起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、ほっとする

「……誰も犠牲にならずに済んで、本当に良かったです」

 

 最も傷のひどかったアッシェへ治療を施しながら、俺は戦いが終わったことをしみじみと実感した。

 戦いでギリギリまで消耗したので今はシルビア謹製ポーションにてドーピング中。効果が切れたら反動が来るだろうが、緊張は抜けているのでだいぶ楽だ。

 他のメンバーもポーションでひとまずの治療・回復を行っている。

 

「ほら、あんたもそれ、飲んどきなさい」

「──あら、いいのかしら?」

 

 丈の短いチャイナドレスをさらにたくし上げた状態の朱華がポーションを投げ渡すと、一人、目立った傷も汚れもないラペーシュは意外そうな顔をした。

 自分で色々できることを考えれば、まあ、別にポーションは必要ないという話になるが、

 

「いいでしょ、そのくらい。戦いは終わったんだし」

 

 傷を再生できても身体は疲れているはず。それを癒して欲しいと思うのは当然のこと。ラペーシュの協力がなければこの戦いは無被害で終われなかった。

 

「お疲れさまでした、ラペーシュさん。……邪気、どのくらい減りましたか?」

 

 俺がそっと尋ねると、メンバーの視線が魔王へと集中する。

 

「そうね。向こう数年、この国の状態は安定するんじゃないかしら」

「そっかー。すごいようなすごくないような、ってところだねー」

 

 コピー・シュヴァルツを0.5ボス、オロチや不死鳥、ボスオークを1ボスとして換算すると取り巻きだけで2、30ボス分くらい倒したのだから、それくらいは楽になってくれないと困る。

 するとラペーシュは肩をすくめて、

 

「あくまでも『安定』レベルだけどね。期間を伸ばしたり繁栄させたいならバイトとやらを継続した方がいいかもしれない」

「報酬が出るのでしたら、もちろんやらせていただきますが」

「先に今回の報酬をもらわないとやってられないわね」

 

 取り巻きの分だけで2、30ボス分くらいもらわないと計算が合わない。

 前回ふっかけまくって家を建ててもらっている手前、そこまで欲張らなくてもいいとは思うが──それでも、しばらく遊んで暮らせるくらいはもらっても罰は当たらないだろう。

 

「国が平穏になるのは良いことです。夏休みにはやりたいこともありますし、軍資金も嬉しい限りです」

 

 しみじみと頷く瑠璃。

 何気に彼女は金遣いが荒い。ノワールやシルビアの趣味はまだ仕事着と仕事道具などと言い訳できるが、瑠璃の場合はプライベート用の服と下着とコスメとアクセサリー、さらにコスプレ衣装と完全に趣味である。

 なお、朱華のエロゲは意外とコスパが良い。ゲームや本なので一つでしばらく暇が潰せるし、昨今はダウンロード販売が勢いを伸ばしているので場所も取らない。遊びながらお菓子を食べまくっているあたり、不健全なのはダントツで彼女だが。

 と、シュヴァルツ(本体)が政府スタッフと共に降りてきて、

 

「当然、私にも分け前はいただけるのでしょう?」

「シュヴァルツもメイド服を買いますかっ!?」

「その手の衣装は放っておいてもお姉様が買うでしょう。……私はもう少し普通の服を買います」

 

 そろそろ彼女の自由を広げてあげても良い頃合いだ。

 普通の服を手に入れれば外出もできるようになるだろうし、そうしたらノワールと一緒に買い物にも行けそうだ。二人が並んでショッピングしている姿は見ているだけでも楽しいだろう。

 

「では、わたくしにも少々いただきたいですわ」

「あたしにもー」

「もちろんお礼はしたいけど、スララちゃんは何に使うの?」

「? えーっと……ごはん買う?」

 

 スララの場合、「要らなくなった家具引き取ります」とでも言ってネット広告を出せば吸収するアイテムを確保しつつ、逆に稼げそうな気もしないでもない。

 

「ところで魔王。あんた、ここの後片付けくらいできるわよね?」

「ええ。あなたたちが手作業でやるんじゃ時間がかかりすぎるでしょうし。魔法で手早く終わらせましょうか」

 

 ポーションを飲み終えたラペーシュは容器をどこかで消失させると、軽く片手を振る。それだけで銃弾やら何やらのゴミが消え、地面等の損傷個所が徐々に修復されていく。

 そうして、彼女は俺の方へと歩いてきた。

 

「本当にありがとう、アリス。こんな戦いにわざわざ付き合ってくれて」

「そんな……。こちらこそ、ありがとうございます。ラペーシュさんなら本当は私達に勝てたんじゃないですか?」

 

 彼女は俺の最大魔法を封じ、さらに切り札をも封じるつもりで戦っていた。そんなことをしなければ──それこそ本気の殺し合いなら、俺たちは簡単に全滅していたんじゃないか。

 すると「どうしかしら」と柔らかな笑みが返ってくる。

 溜まっていた邪気が減って気分が楽になったせいだろうか。前にも増して優しい気がする。

 

「手加減したつもりはないわ。聖女を──アリスを野放しにしていたら、あなた一人に敗れていた可能性もある。それを避けなければ戦いにもならなかった。ただそれだけのこと」

 

 俺は苦笑して「そういうことにしておきます」と答えた。

 俺とラペーシュはお互いに相手を過大評価しているらしい。そしてお互い、その評価を覆す気がない。

 

「教授も悪かったわね。思いっきり斬ったり刺したりして。痛かったでしょう?」

「あの、ラペーシュ様? わたくし達にも謝っていただきたいのですが」

「アッシェとスララはいいのよ。私を裏切ってアリス達についたんだし。ちゃんと殺さなかったんだからむしろ感謝しなさい」

 

 部下たちはこれに「そんなー!」と悲鳴を上げたが、まあ、彼女たちなりのじゃれ合いだろう。

 斬ったり刺されたりした謝罪に教授は「いや」と首を振って、

 

「吾輩からはもう何も言うことはない。勝てたのはアリス達の力。斬られて時間を稼いだことはむしろ『少しは役に立てた』と喜ぶべきだろう」

「ふうん。いつになく殊勝な態度じゃない?」

「ある意味、これが最後の戦いだからな。金に困っていないのなら戦わないという選択肢もある。本格的に隠居も考えようかと思っている」

 

 バイトしなくても金に困らないメンバーの筆頭は教授だ。何しろ大学教授という本業があるのだから、そもそも副業は必要なかったという話もある。

 まあ、それを言ってしまうとノワールは声優デビューするし、シルビアは薬を売れば稼げるし、俺も治療と配信があるし、瑠璃だってバイトをしているわけだが。

 俺は微笑んで、ラペーシュや教授に言う。

 

「邪気祓いが足りないのなら、私がその分働きます。週一でボス格を二、三体、《神光波撃(ディバイン・ウェーブ)》で吹き飛ばせばだいぶ変わるでしょう?」

 

 出現直後の硬直時間に必殺技を叩き込んで殲滅。これを繰り返すだけのある意味簡単なお仕事。まるでゲームの経験値稼ぎだが、倒せば倒すだけ世界が平和になるのならやって損はない。

 

「あらあら、アリスはどれだけ稼ぐ気なのかしら。……まあ、週に一回、夜のデートと洒落込むのも悪くないかしら」

「待ってください。先輩とラペーシュが二人きりになるのは許せません。私も連れて行ってください」

「……もう、あなたはもう少し空気を読めないのかしら」

 

 不満そうに頬を膨らませるラペーシュ。

 彼女はそれから表情を戻して「戦後処理を行っておきましょうか」と告げる。

 

「私は勝利の報酬に『アリスとの結婚』を望んでいたわ」

「OKした覚えはないんですが」

 

 念のためツッコミを入れたが無視された。

 

「なら、負けた私はアリスの望みを一つ、なんでも聞く。それが公平だと思うのだけれど、どうかしら?」

「異存はない。アリス、煮るなり焼くなり好きにしていいぞ」

「ま、別にこいつから欲しい物もないしね。いいんじゃない?」

「私も。ちゃんとバイト代が入ってくれば十分だよー」

「アリスさまでしたら安心してお任せできます」

「アリス先輩。厳しい罰を与えて構いませんからね?」

 

 仲間たちも了承してくれたので、俺はこくん、と頷いて勝利報酬を受け取る。

 

「じゃあ、そうですね……」

 

 何がいいだろうか。

 少し考えてから、告げる。

 

「私は、ラペーシュさんに私たちと一緒に生きて欲しいです。できるだけ危ないことはしないで、学校に行ったり買い物をしたり、この世界を楽しんで欲しいです。魔王としての世界征服なんて止めましょう」

「……いいわ」

 

 ふっと笑ったラペーシュは俺の願いを了承する。

 

「アリスの奴隷になって永遠に服従すればいいのね?」

「そんなこと言ってませんよね!?」

「冗談よ。でも、ルールに落とし込むならそういう形でしょう? アリスが私のストッパーになればいい。アリスの許しがない限り、私は力の行使に制限を受ける。どう?」

「はい。そういうことなら、問題ないです」

「良かった。それじゃあ、契約よ」

 

 実体のない光の鎖が俺たち二人の身体に絡みつき、消える。

 少女魔王は嬉しそうに自分の肩を撫でると、虚空から何やら指輪を取り出し、俺に差し出した。

 

「契約の証に着けてくれないかしら?」

「え。あの、契約は終わったんですよね? しかも、どうして指輪なんですか?」

「いいじゃない。記念よ、記念」

 

 その後、ラペーシュが左手の薬指に欲しがったりしたためリテイクを要求。

 すると今度は前に俺に差し出されたような首輪が出てきたりしたものの、最終的にお洒落なチョーカーで落ち着いた。

 首を持ち上げ、生の首を差し出すラペーシュに俺はチョーカーを巻きつけた。

 チョーカーについたチャームは俺の聖印と同じ形だ。言わばお揃い。魔王が聖女と仲良しだというこれ以上ない証になるだろう。

 

「できればアリスを所有したかったけど、アリスに所有されるのも悪くないかしら」

「ラペーシュさん。それ、今すぐ外しましょうか?」

「嫌。嫌だから、本気で命令するのは止めなさい。あなたの命令には従わないといけないのだから」

 

 本気で嫌がったのでチョーカー没収は断念した。

 涙目でチャームを手にしていたラペーシュはほっと息を吐くと「鴨間(おうま)小桃(こもも)の役割も終わりね」と言った。

 

「え、小桃さん、消しちゃうんですか?」

「消すというか、私という存在で上書きしようかと思って。高等部からの新入生にしてアリスの親友は最初から私、ラペーシュ・デモンズロードだった……という風にね」

 

 そうすると、周囲の記憶や認識も徐々に置き換わっていく。

 最初は違和感を覚えるかもしれないが、次第にそれが当たり前だったことになる。十分世界に定着してしまえば、勝手に記録も書き換わるという。

 もうすぐ夏休みなのはそういう意味で都合がいい。このまま休んで夏休みに突入してしまえば書き換えの時間は十分に取れる。

 若干、寂しい部分もなくはないが……もともとラペーシュを知っている俺たちの記憶は書き換わらないし、そもそも小桃=ラペーシュなのだから、何が変わるわけでもない。むしろ「小桃さん」と「ラペーシュさん」を使い分けなくて良くなるのだから気楽だ。

 

「じゃあ、これからは気兼ねなく一緒に登校できますね」

「ええ。気兼ねなくアリスに愛を囁けるようになるわ」

「それは止めてください」

「ちょっ、だから本気の命令は止めなさいって言っているでしょう、アリス!」

 

 どうやら本気度に応じて制約が強くなるらしい。

 俺の一存で暴れさせられるほどの強制力はないようだし、遊びの範疇でやり取りできるのはいいかもしれない。俺は慌てるラペーシュを見てくすくすと笑った。

 

「それじゃあ、そろそろ帰りましょうか」

 

 もう深夜だし、着替えたりシャワーを浴びたりも必要だ。

 帰ってベッドに入ったらさぞかし気持ち良く眠れるだろう。一日くらい目覚めないかもしれない。休日前で良かったと心底思う。

 しかし、ここから休息が入るとなると──。

 

「あの、ラペーシュさん」

 

 俺は「とある件」を思い出してラペーシュを呼んだ。

 具体的に何を言わず目配せだけをすると、聡い少女は全てを理解してくれたようだった。小さく頷いてから口を開いて、

 

「ねえ? この場所、もう少し使っても問題ないのよね?」

 

 と、スタッフに尋ねた。

 回答は「翌朝までに元通りになっていれば問題ない」とのこと。戦いで全壊する可能性もゼロではなかったと考えると大丈夫かと言いたくなるが、まあ、最悪の事態は避けられたわけで。

 

「そ。じゃあ、せっかくだし酒でも飲んで行きましょう。教授、付き合いなさい」

「吾輩か?」

「ええ。どうせノワールは家事で忙しいでしょう?」

「そうですね。洗濯機を回したいですし、武器も最低限の整備はしておかなければ」

 

 すると酒に付き合える大人は教授一人になる。

 

「じゃあ、結界もあるので私も付き合いますね」

「あら。アリスも飲んでくれるの?」

「私は本当に付き合うだけです」

 

 というわけで、俺とラペーシュ、教授だけを残して他のメンバーが家へと転送されていく。

 朱華や瑠璃は少し心配そうにしてくれたが、他ならぬラペーシュの契約によって悪事は封じられている。そもそも俺たちを害したいならさっきの戦いですればいい話だ。

 さらにラペーシュは魔法を行使、周りにいる政府スタッフには話し声が聞こえないようにする。どこからともなくワインが取り出され、グラスが一つ教授に差し出された。

 

「吾輩はビールが好みなのだが……まあよかろう」

 

 静かな広いドームにチン、と、グラスの音が響く。

 深い色合いの赤が照明に光にきらきらと映えた。

 

「で?」

 

 いい味だったのか、一口飲んだ教授は目を細め、それから俺たちへ尋ねてくる。

 

「話があるのだろう?」

「はい。前から気になっていたことを確かめようかと」

 

 その問いに、俺は静かに答えたのだった。

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