起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました 作:緑茶わいん
「……あれ?」
気がつくと自室で眠っていた。
爽やかな朝。パジャマもしっかりと着ている。あの戦いは夢だったのかと思いながら身を起こし、勉強机の上に置かれたスマホを手に取る。
何気なくスリープ状態を解除──しようと思ったら電源が切れていた。
ケーブルに接続し、あらためて起動すると、
「!?」
日付がおかしい。
加えて、グループチャットのメッセージ通知がばんばん入っている。まさか、買ったばかりなのにバグったのか。いや、そんなわけがない。
とにかく、部屋着に着替えてリビングへと移動する。
皆が普通に朝食をとっていて、ほっと一安心。
と、思ったらノワールが立ち上がって駆け寄ってきた。
「アリスさま!」
「わ」
ぎゅっと抱きしめられる。
「よかった、目が覚めたのですね。外傷はありませんでしたので、命に別状はないと思っておりましたが……心配、したのですよ」
「……あの、すみません。一体、何がどうなって……?」
「覚えてない? あんた、あの不死鳥をぶっ飛ばした後、気絶しちゃったのよ」
ノワールの良い匂いに蕩けそうになりながら尋ねると、朱華がどこか呆れた様子で答えてくれた。
無理して魔法を使ったせいで体力を使い果たし、一日と数時間、眠りっぱなしだったらしい。
「とりあえず私のポーションを飲ませたから死にはしないと思ってたけど、いつ目が覚めるかはわからないからねー」
「それは……すみません。ご迷惑をお掛けしました」
怪我や疲労を治せたりと人並み外れたところのある俺達だが、回復魔法を使える肝心の俺が倒れたのだから、それは心配されるだろう。
素直に謝れば、教授も食事の手を止めて「うむ」と頷き、
「まあ、だが正直、助かった。……お主一人運んで寝かせる程度、あの働きからすれば安いものよ」
俺の使った《神光波撃》は絶大な威力を発揮し、不死鳥を跡形もなく消し飛ばした。
あれが無ければジリ貧の消耗戦が始まっていたはずなので、俺一人が倒れただけで済んだなら安いものである。
また、魔法の影響は大地にも及んだらしく、戦いによるダメージがひとりでに修復されたのだとか。
「散らばった薬莢や瓶を回収するのは大変でしたが……」
「勝ったのだから、その程度は甘んじて受けるしかあるまい」
「あのね、言っとくけど教授の消火器が一番被害大きかったんだから」
「何を言う。吾輩があの戦いでいくら身銭を切ったと思っている!?」
「いいじゃない。教授は大学からもお金貰ってるんだしー」
言い合いを始めた仲間達はすっかりいつも通りである。
ああ、生き残ったんだな……という実感が湧いてきて、思わず笑みを浮かべてしまう。それと同時にぐう、と腹の虫が鳴いた。
「すみません。ノワールさん、私にも何か頂けますか?」
「はい。すぐにご用意いたしますね」
出された朝食を、俺はいつもの五割り増しで平らげた。
「……ふう」
詰め込み過ぎて苦しくなった腹を押さえて息を吐く。
食事が終わった途端、俺は皆から「部屋に戻れ」と言われてしまった。病み上がりなんだから無理はするなと言う事らしい。
別に風邪を引いていたわけではないのだから大丈夫だとは思うのだが、溜まっているメッセージの返信もあるし、大人しくしていようと思う。クラスメート達にはそれこそ「風邪を引いて寝込んでいた」と伝えることになるだろう。
スマホのバッテリーも十分戻っていたので、早速手に取り──部屋のドアがノックされた。
「はい?」
「吾輩だ。少しいいか、アリス?」
俺は「どうぞ」と答えつつ「珍しい事もあるものだ」と思った。
教授が俺の部屋を訪ねてくる事はほぼ無い。訪問者第一位はぶっちぎりで朱華であり、シルビア、ノワールと続く。
部屋を掃除してくれたり洗濯物を持ってきてくれたりするのを加えていいなら朱華とノワールがいい勝負だが。
「何か話があるんですね?」
「察しがいいな。まあ、適当に座ってくれ」
苦笑した教授は持参してきた座布団を敷いてカーペットの上に座った。俺も言われた通り、ベッドの端に腰かけて彼女を見つめる。
なんとなく神妙な雰囲気だが、
「なに、大した事ではない。不死鳥を倒した時の事を詳しく聞いておこうと思ってな」
「ああ、そういう事ですか。それなら……」
俺は覚えている事を順を追って話していく。
なんとかしなくちゃという思いでいっぱいになった事。自分の内側から声が聞こえた事。そのお陰で限界以上の力が引き出され、強力な魔法を使えた事。
全てを聞き終えた教授は「やはりか」と呻った。
「
「あの声の事ですか? 私はあの時、
「うむ。……実を言えば、我々も通ってきた道ではある」
この家に住む五人は全員、元になったキャラクターがいる、という意味で共通点がある。
彼女達はまた、あの時に俺がそうなったように、自分の心の奥底に触れ──元のキャラクターの人格を呼び起こした事があるらしい。
教授は更に口を開き、どこか言いづらそうな口調で、
「今回、お主はわかりやすい形で共鳴を体験したわけだが、共鳴は普段も緩やかな形で起こっている」
背筋がぞくっとした。
「まさか、私の意識が侵食されているっていうんですか? ……アリシアに」
「安心しろ、そういう話ではない」
教授は首を振った。
「元のキャラクター達が意図的に乗っ取りに来ているわけでも、抵抗が出来ないわけでもない。朱華を見てみろ。オリジナルの朱華がエロゲ好きの変態だったと思うか?」
「……いや」
無理矢理押し倒されそうになって「あたしにエロゲみたいな事するんでしょ!?」とか嬉々として言うエロゲヒロインは正直嫌だ。
「我々にとっても経験則でしか無いが、自分を強く持ってさえいればお主はお主のままでいられる。好きにすれば良い。個人的にはそう嫌うものでもない、とは思うがな」
「教授は、どうしたんだ?」
「今の吾輩を見れば大体想像がつくのではないか?」
最初に会った時に「百年以上生きている」とか言っていたのを思い出す。
あれは、ただのロールプレイでは無かったのか。
息を吐く俺。教授は俺を安心させようとするかのように、更に言葉を続けて、
「吾輩としては逆なのではないか、とも思っている」
「逆?」
「身体が変わったから精神が引っ張られているのではない。元々、変わる前の我々に素養が備わっていたからこそ、身体が変わったのではないか。例えば、
「ラノベの設定みたいですね」
「似たようなものだろう? 空想の産物としか言いようのない事態が実際に起こっているのだからな」
教授は色々と考えているらしい。
元々そういう人なのか、それとも「教授というキャラクター」に寄せられた結果なのかはわからないが。
身体が心が先か。
考えてみても、俺の頭では結論は出そうにない。少なくとも、あのアリスの声──教授が共鳴と呼んだ現象自体に嫌な感じは無かったが。
だからといって、自分が自分で無くなっていく事が怖く無いとは言えない。
すると、今の俺より幼いようにしか見えない大人の女性は、それこそ長い年月を生きた老人のような顔を浮かべて、
「色々言ったが、深く考えなくても良い。要はお主がどうしたいかだ。……もし戻りたいのなら、シルビアが薬を作ってくれているしな」
「っ。戻れるん、ですか?」
「わからん。こればかりはやってみるしかあるまい。動物実験をしようにも、我々と同じ境遇の動物などこの世にいるとは思えん」
戦いの最中、シルビアは不死鳥の血や羽根を回収していた。通常、倒した敵は跡形も無く消滅してしまうが、倒す前に回収しておけば消えずに残るらしい。
少なくとも、不死鳥の血にある程度の回復・復元効果があるのは確かなようで、後はそれを調合によってどの程度まで強化できるかと、復元効果で元に戻れる症状かどうか、という話になる。
例えば、俺とアリシアの身体が入れ替わっているのだとしたら、肉体に復元効果を与えても意味がない。身体自体はもともとアリシアの物であり、何の変化も行われていないのだから。
「今のうちに考えておくといい。薬が完成したとして、使うか否か、をな」
俺が使わないなら別の使い道がある、と教授は言った。
何しろ不死鳥の血だ。怪我で死の淵に瀕した者を回復させる事くらいはできるだろう。もう少し薄めて効果を落とせば、高品質のポーションが量産できるかもしれない。
「まあ、元に戻れば戦う必要もないのだがな」
「……俺は」
声に出して『俺』と言うのは随分久しぶりな気がした。
元に戻れるかもしれない。
いよいよ、その時が近づいているというのに、いざそうなってみると「もちろん戻る」と即答できない自分に気づいて、俺は唇をきゅっと噛みしめた。
さて。
考えなければいけない事が増えてしまったが、不死鳥討伐が齎したのは悩み事ばかりではなかった。
例えば世界への良い影響。
討伐後、この街周辺では水質が改善されたり、植物が元気になったり、学園で飼われているウサギ(俺は存在を初めて知った)が子供を産んだり、宝くじ売り場でスクラッチの一等が出たりと、様々な良い事が起こっているらしい。
一つ一つは小さな事だが、積もり積もって、巡り巡って国や世界にも良い効果を齎してくれるだろう、と、上の人達は考えているらしい。
成果が上がれば、当然報酬も出る。
今回のバイト代は通常の二倍という大盤振る舞いだった。消耗品を使いまくった何名か(特に教授)はそれでも赤字だが、必要経費の一部は補填して貰える事になったそうで、普段の収入から考えれば大した出費ではないという事だった。
「アリスにスマホプレゼントする時、教授だけいなかったんだから、それくらい我慢しなさい」
と、朱華はバッサリ切り捨てモードだったが、さすがに教授達にばかり負担させるのも……と、俺は自分の分の報酬を皆に少し分けさせて貰った。
何しろ、俺が買ったのはコスプレ衣装が一着だけである。
二、三万くらいはしたので安くは無かったが、目立った損傷は無いのでこれからも着られる。実質的な損失は無いに等しかった。
……いや、失った物は一つあったか。
ノワールから貰い、今まで使っていたロザリオが、気づいたらボロボロになっていた。
ギリギリまで神聖力を注ぎ込んだのが負担になったのかもしれない。これ以上使い続ければボロっと崩れてしまいそうなので、机の中へ大事にしまっておくことにする。
「で、代わりの聖印はどうするの?」
部屋に遊びに来た朱華に尋ねられた俺はこう答えた。
「今度はもう少し、しっかりした物を買おうと思います」
雑貨屋なのかアクセサリーショップなのか。適当にそれっぽいところを巡れば手頃な品が見つかるだろう。ちゃんとした金属や宝石を使った品であれば神聖力にも強いはずである。
「それに、その、他にも買わないといけないものがありまして」
「? 何よ?」
「水着です」
友人と海水浴へ行く事になっているのに、俺は水着を持っていない。
萌桜学園にはプールの授業が無いので「最悪スクール水着で」と言う手も使えない。というか、この容姿でそんな事をすればマニアックな奴らが寄って来かねない。
「……正直、水着の選び方なんて全く分からないので憂鬱なんですが」
「一緒に行ってあげようか?」
「そうですね。クラスの子と買い物に行く用事もあるので、その時に一緒に来て頂けたら助かります」
「え」
朱華が「意外だ」という顔で固まる。
「まさか、冗談のつもりだったんですか?」
「そういうわけじゃないんだけど」
ジト目で睨むと、彼女は俺をじっと見つめ返してきて、
「あんたが素直にお願いしてくるの、珍しい気がして」
「……気のせいじゃないでしょうか」
なんとなく気まずくなった俺は視線を逸らした。