと受け取って「あら、残念」と笑う。

 

「絶対似合うと思ったのに」

「でもそれ、どっちかっていうと瑠璃の管轄よね?」

「そう? せっかくだし着けさせてあげましょうか」

 

 さらっとパスされた首輪を、瑠璃は「思わず」といった様子でキャッチ。しげしげと眺めてから呻くように言った。

 

「外せない専用サイズの首輪。これ見よがしなチャーム。これがアリス先輩から渡されたのなら喜んで付けるところですが……」

「いえ、私はそういう趣味ないですからね?」

「そう? 別にいいじゃない。女神様もプレイとしてやる分には許してくれるでしょ?」

「それはまあ、夫婦や恋人同士の関係改善は子供を増やす意味でも重要ですけど」

 

 結局、首輪は誰も着けなかった。

 

 

 

 

「アリス。コミフェに参加しましょう」

 

 中庭にていつもの四人での昼食時、縫子(ほうこ)がややテンションの上がった声音で俺に提案してきた。

 夏休みにどこへ行こう、という話の延長でのことだ。

 言われた俺は軽く首を傾げてから、ああ、と思い至る。

 

「同人誌の即売会ですね? 有明の方でやる」

 

 正式名称はコミックフェスティバルだったか。

 美少女アバターで配信なんてやっている都合上、その名前は結構目にする。朱華や千歌さんも話題にすることがあるし。

 主な内容としては同人誌──ファンが製作した二次創作系の本やゲーム等の他、個人製作のオリジナル作品、コアな研究本などの販売である。企業として参加することも可能で、その場合は限定だったり先行販売だったりするグッズが売られることが多い。

 鈴香(すずか)芽愛(めい)も縫子の影響で知っているのか「ああ、あれね」といった感じの反応だ。

 

「安芸さんが行きたがるということは……コスプレですか?」

「はい。せっかくですから『キャロル・スターライト』のコスプレで広場に行きましょう。衣装はもう用意できています」

 

 なんという早業……ではなく、千歌さんとの配信用に前から作っていたためだ。

 コスプレもまたイベントにおける目玉の一つ。有名なコスプレイヤーになると何十という人に囲まれて撮影を受ける。写真はSNSなどにもアップされ、興味のある人々に拡散される。

 

「でも、さすがに恥ずかしいです」

「有名になるためには欠かせないイベントです。私としても自分の衣装を広く認めてもらうチャンスですし」

「安芸さんはコスプレしないんですよね?」

「私は作る専門ですから」

 

 縫子はさらっと答えてから、「また始まった」という顔の鈴香たちを見た。

 

「一人だと恥ずかしいのであれば、鈴香達を誘いましょう」

「嫌」「嫌です」

 

 即答だった。

 

「だって、暑いんでしょう? 強い日差しは肌に良くないし、海水浴と違って日焼け止めを塗り直すのも大変じゃない」

「ああいったイベントの食べ物って高いのに味はいまいちですし」

 

 さもありなん。

 好みのはっきりしている三人なので、こういう極端なイベントだとなかなか意見が一致しない。当然の流れだと思っていると、今回の縫子は一味違った。

 

「芽愛は料理マンガ、好きでしたよね? 夏フェのサークル一覧には有名マンガのレシピ再現本を出すサークルがありました」

「うっ……ちょっと見たい。ううん、かなり見たい」

「鈴香。芽愛が来るのなら一人だけ仲間外れですね。写真、たくさん撮ってきますので、帰ったら『一部だけ』見せますね」

「縫子、それはズルいんじゃないかしら」

「ズルくありません。参加するという労力を払うのですから正当な報酬です」

 

 結局、折れたのは芽愛たちの方だった。

 芽愛は「好きなマンガのキャラのコスプレなら」ということで承諾、鈴香はコスプレしない代わりに芽愛の欲しい同人誌を購入することになった。

 ただ、一人で歩くのも危ないので、後者は理緒さんの役割になりそうだ。その分は写真を撮ったり、制汗スプレーを提供したりして補ってくれるらしい。

 

「二人とも、大丈夫ですか? 無理はしなくても……」

「大丈夫です。せっかくの夏休みですし」

「代わりに私の希望にも付き合ってもらうから、それでお相子にしましょう」

 

 じゃあ、それぞれ一つずつ行きたいところに行くことにしよう、ということで決定。

 鈴香は前にも言っていたダイビングをチョイス。近場なら日帰りも可能だが、余裕を持って泊まりコースが前提だ。海の近くなら海産物も美味しいに決まっているし、海中の様子からインスピレーションが湧くということで二人も快諾。

 芽愛の希望はホテルのデザートビュッフェ。どうせならこれも泊まりにしてショッピングか何かを一緒に楽しもうということに。

 

「アリスは? 何か希望はないの?」

「私ですか? 私は……」

 

 美味しい物が食べたい、という欲求は黙っていても芽愛が満たしてくれるし、ダイビングも楽しそうだ。コスプレすれば配信関係の知名度も上がる。

 となると、

 

「滝行か、どこかの神事を見学するとか……あ! 農業体験なんかも興味あります!」

「さすがアリスさん」

「アリスも本当、そういうの好きね。まあ、煩悩ばかりでは問題かもしれないし……」

 

 どこかで滝行+写経を体験し、ついでに近くで果物狩りでもして帰ってくればいいのでは、ということになった。詳しい場所や日程は各々調べたり調整したりする方向。

 

「今年の夏も楽しくなりそうね」

「あ、アリスさん。もしも鴨間(おうま)さんを呼ぶなら事前に言ってくださいね? 部屋割りなどを考えないといけませんから」

「わ、わかりました」

 

 夏休みの予定がどんどん増えてしまった。

 その前にあるラペーシュとの決戦はもう、本気で頑張るしかないとして、みんなで遊びに行く前には邪気誘引体質? をなんとかしておかなければ。

 

 

 

 

「ラペーシュさん。要は私の力が増したから邪気を集めやすくなった、ということなんですよね?」

 

 夕食時、邪気の専門家(?)に尋ねると、彼女は「おそらくね」と答えてくれた。

 この日のメニューはすき焼き。具材を炊くのではなく、薄い鍋で焼くタイプだった。

 こうすると高級感が出て上品な感じがあるので、魔王様も満足してくれた様子。焼いた肉や長葱、焼き豆腐などを笑顔で味わっている。

 

「あなたと瑠璃が突出しているということは、そういうことでしょう? 邪気に対する能力が突出しているからこそ『祓いやすい』状態が作られるわけ」

「じゃあ、このまま能力が高まったら昼間でも敵が現れたりするんでしょうか」

「可能性はあるでしょう。夜は魔の統べる時間だけれど、昼間だからと言って邪気が全く存在しないわけではないもの」

 

 そう答えた上で、少し考えるようにしてから、

 

「実体化が起こるのは一定以上の邪気があればこそ。この国の邪気を大きく発散させることさえできればある程度、状況を抑えることはできると思う」

「何よ。結局あんたをぶっ飛ばせば全部解決するってわけ?」

「全部ではないと言っているでしょう。マシになるだけ」

 

 俺としては日没後に出歩ければそれでいいわけだが、だからこそ「邪気の少ない場所なら日が暮れても平気」みたいな中途半端が一番困る。

 生卵につけた具材をはふはふしてビールを煽っていた教授が「ふむ」と声を上げ、

 

「この際、本当に訓練とやらをしておいた方が良いのではないか?」

「そんな気がします」

「あら? アリシアさんだけではなく、他の方にも同じ危険はあるのではなくて?」

「吾輩達の性能が三倍になることはあるまい」

 

 身も蓋も無いが、確かに想像しづらい。ラペーシュも教授たちは成長率が低いと言っていたわけだし。

 

「ちなみに、何か特訓方法があるんでしょうか?」

「私はある意味、アリスと対極の存在よ? うまい方法を知っているわけが──と、言いたいところだけど、外部への影響を抑えたいのなら、漏れ出る力を抑えればいいんじゃないかしら」

 

 曰く、魔力などの力は積極的に行使していない時にも少しずつ漏れ出している。

 その漏れ出す力を少なくし、体内に留めることで理論上は邪気の集合も抑えられるはずだという。

 

「えっと、私、そんなに普段から神聖な気配放ってるんですか?」

「うん」

「ええ」

「はい」

「そうだよー」

「アリスさまはとても清浄な気配をお持ちです」

 

 ほぼ満場一致だった。

 日中は太陽という「最大級の神聖力を持つ存在」があるため紛れるし、日常生活を送る分にはある程度印象も薄れる。シェアハウスのメンバーや学校のクラスメートなども見慣れているのであまり気にしてはいないだろうが、この間の政治家の方々などはそれはもう、立っているだけで神聖な存在に見えただろうとのこと。

 聖職者なのだからそれっぽく見えても問題はないのだが、そうか、そんなにか……と微妙な気分になった。

 

「いいじゃない。夜道を一人で歩いてても不審者から襲われにくいだろうし」

「その理屈だと、朱華さんは必要以上にいやらしく見えてるんでしょうか?」

「でしょうね。ちなみに、そうだとしたらそこの魔王も一緒よ」

「人を巻き込まないでくれるかしら? そもそも、私は知的生物全てを魅了してしかるべき存在なのだから、そんな因縁はあってもなくても同じことよ」

「はいはい、そうね。すごいわねー」

「全く信じてないでしょうあなた……!」

 

 うん、ラペーシュと朱華はやっぱり気が合うらしい。

 ともあれ。

 邪気対策の訓練はある意味オーソドックスというかなんというか、俺の放つオーラ的なものを抑制する形になるらしい。

 ラペーシュの力を使えば簡単に可能なのだが、その方法だと神聖魔法そのものを弱くされてしまう。

 必要な時に力を解き放つ逆、必要ない時はしっかり元栓を締める訓練。

 

「とりあえず、空いた時間にイメージトレーニングしてみます」

「頑張ってー、アリスちゃん」

 

 こうして、俺の日課が一つ増えることになった。

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