起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、シャワーを浴びる

「えへへ、ごめんね。失敗しちゃった」

 

 何事かと駆け付けると、銀色の髪を昼間以上にぼさぼさにしたシルビアが顔を出して言った。

 彼女の後ろには部屋の入り口があり、その奥には棚や机。上に置かれているのは怪しげな器具の数々。いかにも実験室といった感じの内装が見えた。

 部屋の側面には別のドア。

 なんでもシルビアは自室と研究室の二部屋を借りており、部屋同士で行き来がしやすいようにドアで繋げているのだという。

 で、爆発があったのは研究室の方。

 

 疲れて寝ていたところを起こされた俺は目を擦りながら尋ねる。

 

「一体、何をしてたんですか?」

「実験」

「何の実験をしたら爆発するんですか」

「何って……色々だよー。薬品の調合っていうのは危険だからね。特に私のはファンタジーな調合だから」

 

 怪しげな草をすり潰したり煮込んだりして作った怪しげな液体を混ぜ合わせて怪しげな薬を作っていたらしい。

 なるほど、いかにも錬金術師っぽい。

 しかも、他の住人は一人も起きて来ない。つまり、シルビアの実験はいつものことなのだ。

 

「そこまでキャラになりきらなくてもいいんじゃ?」

「……でも、せっかく能力があるんだから勿体ないと思わない?」

「は?」

「私達には元のキャラの能力が備わってるんだよ。聞いてない?」

 

 初耳である。

 いや、そういえば朱華が「燃やす」とか物騒なことを言っていた気がする。あれはパイロキネシスを使うって意味だったのか。

 じゃあ、例えば、

 

「俺なら回復魔法なんかが使えるんですか?」

「うん、多分ねー。試してみたら?」

「じゃあ……」

 

 若干の興奮を覚えながら手を前に出し、シルビアに向けて、

 

「《小治癒(マイナー・ヒーリング)》」

 

 次の瞬間、手のひらからぽう、と、小さな光がこぼれた。

 常夜灯の小さな明かりだけが照らす廊下が一瞬だけ明るくなったかと思うと、光はシルビアの身体へとすうっと吸い込まれていく。

 後には何事もなかったような廊下の光景だけが残されたが、銀髪の少女は、どこかぼんやりとした顔に小さな驚きを浮かべて、

 

「あ、身体が軽くなってる」

「本当ですか!?」

「うん。私の作るポーションも栄養ドリンクなんかよりずっと効くけど、やっぱりHPを回復すると疲れも取れるみたいだねー」

 

 RPGにおけるHPの解釈として「気力、体力、生命力など、戦いを続けるための能力をまとめたもの」というのを見たことがある。

 大抵のゲームではHPが0になると「死亡」なのだが、じゃあHP1の状態はちょっとの怪我で死ぬ状態なのか? 逆に安静にしていれば生き残れるのか? という疑問も、その解釈なら「次の攻撃をかわしたり防いだりする気力がほぼ尽きているので、次の致命的な一撃は高確率で防げないという状態」と説明できる。

 この場合、回復魔法には傷を治すだけでなく疲れを和らげたりする効果もあることになる。

 

 これは、

 

「凄いじゃないですか! 回復魔法なんて超便利ですよ!」

「そうだね。研究で寝不足の時とかかけて欲しいかも。……って、アリスちゃん、もしかしてご機嫌?」

「当たり前ですよ! 部活で怪我した時とか魔法で治せば入院する必要もないですし、風邪だって──あ、むしろ普通よりたくさん練習できるんじゃ!?」

 

 テンションが上がってきた。

 思いつく限りの活用方法を並べていると、シルビアの端正な顔立ちに困ったような笑みが浮かんで、

 

「うんうん、良かったねー。でも、あんまり騒ぐと──」

「うるさいぞ! 何時だと思ってる!?」

「ねえ新入り。さっそく燃やされたいみたいね? 自分で治せるんなら少しくらい派手にやっても問題ないかしら?」

「ひっ!?」

 

 安眠を妨害されて怒った教授と朱華が文句を言いに来た。

 元はと言えばシルビアの爆発が原因なので、俺だけ怒られるのは理不尽な気がするのだが……目の据わっている二人にそんなことを言ったら余計にヒートアップするに決まっている。

 俺は仕方なく「すみませんでした」と平謝りを繰り返したのだった。

 

 

 

 

 

「……ったく、あんたのせいで寝不足よ」

「だからあれは謝っただろ。初めて魔法使ったんだから嬉しいのは当たり前だし」

「まあ、気持ちはわかるがな。夜中に騒がしいのはシルビアだけにして欲しいものだ」

 

 翌朝、俺と朱華、教授は揃って眠い目を擦りながら朝食の席についた。

 さすがに朝はがっつりとはいかないものの、美味しそうなクロワッサンに目玉焼き、こんがり焼かれたベーコンにコーンポタージュといったメニューが並んでいる。さながらホテルの朝食だが、安ホテルのそれとは違ってしっかりと温かい。

 ちなみに元凶のシルビアは、俺の回復魔法のせいか、ノワール以外だと一番元気そうだ。

 学生の身である朱華とシルビアはそれぞれ制服姿。全く同じではないものの意匠のよく似た制服はいかにもお嬢様学校という感じで、美少女二人には良く似合っている。

 

「……俺も着るんだよな、それ」

 

 朱華の中等部制服をまじまじと見つつ呟くと、紅髪の少女は視線から逃れるように身をよじった。

 

「当たり前でしょ? ま、これ着たいんならもっと身だしなみに気を遣わないとだけど。……っていうか、シャワーくらい浴びなさいよ」

「え、もしかして臭うか?」

「まあ、まだ嫌な臭いには達してないけどね」

 

 くんくんと、昨日から着ている服に鼻を近づけていると、朱華は肩を竦める。

 

「外を移動してきたんだから汗もそれなりにかくでしょ。まだ六月だけど、そろそろ暑くなってくるし。外から帰ったのに夜シャワーも浴びないとかありえないから」

 

 これにはノワールも頷いて、

 

「わたしは基本的に屋内での生活ですが、最低でも朝晩二回、身を清めるようにしております」

「マジか……」

 

 俺も部活やってたから「汗かいたらシャワー」というのは習慣になっているが、別に運動したわけでもなく、夏場でもないのに汗を気にしたりはしていなかった。

 女子ってのは面倒臭いものらしい。

 

「っても、そもそも着替えがないんだよな……」

「ノワールと買い物に行って来れば良かろう。なんなら吾輩がついて行ってもいいが」

「教授の方が俺に合う服は見立てやすそうだな」

「あ、でしたら教授さまの服を一着お借りできますか? 買い物に行くにも着替えが必要ですし。わたしの服ではぶかぶかすぎますから」

「お前ら、それは吾輩が小さいって言いたいんだな!?」

 

 そうやってきゃんきゃん吠えるから子供扱いされるのではなかろうか。

 この手のやり取りはいつものことらしく、他のメンバーもくすくすと笑っている。なんだかんだ仲が良いからこその距離感なんだろう。

 教授もすぐに息を吐いて気を取り直し、俺に濃紫の瞳を向けてきた。

 

「どうせ、新しい身体を直視するのが怖いんだろうが、早々に慣れておいた方がいいぞ? まさか目隠しして風呂に入るわけにもいくまい?」

「う、バレてるのかよ」

「それはバレるだろう。なあシルビア?」

「……んー? ああ、うん」

 

 夜中起きてたせいでお腹が減っていたのか、黙々と食事を平らげていたシルビアが口の中の物を呑み込み、それから頷く。

 

「学校じゃなかったら手取り足取り、隅から隅まで洗ってあげてもいいんだけど」

「さすがに自分でやりますって」

「本当? 自分で洗える? 女の子の肌は弱いから、目の粗いスポンジでゴシゴシとかしちゃ駄目だよー?」

「なんだと……?」

 

 愕然とする俺。

 じゃあどうやって洗うのかと尋ねると、できるだけ柔らかいスポンジを使うか、あるいは自分の手を使うものらしい。

 そんなんで本当に洗えるのか……?

 食後、半信半疑のまま浴室へと移動した俺は洗面所(兼脱衣所)が広い作りになっていて、二人が同時に使えることに驚きつつ服を脱いだ。

 

「……本当に何から何まで違うな」

 

 何も身に着けていない自分の姿を鏡に映すのはこれが初めて。

 ごつごつとした急な起伏のない、すべすべで柔らかい身体。つぶらな瞳でじっとこちらを見つめてくる女の子が俺だというのだから、今でもまだ信じられない。

 ただまあ、こうして見ると取り扱い注意なのはよくわかる。そもそも、乱暴に扱おうにも腕力自体落ちまくっているのだが。

 

 

 

 力加減にびくびくしつつ浴室に入り、シャンプー、リンス、ボディーソープに混じるほのかな花の香りにカルチャーショックを覚えつつシャワーを浴びた。

 身体に関してはまあ、ソープの滑りもいいし曲線的なラインをしているので洗いやすいと言えたが、困ったのは長い金髪だ。

 肌を洗うのに細心の注意が必要なら髪はどうなるのか。間違っても指でわしわしなんてやってはいけないだろうから、指の腹で恐る恐るシャンプーやリンスを馴染ませるしかなかった。

 

「……こんなもんか?」

 

 ちゃんと洗えているのかよくわからないままに身体を拭き、教授から借りた服を身に着けてからノワールのチェックを受けた。

 一番良識的で、かつ真っ当に大人に見える美女メイドは、その整った顔を俺に近づけ、すんすんと鼻を鳴らし、

 

「はい、アリスさまからはちゃんといい匂いがいたします」

 

 と、なんとも恥ずかしすぎる文句と共に「とりあえず合格」の判定をくれた。

 

 

 

 

 

 

「というか、ノワールさん? 教授の服の中にアレが無かったんですが……」

 

 一つの関門を乗り越え、男のプライドを目減りさせた俺だったが、ここに来て新たな問題が発生。

 俺の視線を受けたメイドさんはすぐに「アレ」が何かを察したらしく、おっとりと頷いてくれる。

 

「ええ。さすがに下着までお貸しするのはお互いにどうなのか、という話になりまして……。幸い、アリスさまでしたら一日くらいブラがなくても問題ないかと思いますし」

「まあ、サバ呼んで中三って見た目ですからね……。というか問題は下なんですが」

 

 教授の貸してくれたのはいわゆるショートパンツというやつで、スカートよりマシとはいえ足が露出するし、そのうえなんかすーすーする。

 これを履いてノーパンで徘徊するというのはかなり勇気がいる。

 するとノワールは思案するように視線を彷徨わせ、

 

「お留守番をしていてくだされば、わたしが見繕ってまいりますが」

「そうしてもらえると俺の精神力も擦り減らずに済みます」

 

 昨日の移動は殆ど車の中だったし、やむを終えずの外出だったので気にしている余裕はなかった。

 しかし、昨日の今日で人の多いところに女装外出というのはさすがにハードルが高すぎる。いや、今は女子なので女装も何もないのだが。

 買い物が服や下着となれば猶更である。

 まあ、自分の買い物を人任せにするのはどうかと思うのだが、ノワールなら信用できる。俺のセンスよりよっぽど良い物を選んでくれると……。

 

「あの、ノワールさんは常識人ですよね? ドレスとかパンクファッションとか買ってきたりしないですよね?」

「ご安心ください。普段着として通用し、なおかつアリスさまにお似合いのものを買ってまいりますので」

「良かった……。やっぱりノワールさんだけが頼りです」

「まあ、アリスさま。嬉しいお言葉ですが、他の皆さまが聞いたらお怒りになりますよ?」

 

 くすくすと笑うノワール。

 っても、子供にしか見えない大学教授にツンツン超能力者、夜な夜な実験して爆発音を響かせる錬金術師じゃ自業自得ではなかろうか。

 

「では、ひとまず、当座の生活に困らない分のお洋服を買ってまいりますね」

「お願いします」

 

 結論から言おう。

 ノワールは見事に依頼を果たし、宣言通り、普段着用の服を三、四着と、一週間ローテーションできるだけの下着や靴下等を買ってきてくれた。

 買って来てくれたのだが……俺は、男子高校生である自分と成人女性であるノワールとの趣味嗜好の差を失念していた。

 ()()()()()()()服を、メイド服を常用しているノワールが自分の趣味で選んだため、そのラインナップはこれでもかとアリシアの可愛らしさを強調したものになり──着用して街を歩いていても全く問題はないものの、

 

「ぷっ……くすくす。似合ってるわ。似合いすぎて……!」

「良いではないか。それで口調を女らしくすれば完璧だ」

「……うん、超可愛い。アリスちゃん、お姉さんとお部屋で一緒に寝よ?」

 

 他のメンバーからはからかい半分の誉め言葉を大量に頂戴することになったのである。

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