起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、荷物持ちをする

 翌週の土曜日、俺は再び電車を使って二駅隣の街へと向かうことになった。

 

「ままー、がいじんさんー」

「失礼だからそういうこと言っちゃ駄目よ」

 

 またしても注目されてる。

 まあ、予想はしていたので驚きはしない。悪口を言われているのならともかく、容姿を珍しがられているだけならスルーしていればいい。

 このままこの辺りに住んでいれば周りもそのうち慣れるだろう。

 

 っていうか、少なくとも朱華達がいるんだからそんなに珍しいものでもないんじゃ?

 ……いや、そうか。朱華はたまに遊びに出かけてるけど基本面倒くさがりだし、シルビアは暇さえあれば製薬か昼寝をしている。ノワールは髪色の違いがぱっと見わかりづらいし、一番外出する教授は髪や目がどうこうよりも「ちっちゃい」に目が行ってしまう。

 俺にもそのうち後輩ができるのだろうが、その時はこの感覚を共有できる相手を希望したい。

 

 口元に小さく苦笑を浮かべていると、不意に服の袖が引かれた。

 こちらを見上げる小さな女の子と目が合う。

 

「………」

 

 黙ってないでなんか言え。

 思わずツッコミを入れたくなったが、あまり邪険にするのも得策ではない。

 俺はできるだけ自然に見えるように笑顔を作った。

 

「こんにちは」

「っ!」

 

 女の子は驚いたように目を見開くとお母さんの方に走って行って、

 

「ままー、がいじんのおねえちゃんにほんごしゃべったー!」

「もう、駄目でしょ。……あの、すみません」

「いいえ」

 

 もう一度(今度は苦笑気味に)微笑んでみながら「何をやってるんだ俺は」と思った。

 

 

 

 

 

 

 先週見たばかりの改札を降りると、身体が自然にある方向へと向かった。

 

「おはよー、アリスちゃん」

「おはようございます、芽愛さん」

 

 デジャヴ。

 待たせてしまったかと尋ねると、芽愛も今来たところだという。なら良かったと頷いて、俺は駅前噴水広場の時計を見上げた。

 

「鈴香さん達は、今どのあたりなんでしょう?」

「どうだろ? 聞いてみよっか……って言ってたら来た」

 

 グループチャットに入ったメッセージによれば、五分以内に到着するとのこと。

 それくらいならこのまま待てばいいだろう。ウサギが「了解しました」と敬礼しているスタンプを送り、芽愛と並んで立つ。

 

「お菓子開発の方はどうですか?」

「開発っていうと大袈裟だけど……色々考えてたら煮詰まって来ちゃったかも」

 

 答えた少女はむう、と頬を膨らませる。

 

「そうだ。アリスちゃんはどんなお茶請けがいいと思う?」

「え? ええと……そうですね、クッキーとか、チョコレートとか?」

 

 無事『メイド喫茶』に決まった文化祭の出し物。

 本格的に準備が動きだす中、内装や衣装、メニューなども少しずつ具体的な形ができつつある。

 内装に関しては鈴香がメインで口を出しており、彼女が描いたデザイン画(高級感ありすぎて教室感ゼロ)を実現可能なレベルに落とし込む作業中。

 

 提供するメニューに関してはひとまず「ドリンクメニュー数種類のみ」をメインにすることが決定している。

 ドリンクの料金を高めに設定する代わりに、お茶請けのお菓子が自動でついてくるという形にするのだ。種類は選べないとあらかじめ断っておくことで、お菓子の欠品が出た時の対応が簡単になる。

 もちろん、芽愛のお菓子製作が上手く行くようなら別途お菓子販売を考えてもいいのだが、そのためには大量生産がしやすくて美味しいお菓子が必要である。

 

 作りやすいお菓子となると、庶民である俺が挙げられるのはごくごくメジャーなものになる。

 すると芽愛は「だよねー」と深く頷いた。

 

「実は私もそんな感じの結論に至っちゃって」

「アイデアを煮詰めた結果、基本に戻っちゃったんですね……」

 

 俺もオリジナルの俺を育てる時はステ振りやスキル振りでさんざん悩んだ挙句、似たような経験をしたことがある。

 

「そうなの! いっぱい作るならシンプルなお菓子に限るし、みんなが知ってるお菓子の方が結局喜んでもらえるでしょ?」

 

 どこかの国のよく知らないお菓子とか出して来られても「何それ?」となってしまいかねない。

 マリトッツォはたいへん美味しかったが、あれもぶっちゃけた話、クリーム挟んだパンだ。モノ自体はめちゃくちゃシンプルなのである。

 

「だから、凝るなら味付けとか配合に凝ろうかなって」

「ああいうのってシンプルなほど奥が深いんですよね……」

「アリスちゃん、わかってくれるんだ……!」

 

 手を取って見つめられた。

 

「はい。それくらいなら私にもわかります」

 

 うん、まあ、俺がイメージしていたのは肉じゃがという色気の欠片もない料理だったが、食べ物づくりという意味では似たようなものだろう。

 最近はたまにノワールの指導のもとパンケーキ焼いてみたりプリンを作ってみたりしているのでお菓子作りの方も全くわからないわけではない。

 こくんと頷いて元気付けたところで、芽愛は再びがっくり肩を落として、

 

「……だから、試食でカロリーオーバーする日々がまだしばらく続くんだ」

「余った分はクラスで配ってましたもんね……」

 

 芽愛が本気で取り組んだ試作品だけあってどれも美味しいため、クラスメート達までカロリーの過剰摂取に(色んな意味で)悲鳴を上げている。

 

「ふふふ。クッキーとかチョコなら悪くなりにくいし、あんまり重くないから、いっぱいお裾分けできるよー」

「それはもうテロじゃないでしょうか」

 

 甘い物好きに関してはもう開き直ってるし、せっかくもらえるんだから食べるが。

 芽愛は可愛い顔立ちに似合わないクールな表情を浮かべて、

 

「試食してもらわないといけないんだから仕方ないんだよ」

 

 恐ろしい計画が明らかになったところで、黒塗りの高級車が俺達の傍に停まった。

 

「おはようございます、アリスさん、芽愛」

 

 運転手は相変わらず理緒さん。

 後部座席に鈴香。そして助手席には前回のメイド講習不参加だった縫子が座っていた。

 何を隠そう、今回はその縫子が主役。

 文化祭用のメイド服を作るための生地調達がメインの目的なのである。

 

 

 

 

 

 

「先週はありがとうございました、理緒さん」

「いいえ。我々も楽しませていただきましたので」

「……参加しなかったのが本当に悔やまれます」

 

 発車した車内。

 講習の件であらためて理緒さんへお礼を言うと、縫子がしみじみとした調子で呟いた。

 俺達としてはこの一週間弱、何度も聞いた台詞である。三人を代表するように鈴香が苦笑を浮かべて「アキは最近そればっかりね」と言った。

 言われた少女はどこか人形めいた表情を崩さないまま口を開いて、

 

「それだけ残念なんです。……せめて動画で撮影してもらうようにお願いしておくべきでした」

「動画でなんか撮られていたら、私は全力でデータを確保してましたよ」

 

 写真ならまだしも、動画とか晒し者もいいところである。死ぬ前に絶対処分しておくべき類の案件だ。

 と、これまた鈴香が「あら」と首を傾げて、

 

「でも、アリスさん? 個人での反復練習に動画撮影は有効ですよ?」

「う」

 

 確かに、自分の挙動を自分でチェックできるのは有り難い。

 いや、だからといってそれとこれとは別である。

 

「それなら個人練習の時だけ使います……!」

 

 うちにはノワールというお手本がいるので必須でもないが。

 

「残念です」

 

 何故か縫子だけでなく、鈴香と芽愛まで残念そうな顔をした。

 

「ところでアキ。今日は少し遠出するのよね?」

「はい。遠出と言っても海や森林浴の時ほどではありませんが、大きめの手芸用品店に行きたいので」

 

 衣装デザインは幾つものデザイン案を経て決定済みだ。

 最終的に落ち着いたのは、黒いワンピースに白いエプロンを合わせたシンプルなデザイン。背中に大きくスリットを入れておき、着る時はボタンで留める。スカートは膝下を基本に個人裁量で調節する。

 地味といえば地味だが、最大の利点は「生地が二種類で済むので縫うのが楽」ということである。

 一応、安くて可愛い生地が売っていたら買って行くつもりなので、可愛くしたい人は自己責任でアレンジすればいい。もちろんアレンジすればするほど難易度は上がっていくわけだが。

 

「でも、結局いつものメンバーになっちゃいましたね」

 

 買い出し希望者は結構いたのだが、縫子が強権発動してこの人選になった。

 張本人は涼しい顔で、

 

「騒がしくなると面倒なので」

「……私達なら大丈夫、でしょうか?」

 

 鈴香も芽愛もはしゃぐ時は結構はしゃぐ気がする。

 

「鈴香達の騒がしさは慣れていますからね」

「なるほど」

 

 納得した。親しい友人なら騒がれても方向性は分かりやすいし、黙って欲しいと頼みやすいだろう……と。

 

「へえ。縫子ったら、そういうこと言うのね?」

「アリスちゃん?」

「え、あの」

「すみませんでした」

「安芸さん!?」

 

 騒がしいというのが気に障ったらしい鈴香達がいい感じの笑顔を浮かべ出したので、縫子が秒で降伏宣言をした。降伏が遅れた俺は二人に左右からくすぐられそうになったが、理緒さんが「運転中に暴れないでください」と助け船を出してくれたお陰で助かった。

 

 

 

 

 

 

 

 車が停まったのはとある百貨店の駐車場だった。目的の手芸用品店はこの中に入っているらしい。

 

「では行きましょう」

 

 鈴香ほどではないにせよ、縫子もお嬢様。こういうところも慣れているのか、特に気負った様子もなく車を降りていく。その様子は、なんとなくだが気合十分といった感じに見える。

 俺達も鈴香に続くようにして車を降りた。

 

「今日は頑張って荷物持ちをしますね」

 

 芽愛はついでに文化祭用の調理道具(クッキー用の型抜きとか)を物色する予定らしいし、鈴香には理緒さんに車を出してもらうという重要な役割があるが、俺は特別なことが何もない。その分、きちんと荷物持ちとして活躍しなければならない。

 と、芽愛が首を傾げて、

 

「あれ? でもアリスちゃんは衣装作らないんだよね?」

「いえ。勉強にもなりますし、予備にしてもいいので、作ろうかと思ってるんです」

 

 せっかく縫子に教わるチャンスだ。

 いざとなったら自前のものを持ち出せばいいので、完成しなくても最悪問題ない……というのもいい。後は、クラスメートから「一緒の衣装で写真撮ろうよ!」と言われたのもある。

 わからないところが出たら必殺「ノワールに聞く」を発動することもできる。

 

「なるほどー。偉いね。私なんか、面倒臭いからお店の制服借りられないかなー、とか思ってるのに」

「お店の制服ってどんな感じなんですか?」

「ウェイトレスさんっぽい可愛いやつだよー」

 

 メイド服ではないらしいが、配色的にはあまり差がないので代用はできそうだ。

 鈴香はこれにくすりと笑って。

 

「でも、他の子と違う衣装は目立つわ。看板娘が増えるなら大歓迎だけど」

「あ、それはやだ」

 

 ばっさり否定された。

 

「芽愛さんならいけると思いますけど……」

「やだよー。アリスちゃんと朱華さんだよ? 私じゃ絶対地味だってば」

 

 それはまあ、日本人の宿命というか、ラノベなんかでも配色的に見劣りしがちではあるが。芽愛だって十分可愛いのに。

 

「なら代わりに鈴香さん──」

「絶対嫌」

 

 なお、縫子は話題を振られないためか、さっさと先に行ってエスカレーターに乗り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 エスカレーターに乗って思ったのは、パンツ(ズボンの方)を穿いてきて良かった、ということだ。

 最初から荷物持ちの予定だったので、今日はスカートを止めていた。階段なんかの際、スカートを軽く押さえるのもいい加減癖になってはいるが、しなくていいとなるとやっぱり楽である。

 多少見られるくらいならぶっちゃけ構わないものの、女性から「あの子は礼儀作法がなってない」と白い目で見られるのはなんか恥ずかしいし。

 

「わ。さすがに大きなお店ですね」

「ここに来ればだいたいの物は揃うんです」

 

 良く来る店なのだろう、縫子はどこか自慢げだった。

 買うのは主に生地と糸。後はボタンなどの小物が少々。無地の生地だけでも微妙な色合いの違いや素材の違いなどで何種類もあるので、品物選びは基本的に縫子任せである。

 

「……重いです」

「アリスちゃん、車まで運ぶだけだから頑張ろ?」

「私達も持ちますから大丈夫ですよ」

「アリス様。私にも分けてください」

 

 クラスメート全員分となると量も重さもかなりのもの。

 できるだけ多くを負担したかったが、そんなことは言っていられなかった。俺達は手分けして購入した品物を持ち、車まで運んだ。

 

「しまった。……生地を買うのは後にすれば良かったですね」

「仕方ないわ。縫子も楽しみにしていたのよね?」

 

 車から百貨店に舞い戻った俺達は芽愛の買い物に付き合った後、中のレストランで昼食にした。

 お子様ランチという文字が見えて若干心惹かれつつ、あれはせいぜい小学生までだから我慢……と思ったら「大人のお子様ランチ」なるメニューがあったのでそれを頼んだ。

 デザートにパフェも注文したので少々食べ過ぎだったが、気分的には物凄く満足だった。

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