起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、プレゼントに悩む

「うーん……」

 

 あーだこーだとスマホを操作しながら首を捻る。

 夏休み、遊びに誘ってくれた友人達へのお礼としてプレゼントを渡すことにした。

 どうせなら早い方がいいだろうと翌日の夜から品物選びを始めたのだが、これがなかなか決まらない。

 

 ぶっちゃけた話、遊びに誘う場所で悩んでいた時と似たような理由だ。

 進歩したようでしていない。

 情けない話ではあるが、俺の知識では追いつかないのだ。

 言い訳をさせてもらうなら、女子受けしそうな品というのはとにかくバリエーションが多い。それも、多くは機能ではなくデザイン面での違いだ。これが男友達に渡すなら、とりあえず使いやすい奴を選んどけば問題ない。嫌なら返せ、と言うだけの話なのだが。

 

 思わず溜息を吐いて天を仰げば、ベッドに寄りかかって携帯ゲーム機を弄っていた朱華がこっちに視線を向けてくる。

 

「あんたっていつも悩んでるわね」

「朱華さんは最近いつも私の部屋にいますね?」

「だって、ここ居心地いいんだもん。物が少なくて」

 

 マンガやゲームやノートパソコンの他にぬいぐるみや可愛い小物まで置いているから部屋が狭く感じるのではないだろうか。

 俺はなるほどと頷いて、

 

「じゃあ、物を増やせばいいんですね」

「そうね。女子としてはもっと、可愛い物に囲まれている方がテンション上がるんじゃない?」

「……う」

 

 大きなクマのぬいぐるみやハート形のクッションが置かれ、壁紙やカーテンをピンク色で統一された自室を想像して悪寒を覚える。

 正直、俺も物が少ないこの部屋が気に入っている。

 大部分の品物は越してきた時のままで、増えたのは学用品を除けば竹刀と木刀、ジャージ、後は貰い物の鏡くらい。片隅に立てかけられた竹刀達が異様に浮いているのを除けば、最低限の女子っぽさを感じるシンプルなコーディネートである。

 この話題は良くないと理解し、朱華のゲームに目を向けて、

 

「何のゲームしてるんです?」

「あんたの故郷」

 

 見れば、画面には四角いマス目で区切られた戦場が表示されており、俺に良く似た金髪の少女聖職者が「えいっ」と杖を振り下ろしていた。

 どうやら例のシミュレーションRPGをプレイしているらしい。

 言い方も相まって、なんというか微妙に気恥ずかしい気分になるのだが、

 

「なんで主人公のキャラメイクまで似せてるんですか」

「安心しなさい。これは支援要員のアリシア・ブライトネスじゃなくて、撲殺聖職者のアリスちゃんだから」

「………」

 

 ああ、うん、確かに朱華の操る主人公キャラは敵ユニットに物理攻撃でクリティカルを出し、一撃で葬り去っているが……。

 何故、殴りシスターなどという茨の道を自ら進むのか。

 ネタか、それとも嫌がらせなのか。

 腹いせにゲーム機を取り上げたい衝動にかられるが、ぎりぎりで堪える。そんなことをすれば間違いなく抵抗される。一つのゲームを取り合って揉みあいにでもなれば、互いの身体が絡み合うのは避けられない。仲のいい女子同士のじゃれ合いみたいなシチュエーションを自ら発生させてどうするのか。

 

 羞恥心と自尊心の狭間で揺れ動いているうちに朱華はゲームプレイを再開させていた。

 髪と瞳の色のせいで日本人的なイメージからほど遠い彼女だが、体育座りでゲームをする姿が妙に似合うのはどういうことか。

 

「で? あたしのアドバイスは要る?」

「……いえ。ノワールさんに相談してきます」

 

 俺は首を振って答えると、我が家のメイドさんにして頼りになるお姉さんを頼って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 ノワールは家のリビングにいることが多い。

 掃除や洗濯のためにあちこち移動することももちろん多いのだが、メイドとして、できるだけ皆の要求に答えられるようにするのがモットーなのだと言っていた。

 自室に戻るのは大体夜九時くらい。ギリギリではあったものの、幸いまだリビングに居てくれた。

 

「ノワールさん」

「アリスさま。どうされましたか?」

 

 同じ物を何着も持っているのだろう。不死鳥に燃やされたというのに、ノワールはいつも通りのメイド服に身を包んでいる。

 一日の終わりにもきっちりお仕着せを着こなす彼女を見ると、それだけで安心感が湧き上がる。

 メイドがメイドらしくそこに在るというのはそういう心理的な効果も兼ねているのだろう。

 微笑んで答えてくれる彼女に、若干申し訳ない気持ちになりながら、俺は口を開いて、

 

「実は、クラスメートにプレゼントをしたいんですが、相談に乗ってもらえませんか?」

「まあ」

 

 結論から言えば、ノワールは快諾してくれた。

 

「アリスさまがそういったことを相談してくださるなんて……!」

 

 むしろ感激された。

 嬉々として隣に座らされ、事情の説明を求められる。なんだか物凄くこそばゆい。しかし、悪い気分にならないあたり、やはりノワールは凄いと思う。

 皆から誘われたお礼に何かプレゼントをしたいのだが、具体的な品物が決まらない。一緒に考えて欲しい、といったことを伝え、検索に使っていたスマホの画面を見せると、ノワールは微笑んで頷いた。

 

「わたしで良ければいくらでもご相談に乗りましょう」

 

 やはり、相談事をするなら朱華じゃなくノワールだ。

 俺はあらためてその事実を噛みしめた。

 

「アリスさまはどのような方向で考えていらっしゃるのですか?」

「それがなかなか難しいんですけど……」

 

 とにかく、貰って困るような品だけは避けたいと思っていることを伝える。

 

「だから、あんまり大きい物じゃなくて小さな物で。なんなら食べ物とかでもいいんですけど……」

「アリスさま。消え物、特に食料品はあまりよろしくないと思います」

 

 後腐れが無くて良いと思ったのだが、ノワールは首を振った。

 

「無くなってしまう物ですと、貰ったその時は嬉しくとも、すぐに気持ちが消えてしまいがちです。後から品物を見て思い出す、ということができませんから。お友達を大切に思っていることを伝えたいのであれば、形の残る物の方がよろしいかと」

「でも、そういう物って好みがありますよね?」

 

 できれば皆に同じ物を渡したいので、それだと困る。

 好き嫌いが出るという事は、貰った際の嬉しさに差が出るという事だ。朱華から聞いたスクールカーストの件を考えると、誰々より誰々を優遇している、なんていう事態になるのは避けたい。

 

「そうですね。もちろん、品物の選定はじっくりと見定めなければなりませんが、プレゼントというのは実用的な嬉しさよりも『お友達から貰った嬉しさ』が大事ですから」

「えっと……品物自体の価値より、貰ったことの方が大事ってことですか?」

「はい。邪魔になるような物ではなく、ふと目にした時にアリスさまのことを思い出せるような品物……だからこそ、アリスさまも小さな品がお望みなのでしょう?」

 

 そこまで細かいことは考えていなかったが、ノワールの言っている事は正しい気がするので「そうかもしれません」と頷く。

 

「予算はどの程度をお考えですか?」

「皆に同じ物を送りたいので、手ごろな物にしたいです」

 

 中庭組の基準で決めた場合、高すぎて他の子が貰ってくれるか怪しい。

 すると今度はお嬢様達に気に入って貰えるかどうかが怪しくなるのだが、

 

「でしたら小物か、アクセサリーではいかがでしょう」

「でも、そういうのって好みが分かれるんじゃないですか?」

 

 アクセサリー等の身に着ける物だと特に顕著だろう。

 

「デザインは統一して、カラーバリエーションを用意すればある程度幅が広がるかと。皆さんにお配りするのであれば、それぞれに好みの物を選んでいただけるのではありませんか?」

「そっか、そういう手があるんですね」

 

 旅行の土産物を配って回っている感覚だが、まあ、似たようなものかもしれない。

 

「お洒落なアクセサリーとかって高そうですけど、買えますか?」

「高級な物の方が品質は良いのは確かですが、お値段の割に見栄えのする品というのはありますよ。最近は技術の進歩が著しいですから」

 

 貴金属や宝石は高いが、似せた物(フェイク)を使って値段を下げたり、大量生産することでコストを抑えたりしている物もある、とノワールは教えてくれた。

 実際にスマホの画面を覗き込みながら例を示してくれる。

 なるほど、値段の割に良さげな物、という考え方なら俺でもなんとなくわかりそうだ。

 

「後は、アリスさまらしさがあればなおいいかと。例えば、手書きのメッセージカードを添えるとか、ですね」

「恥ずかしいのでそれは勘弁して欲しいですね……」

「残念です」

 

 茶目っ気を混ぜながらくすりと笑うノワール。

 メッセージカードはご免だが、彼女の言う事にも一理ある。一つ千円とかのアクセサリーをそのまま渡すだけでは受けた恩に釣り合っているかわからないし、金で解決した、と取られてしまいそうな気がする。

 

 必要なのは俺らしさ。

 

 今の俺らしさというとアリシアの持ち味になるのだろう。

 アリシア・ブライトネスは金髪碧眼の聖女で、クラス内ではマスコットの如く見られているらしい。あと、日本被れだと誤解されている。

 後は何かないか。

 

「あ」

 

 朱華がプレイしているのを見たせいか、俺の脳裏にゲームのワンシーンが甦った。

 使えるかもしれない。

 頷いた俺はノワールを見て、

 

「ありがとうございます、ノワールさん。思いつきました」

 

 用意する物の方向性は決まった。

 となれば次は、仕入れに行かなければならない。

 

 

 

 

 

 

 というわけで。

 週末の土曜日、俺は近隣のショッピングモールへとやってきていた。

 

「休みの日だけあって混んでるわね、やっぱ」

「夏休みに入ってしまうともっと混むでしょうから、いいタイミングだったかと」

「アリスちゃん、どこから見て回るー? 服? 下着?」

 

 訂正。 

 俺は、というか俺達は、だった。

 発言から大体察してもらえるだろうが、俺の周りには私服姿の朱華、ノワール、シルビアがいる。俺が買い物に出かけると言ったら「一緒に行く」と言って譲らなかったのだ。

 

「私は仕入れだけするつもりだったんですが……」

「何言ってんのよ。どうせなら一気に終わらせた方が楽じゃない」

「いえ、それはそうなんですが」

 

 正直、夜にバイトが控えているのであまり疲れたくなかった。

 来てしまった以上は仕方ないし、朱華の言うことにも一理あるのでこれ以上は言わないが。ノワールに買って来てもらったきりになっていた私服の買い足しもするとなると結構骨が折れそうだ。

 後、このメンバーが固まっていると目立つ。

 金髪碧眼(おれ)紅髪紅目(しゅか)銀髪青目(シルビア)と色とりどりの美少女である。ノワールも髪と目こそ比較的地味だが、美貌なら全く負けていない。むしろ大人の魅力が強調されて余計に目立つかもしれない。

 

 と、シャツまで赤でコーディネートした朱華がにやりと笑って、

 

「シルビア。実は行くとこはもう決めてるのよ。ね、ノワールさん?」

「はい。恐れながら、朱華さんと相談させていただきました」

「そうなんですか?」

 

 俺も聞いていないのだが。

 まあ、ノワールが参加しているなら変なところには連れて行かれないだろうと、俺は迷いなく歩く二人の後をただついて行く。

 すると、見えてきたのは色とりどりの服が並ぶショップでもなければ、何割かは用途さえ判然としないだろうお洒落な雑貨屋でもなく、むしろシンプルな内装をした店だった。

 

「スマホショップ?」

 

 俺も利用している大手キャリアのショップだ。

 

「そうよ。あんたに新しいスマホをプレゼントしようかと思って」

「私に? スマホならまだまだ使えますよ?」

 

 前回機種変してから二年も経ってないので、今買い替えるのは勿体ない。

 と、シルビアが何かに気づいたように頷いて、

 

「……あ、そっか。アリスちゃん、そのスマホって本名名義でしょ? もう一台あった方が良いと思う」

「あ」

 

 言われてわかった。

 俺が今使っているスマホは男子高校生だった頃のもの。家族や友人の連絡先も入っているので解約はできないが、デザインが男っぽい上、アリシアの友人に見られると面倒なデータが多い。

 シルビアが言う通り、もう一台『アリシア・ブライトネス用の』スマホを契約して普段使いした方が無難かもしれない。

 

「そうですね。でも、プレゼントして貰うのは……」

「気にしないでいいわよ。歓迎会は開いたけど、プレゼントは渡してなかったし」

「遠慮なさらず受け取ってください」

 

 ああ、これは遠慮しない方が良いやつだ。

 

「わかりました。では、何かの時にお返ししますね」

「期待してるね、アリスちゃん」

 

 きっと、これからもこうやってお礼とお返しがループしていくんだろう。

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