起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、先輩風を吹かせる(前編)

「しかし、店主殿も大変だな。後継者について一から考え直しとは」

 

 美味しそうに茶を飲み干した教授が恍惚のため息と共に言った。

 夕食が控えているので食べすぎは避けたらしい。瑠璃が持ってきた和菓子は幾つかテーブルの上に残された。俺と朱華、シルビアは顔を見合わせるまでもなくそれに手を伸ばし、自分の分を確保。

 他の二人はさっそく包みを開けているが、俺は食後のデザートにしようと制服のポケットへいったん退避させる。

 瑠璃はそんな俺達を不思議そうに見つめた後、苦笑を浮かべて、

 

「職人として修行しているスタッフがいるので、いざとなったらどうにでもなると思います。……ただまあ、親父はできれば子供に継がせたいみたいですね」

「そうだろうねー」

 

 羊羹をもぐもぐしながら、シルビアが深く頷く。

 親心としてはまあ、そうなるだろう。代々子供が後を継いできたお店なら、自分の子供にもそうして欲しいと思うのは当然だ。

 

「なんで、そいつと妹が結婚すれば、なんて案も出たんですけど……」

「嫌に決まってるじゃない、そんなの」

 

 顔も見たことない相手に失礼ではあるが、朱華の言うことももっともだ。

 好きか嫌いか以前に、そんなことを親に決められたくはない。

 瑠璃も「さすがにない」と思っているのか遠い目になって、

 

「妹も一応、多少は仕込まれてますけど、接客はともかく作るのはあまり好きじゃないみたいなんですよね。で、話は難航したわけです」

「よく、ここに来られましたね」

 

 ノワールが小さく息を吐いて言う。

 俺達としてはもちろん歓迎だが、急に人手が足りなくなったお店の方はたまったものではないだろう。

 瑠璃自身、思うところはあるはずだ。その証拠に、さっきから口調が若干乱れている。

 

「なので、折衷案というか妥協案を呑みました」

「というと?」

「四月になったら実家へバイトの応募に行くことになってるんです。もちろん、家族以外の従業員には内緒ですけど」

「成程。まあ、妥協案だな」

 

 こうなる前の瑠璃──和菓子屋の長男については大きな病院に緊急入院、ということになっているらしい。一家が病院に行ったのは従業員にもバレるだろうから、これはもうそれ以外にない。

 入院後は適当に間を置いてから「父親と大喧嘩して家を出た」とでも説明するか、あるいは俺と同じく海外に飛んだことにすればいい。

 代わりに瑠璃が何食わぬ顔で面接を受けて従業員に収まる。

 最初は何も知らないフリをしないといけないだろうが、呑み込みのいい新人を装うことは可能だろう。

 

 もちろん、これでも色々と問題はある。

 例えば、瑠璃が瑠璃のまま継いでも実子が継いだことにはならない。おそらく遺伝子レベルで変化しているはずなので血統としても途切れるだろう。

 

「なんか、瑠璃が妹の代わりに結婚させられそうよね」

「言わないでください。自分でもありそうだと思っているので」

 

 朱華にからかわれて慌てる瑠璃。

 この調子ならシェアハウスの妹分は代替わりできるかもしれない。

 

 

 

 

 さて。

 新人が来た以上、話すべきことは色々ある。

 

「とりあえず、お風呂の順番を決め直さないといけませんね」

「む、それは重要だな」

 

 ノワールが言うと、教授も厳かな声で応じた。

 更に朱華も頷いて、

 

「そうね。みんな結構長風呂するし」

「う。でも、しょうがないじゃない。女の子は時間がかかるの。ね、アリスちゃん?」

「いや、シルビアさんはわかるけど、アリスは洗う面積そんなにないじゃない」

「わ、私だって髪の手入れとか色々あるんです! 夜のお祈りに向けて身体をしっかり清めたいですし」

 

 ぶっちゃけ、俺の入浴時間はここに来た頃の倍近くまで伸びている。

 自分のことは我慢しがちなノワールも入浴時間だけはきっちり取る。早風呂なのは「熱い湯でさっと身体を温めるのがいいのだ」とか言ってる教授くらい。朱華も短い方ではあるがそこまで極端ではない。

 今までは教授の帰宅時間を考慮しつつ俺、朱華、シルビアを含めた四人が夕食までに入れていたが、ここに一人増えると戦争になりかねない。

 

「ノワールは今まで通り最後でいいのか?」

「はい。お湯は沸かし直せますので、お仕事を終えた後にゆっくりいただきます」

「じゃあ、アリスちゃんがノワールさんの前に入ればいいんじゃない?」

「え、私ですか?」

「だってあんた、魔法で水綺麗にできるじゃない」

「ああ、なるほど」

 

 《浄水(ピュリフィケーション)》という魔法がある。不純物を取り除いて水を綺麗にする効果だ。ジュースとかに使うとただの水になってしまうが、お湯なら問題ない。

 しっかり身体を洗ってから入っても、何人も続くとさすがに汚れが気にならなくもないので、俺が後から入るのはなるほど理に適っている。

 夜のお祈りは寝る前だから直前に入れるのもメリットだ。

 

「じゃあ、私はそれで大丈夫です」

「では、これからはアリスさまと一緒に入ったりもできそうですね」

「え、と。ノワールさんと一緒だといろいろ比べてしまいそうですけど……」

 

 楽しそうではあるので嫌とも言い難い。

 

「あ。瑠璃さんは何か希望はありませんか?」

「わ、私ですか?」

 

 俺達のやり取りをぽかんとしながら聞いていた瑠璃は、俺が声をかけると硬直状態から復帰した。

 

「はい。遠慮せずに言っておかないと勝手に決められてしまいますよ?」

「失礼ね。いや、たぶんその通りだけど」

「駄目ではないか。まあ、吾輩が一番なのはそう簡単には譲らないがな。どうしてもと言うなら何かで勝負だ」

「あ、瑠璃ちゃん。教授の言うことは気にしなくていいよー。どうせ仕事の日は帰ってくる時間バラバラだから。一番風呂とか休みの日くらいだし」

「は、はい。では……」

 

 わいわい話し合った末、風呂の順番は教授、朱華、シルビア、瑠璃(ここまで夕食前)、俺、ノワールということに決定したのだった。

 

 

 

 

 

 ある程度、必要なことを話した後はいったん解散することになった。

 いつまでもノワールを拘束していては夕食にならないからだ。

 

「瑠璃ちゃんの歓迎会だねー?」

「はい。いつもよりも少し豪華にさせていただきます。……アリスさま、手伝っていただいてもよろしいですか?」

「もちろんです。じゃあ、先に着替えてきますね」

「瑠璃も適当に寛いでなさい」

「ノワールの食事は美味いからな。楽しみにしているといい」

「はい」

 

 俺達が立ち上がると、瑠璃もそれにならった。

 ノワールが湯呑みやティーカップを片付ける中、教授は将棋盤を持ってさっさとリビングを出て行く。シルビアがそれに続き、朱華は去り際にちらりと俺へ視線を向けてきた。

 

『ちょっと気にしてやりなさい』

 

 とか、そんなニュアンスだろうか。

 小さく頷いてから瑠璃を振り返って、

 

「部屋はもう決まったんですか?」

「はい。二階の一室をいただきました」

 

 二階にはまだ空いている部屋が一つあった。そこが瑠璃の部屋になったらしい。これで二階は全部埋まったので、もしも更に人が増えた場合は一階の空き部屋を使ってもらうことになる。もしくは、二部屋使っているシルビアに片方諦めてもらうか。

 歩くペースを合わせるようにして移動を始めながら、俺はもう少し瑠璃と話すことにした。

 

「荷ほどきとか、お手伝いは必要ですか?」

「大丈夫です。持ってきた荷物も多くありませんでしたから」

「じゃあ、少しは持ち出せたんですね」

「今の私でも着られそうな服はまとめて持ってきました」

 

 要するに女物の服か。確かにそれは置いておいても仕方ないし、逆に失くなっていても怪しまれにくい。家族ならともかく周囲の人間は女装趣味まで知らなくてもおかしくない。

 ちなみに靴は妹のお下がりらしい。

 

「困ったことがあったらなんでも言ってくださいね」

「ありがとうございます。ノワールさんからも同じことを言われました」

「ノワールさんはうちの良心ですからね」

「そうですね」

 

 瑠璃はふっと笑って、

 

「当たり前のようにメイド服を着ていらっしゃるので驚きましたが」

「最初は驚きますよね。でも、そのうち慣れますよ」

「……そうですね。これから、ここで生活するのですから」

 

 しみじみとした響き。

 

「瑠璃さんは、元の身体に戻りたいですか?」

 

 戻りたいのなら方法はある。

 まだ不死鳥の素材は残っているし、シルビアに頼めば新しいポーションを作ってくれるだろう。

 しかし、

 

「せっかく女の子の身体になったのに、戻るなんてありえません」

 

 きっぱりはっきりと否定されてしまった。

 

 

 

 

 

 その日の夕食はチーズフォンデュになった。

 瑠璃に希望を聞いたところ「女子っぽいものが食べたい」と言われたからだ。あらためて言われると女子っぽいって何だ? と考えた末、これならOKだろうとノワールと頷きあった。

 

「てっきり和食で来るかと思ったわ」

「もちろん和食も好きなのですが、それは実家でも食べられましたから」

「好きでもたまには違ったものが食べたくなるもんねー」

「ノワールはレパートリーが多いから我が家は困っていないがな」

「教授さま? わたしがいない間に宅配ピザを注文した件、忘れていませんからね?」

 

 小さく切ったパンや野菜、ウインナーなどをとろとろのチーズに浸して食べる。

 別に軽く焙ったバゲットも用意してあるので、チーズのこってり味に飽きないようにたまに齧ってもいい。

 一つの料理で色んな物を食べられるのもお得だ。そういう意味ではこれもある種の鍋物だろう。

 

「瑠璃さん。良ければ唐揚げも試してみてくださいね」

「普通にフォンデュを用意するだけでは味気ないかと思いまして、アリスさまに手伝っていただいて揚げてみました」

「はい、いただきます」

 

 唐揚げはそのまま食べてもいいし、せっかくなのでフォンデュしてもいい。

 

「うむ、ビールにも合うな。素晴らしい」

「チーズフォンデュでしたら白ワインの方が合うと思うのですが……」

「何を言う。晩酌と言えばビールに決まっているだろう」

「教授さんが大人だというのは聞きましたが、絵面が物凄く犯罪的ですね……」

「でしょう?」

「やっぱりそう思うよねー?」

「おい、そこ。きっちり聞こえているからな!?」

 

 なお、ビールは教授の自費である。なので、第三のビールとかではない割高な缶ビールを毎日二本以上空けていても文句は言えない。

 体調に影響が出そうな飲み方をした場合はノワールが問答無用で止めるが。

 

「……ふふっ」

「瑠璃さん?」

「あ、すみません。なんだか賑やかでいいなあ、と思いまして」

 

 不意に笑みをこぼした瑠璃は、俺の視線に気づくと恥ずかしそうに言った。

 

「憧れだったんです。女の子達の輪の中に入れてもらうのが」

「あー。まあ、男でも参加できるやつがいないわけじゃないけど、男が一人でも交じると雰囲気変わるもんね」

「ええ。ですから、こんな風に夢が叶うとは思いませんでした」

 

 女子と男子だと騒ぎ方もかなり違う。

 それは男から女になった俺も良く知っている。

 

「あの。ところで、瑠璃さんは男性と女性、どっちが好きなんですか?」

「っ!?」

 

 いい機会なので気になっていたことを尋ねると、瑠璃は一瞬呼吸を止め、それからせき込んだ。

 

「い、いきなりどうしたんですか、アリス先輩」

「すみません、驚かせてしまって。でも、大事なことかと思ったので」

 

 朱華とシルビアの性癖はもう知っている。俺も正直、男だった頃の名残で男との恋愛は勘弁して欲しいが、瑠璃の場合はどうなのだろう。

 特殊性癖のない男なら話は簡単だが、果たして。

 

「いえ、普通に女性が好きですから。変なことを言わないでください」

「そうですか? そんなことで偏見を抱いたりはしませんから、正直に言ってもらっても」

「誓ってそんな事実はありません」

「まあ、この場合、どっちがまともなのかは微妙だけどね」

 

 女子になったのだから、男を恋愛対象とする方が自然ではある。

 難しいなと思ったところで、シルビアが笑って、

 

「そっかそっか。じゃあ、瑠璃ちゃん。良ければお姉さんの部屋で一緒に寝ない?」

「あ、瑠璃。シルビアさんの言うことは真に受けちゃ駄目よ。でないと絶対性癖歪むから」

「朱華ちゃんだって人のこと言えないよね!?」

 

 シルビアがツッコミを入れるとは珍しい。

 しかし、朱華はこれに肩を竦めて、

 

「あたしの趣味は割とまともじゃないですか。……でも、瑠璃にもこれは聞いておかないと駄目よね。あんたはエロゲとかする方?」

 

 瑠璃がもう一度むせたのは言うまでもない。

 ノワールに背中をさすられ、落ち着いた彼女はゆっくりと口を開き、それから俺を見て、更に気まずそうに視線を彷徨わせて──。

 

「なんと答えるのが正解なのかわかりませんが……その、嗜む程度には」

「ほんと? ねえ、どんなのやったの? 鬼畜系と純愛系だったらどっちが好き? ロリと巨乳だったら?」

「落ち着け朱華。やばい女にしか見えん」

「え、ええと、朱華先輩。私は本当に嗜む程度なんです。……ちょっとした交友関係の都合で、そういうのに手を出しづらかったといいますか」

 

 なんだろう。女性関係にうるさい幼馴染でもいたのだろうか。

 

「あの、それより。オークを斬るとか、水を浄化する魔法とか、そちらの話を聞かせていただけないでしょうか?」

「あ」

 

 メンバーの何人かが「すっかり忘れてた」という顔をした。

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