起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、決戦準備をする

「夏休みまであと少しだけど、みんな、この時期に風邪とか引かないように気をつけてね」

 

 担任である吉野先生の声に、クラスメートたちが「はーい」と答える。

 終業式を来週に控えた金曜日。

 高校一年生には受験のプレッシャーもないせいか、あるいは去年の夏とは俺自身の心がまえが異なるせいか、クラスの雰囲気は去年よりものんびりとしていて楽しそうに見える。

 

 風邪、というフレーズから、俺は鴨間(おうま)小桃(こもも)の席に目をやる。

 小桃はここ三日、学校を休んでいる。

 といっても風邪ではなく「外せない用事」だと事前に伝えられている。なので友人たちも「本当に風邪じゃないのかな?」「ちょっと心配だねー」程度のノリである。

 もちろん、本当に風邪ではなく、

 

『決戦前はしばらくあなたたちから離れるわ』

 

 という、ラペーシュの方針が原因だった。

 

『そっちも作戦会議の時間が欲しいでしょうし。こっちも気持ちを戦闘モードに持って行きたいしね』

 

 当日までは政府スタッフの監視の下、ホテルで暮らすという。

 俺たちから離れることに文句が出るかと思ったが、この要求は割とあっさり受理された。却下したところでラペーシュを止める手段がない、というのが理由だろうが。

 わざわざ会わないようにしたのに学校では顔を合わせるのはなんとなく気まずい、というわけで、ラペーシュのアバターである小桃も学校を休んでいる。

 こっちが休むという手もあったわけだが、中等部である瑠璃はいいとして俺、朱華、シルビアが全員休むのでは大変だし、ラペーシュ自身が「私は学校にそこまで執着がないもの」とこの形を希望した。

 少し寂しい気もするが、それ以上に、そこまでして仕上げて来るという事実が怖い。

 

 ……と、考えごとをしているうちに帰りのHRは終了した。

 

「ブライトネスさんは少しだけ残ってください」

「はい」

 

 先生からの指示に答え、日直の号令に従う。

 

「じゃあね、アリスちゃん」

「また月曜日に」

「はい。また来週に」

 

 吉野先生はみんなとの挨拶が終わるまで待っていてくれた。

 教室から人気が減り始めたところで教壇の方まで歩いていくと、先生は少し声をひそめるようにして言ってきた。

 

「今日なんでしょう?」

「はい。今日の夜からです」

 

 こくん、と頷く。

 決戦は今晩を予定している。終わった後でへとへとになったり重傷を負ったりする可能性もあるので、回復の時間を用意するためだ。

 できるだけやりたくはないが最悪、体調を崩したことにして夏休みまで欠席、という手もある。

 俺の返事に先生は同じように頷くと、そっと小さな品物を差し出してきた。上部が紐で結ばれた、四角い袋状のもの。ラペーシュとスララ、アッシェ、それからシュヴァルツを除いたシェアハウスの人数分ある。

 

「お守り。これくらいしかできないけど、良かったら持って行って」

「いただいていいんですか?」

 

 微弱だが、瑠璃の霊力に近い気配を感じる。

 持っていればきっとご利益があるだろう。魔王の力の前では吹き飛んでしまうかもしれないが、心遣いが何よりありがたい。

 

「ブライトネスさんには必要ないかもしれないけど。……それから、あの子に渡すかどうかも好きにしてくれていいから」

「……ありがとうございます」

 

 その言葉でわかった。

 このお守りはシルビアの実家のものだ。きっと当人が見れば一発でわかるだろう。顔をしかめて嫌がるかもしれない。

 それでも。

 

「必ずシルビアさんに渡します」

「ええ」

 

 俺は微笑んでお守りを受け取った。

 先生は素っ気なく頷いただけだったが、その表情はどことなく嬉しそうに見えた。

 

 

 

 

 

 帰りに園芸部へ顔を出し、植物にひとつひとつ声をかけた。

 

「元気に育ってくださいね」

 

 声をかけ終わって立ち上がると、他の部員たちがじっとこちらを見つめていた。

 

「どうしました?」

「あ、ううん。その、アリスちゃんがそうしてるとなんだか似合うなって」

「別れの挨拶とかじゃないよね?」

 

 彼女たちに俺は「まさか」と笑って答えた。

 

「夏休み前の挨拶を忘れないうちに、と思ったんです。お休みに入ると会える日が少なくなるでしょう?」

「……うん。そうだね。そういうのって大事だよね」

 

 なんだか妙に感心された。

 以後、桜萌(ほうおう)の園芸部では「育てている植物には声をかける」のが伝統になるのだが、それはまた別のお話。

 

「ただいま帰りました……っと?」

「あ、アリスちゃん。お帰りなさい」

「ただいまです、椎名さん」

 

 シェアハウスに帰ると玄関で椎名に会った。

 ちょうど帰るところだったらしい。表情に疲れと達成感を滲ませながら挨拶してくれる。

 

「お仕事ですか?」

「うん。ちょっとマシンの搬入とセッティングをね。……いや本当、私がアリスちゃん達と親しいからって人使い荒すぎだよね」

「いつもありがとうございます」

 

 深く頭を下げると、椎名は笑って俺の頭をぽんぽん叩いた。

 

「また料理勝負しようね。……いや、もう教えを乞う立場かも?」

「いえ、私なんてまだまだです」

「そりゃあ上を見たらキリがないよね」

 

 今日は直帰だという椎名を見送り、リビングへ移動すると、メインテーブルの上に贈答品の山ができていた。

 肉に魚に果物、クッキー、チョコレート、和菓子もあるし、緑茶や紅茶の茶葉だったり、さらには日本酒やワインまである。

 

「あ、アリス。お帰りー」

「アリシアさんも食べますか? なかなかの美味です」

 

 テーブルの傍には朱華とアッシェがいて、それも贈答品と思われる高級ビーフジャーキーをもぐもぐしていた。ついでに贈答品の仕分けと整理もしているが、そっちが「ついで」扱いになっているのは若干どうかと思う。

 せっかくなのでジャーキーを一本受け取りつつ、朱華たちに尋ねる。

 

「これも皆さんからの贈り物ですか?」

「ええ、そのようですわ」

「主にあんたと魔王宛てのね。今日になって届いてもどうしようもないと思うんだけど」

「あはは……。一日にどさっと届くよりは良かったんじゃないかと」

 

 ここ数日、家にはたくさんの贈り物が届いている。

 送り主は主に政治家、資産家、大企業の社長にプロスポーツ選手などだ。

 ラペーシュのプロデュースでデモンストレーションをした一件以来、俺が神聖魔法を用いることは著名人の間で公然の秘密となっている。その代わり、俺たち自身が平穏な生活を望んでいることも広まり、強固な緘口令も敷かれているのだが……。

 こういう機会にご機嫌を取っておこうと思う者、贈り先がわかったので治療のお礼を贈ろうという者がどさーっと物を送ってきてこの有様である。

 昨日までに送られてきた物の中には宝石やアクセサリー、面白いところでは月の権利書なんかもあった。少数だが服もあって、特に高級メイド服は約一名──というかノワールの心をぐっと掴んでいた。

 

「アリシアさんはこれから配信ですの?」

「はい。夜は忙しいので、今のうちに済ませておこうかと」

「あんたも本当大変よね。ま、頑張りなさい」

「はい」

 

 まあ、アッシェもいるし、そのうち仕分けは終わるだろう。

 朱華たちをそのままにしてリビングを出る。と、シュヴァルツの部屋ということになっている部屋からノワールが顔を出した。

 

「お帰りなさいませ、アリスさま。お出迎えができず申し訳ありません」

「気にしないでください。それより、機械いじりですか?」

 

 メイド服が心なしか汚れている。

 ノワールは少し恥ずかしそうに頬を染めると「ええ」と頷いて、

 

「シュヴァルツと一緒に秘密兵器の準備をしております。これで少しはお役に立てるのではないかと」

「お姉様? 人をこき使っておいて、自分が主体のような言い方はどうかと思います」

「ああ、ごめんなさいシュヴァルツ」

 

 部屋の中からシュヴァルツの声。

 ノワールはおっとりと妹に謝ると、俺へ会釈と共に微笑みかけて部屋の中へと戻っていった。なんだかんだ言いつつ、姉妹仲は悪くなさそうである。

 二階へ上がると、シルビアの部屋からは何やら荷造りでもするような音が響いていた。用意したポーションを整理しつつ詰め込むのに苦労しているのだろう。俺は苦笑しつつ、お守りを配るのは後に回すことにして、自室へと入った。

 

「あー、おかえりー、アリス」

「ただいま帰りました。スララさんもブランも、いい子にしていましたか?」

「ちゃんとブランのめんどー見てたよー」

 

 ぷよぷよした身体で器用に胸を張るスララ。

 すると、一緒に寄ってきたブランが「面倒見てたのはこっちだから」という顔で俺を見上げてくる。感謝をこめて撫でてやるとなんとなく嬉しそうな顔になった。

 

「あー、ずるいー」

「わ、スララさん、いきなり乗っかって来ないでください」

「だってー」

 

 スララの身体はぷよぷよしていて気持ちいいのだが、動物の毛並みとはだいぶ種類が違う。撫でるよりは戯れたい感じなのだが、実際に乗っかられると若干重い。

 

「と、とりあえず着替えさせてください。それが終わったら配信しないといけないので……」

「てきとーにアリス……じゃない、キャロルにさわっていいんだねー」

 

 先日、アバターを管理しているプログラムが更新され、スライムやウサギと戯れていても俺の姿を検知できるようになった。

 椎名たちが頑張ってくれたお陰であり、これによって表現の幅は大きく広がった。その代わり、スララを頭に乗せたり膝にうさぎを乗せたまま配信することが増えたが。

 

「今日はみなさんにお知らせがあります。

 実は、明日から何日か少し用事がありまして、配信をお休みするかもしれません。

 用事の内容ですか? 実は、現代に復活した魔王と決戦をしなくてはいけなくて……って言ってもみなさんどうせ信じないんですよね? 私、もうわかってるんですからね?」

 

 周りにスララを纏わりつかせつつ配信を開始した俺は、視聴者から「はいはい」とか「そういう設定ね」とか言われながら休みの予定を伝えた。

 

 

 

 

 

 夕食のメインはトンカツにステーキという豪華なものだった。

 

「安直ではありますが、せっかくですので験を担いでみました」

「うむ。良いのではないか? 気休め程度かもしれないが、まじない的な効果はあるかもしれん」

「めちゃくちゃ元気は出そうだしね。あたしとしては大歓迎よ」

「そうだねー。でも、どうせ豚と牛があるなら鶏も欲しかったかも」

「そう仰ると思って唐揚げも用意してあります」

「あるんですか!?」

 

 メインだけで三種類とか、さすがに大丈夫かと思うような大盤振る舞いだった。

 いろいろ送られてきたせいで消費しないと冷蔵庫がやばい、という事情もあるらしい。それに、揚げ物系に関しては余ったらお弁当にして夜食代わりに食べてもいい。戦いが終わった後はどうせお腹が空くだろう。

 さらにサラダやスープが並べられた食卓に、ラペーシュを除くメンバーが自然と集まってくる。

 最後に顔を出したのは、学校から帰ってからずっと瞑想をしていた瑠璃だった。

 

「これはまた、豪勢なお料理ですね」

 

 リビングへとやってきた瑠璃の姿は、俺の目からは清浄な気配を纏って見えた。

 

「瑠璃さま。もし肉類が駄目なようでしたら、精進料理風の夕食もご用意できますが」

「いえ、こちらをいただきます。腹が減っては戦ができないとも言いますから」

 

 言って席につく彼女はいつにもまして凛としている。

 

「瑠璃さんは私たちの主力ですからね」

 

 微笑んで言うと、彼女はさっと頬を染めて、

 

「対魔王用の切り札はアリス先輩ではありませんか」

 

 その日の夕食はいつにもまして賑やかだった。

 みんな可能な限り精をつけておこうとする上、料理自体も美味しかったせいだ。俺自身、少々お腹が苦しいくらいに食べてしまった。

 しかし、お陰で気力は十分。

 まだ入浴していなかった面々で交代に風呂へ入り、身を清めたらいよいよ本格的な決戦準備。

 

 迷った末、身に着ける衣装はキャロル・スターライトのものに決めた。

 

 着心地はアリシアの衣装とほぼ変わらないし、神聖魔法の威力はこちらの方が出る。キャロルとして集めた信仰の力はきっと俺たちの助けになってくれるだろう。

 下着はこの日のために買っておいた新品の白。

 キャロル用のウィッグも身に着け、いつもの聖印を首にかける。錫杖は当然アリシアのものなので、結果としてはアリシア・ブライトネスとキャロル・スターライトの中間のような姿が完成する。

 

「ブラン、お留守番をよろしくお願いしますね」

 

 すっかり家族の一員となった白いうさぎに挨拶をしてから、

 

「では、行きましょうか」

 

 部屋を出て、仲間たちの集まるリビングへと向かった。

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