起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、嫉妬する

「アリスさん、新しい住人の方はいかがでした?」

「はい。とても良い人でした。きっと仲良くなれると思います」

 

 翌日の昼休み、どこかわくわくした様子の芽愛(めい)に問われ、瑠璃のことを話した。

 もちろん、元男だとか和菓子屋の子供だとか、武術が得意だとか余計なことは伏せて、である。

 

「来年中学三年生……。同い年でないのは少し残念ね」

「私としてはファッションの話ができそうなので興味があります」

 

 お弁当を口に運びながら、鈴香(すずか)縫子(ほうこ)もそれぞれ感想を漏らす。

 作る方と着る方という違いがあるが、瑠璃と縫子はきっと気が合うだろう。合いすぎてコスプレとか、あさっての方向に突っ走らないか心配なくらいだ。

 

「そういえば、姉が都合をつけて会いたいそうです。朱華さんに連絡するので二人で相談してくれ、だそうです」

「わかりました」

「どうせろくでもない用事だと思うので、無視していただいても構いませんが」

 

 実の姉にひどい言い方である。

 いや、実の姉だから、なのだろうか。

 縫子の姉・千歌(ちか)さんは現役女子大生声優だ。エロゲに出演するような下積み時代を経て、今はメジャーデビューを果たしている。

 彼女は俺と声が似ているというか、同じ声をしている。俺の元になったアリシア・ブライトネスのCV担当なので必然的にそうなるのだ。

 文化祭で会った時は朱華と何やら盛り上がっていたようだが、

 

「縫子さんのお姉さんなら大丈夫ですよ」

「そうですね。アリスさんが相手なら姉も無茶はしないかもしれません」

「……ねえ芽愛。アリスさんの今の発言ってどっちの意味かしら」

「私だったら『縫子で慣れてるから大丈夫』という意味で使いますが」

 

 何やら鈴香と芽愛が内緒話をしていた。

 四人で並んで座っているので当然のように丸聞こえである。

 

「鈴香さん達にはそのうち報復しますね」

「理不尽」

「横暴」

「なんとでも言ってください」

 

 こういう争いに関してはきっと神様も何もできないだろう。

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ、アリスさま(先輩)」

 

 シェアハウスに帰ると、二人のメイドに出迎えられた。

 

「ど、どうしたんですか、一体」

 

 片方はもちろんノワールだ。彼女はいつものメイド服姿。たとえ同い年まで成長したとしても、彼女のように可愛らしさと気品を兼ね備えた大人の女性になれるかどうか。

 そしてもう片方は、特殊なメイド服に身を包んだ瑠璃である。

 こちらの衣装は黒一色。通常タイプに比べ、レースやフリルがふんだんに使われ、全体的に少女らしい装いとなっている。何枚も布を重ねているせいで重厚感もノワール以上。仕事着というより客人を出迎えるためといった雰囲気の──いわゆるゴスロリメイド服。

 可愛い、と頭の中では理解できているのに、予想していなかった姿が急に来たせいで本能が危険信号を発している。

 と、二人は顔を見合わせて首を傾げてから、再び俺に向き直って、

 

「可愛いと思いまして」

 

 息ぴったりだった。

 

「もう仲良くなったんですね」

「幸い、お話をする時間がありましたので」

 

 ねー? とばかりにもう一度瑠璃を見るノワール。

 やばい。またしても負けた感がこみ上げてきそうだ。

 自分の小ささにため息をつきたくなるのを堪えて微笑む。すると、瑠璃は笑顔を浮かべて俺を見つめ、

 

「アリス先輩。どうですか、これ? 可愛いですよね?」

「はい。とても可愛いです。瑠璃さんは黒が似合いますよね」

「モノトーンですからね。お手軽最強です」

 

 くるりと一回転してみせる瑠璃は心からゴスロリを楽しんでいるようだ。

 この衣装はノワールから借りたものらしい。

 二人の身長差なら、よほどタイトだったりスカートが長かったりしない限りは着られるだろう。俺は少し身長と胸が足りていないが。

 

「アリス先輩も今度、一緒に着ませんか?」

「いいですけど、私、そういうのは持ってないんです」

「ではアリスさまの分を注文──」

「待ってくださいノワールさん」

「そうです。アリス先輩には私がプレゼントしますから」

「それも駄目です!」

 

 うん、こんないい子に嫉妬するとか、やっぱり俺が余計なことを考えすぎな気がする。

 今度、一緒にWebサイトのカタログをチェックする約束をして靴を脱ぐ。

 瑠璃は朱華やシルビアにも見せるつもりらしい。

 今日は二人と別々に帰ってきた。シルビアはわからないが、朱華はクラスメートと話をしていたので若干タイムラグがあるだろう。

 果たして、朱華はこの瑠璃にどんなリアクションを取るのか。

 少し興味があったので、リビングで宿題をしながら帰りを待つと、

 

「へえ、似合ってるじゃない。真っ黒だからなんか死神っぽいわよね」

 

 なお、本人的には普通に褒めたつもりらしい。

 

「アニメとかマンガのネタ通じる相手なら大丈夫でしょ」

 

 確かに、その手の話なら死神美少女なんて珍しくないが、死神なんて俺の敵になりかねないので、できれば勘弁して欲しかった。

 

 

 

 

「では、アリス先輩。よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 週末の土曜日。

 俺は暇な午前中を利用して、瑠璃と簡単な稽古をすることにした。

 瑠璃は竹刀、俺は木刀。

 お互いにトレーニング用の服に身を包み、家の庭に出る。髪は邪魔なので後ろで束ねた。俺のはポニーテールだが、瑠璃のはサムライヘアーって感じだ。

 

「アリス先輩はウェアも似合いますね?」

「……えっと、その。ありがとうございます」

 

 なんだか気恥ずかしくなってきたので誤魔化すように稽古を開始。

 

「まずは型から覚えましょうか」

「お願いします」

 

 剣道をやらなくなって半年近く経つが、もちろん作法はまだ覚えている。

 平日中に軽く調べて自己流のトレーニングをしていた程度だという瑠璃に一から剣道の型を教え、実際にお手本を見せながら竹刀を振ってもらった。

 両手でしっかりと握られた竹刀は勢いよく振り下ろされる。

 

「やっぱり、筋がいいですね」

「本当ですか?」

「慣れていないので身体に力が入り過ぎですけど、思ったよりも形になっています」

 

 おそらく、身体の方は十分出来上がっているせいだろう。

 瑠璃の身体は驚くほどしなやかに動き、そのせいで若干勢い余っているくらいだ。

 

「実は私も、思ったより動けて驚いているんです」

「化け物相手に戦える身体ですからね。技術さえ備えてしまえば私なんか相手にならなくなるはずです」

「そんな」

「瑠璃さんが自分の剣術を思い出したら、むしろ私が教えを乞いたいですね」

 

 剣道の型も長い歴史の中で洗練されてきた素晴らしいものだが、実践的な剣術は命のやり取りをするのに特化している。

 試合用の技術とは違った強みが備わっているに違いない。

 そこそこ長い経験から来る推測で話すと、瑠璃は何故か若干つまらなそうな表情で、

 

「私は、アリス先輩ともっとこうやって練習したいです」

「もちろん、私も一緒にトレーニングができて嬉しいです。それに、瑠璃さんが強くなってくれれば、私は守ってもらえるじゃないですか」

 

 前衛の背中に隠れながら治癒魔法を詠唱する、なんてすごくヒーラーっぽい。

 今までは攻撃魔法を連射しながら支援魔法を維持するなんていう、MMORPGならプレイヤーが過労死しそうな状態だったのだから凄い違いだ。

 前回のオーク戦のような綱渡りはもう、本当に懲り懲りである。

 すると、瑠璃はこくりと頷き、竹刀をぎゅっと握り直して、

 

「はい。私、アリス先輩を守れるくらい強くなりたいと思います」

「その意気です。それじゃあ、続けましょうか」

「はいっ」

 

 しばらく素振りを繰り返し、二人で行う型の訓練をこなした後、試合形式に近いチャンバラごっこのようなこともしてみた。

 結果は俺の勝利。

 得物の重量差と身体能力差を加味しても、まだ技術の差が大きかった。ただ、この分なら本当に、意外なほど早く追い抜かされる日が来そうな気がした。

 

 

 

 

「……はあ」

「いや、なに黄昏てんのよあんた」

 

 ため息をついた俺の頬を、人差し指の先端がぷにっと突いた。

 首を向ければ、朱華がジト目でこっちを見つめている。

 

「ノックしてください」

「返事がないから入ってきたのよ。で、なに悩んでるわけ?」

 

 瑠璃と初めての訓練をこなした夜のことである。

 朱華はまだまだ寝るつもりがないのか、ノートパソコンを座卓に設置して夜更かしモードだ。しばらくはいいとして、寝る時間になったら追い出そうと思う。

 

「いえ。……久しぶりに男の身体が恋しくなったといいますか」

「なんでよ?」

「今の私って非力なんだなあ、って、あらためて実感したからですかね」

「別にあんただって弱くないでしょ」

「それはわかってます」

 

 半眼になった朱華の言葉に深く頷く。

 アリシア・ブライトネスの身体スペックは決して低くない。

 敵味方が複数存在する戦場において、最低限の回避行動を取りながら移動標的を魔法で狙える程度には、俺だって動ける。

 それでも、新人である瑠璃の方がスペックが上だった。

 もちろん、前衛と後衛の違いあるのだから仕方ない。俺がアリシア・ブライトネスではなく、朱華がプレイしていたデータの『撲殺聖職者アリスちゃん』だったら話は別かもしれないが、ゲーム的に考えて、後衛の聖女が前衛並みに避けて耐えて物理ダメージ叩き出せたらバランス崩壊である。

 それでも。

 己の非力を自覚させられて、かつ、それを悔しいと思ったのは久しぶりだった。

 

「我が儘ですよね」

 

 自嘲気味に呟き、苦笑すると、朱華はくすりともしなかった。

 

「そうね」

 

 肯定の言葉。

 思ったよりも心が弱っているのか、どうとでも取れる短い返答でさえもぐさりと来てしまう。

 

「……本当に、私は弱いです」

「別にいいじゃない、弱くて」

「え……?」

 

 目を丸くして朱華を見る。

 少女は照れくさいのか、頬を赤くしながら視線を逸らして、続きの言葉を口にする。

 

「あのね。あんたとあの子は違うのよ。何もかも。根本から」

「いや、それはそうですけど」

「そうだけど何よ。わかってないから悩んでるんでしょ。違う?」

「……それは」

 

 口ごもる。朱華の言う通りなのかもしれない。

 わかっているつもりになって意地になって、自分を大きく見せようとして、結局小ささを露呈している。そんな状態に陥っているのかもしれない。

 それでも。

 否定されると反射的に反論したくなる自分もいて、わけがわからなくなって泣きそうになる。

 

「瑠璃は凄い子よ。物分かりが良いし吸収が早いし、目的意識もはっきりしてるし、コミュ力だって高い。正直わけわかんないレベル」

「私とは大違いじゃないですか」

「そうね」

 

 ぽん、と頭に手のひらが置かれる。

 

「あたしとも大違いよ」

「……朱華さんは凄いじゃないですか」

「ばーか。あんた、あたしが変身したての頃のこと知らないじゃない」

 

 知っているわけがない。俺が出会ったのはもっと後の朱華なのだから。

 そう。知らない。

 彼女が変身に直面した時、どんな反応を示したのか。シェアハウスへどんな風にしてやってきたのか。

 

「凄かったわよ、あたし。シルビアさんは結構すんなりだったけどね」

「……朱華さんの方が先だったんですか?」

「さあ、どうかしらね。っていうか、そんなことはどうでもいいのよ。今はあんたの話でしょ」

 

 今度は頬を優しく撫でられる。

 何が言いたいのかわからないままにスキンシップをされて、涙腺がどんどん緩んでいく。

 

「ほんと、手がかかるわよ、あんたは」

 

 言いながら、朱華は笑っていた。

 

「朱華さん?」

「あんたはね、本当に手のかかる奴よ。最初は男に戻りたいって駄々こねてたし、今のままでいるって決めたら決めたで無茶ばっかりするし」

「それは」

 

 一生懸命だったからだ。

 俺にできることなんて碌にないから、できることだけでも頑張らないといけなかった。

 

「あっと言う間にあたしより稼ぎ始めた奴が何言ってんのよ」

「……あ」

 

 頬がぐにーっと引っ張られる。

 気づけば、朱華は泣き笑いの表情だった。

 

「あのね、あんたはあたし達にとって手のかかる妹よ。それでいいの。それがいいの。手のかかる子ほど可愛いって言うじゃない」

「……できれば、妹扱いは卒業したいんですが」

「無茶言うんじゃないわよ。そうやって頑張るあんたをあたし達はほっとけないってのに」

 

 肩を抱き寄せられて、そのまま抱きしめられた。

 

「あーもう、何やってんだろあたし」

「……すみません」

「謝るなっての。……いい? あたしの見た限り、瑠璃は確かに優等生だけど、だからこそ頑固よ。あたし達が何言ったって根っこの部分は変わらないでしょうね。ただ、たぶんあんたは例外」

「私、ですか?」

「そ。そういうもんなの。完璧な人間なんていないんだから」

 

 それはわかる。

 シルビアが研究馬鹿で、朱華がエロゲ馬鹿で、ノワールがメイド馬鹿で、教授が食いしん坊で、俺が駄目駄目なのがその証拠だ。

 なら。

 いいのだろうか。俺は、俺のままで。

 朱華はそれ以上何も言ってくれなかったが、気づいたら気分はだいぶすっきりしていた。

 

「あの、朱華さん?」

「何よ」

「一緒に寝てください、って言ったら、駄目ですか? って、あいたっ」

 

 デコピンされた。

 

「あんたね。その無防備すぎるところは直しなさいよ」

 

 そう言いつつ、朱華は恥ずかしそうに「別にいいけど」と言ってくれたのだった。

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