起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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遅くなりました。
しばらく体調を崩しておりましたが、ようやく更新です。


聖女、完全武装する

「……さて」

 

 土曜の夕食後。

 普段以上にしっかりと入浴を済ませた俺は、満を持してクローゼットを開いた。

 一度試着しただけ、ほぼ新品の状態でハンガーにかけられた衣装を手に取り、クローゼットのドアへと掛けなおしてから、今度は机の引き出しを開ける。

 取り出したのはオーダーメイドで製作した聖印だ。

 

 ハートマークのようにも、リンゴのような果実にも見える印を金属の輪が──その、なんというか「米」の字のように取り囲んでいる。

 輪の内側に「アリシア・ブライトネス」の名前を刻んでもらった他、細かな細工もいくつもある。

 丸いので小さめに作って貰ったのだが、その分、細工をするのは結構大変だっただろう。

 同梱してもらったチェーンは女性らしい細いもの。ただし、さすがにお金をかけただけあってか、簡単には千切れないような丈夫さが感じられる。

 

『試しにチョーカーを買ってみたらうまく留められなくて、苦戦している間にチェーンが壊れたことがあります……』

 

 とは瑠璃の体験談だが、こういうものの質も意外に大事である。特に戦いに持って行く以上、激しい動きをすることは確定なのだから。

 涼やかな小さい音を立てつつ、聖印を首へ装着。

 身に着ける下着は新しいものを下ろすことにした。さすがに衣装と一緒に注文した高級下着は戦いの場にそぐわないので、あくまでそこそこの値段の品だが、白い清楚なデザインである。

 冬場ということで下半身には厚手のタイツを装着。白で統一しようかと迷いつつ、タイツくらいは、と大人っぽく見える色である黒を選んだ。

 

 そして最後に衣装。

 聖職者衣装、ではなく、これはもう『アリシア・ブライトネスの衣装』と呼ぶべきだろう。

 白をベースとした清らかな外観。デザインを担当したイラストレーターさんグッジョブと言うべきか、スカート部分に細かいスリットが入っていたり、腰回りを締め付けすぎないように配慮がされていたり、きちんと戦うことを念頭に置いた工夫がされている。

 その分、着る時だけは背中のファスナーを上げて終わりとはいかないのだが──注文者が他ならぬ俺である以上、着方はわかっている。丈夫な生地とはいえ、気分的にそっと大事に袖と足を通せば、

 

「──うん」

 

 アリシア・ブライトネスが完成した。

 髪を整え、衣装に微調整を加えて鏡に向き合えば、ああ、これだと自然に思った。これなら戦える。存分に力を振るうことができる。

 いや、もちろん正確に言えば、ファンタジー世界にファスナーがあったかは定かではないし、衣装にも聖句を細かく綴った神聖な防御力つきの刺繍なんかがあっただろうとは思うのだが、そういうのはこの際置いておいて。

 これは、俺のための衣装だ。

 半ば無意識に錫杖を召喚する。そのまま目を閉じて、祈りを捧げる。

 一分もしないうちに思考が解けて消えていき、こんこん、というノックの音ではっとするまで、俺は無心を続けていた。

 

「アリス先輩? 準備は大丈夫ですか?」

「はい、今行きます」

 

 ちらっと時計を見たら三十分以上過ぎていた。いわゆるゾーン的なやつだったんだろうかと思いつつ歩いていき、ドアを開ける。

 ちなみにスマホはポケットに放り込んだ。こういう便利ポケットは元デザインになかったのだが、ノワールに相談したりしてさりげなく追加してある。

 

「お待たせしました、瑠璃さん。行きましょう」

「あ──」

 

 見上げると、ぽかん、と呆けたような瑠璃の顔があった。

 少女は長い黒髪を後ろで束ね、黒いジャージの上下に身を包んでいる。俺と同じく身を清め、気合いを入れたのだろう、いつもとは少し違う、より凛とした雰囲気が感じられる。

 なので、知人が出てきただけでびっくりしなくともいいと思うのだが。

 

「瑠璃さん?」

「っ」

 

 我に返った少女はまだ半分呆けたような口調で「一瞬、本気で見惚れていました」と言った。

 

「ありがとうございます。でも、褒め過ぎですよ」

 

 もし真実だったとしてもそれはアリシアが凄いのであって、俺はオリジナルの風格を半分も再現できていないはずだ。なので、俺がもっと成長するまで取っておいて欲しい。

 

「それより瑠璃さん、本当に大丈夫ですか? 疲れも痛みも二日酔いも癒しますから言ってくださいね?」

「大丈夫です。というか、お酒はあれ以来口にしていません」

 

 いつもの調子に戻った瑠璃からは「やっぱりアリス先輩ですね」と、たぶん褒め言葉ではないことを言われた。

 

 

 

 

「おお、来たか。……いや、これまた随分と気合いが入っているな」

「お帰り、アリスちゃん。凄いね、ゲームのヒロインみたいだよ」

「一応こいつって主人公兼ヒロインですからね。……にしても墓地行くだけなのになんで最終決戦みたいな装備してんのよ」

「……あはは。その、せっかくなのでお披露目をと」

 

 苦笑しながらみんなの前に立つ。

 そういえばノワールは黙ったままだなと顔を上げると、目を爛々とさせながら思案のポーズを取ったメイドさんがいた。

 

「わたしも一度、これでもかと戦闘メイドをしてみるべきでしょうかっ?」

「お主ら二人の完全武装なぞ、怪獣でも相手にせねば不足するわ」

「まあ、あのでっかいオークはちょっとした怪獣だったけどねー」

 

 ほんとだよ……。

 

「良かったわね瑠璃。アリスとノワールさんがこれだけ張り切ってれば超イージーモードよ。チュートリアルだと思って戦いなさい」

「は、はい。……若干、張り切っている方向が気になりますが、頑張ります」

 

 と、瑠璃は刀代わりの竹刀を握って頷いた。

 そしていつもの車に乗り込み、向かうはいつもの墓地である。

 

「っていうかこの人数だと狭いわね」

「すみません……」

「いや、瑠璃のせいではないが。いっそもう一台買ってしまうか?」

「荷物のことも考えるとその方が無難ですけど……」

 

 中で作戦会議とかはしづらくなるし、いいことばかりではない。というか年長者が二人しかいない以上、必然的に教授が運転することになるのだが。遠征した場合、検問の度に年齢確認で時間を食うビジョンしか見えない。

 

「シルビアさん、免許取りませんか?」

「たぶん学科は一発でいけるし別にいいけど、一年ちょっと先だよー? ……あ、それともバイクとか買っちゃおうか?」

「白衣の下にライダースーツ着こむの? ……似合いそうね。広い場所なら戦闘中の機動性も上がりそうだし」

「あ。アリスちゃん乗せて移動砲台しちゃう?」

 

 楽しそうに言いながら、膝に乗せた俺をホールドしてくるシルビア。

 ちなみに教授は朱華に抱きかかえられており、多少、というかわりと不満そうだったりする。身長的に妥当、と助手席に座らされた瑠璃が苦笑半分、呆れ半分と言った感じで視線を送ってきた。

 

「モンスター退治というからどんな雰囲気なのかと思いましたが……キャラクターシートを前にダイス振ってるのと大差ありませんね」

「ずっと気を張っていたら疲れてしまいますからね。それより、そろそろ着きますよ」

 

 ノワールがまとめるように言った通り、目的の墓地はもうすぐだった。

 

 

 

 

 

「なんだか不気味ですね……」

 

 俺たちについて夜の墓地を歩きながら、瑠璃がぽつりとこぼす。

 髪の色と服装的に、竹刀をプラスしてもなお彼女が一番見た目が普通っぽい。さながら「不審者を見かけて怯えている体育会系女子」といったところである。

 後の面々は推して知るべし。

 俺はまあ、ここが西洋墓地だったらある意味似合ったかもしれないが。

 

「まあ、ここは変わらないわね。いつも通り」

「慣れてしまったせいか安心感さえあるな」

「………。アリス先輩的にはどうなんでしょう? 墓地って、やっぱり落ち着かないんですか?」

「そうですね……。やっぱり、少し嫌な感じはしますね。きちんと弔われた人たちが眠っているわけなので、闇の力がどうこういうのも違う気はするのですが」

 

 いくら清めても死体が負の属性であることに変わりはないのかもしれない。微々たるものとはいえ多く集まればそれなりの闇パワーになってしまう。墓参り等々で軽減している分なんかもあれこれあって結果的にはあまり気にならないレベル、といったところか。

 現代の宗教組織が埋葬から管理・清掃まで担当するのであれば聖なる気配がしたりするのかもしれないが……でも、ぶっちゃけ西洋墓地の方がゾンビ出そう感は上なんだよな。

 などと言いながら、俺たちはある程度歩いたところで立ち止まる。正確には瑠璃は他のメンバーが止まったのを見てそれにならった形だが。

 

「瑠璃さま。あちらに邪気が集まっているのがわかりますか?」

「わかります。……その、アリス先輩が凄くてわかりづらいのですが」

「私邪魔ですか……?」

「このタイミングに限っては邪魔でしょ。なんか若干光ってる気さえするし」

「心なしかモヤモヤしてる奴らも怯えてるよねー」

 

 俺が正装してあちこち歩いてるだけでも多少の邪気払い効果があるとでもいうのか……? 空気清浄機か何かみたいに使われてもさすがに困るんだが。

 ともあれ。

 集まってきた邪気は俺たちを取り囲むように、普段よりも少々距離を取った形で実体化した。その数八。

 二足歩行の小柄な身体。腐臭のする身体は生前からまともな色をしていなかったのかどす黒く、顔の先端部には特徴的な鷲鼻がかろうじて残っている。手にしているのは骨を適当に加工しました的なこん棒。

 

「ゴブリンゾンビ、ですか……っ!?」

「そのようだな」

 

 驚いたように声を上げた瑠璃に教授が応じる。俺も最初の頃はこうだった、と、なんだか懐かしく感じてしまう。今となってはさすがにもう、敵が出ただけで驚きはしない。

 ノワールもまた穏やかに微笑んで、

 

「大丈夫です、瑠璃さま。持ち前の獰猛さと俊敏性がゾンビ化によって削られておりますので、危険性はかなり低いかと」

「って、言ってる間にも近づいてきてるんですが……っ」

「んー。のんびり待ってられる時点でねー」

「ま、そうは言っても、数はちょっと多いわね。しばらく来てなかったからかしら。せっかくだし、数減らしがてらデモンストレーションしとく?」

 

 確かに、五体も減らせばちょうどいいだろう。

 

「そうですね」

 

 ということで、頷きあった俺たち(瑠璃以外)はさっと動いた。

 

「あー、うん。触りたくないわこいつ」

 

 割れやすい容器(シルビア作)の油を叩きつけたゴブリンゾンビAに朱華が遠隔発火。

 燃え上がりながら迫ってきたそいつの腹は適当に蹴っ飛ばして転ばせ、KO。

 

「ふっ。この程度の相手なら吾輩一人でも撲殺できる」

 

 ごっ!

 教授の専用武器であるでかい本がフルスイングされ、ゴブリンゾンビBの胴体が頭ごと吹っ飛んだ。

 

「……止まって見えます」

 

 銃を使うまでもないということか。ノワールはナイフ二本を手に舞うようにステップを踏み、ゴブリンゾンビCをバラバラに解体。

 

「……あれ? 死んでる相手だと酸って分が悪くない? 私、朱華ちゃんと持ち札が被ってない?」

 

 などと言いながらシルビアが投擲したのは透明な液体。

 ただの水かと思いきや、容器が割れるや否や「じゅっ」とか音がして、命中した部分からゾンビDがしゅわわーと消滅していく。

 あれはなんなのかと尋ねると「アリスちゃんの聖水」とのこと。いや、うん、聖別された水ならアンデッドにも効くが……朱華がぴくりと反応したのがなんとなく嫌だった。

 俺はふるふると首を振ると気を取り直して、

 

「《聖光(ホーリーライト)》!」

 

 じゅっ。

 

「……じゅっ?」

 

 これまでの比じゃない輝きが生まれたかと思うと、ゴブリンゾンビEが一瞬にして消滅した。というか、後方にいたFまでもが余波を食らって消えていく。心なしか、離れていたGとHまで動きが鈍くなったような気がする。

 あれ、まだ俺、ウォーミングアップくらいのつもりだったんだが。

 ぽん、と教授に肩を叩かれて、

 

「お主、本格的な攻撃魔法使いでなくて良かったな」

「使えても人には撃ちませんよっ!?」

 

 勢い余って二体倒したのはまあ事故として、残り二体。これくらいなら本当にちょうどいい練習相手だろう。もちろん俺たちが周りに控えているし、ゾンビというのは物理攻撃に強い。斬撃武器でなかったのが逆に良かったものの、思いっきり何度もぶっ叩かないと倒せないかもしれない。

 

「瑠璃さん」

 

 視線を送ると、少女は唇をきゅっと噛みしめ、竹刀を両手で握って足を踏み出した。

 

「やります」

 

 のろのろと迫ってきたGとH。

 初撃は、Gの肩あたりへの痛打だった。ごしゃ、と命中部位が潰れ、崩れ落ちるゾンビ。それでも体制を立て直そうとするそいつの腕、脇腹に追撃。三発目でさすがにもう動かなくなった。

 残ったHの方はもっと簡単。

 一撃で頭部を砕かれ、転倒したところへ上からの突き。動けなくなったゾンビたちはいつものように虚空へと消えていき、後には何も残らなかった。

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