起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました 作:緑茶わいん
ノワールに教えを乞いつつ、月曜日中に生地の裁断まで終わらせた。
火曜日の放課後は治療のバイトだ。
こういうのがあるので、大部分のクラスメートのように放課後残って作業するのが難しい。その分、自宅で頑張ることになる。
もちろん宿題も忘れてはいけない。
帰宅から夕食までの時間をバイトに取られると他のことを夜に回さざるをえず──結果、読書等の時間をなくしてもなお、普段より夜更かし気味になった。
「やることが多いです……」
と、少しだけ愚痴ってみたら、朱華からは「衣装作らなきゃいいじゃない」と言われた。
「いえ。やりたくてやってることですから、できる限りやります」
「そっか。あたしには真似できないけど、応援くらいはしてあげる」
「はい。ありがとうございます」
ラノベやマンガの差し入れは丁重にお断りし、お菓子のプレゼントはありがたく受け取った。
シェアハウスにミシンがあって良かった。
さすがに手縫いは現実的じゃないし、下手な人間がやるとむしろ出来栄えが悪くなる。
でも、ノワールが使ってるところはあまり見ないような……? と思ったら、
「頻繁に使うものではないのですが、時々必要になるのです。もし、小学生くらいの方が来られた場合、名札付けなどもあるでしょうし」
という風に教えてくれた。
確かに小学生の頃はそういうのがあった。当然、母親にやってもらっていたわけだが、結構大変な作業だっただろう、と、今なら想像がつく。
そういうことまで考えているとはさすがノワール、と感心していると、彼女は端正な顔立ちに申し訳なさそうな表情を浮かべて俺にそっと囁いてきた。
「……と、いうのは建前でして。その、自分でも衣装を作れないかと思った時期があったのです。どちらかというとそちらの理由が大きいくらいかと」
少し驚きつつ彼女の顔を見つめると、ほんのりと頬が赤らんでいるのがわかった。
恥ずかしいのだろう。
しかし、俺としては恥ずかしがることに思えない。なので代わりに、
「ノワールさんでも苦手なことがあるんですね」
何故か、ノワールの顔はもっと赤くなった。
「裁縫は不得意ではありませんが、本職の方と張り合えるなどとはとても申し上げられません。でしたら、プロの方の作品を購入した方がいいのではないかと」
「なるほど。なんとなくわかる気がします」
この間、大量生産品のコスプレ衣装に不満を覚えた身としては、とても納得できる話だった。
水曜日。
特に用事がないので衣装をがっつり進められるかと思ったら、予想していないところから連絡が来た。
バイトの一種──というか、その後始末の件なので、暇があるのに断ることもできない。俺は放課後になると「残っていこう」と誘ってくれるクラスメートに謝ってから、とある組織が使っているとあるビルへと足を向けた。
「こんにちは、アリスちゃん」
「こんにちは、椎名さん」
ビシッとしたスーツに身を包んだ、できる女感の漂う女性──その実、家事は基本的に苦手だったりする凄腕プログラマーの椎名は、ビルの前で俺を待っていた。
「わざわざすみません」
「いえ、夜食を買いに行ったついでなので」
そういう彼女の手にはコンビニのビニール袋。
どっちがついでだったのかは微妙なところだが、気を遣わなくて済むように、という配慮なのはよくわかった。「ありがとうございます」と小さく頭を下げてその話は終わりにする。
当たり前に夜食が必要なあたり、残業とか泊まりが多いんだろうし。あまり時間を使わせると椎名の睡眠時間が大変なことになる。
オフィスに移動しながらの会話はちょっとした雑談。
「IT系のお仕事ってブラックですよね」
「まあね。やりがいはあるけど拘束時間は長いよね。ここは宿泊設備も充実してるから、うちに帰るよりある意味楽だけど」
「……私には真似できそうにないです」
「アリスちゃんは新興宗教の教祖とかやればいくらでも稼げるじゃない」
まあ、この世界には存在しない宗教なら新しく起こすしかないし、実際に奇跡を起こせる聖職者なんてばんばん稼げそうではある。
目立ったらまずいからやらないが。
オフィスに着いたら、他のスタッフさんにぺこぺこ挨拶をしつつ奥まった部屋へ。
椎名のセキュリティカード(オフィスへの入室とはまた別のもの)を使って中に入り、一台のPCの前へ。
スピーカー等が繋がっているのは前に来た時と同じだが、周りに置かれている機器の配置なんかは変わっている気がする。
『お久しぶりです、アリシア・ブライトネス』
「はい。お久しぶりです──シュヴァルツ」
スピーカーから響いたのはノワールに似た声。
オンにされたPC画面にはテレビ通話のようなノリで、ノワールの若い頃のような少女の姿が映し出された。
そう。
俺を呼び出したのは、以前のバイトで遭遇し、俺とノワールでなんとか撃退した近未来的機械人形──の
戦いの中でボディが破壊された彼女は人格データの入ったメモリーカードだけの状態で、政府の息がかかったこのオフィスに
一応、大人しく協力してくれていたのだろう。画像データを表示したりできるようになっているあたり、多少自由も広がったようだ。
「それで、どうして私を? こう見えて結構忙しいんですけど」
本当に忙しいタイミングなので若干の嫌味を込めて言うと、シュヴァルツは意外にも落ち着いた声音で返してきた。
『聞いています。文化祭だそうですね』
「どうして? 椎名さん……あ、いえ、ノワールさんからですか?」
『はい。貴女方の話はお姉様からよく聞かされています。頻繁に。必要ないことも含めて』
後半はうんざりするような声になっていた。
「ノワールさん、ここにはよく来てるんですね」
『ええ。平日の日中が殆どですから、貴女方は学校に行ってる時間でしょう。お姉様にとってはメイドの仕事が第一、だそうですから』
「本当に色々と聞いているんですね」
楽しそうに話すノワールの姿が目に浮かんでくるようだった。
学校だの文化祭だのの話が普通に出てくるあたり、シュヴァルツもだいぶ庶民的になったというか、牙を抜かれたというか。
しかし、そんな彼女がわざわざ俺を指名してくるということは、
「まさか、なにかあったんですか?」
『………』
沈黙。
PCの正面に座った状態からちらりと椎名を振り返るも、彼女は何も言わずに肩を竦めるだけだった。
一体何が──。
『お姉様とばかり話をしていると調子が狂って仕方ないので、他の人間と話がしたいと思いまして』
「帰りますね」
心配して損した。
さっさと帰って衣装作りを少しでも進めよう。
『待ちなさい。私は真剣です』
「真剣にそんなことを相談されても困るんですけど……」
立ち上がりかけていた俺はしぶしぶ座り直して言った。
『貴女はお姉様の平和ボケぶりに思うところはないんですか?』
そう言われても。
「ないです」
『口を開けばメイドの心得だの料理のコツだの同居人が可愛いだの言っているのに?』
「特に問題ないと思います。というか、私はノワールさんのこと──」
言いかけた俺は猛烈な抵抗を覚えて口を噤んだ。
「とにかく、この世界は平和ですし、ノワールさんは裏稼業から足を洗ったんですからあれでいいんです」
言えない。
ノワールのことが好きだ、と言おうとして恥ずかしくなった、などとは。
誤魔化すために主張の声は少し強いものになった。いや、別にノワールが嫌いというわけではないのだが。あらためて好きとか口に出しづらかっただけで。
『……自分のベースになった人物が
「気持ちはわからないでもないですけど」
『そうでしょう? 貴女はあの一党の中では新入りですし、それでいてお姉様から気に入られているようですから』
「朱華さんやシルビアさんは他にやることが多いですからね」
『暇だからと趣味を押し付けられて困っているのでしょう? メイドの衣装だのなんだのに興味なんてないのでは?』
勢い込むように言ってくるシュヴァルツ。
画面に表示された表情もどこか必死なものだ。自分でわざわざ表情パターンを変えているんだと思うと微妙な気分になる。
ついでに彼女の主張にも、だ。
「私は好きですよ」
『……え?』
「いいじゃないですか。メイドは人の役に立ちますし、奥の深い仕事です。メイド服だって、可愛い物を女の子が欲しがって何が悪いんですか?」
『………』
シュヴァルツは再び黙った。
しばしの間を置いてから、彼女は、
『……感染状態は深刻ですね。もう手遅れでしたか』
「どういう意味ですか!?」
『さて。本題はこれくらいにして、少し実務的な話もしましょうか』
「雑談はこれくらいにして、と言って欲しかったんですが」
俺のツッコミをシュヴァルツは無視した。
画面の中の少女は俺をじっと見つめながら言ってくる。
『近々、またバイトとやらを行うそうですね』
「はい」
政府関連の組織なので、そのあたりの事情も把握しているらしい。
これまでのバイトのデータを入力して「何か気づいたことはないか」と尋ねたりもしているのだと、傍らで監視(観察?)中の椎名が教えてくれる。
『アリシア・ブライトネス。おそらく次回のバイトでも強敵が現れます』
「……でしょうね」
俺にもそれくらいは想像がつく。
いつもの場所以外で行うバイト。言霊の悪戯が起こりそうな立地。邪気の蓄積を感じさせる前情報。朱華が警戒していたように、これで何も起こらなかったらむしろ拍子抜けする。
各々、取れる対策は取って臨むつもりだ。
「それも分析の結果なんですか?」
『データが少なすぎてあまり意味がありませんでしたが、その通りです。貴女方が狩り場にしている墓地では雑魚しか現れないようなので、分析する側としてはもう少し場所を散らして欲しいものです』
「安全に成果が出るならその方がいいじゃないですか」
『道理です。ですが、情報不足がトラブルを招くこともあるでしょう? 学校の校庭やあの公園にもう一度赴いてみてもいいのでは?』
「……なるほど」
一度行った場所なら、ある程度邪気は払われているはず。
不死鳥やシュヴァルツほどの強敵が現れる可能性は低い。墓地以外のポイントのデータが増えることでシュヴァルツ達も嬉しい。
教授がこの程度のことを検討していないとも思えないが、一応、こういう話があったということは伝えておこうと思う。
「でも、どうしてそんなことを?」
『……別に、大したことじゃありません』
歯切れの悪い返答。
ツンデレか? などと不謹慎なことを思いつつ待っていると、画面の中のシュヴァルツは目を逸らしながら言った。
『貴女達に死なれたら、私が話せる相手がそこのポンコツほか数名しかいなくなるでしょう』
「ポンコツ!?」
『だから、今度機械人形を見つけた時はできるだけ原型を残して持ち帰って来なさい』
「暴走されると困るので渡せないんじゃないかと思いますが……」
すると少女は肩を竦めて苦笑する。
『今の私に戦闘能力はありませんし、人類に反旗を翻して勝てるとも思っていません。機械人形を量産するプラントの建設が不可能ですし、そもそも野心もありません』
「そう、なんですか?」
知性を持った機械は暴走するのが常識だったのだが。
『私は機械であって機械ではありません。お姉様の人格を元にした人工知性です。私が自分として認識できるのはこの知性と、それから人型の身体だけです』
自由に動かせる身体が欲しいだけ、ということか。
そう言われてしまうと、俺としては多少、同情してしまう部分がある。何しろ彼女の身体を壊したのはほぼ俺だし。顔がノワールと同じなので親近感も湧く。
「わかりました。教授に伝えるだけ伝えてみます。結果は約束できませんけど……」
『それで構いません。よろしくお願いします、アリシア・ブライトネス』
なんだかんだ、シュヴァルツは以前よりも当たりが柔らかくなっている気がする。
このまま友好的になってくれれば一番いいんだが。
『それから、もう一つ。貴女に言っておくべきことがあります』
「なんですか?」
まだ何か面倒事を口にするつもりかと内心警戒していると、
『アリシア・ブライトネス。おそらく、次の戦いでも貴女が鍵になります。くれぐれも気を抜かないように』
人工知性らしからぬ、予言めいたことを少女は真剣に口にしたのだった。
四章か五章くらいで後輩キャラを投入しようと思っているのですが、よろしければアンケートにご協力ください。
考えている間にもっといいアイデアが思いついたり、この設定ならこういうエピソードが書ける……! となる可能性もあるので一位のキャラを採用するとは限らないのですが、結果は参考とさせていただきます。
アリスの後輩キャラはどんな娘がいい? ※表記された設定は全て元キャラ(オリジナル)のもの
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