起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました 作:緑茶わいん
終業式の内容は前の学校と大差無かった。
大きな違いは場所が体育館ではなく講堂だった事くらいか。椅子と机が放射状に据え付けられた施設で、動きの少ない式の時に使っているらしい。疲れて倒れる生徒が出ないように、という配慮だろう。さすがはお嬢様学校である。
式の後は自分のクラスで担任教師から注意事項等を聞かされる。これは中学生だからか、それとも女子校だからか、結構細かく注意された。
夕方以降は極力出歩かない事、繁華街や人気の少ない場所にはなるべく立ち寄らない事、緊急用に両親や学校、親しい友人の連絡先を登録しておく事、知らない相手──特に男性には付いて行かない事、などなどだ。
「もし危ないと思った時は、遠慮なく周りに知らせてください。こういった品物を使うのも効果的ですよ」
おっとりした雰囲気の担任が示してくれたのは、いわゆる防犯ブザーだった。
思いっきりピンを引き抜くと大きな音が鳴る仕組みで、大声を出さなくても周りに助けを求められる仕組みになっている。
俺がこの手の品を見るのはマンガとかで「このピン引き抜いたらどうなっちゃうのかなー?」とかニヤニヤする悪い子供が登場した時くらいだったのだが。
「みなさんも持っているかと思いますが、念のため一つずつ配りますので、必ず携帯してくださいね」
まあ、俺は心配いらないだろう。
アリシアになってから前より身体能力が落ちたとはいえ、この身体は基礎スペックが高い。何しろ、ゲーム内ではファンタジー世界を冒険しているのだ。体育の成績もかなり良いし、いざとなったらこっそり《
「アリスさん、ちゃんと携帯してくださいね?」
「は、はい。もちろんです」
何故か名指しで注意された。
慌てて答えた俺は、クラスメートの何人かに見られているのを感じて苦笑する。くすくすと笑われるならまだしも「本当に大丈夫かな?」という心配そうな視線だったからだ。
まさか、そんなに危なっかしく見えるというのか。
ともあれ、それ以上は担任から注意される事もなく、HRは無事に終了した。
与えられた防犯ブザーを(あれだけ言われたし)忘れないうちに鞄に付けてしまおうとして──あれ、でもこの鞄、夏休み終了まで使わないんだよな? それ絶対、私服の時に携帯し忘れるオチじゃないか?
悩んだ末に制服のポケットに入れておく。後は帰った時に出し忘れなければ問題ないだろう。
さて、終わった事だし帰って肩の荷を下ろそうか。
思い、そっと席から立ち上がって、
「ね、アリスちゃん。一緒にファミレスでお疲れ様会しない?」
どうやらまだ、俺の一学期は終わらないらしい。
朱華も一緒に、と思って声をかけたら「行ってらっしゃい」とあっさり断られた。彼女は彼女で友人達とカラオケに行くのだとか。
若干不安を覚えたが、家族と一緒じゃないと寂しい歳でもないし……と自分に言い聞かせ、ノワールに「お昼は友達と食べて帰ります」とメッセージを送った。
用意が始まっていたらと思い、ウサギが「ごめんなさい」しているスタンプを加えたところ「かしこまりました。どうぞ楽しんできてくださいね」と温かな返信があった。
近所にあるファミレスに入り、詰めたら六人くらいまで座れるボックス席に陣取る。皆、所作は平均よりも整っているものの、わいわいと楽しそうに身を寄せ合っていると普通の
何を食べようか、と皆でメニューを広げる。
女子ばかりだと公共の場でも良い匂いがする事に驚きつつも、注文内容も悩みどころ。ノリ的には昼食兼おやつ、といった感じなのだが、この身体は小食なので食べられる量に限りがある。男だった頃ならがっつり系のメニューをまず確認し、それから大盛りにするかどうかを考えるのだが。
悩んだ末、この手のファミレスの定番・ハンバーグは見送り、ミートソースのスパゲティをチョイス。肉料理に比べれば満腹感を抑えられるだろうという判断だ。
するとそこで、ノワールとファミレスに行った時の事が脳裏によぎる。
ハンバーグが食べたい、と言った俺に、ノワールは「では、サラダとスープも付けましょう」と言ったのだ。彼女的にセットはマストらしい。家でも野菜と汁物がほぼ必ず出てくるので、俺もすっかり食べ慣れてしまっている。せっかくだからセットにしよう。
「アリスちゃんは何にする?」
「えっと……メインは決まったんですけど、デザートが……」
「わかる」
「悩むよねー。美味しそうなのいっぱいあるんだもん」
なんて女子っぽい会話だ。いや、女子なんだが。
うんうん呻るような勢いで悩んだ結果、デザートは季節のフルーツタルトを選んだ。個人的に一番食べ慣れているのはチーズケーキなのだが、それはいつでも食べられる。季節の、とか付けられると「次に来た時には無いかもしれない」という心理が働いた。
「じゃあ注文しよっか」
当然のように全員分のドリンクバーが注文され、食事が終わった後はデザートを少しずつ食べながらお喋りタイムになった。
途中で二つ目のデザートを頼んだり、シェア用と称して山盛りポテトを頼む子もいた。飲み物でお腹がたぷたぷになりかけていた俺は「なんという剛の者だ」と畏敬の念を覚えた。
話題の内容は、一学期にあった事と、これからの事。
前者については知らない事が殆どで「そんなことがあったんだ」と知識として頭に詰め込む。後者の話題についてはその分、なるべく話に乗らせて貰った。
夏休みにはここに行きたい、あそこに行きたい、何日にどこそこで花火大会があるらしい、といった感じだ。
「全部やったらお財布が空になっちゃいそうですね」
と、やんわり「お前らお小遣い大丈夫か」と言えば、
「そこは上手く節約だよ」
「全部はできないしねー」
「でも、遊べる時に遊んでおかないと損じゃない?」
「わかります」
高二に進学するにあたって「大学受験」という悪魔のワードが飛び交い始めて「ああ、やだなあ」と思っていた。当時はまだまだ序の口だったが、高三になる頃にはきっと、あんなものでは済まないだろう。
「じゃあ、また遊ぼうねー」
それぞれ家の方向や駅の方向が違うので、手を振って別れて家路につく。
なんというか、うん、なんだかんだ楽しかったんじゃないだろうか。
アリシアになって迎える初めての夏休み。
休みと言ってもやる事は沢山ある。バイトもあるし、休日はなるべく素振りをするようにしている。遊ぶ約束も多い。
そして、何と言っても『夏休みの宿題』だ。
絵日記とかは無いのでペースは個人の自由だが、こういうのは放置しておくと終わらなくなる。早速、終業式の翌日から手をつける事にした。
辞書を引く必要がある英語や、本を読まないといけない読書感想文は後回し。まずは機械的に解いていける数学を攻める。
我が家は個人毎の部屋にもエアコンが付いているが、一人で電気代を食うのも……とリビングに向かうと、皆同じ事を考えたのか、朱華とシルビアが寛いでいた。
って、宿題しているわけではないのか。
ちなみに教授は大学。
「あ、アリス。……って、あんたほんと真面目ね」
「アリスちゃん。夏休みはまだまだいっぱいあるんだよー?」
朱華はヘッドホン付きでエロゲ。いつも通りというかなんというか。俺の部屋ならまだしも、皆いる所でやる事だろうか。
シルビアは何やらスマホでショッピング中。見れば、薬包紙等の調合用品をネット注文しているらしい。ある意味仕事熱心だが、彼女の調合は半ば趣味なので実際は微妙なところである。
「だって、後で慌てるの嫌じゃないですか」
「今年はあんたに写させて貰えば楽ができそうね」
「あ、ずるい朱華ちゃん。アリスちゃん、私のもやってー」
「高校生の範囲は本気で取り組まないと無理です」
何せもともとが高校生だ。
「というか、自分がやったのを見せるならまだしも、他の学年のは二度手間じゃないですか」
「……うう。なんで私はアリスちゃん達より年上なんだろ」
「シルビアさんと同じクラスだと着替えが怖そうです」
「うん。二人と一緒の着替えならぼーっとしてる暇はないかもー」
駄目だこの人。
ジト目で見つつ、二人はソファの方に居たので俺はテーブルの方へ。
「お疲れさまです、アリスさま」
「ノワールさんこそ、メイドにはお休みもないんですよね?」
「わたしは好きでやっていることですから」
微笑むノワールはどこまでも癒し系だ。
朱華達に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいである。
そして、その日の夕食時。
疲れた顔で帰ってきた教授が健啖さを発揮しつつ尋ねてきた。
「ところでアリスよ。装備はどうにかなりそうか?」
教授やノワールは独自のツテを持っているらしく、自分達で手配を進めている。朱華に関しては装備品で超能力を強化する手段がほぼ無い。シルビアは自分で調合した薬が主な戦闘手段なので、残るは俺、という事になる。
「はい。一応、服の方はなんとかなりそうです」
と言っても、大した事はしていない。
コスプレ専門店みたいなサイトを調べて、某有名MMORPGの聖職者衣装を注文しただけだ。
現実にいる聖職者の方々の衣装はどうやって入手するのかよくわからなかったし、ゲームの聖職者なんだからゲームキャラの衣装の方で構わないだろうという考えだ。
ノワールに着せてもらったメイド服でさえ効果はあったわけだし。
「後は、物に聖なる力を籠められる事がわかったので、このロザリオに籠められるだけ籠めておこうかと」
気休め程度だが、電池みたいに使えるだろう。
「でも、私も本命は魔法ですよね」
「そうだな。この前のバイトで試した『アレ』は効果があるだろう」
「アレは派手だったわね。……まあ、まだ練習が必要そうだったけど」
教授が頷き、朱華が苦笑する。
不死鳥戦で使えそうな新技である。制御が難しいため、朱華の言う通り前もって練習が必要。
普通の場所でぽんぽん使えるものでもないので、使うのは毎週の平常バイトの場になる。
俺も頷いて、
「私も、できる限りお役に立ちますので」
「頼りにしているぞ」
夏休みに入ったので、バイトは週末に拘る必要が無くなった。
大学教授である教授──なんか凄い表現だが──は休みが不定期になりやすい。俺達は技の開発も兼ねて多めにバイトへ出ることにする。
墓地での戦いにあの不死鳥のようなボスが現れることは無かった。教授達も経験がないようなので、そういうものなのだろう。お陰でバイト代も入ったし、気兼ねなく派手な技を試し打ちすることもできた。
成果は上々といったところ。
「……これは、七月のうちに終わらせてしまうか?」
そういう話が持ち上がるのも無理はなかった。
「どうだ、アリス?」
リーダーである教授から尋ねられたのは俺。
最終的な判断は、一番の新人に委ねるということらしい。
俺は、目を閉じて考える。
紅蓮の炎で焼かれる恐怖は今なお色濃く残っている。
同時に、幾つもの約束が頭に浮かんだ。クラスメート──新しく出来た友人達と交わした、遊びに行こうという約束。
ゆっくりと目を開いて、答える。
「嫌な事は早めに終わらせてしまいましょう」
「いいんだな?」
「はい」
死ぬかもしれない戦い。
不参加とする最後のチャンスを手放し、覚悟を決める。
自分だけ逃げる選択肢なんてない。
そんな事をしたら一生後悔するだろうし、そもそも、これは俺の戦いだ。
「よかろう。……我々の準備も月末には全て終わるからな」
「前回のようにはいきません。……必ず、あの敵は次回で仕留めます」
「腕が鳴るねー。遠くに投げるのは疲れるんだけど」
「はっ。あんなやつ、あたしが本気になれば焼き鳥よ」
一つの決戦が始まる。
しかし、この前思った通り、これは決して最終決戦ではない。俺達の戦いはまだまだこれからも続くのだ。……それが、死力を尽くしての殺し合いであるかどうかはともかくとして。
「あの、ところで気になっていたんですが、ノワールさんが銃とか使えるのって、キャラクターの能力なんですか? それとも……?」
「乙女には秘密がつきものなのですよ、アリスさま。……ですが、そうですね。今度、機会があればお話いたしましょう。落ち着いてから、お茶を淹れて」
ノワールは微笑みと共に俺の質問をはぐらかした。
だが、うん。お茶をしながら話をするその日が、少し楽しみな気がした。