起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、野外で着替える

「アリスちゃん、今日はありがとね」

「そんな。こちらこそありがとうございます。芽愛さんのお陰でいい喫茶店になりそうです」

 

 文化祭のメイド喫茶で出すメニューが決定した後は、二人でキッチンを綺麗に片付けた。

 ぴかぴかになるように掃除をするのは少々大変ではあったが、立つ鳥跡を濁さず。料理人である芽愛の両親も、キッチンが整っていないのは嫌だろう。

 クラスのみんなに食べてもらう用の見本は明日、あらためて芽愛が作ってくれるらしい。

 彼女は一体、文化祭のために何回お菓子を焼いたのか。好きという気持ちは強いとあらためて思った。

 

「でも、本当にいいの? 夕飯、是非食べてってお父さんたち言ってたのに」

「はい。ご馳走になりたいのは山々なんですが、夜にみんなで出かける用事があるので……」

 

 芽愛の両親とは俺も直接顔を合わせた。

 昼の営業が終わったところで「娘の友達に会いたい」と二人でやってきたのだ。緊張しながらの挨拶だったので上手く言えたか不安だが、にこやかに「夕飯を是非食べていって」と言ってもらえた。

 芽愛から話は何度も聞いているだけに、本気で後ろ髪ひかれるものの。

 

「またいつか、きちんとした形で食べに来させてください」

「ん、わかった」

 

 俺の言葉に少女は微笑むと、どこか悪戯っぽい表情を浮かべて、

 

「みんなで食べに来て、売り上げに貢献してくれてもいいんだよ?」

「そうですね。……マナーの心配がありますが、それもいいかもしれません」

 

 まあ、教授達も、ちゃんとしたところならちゃんとしてくれると思う。

 多分。

 

 

 

 

 

 芽愛とは彼女の家の前で別れた。

 

「本当に送って行かなくて平気?」

 

 なんて心配そうに言われたが、朱華じゃあるまいし、事件になんてそうそう遭わない。それに、初手不意打ちから意識を失わされる、とかでない限りは魔法でなんとかなる。

 お土産用のクッキーやビスケット、チョコレートはしっかりもらって、もうすぐ日が暮れそうな空の下を歩く。

 初めて歩く道だが、困った時のスマートフォン。地図を確認しながら歩けば迷うこともない。

 前もって連絡を入れたところ、駅前で待っていて欲しいと指定があった。

 

『着きました』

『あと五分』

 

 シェアハウスメンバーのグループに向けてメッセージを送ると、朱華から短い返事が来た。

 

「まさか、二度寝してたりとか」

 

 みんなで移動しているはずなのでそれはないはず、と思いつつ、少し笑った。

 

「はい、お待たせ」

 

 幸い、車はほぼ五分ぴったりに駅前に到着した。

 赤いチャイナ服姿の朱華に、ややぶかぶかのローブを着た教授、改造白衣を纏ったシルビア、それから戦闘用メイド服のノワール。

 全員、衣装は既に戦闘モードだった。

 朱華とシルビアのいる後部座席に乗り込みながら、俺はほっと息を吐いた。

 

「良かったです。あと五分寝かせて、っていう意味だったらどうしようかと」

「失礼な。昼間たっぷり寝たから目は冴えてるわよ」

「お腹いっぱいになった時がちょっと心配だけどねー」

 

 むにー、と、朱華が俺の頬を引っ張る横で、シルビアがのほほんと言った。彼女の膝の上には重箱が入っていると思われる風呂敷包みがある。

 

「シルビアさん、膝痺れませんか?」

「ちょっとね。でも、抱いてないと中の物に影響が出るでしょ?」

「おい。お主ら、さすがに食い意地張り過ぎじゃないのか?」

「教授に言われたくない」

 

 助手席にちょこん、と座った教授がジト目で睨まれて「むぅ……」と呻った。

 

 

 

 

 

 

 バイト先は今までと違って少し遠方なので、到着までには時間がある。

 移動中に食事を済ませるのかと思ったら、揺れる中で重箱を広げにくいから……と、到着後に食べることになったらしい。

 なので、デザート予定だったお菓子がすぐさまみんなに配られた。

 ノワールも教授に「あーん」して貰って口に運ぶ。

 

「あ、美味しい。保存料とか使ってない味だね」

「え、シルビアさん、そういうのわかるんですか?」

「アリスちゃん、お姉さんを誰だと思ってるの? 自慢じゃないけど、味とか匂いには人一倍敏感なんだよー」

「いいけど、シルビアさん。『ペロっ、これは青酸カリ!』とかやらないでよ?」

 

 もしそんなことになったら即、解毒魔法の出番である。

 

「アリスさま、着替えはどうなさいますか? スペースには余裕がありますが……」

「あ、そうですね……」

 

 後部座席の後ろ、荷物用スペースを見ると、今日の荷物は対不死鳥戦に比べるとまだ余裕があった。主に消火器の本数が少ないせいだろう。

 

「って、また消火器があるんですね」

「うむ、念のために人数分は用意しておいた。初期の鎮火活動には有効だろうと思ってな」

「なるほど」

 

 誰の何を想定しているのかは言わずもがなである。

 しばらく車の音と外からの音だけが響いた後、子供っぽい声が精いっぱい厳かな雰囲気を作って、

 

「さて。移動中手持ち無沙汰だな。食べてる最中にするつもりだったが、先にミーティングを済ませてしまうか」

「はい」

 

 食べてる時は騒がしくなるかもしれないし、その方がいいかもしれない。

 

「皆知っての通り、今回は林間学校で使われる山間部──森林地帯での戦闘になる」

「可燃物いっぱいの地形よね」

「うむ。大規模な山火事を引き起こすような真似はさすがに避けたいな」

 

 山火事なんかになったら大ニュースである。

 上としても余計な被害は避けたいだろうし、俺達としてもマスコミが集まってきて撤退しづらくなるかもしれない。バイト代を減らされたり、最悪なしにされる可能性もある。

 

「我々はいったん森の入り口前で停車し、十分な腹ごしらえを行った上で森に入る」

 

 林間学校などで使う宿泊施設を借りられれば良かったが、俺達が森に入るとその時点で「実体化」が始まってしまう可能性が高い。

 なので、準備は全て突入前に済ませておくべき、ということだ。

 

「じゃあ、車の中で着替えるしかないですね。……あ、でも、できれば先に身体を洗いたいです」

「むう。気持ちはわかるが、シャワーなどないぞ。我慢できんか?」

「はい。汗で気持ち悪いとかは我慢できるんですが、その、多分、身を清めてからじゃないと神聖魔法の威力に影響すると思うんです」

「……ああ、それがあったか」

 

 俺がお祈りや着替えの前にシャワーを浴びているのは「気持ちいいから」だけが理由じゃない。簡易的な禊として用いているからだ。

 神の力を使うのに清い身体の方がいいのは自明である。

 

「コンビニにでも寄ってもらえば十分です。ペットボトルの水を買って、適当な茂みで水浴びしますから」

「いや、大丈夫じゃないでしょそれ」

「まあ、周辺の人払いは頼んである。基本、人目はないはずだが……」

「小学校の頃、女子がプールで使ってたようなタオル、持ってくれば良かったですね」

 

 身体をぐるっと覆ってボタンで留められるやつだ。あれがあれば更衣室なんかがなくても人目を避けて着替えができる。

 と、俺の呟きに何故かシルビアが遠い目になって、

 

「ノワールさん、なにかいいもの持ってないー?」

「……残念ながら。用意が足りませんでしたね。携帯用の更衣室というのも出回っておりますので、今度調達しておきましょう」

 

 普段はコンパクトな状態になっていて、必要な時に組み立てて使えるものらしい。一人用のテントを兼ねたアウトドア用品的なアイテムだったり、ある種のコスプレ用品としても使われるのだとか。

 そんなものがあるのかと感心していると、朱華が大きなため息をついて、

 

「ま、車の陰でごそごそする分には問題ないでしょ。あんまり見ないでおいてあげる」

「別に見てもいいですけど……?」

「ばーか」

 

 なんか知らないが罵倒された。

 

「話を戻すぞ。……今回はこれまでと違い、危なくなったら離脱する戦法が難しい。なので、我々の身の安全は最優先にしつつ、敵を逐次撃破。殲滅する方針でいく。状況に応じて臨機応変に動くしかないが、基本的には固まって戦うことになるだろうな」

 

 これは主に場所取りの問題である。

 夜間でも人が立ち入らないとは限らない場所なので、人払いが行われている今夜以外だと余計な犠牲者が出かねない。

 

「……今回のフィールドは広い。虱潰しになると時間がかかるかもしれん。それと、具体的なフィールドの境界がわかりづらいという問題がある」

「境界っていうと……」

 

 俺はざっと思い返してみる。

 墓場。学校。公園。どれも「ここからここまでがこの場所」というのがはっきりしていた。それに比べると山の中というのは線引きが難しい。

 多分、木があるところが範囲内になるのだとは思うが。

 

 と、ここでノワールが硬い声を出した。

 

「あの、教授さま。敵は境界を越えられない、という認識でいいのですよね?」

「わからん」

 

 しかし、我らがリーダーの返答は頼りなかった。

 

「ちょっと待ちなさい。敵が勝手に外に出て人を襲うかもしれないってわけ?」

 

 朱華の紅の瞳に不安の色が浮かぶ。もちろんシルビアも眉を顰めていたし、俺だって胸の痛みを感じた。

 

「でも教授? 今までそんなことなかったよね?」

「ああ。だから『わからん』としか言えん。普通に考えれば、敵は邪気の集合体。我らの存在に反応して実体化しているに過ぎないのだから、一定以上離れれば消滅するはずだ」

「……あれ? でも、シュヴァルツは」

 

 境界を越えても生き残っていた。

 

「そう。あの現象が『ドロップ品を持ち帰れる』というだけのものなのか、それとも、生きて境界を越えさえすれば消滅を免れるという意味なのかは不確定だ。そしてもし後者なら──」

 

 撃ち漏らした敵が野に放たれる危険がある。

 

「え、あの、私達五人で漏らさず山狩りは無茶ですよ……?」

「心配するな。今のは最悪の想定に過ぎん」

 

 腕組みをして教授は小さく息を吐いて、

 

「これまでの経験から言って、敵には我らを優先的に攻撃するという本能が組み込まれている。これはシュヴァルツの証言から見てもほぼ間違いあるまい」

「じゃあ、あたしたちを無視して森を抜ける敵はいないってことね?」

「おそらくな。例外がいないとは限らんが──そのためにも、入り口付近に陣取るのではなく、ある程度奥まった場所に進む必要がある」

「森の中で殲滅戦か。サバゲーでもするのかって感じね」

「よろしければ、朱華さまにも銃をお貸ししましょうか?」

 

 ガスガンどころか実銃を複数持ってきているノワールが言えば、朱華は苦笑して肩を竦めた。

 

「やめときます。あたしじゃ上手く使えないですし、ゲーセンのおもちゃと違って本物って重いじゃないですか」

「あの重量感がいいのですが……」

 

 寂しそうに呟くノワールだが、さすがにその感想には共感できない。

 いや、まあ、聖印はある程度ずっしりしてた方が神様パワー感じられそうな気とかはしないでもないから、似たようなものか……?

 

「でも、そうすると朱華ちゃん何で戦うのー? 中華拳法?」

「あたしの格闘術舐めてもらっちゃ困りますよ。パイロキネシスと合わせて灼熱拳(ヒートナックル)ですからね。……っても、化け物相手に通用するかは正直微妙。アリス、支援魔法お願いね」

「わかりました」

 

 神聖魔法の加護を拳中心にかけてやれば、攻撃力を底上げすると同時に拳の保護にもなる。それこそ拳を燃やしながら戦っても耐えられるだろう。

 

「一応言っておくぞ、朱華よ。危なくなったら迷わず力を使って構わん。森が燃えようと気にするな」

「え、いいの? 山火事よ?」

「知ったことか──とまでは言わんがな」

 

 ふん、と、教授の鼻息。

 

「念のために消防車を付近に待機させるよう依頼を出してある。初動の段階で発見も対処も可能なはずだ。……それに、仲間の命には代えられん」

「……教授」

「心配するな。お上が何か言って来たら精一杯抗議してやる。我らの死体が森に転がるのとどっちがマシだった、とな」

「ねえ、アリスちゃん。教授ってたまに格好いいよね」

 

 シルビアが耳うちしてきた。思わず「そうですね」と答えようとしたら、

 

「たまには余計だ! 吾輩はいつも真剣にだな……!」

 

 三人まとめて怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 それからコンビニに寄って、森に着いて、森の入り口前で夕食になった。

 ノワールお手製の行楽弁当は当然美味。残しても仕方ないので全員でおかず一つ残らず平らげて、俺は車の陰で水浴びと着替えを済ませた。

 

「さて。準備はいいな、アリス」

「はい。万全です」

 

 オーダーメイドの聖印と衣装は間に合わなかったので、着慣れた聖職者衣装。

 首から下げた聖印を左手でぎゅっと握りしめ、俺はしっかりと頷いた。

 シルビアが左隣に並び、ノワールが先頭。俺の後ろに教授で、最後尾が朱華。

 

「よし。では行くぞ」

 

 俺達は森へと踏み込むと、道沿いにまっすぐ進んだ。

 目的地は森の中の広場。

 子供達が大勢集まっても平気なだけの広さがあるそこへ到達するかしないか、というところで、敵の気配は大きく膨れ上がった。

 俺達の周囲に現れた多くの影。

 人と同じか少し大きくらいの背丈。体格的は明らかに人よりがっしりとしていて、肌の色はピンクがかっている。

 

 特徴的な豚鼻を持ったその怪物の名は──。

 

「──オーク!?」

 

 それは、成人向けの界隈において幾多の女騎士や聖女を蹂躙してきた、由緒正しい魔物だった。

 

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