起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、先輩風を吹かせる(後編)

「ここが、アリス先輩の部屋なんですね」

 

 俺に続いて入ってきた瑠璃は、部屋の中をぐるりと見渡して呟いた。

 なんか、あらためてじっと見られると恥ずかしいんだが。

 まあ、見られて困るようなものはないはずだ。特筆すべき点は本棚にラノベやマンガや少女小説、更には小型の聖書や宗教史の本までが雑多に並べられていること、部屋の隅に置かれた竹刀や木刀、ダンベルが異彩を放っていることくらいである。

 なお、真面目な本に関してはちょっとずつ読み進めているものの、正直あまり捗っていない。難しくてやる気が起きないのもあるが、下地となる知識がないので理解しづらいのも大きい。

 

 それはともかく。

 

 夕食と話し合いを終えた後、俺は瑠璃を部屋に呼ぶことにした。

 

『瑠璃さん、少し部屋で話をしませんか?』

『あ、はい。……えっと、でも、私の部屋はまだ片付け終わっていないので』

『それなら、私の部屋に来てください』

 

 幸い瑠璃はこれを快諾してくれた。

 少し準備があると言うので、先に入浴を済ませた。さっぱりした身体にパジャマを纏って、今まで空室だった部屋のドアを叩くと、慌てたような声が聞こえてきた。

 

『す、すみません、もう少し待っていただけますか?』

 

 待つこと五分。

 部屋から顔を出した瑠璃は、白のTシャツ+クリーム色のセーターにデニムのショートパンツというコーデに身を包んでいた。

 さっきと服が違う。もう寝るだけなんだし、どうせ着替えるなら寝間着の方がいいと思うのだが。

 ドアの隙間から、複数の服が散乱する様がちらっと見えたことで、俺は何も言わないことにした。

 そうして二人、俺の部屋へとやってきた、というわけだ。

 

「すみません。片付けで忙しいところに」

「いいえ。私も、もう少し誰かと話をしたい気分だったので」

「いきなり言われてもわけのわからない話ばかりでしたもんね」

 

 あの後は瑠璃の希望通り、俺達の能力やバイトについて話をした。

 一通りの説明はしたつもりだが、初めは俺も「は?」と思った。飲みこみ、理解するまでには時間がかかるだろう。

 そして、一人で事情を飲みこむのは大変かもしれない。

 懸念は当たっていたのか、瑠璃は僅かに顔を俯かせて「はい」と答えた。

 

「……まさか、本当にゲームキャラになってるなんて思いませんでした」

「私も最初は驚きました」

 

 女になっているだけでなく魔法が使えるようになっていて、しかも化け物と戦う羽目にまでなったのだ。

 あの頃のことを思い出して苦笑いを浮かべてから、瑠璃に座るように勧める。

 

「あ、はい。ええと……」

「クッションもありますし、カーペットを敷いているので痛くないと思います。それともベッドの方がいいですか?」

「べ、ベッド!? い、いえ、クッションをいただければ十分ですっ!」

 

 真っ赤になって答える彼女。

 どこに座っていいか、という顔できょろきょろしていたので選択肢を挙げてみたのだが、余計に慌てさせてしまったらしい。

 俺からクッションを受け取った瑠璃はなおも色が戻り切っていない表情のまま、顔を伏せて言った。

 

「アリス先輩は、私と二人きりで怖いと思わないんですか?」

「怖いなんて思いませんよ」

 

 微笑んで答える。

 瑠璃が言いたいのは「今朝まで(昨夜まで?)男だったんですよ?」ということだろう。だが、目の前の瑠璃はどう見ても女の子だ。

 変身前の瑠璃がどんな顔だったのかも知らない(会ったことがあったとしても思い出せない)ので、彼女を男としては扱えない。

 

「それに、きっと、瑠璃さんは女の子にひどいことをしたりしないと思います」

「でも」

「もし不安なら、抱きつくくらいしてもいいですよ? 私で良ければ落ち着くまで傍にいます」

 

 シルビアが頻繁に抱きついてくるので、そのくらいなら抵抗もない。

 その先になると身の危険を感じるので《聖光(ホーリーライト)》を唱えるが。

 幸い、瑠璃はそれで顔を上げてくれた。瞳が若干潤んでいる。

 

「アリス先輩は凄いですね」

「ここの住人としては先輩ですからね。……私は高校生だったので、精神年齢だと後輩になっちゃうんですけど」

「ふふっ。構いません。今は私の方が後輩ですから」

 

 気分は落ち着いたようだ。くすりと笑った瑠璃は目元を拭って明るく言う。

 

「この部屋、アリス先輩の匂いがしますね」

「え。……えっと、その。しゅっとする消臭スプレーがないかノワールさんに聞いてきますので」

「ち、違います! 落ち着くというか、良い匂いだな、ということです」

「ほ、本当ですか? 嘘じゃないですよね?」

 

 不安なので何度も尋ねた。瑠璃がこくこく頷いて「もちろんです」と言うので、ようやくほっとする。

 

「……どうしてそんなに、匂いの話に敏感なんですか」

「私、こうなる前は剣道をやっていたんです。それで、女の子から汗臭いとか言われることが良くあって……」

「あー……」

 

 あの時の事は思い出すだけで苦しくなる。

 俺達だって俺達なりに対策はしていた。だが、シャワーを浴びたりスプレーをしたところで完全には防げない。

 というか、若い男がスポーツに精を出すのは健全な証拠だ。それを悪いことのように咎められれば泣きたくなるし、女子受けの良いチャラチャラした男どもに怨嗟を送りたくもなる。

 

「高校生になったらスポーツをやろうと思っていたんですが、やっぱり止めた方がいいでしょうか」

「だ、大丈夫ですアリス先輩。女の子の汗は良い匂いですから」

「さすがに汗は汗でしょう?」

「思ったことありませんか? 体育の後の女子のジャージとか、匂いを嗅いだら興奮するだろうな……って」

 

 ない、と言えば嘘になる。

 俺は目を逸らした。

 瑠璃は「わかればいいんです」とばかりに頷いた後、自分が何を言ったのか理解して赤くなっていた。

 こほん。

 どちらからともなく咳ばらいをして仕切り直し。

 

「話を戻しますが、アリス先輩は癒し系なんですよね?」

「そうですね。癒し手(ヒーラー)がメインになります。攻撃役(アタッカー)が少ないせいで魔法で攻撃することも多かったんですが……」

「私が前に立てればみなさんが楽になる、ということですね」

 

 意外と理解が早い。

 

「私達の事、信じてくれるんですか?」

「信じられない気持ちはありますが……アリス先輩の魔法や、朱華先輩の超能力も見せていただきましたし、疑う余地はないと思います。それに、そういうのって一度は憧れるじゃないですか」

 

 男なら当然。女子だって魔法少女に憧れる時期があるだろう。

 

「危険ですよ。きっとみんな、瑠璃さんに無理に参加しろとは言わないはずです」

「わかっています」

 

 真っすぐに俺を見つめて、こくりと頷く瑠璃。

 

「正直言って、()()()()()の私は臆病者でした。武道どころか、スポーツだって好んでいなかったくらいです。……まあ、必要以上に筋肉を付けたくなかったからなのですが」

「瑠璃さん」

「でも、やります。少なくとも戦場に出もせず臆することはできません。不思議と、当然のようにそう思えるんです」

 

 早月瑠璃(オリジナル)の影響だろうか。

 俺の時よりもかなり共鳴(ユニゾン)が早く深いようだが、変身後の自分を受け入れているかどうかの差かもしれない。

 女になることを既に受け入れていて、しかも、TRPGの自キャラとして瑠璃を演技(ロールプレイ)していた分、馴染みが早くてもおかしくない。

 俺は、これ以上止めるのは無意味だと判断した。

 

「わかりました。それじゃあ、武器の調達と、身体を動かす練習から始めないといけませんね。良ければ私の竹刀、使いますか?」

「いいんですか?」

「はい。今の私には重いみたいなので、私は木刀の方を使っているんです」

「では、有難く使わせて頂きます。……本物の日本刀を調達するのは骨が折れそうですからね」

 

 確か、刀剣類の所持には許可が必要だったはずだ。

 未成年でも取れるのか。取れるとして何が必要なのか、といったところから調べないといけないし、その上で実用的な日本刀の製造元や販売元を探さないといけない。

 

「鈍器なら簡単に手に入るんですけどね。ゴルフクラブとか」

「金属バットとか、ですね。……私に瑠璃の技能が備わっているのであれば、重さの均一な棒の方が扱いやすいはずなのですが」

 

 いわゆる杖術の類である。

 杖というのは要するに穂先のない槍なわけで、勢いよく突かれたり柄で叩かれたりすれば十分痛い。

 杖なら護身用、あるいはスポーツ用の物が流用できるかもしれない。

 

「ノワールさんによると、異能以外の技術は身体を動かしているうちに少しずつ思い出すものらしいです。練習あるのみですね」

「先程も申し上げたように、私自身に心得はないので少し不安ですが……」

「大丈夫ですよ。休みの日なら私も練習相手になれますし、頑張りましょう」

「あ……はいっ」

 

 瑠璃は笑顔でこくりと頷いてくれた。

 これなら大丈夫そうだ。後は次のバイトが直近で入らないかどうか。その辺りは教授もわかっているだろうから調整してくれるはず。

 

「瑠璃さんは私達の一学年下になるんですよね?」

「はい。四月から中学三年生として通おうと思っています。……今年度いっぱいは妹が高校生なので、できれば鉢合わせしたくありませんし」

「三学期から転校してもクラスに馴染みにくそうですし、その方がいいと思います」

 

 俺の時は一学期中に入るために急ピッチで準備を進めたが、瑠璃の場合は余裕がありそうだ。

 そうなると三か月くらいはノワールと一緒に家にいることになる。ついでに中学三年生を最初から体験できるわけで……あれ、若干羨ましい。

 瑠璃もどこか楽しげに声を弾ませる。

 

「政府の人達からお金まで頂きましたし、バイトをすれば収入もあるのでしょう? 生活環境を整えるには十分過ぎます。ああ、気兼ねなく服を買えるなんて素晴らしい……!」

 

 今までは普段の私服+女装用の服で余計にお金がかかっていた。しかし、これからは私服で女装(?)ができるというわけだ。

 うっとりする瑠璃。

 可愛いが、これが男だったら問答無用で変態扱いだったかもしれない。

 

「瑠璃さんは綺麗ですから、服選びも捗りますね」

「アリス先輩もそう思いますか? 私としても、脳内で思い描いていたキャラがそのまま現れたようで、驚いているんです。……ただ」

「ただ?」

「胸はもう少し大きくても良かったかもしれませんね……」

 

 自分の胸元を見下ろす瑠璃。

 彼女の胸は決して平坦ではないが、大きいと言えるほどでもない。どちらかというと控えめと言うべき大きさだ。

 なんとなく俺も自分の胸を確認してしまう。

 ここは同意すべきか否か。

 

「でも、脳内にイメージがあったんですよね? 巨乳でイメージしなかったんですか?」

 

 俺の場合、イラストの時点で小さめに書かれているのでどうしようもなかったのだが。

 すると瑠璃は両手をぐっと握りしめて、

 

「だって、着物美人ですよ? 個人的に巨乳と和服は食い合わせが悪いと思うんです」

「なんとなくわかる気はします」

 

 聖職者にしても、あんまり巨乳すぎるとそっちに目が行ってしまい、清楚なイメージを持てなくなるのが男の性である。

 

「ですよね? なので、瑠璃(るり)の胸はこれが理想なんです。でも、現代のファッションは女性的な身体のラインがはっきりしていた方が選択肢が多いと思うんです……!」

「ま、まあ、成長すれば大きくなるんじゃないですか?」

「そうですね。私のイメージがどこまで影響しているか次第です」

 

 和服美人への拘りはそれだけ強いらしい。

 ……しかし、そのあたり俺はどうなるんだろうか? 成長したイラストがないからあまり大きくならない(※身長も含めて)かもしれないし、この手の作品だと後日談で見違えるほど成長させてくるパターンも結構あるので、そっち合わせになるかもしれない。

 少し楽しみなような恐ろしいような。

 さすがに「実は不老不死です」なんてオチはないと思いたいが。

 

「あ。もしコスプレにも興味があるなら、ノワールさんに頼んでみるといいと思います。色んなメイド服を持っているので、好みに合うものがあるのではないかと」

「今度聞いてみることにします」

 

 力強く頷かれた。

 もしかすると、私服では着られないような服を収集するメンバーが一人増えてしまったかもしれない。

 それ自体は別に構わない。人の事は言えないし、ノワールも喜ぶだろう。

 ただ、末っ子に姉を取られた次女はこんな気持ちなんだろうか……というような一抹の寂しさを感じてしまう。

 

「本当に、色々とありがとうございます、アリス先輩」

 

 それとは別に、この子をもっとサポートしていきたいと思う自分も確かにいた。

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