起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、刺す

 八本の首に、八本の尾。

 ルビーのように赤い瞳をしたその化け物を見て、咄嗟に連想したのは日本神話に登場する怪物だった。

 八岐大蛇(ヤマタノオロチ)

 不死鳥や未来の戦闘兵器とも戦ってきて今更言うのも変な話ではあるが、こんなものの退治は英雄の仕事だ。ゲームやマンガのキャラに変身しただけの一般人に戦わせるんじゃない。

 などと思いつつ、俺はさらに相手を観察する。

 

 でかい。

 

 首の一本一本が電柱ほどの大きさを持っており、胴体はそれらを支えられるサイズ。深い緑色をした被膜は油でも纏っているのか、てらてらと明かりを反射している。

 最初の一斉攻撃は効いていないわけじゃない。ノワールの銃弾は確かに身体へ食い込んだし、シルビアの投げた強酸も肌の一部を焼いている。ただ、身体が大きすぎて大した効果になっていない。

 加えて再生能力。

 俺たちの与えた傷は端から塞がり始めている。このままぼうっと見ていれば銃弾は身体から押し出され、焼けた肌も元に戻ってしまうだろう。

 

 ノワールが手榴弾を二つ、まとめて手に取ってピンを引きぬく。投擲されたそれは狙い違わずオロチへと飛び、爆発。轟音と熱波を撒き散らし、同時にほんのひとときだけ俺たちの姿を敵から隠した。

 続けてシルビアが爆発ポーションを投げる。立て続けの爆発攻撃によって身体を焼かれたオロチは少しだけ動きが止まった。

 

「厄介ですね。一気に殺しきれなければ再生されてしまいます」

「首の数的にはヤマタノオロチだねー。忠実になぞってるとは限らないし、ヒドラとかの可能性もあるけど」

「こんなのが出てきた以上、焼くしかないでしょ。延焼が気になるってんなら一回撤退して、先に周りの木を切り倒してもらいましょ」

「……いや、迎撃する。各自、石段を死守。危なくなりそうならその時は全員で逃げる。毒があるかもしれん。アリス、全員に支援魔法をかけてくれ。それから解毒分の魔力を残しておくように」

「わかりました」

 

 俺はこくりと頷いて、全員に防御魔法をかける。朱華の拳と瑠璃の武器には《武器聖別(ホーリーウェポン)》もセットだ。

 

「瑠璃さん、首の迎撃をお願いします。できるだけ敵を引きつけるようにしますが、いざという時は私たちを守ってください」

「わ、わかりました」

 

 ボスの威容に呑まれているようだった黒髪の少女は、それでも俺の声にこくりと頷いた。手にしているのは摸造刀のほう。魔法がかかっている今ならある程度の強度はある。殴れば魔法的なダメージも入るので、オロチ相手でも効果はあるはずだ。

 などとやっているうちに、オロチの八本の首が揃って咆哮した。

 空気を切り裂くような鳴き声に足がすくみそうになるが、ぼうっとしている暇はない。

 

「《聖光連撃(ホーリー・ファランクス)》!!」

 

 もう一度、聖なる光を連射。立て続けに打ち出された光がオロチの頭部に、胴体に着弾。

 左翼へ跳躍したノワールがマシンガンに持ち替え、オロチに向けて連射する。一発一発は小さいが、再生する間もなく次々と着弾し、着実に傷を深めていく。

 

「出し惜しみしてる場合じゃなさそうだよねっ!」

 

 シルビアは右翼へ移動し、酸のポーションを次々と投擲。ところかまわず降りかかった液体がオロチの身体を焼いていく。

 

「このまま封じ込めてしまえ!」

 

 教授の号令以下、手榴弾、爆発ポーションの連続攻撃。耳栓とゴーグルが欲しいくらいだが、それだけに火力としては申し分ない。初手からこれだけ集中攻撃できていればボスオークだってもっと楽に倒せた。

 であれば、オロチだって、

 

「……まだ、息があります!」

 

 瑠璃の声。

 視界が晴れても、オロチはまだ健在だった。全身こんがりしている感はあるし、あちこち傷だらけだが、首と尾をうねらせながら俺たちを睨んでくる。

 傷口の再生も始まっている。酸や爆発で焼いた部分は治るのが比較的遅そうだが、再生を止めるまでには至っていない。もっとしっかり焼かないと駄目なのか、完全に止めるほどの効果はないのか。

 試してみればわかる話ではある。

 八本の首でこちらを威嚇しながら再生を優先するオロチ。向こうから攻撃して来ないとはいえ、下手に踏み込めば一発でアウトだろう。そこで動いたのは、教授。

 

「さて、本命と行かせてもらおうか!」

 

 彼女の手にはそれぞれ本格的な作りのウォーターガンが握られている。例のリュックから取り出されたアイテムだが……うん、まあ、要するに水鉄砲である。中身が強酸だったとしてもシルビアのポーションと大差ないはずだが。

 なかなかの威力でぴゅーっと飛んだ液体をオロチの首は器用に避けた。しかし、重い胴体までは動かせず液体を受けてしまう。結果、何が起こったかというと何も起こらない。むしろ、液体の()()を感じ取ったのか、続く射撃をオロチは迎え入れた。

 水鉄砲から放たれる液体を口を開けて受け止めるオロチ。シュールすぎる光景だが、仕方ない。あれは奴の好物なのだから。

 にやりと笑う教授。

 気づけば朱華が何やら(かめ)のようなものを担いでいる。せーの、とばかりに両手で振りかぶって、投げた。さすがに重いものなのでオロチの手前あたりに落ちて割れたが、中の液体はばしゃりと飛び散ってオロチの身体へと降りかかった。

 辺りに立ち込めるアルコール独特の匂い。

 

「神話の時代にこんな酒(ウォッカ)はなかっただろう!?」

「とくと味わいなさい、蛇の化け物!」

 

 ウォッカの一種、スピリタスのアルコール度数は96度。

 もはやほぼ純粋なアルコールという代物であり、タバコの火程度でも引火するらしい。

 そして当然、我らが頼れる仲間は火種などなくとも発火が可能。

 瞬間。

 オロチの身体が、というか、それにかかった酒が燃え上がった。火はあっという間に全身へと周り、肌を焦がしていく。駄目押しのようにぴゅーぴゅーと教授が射撃するが、さすがにもう、敵は呑もうとしてこなかった。そこですかさず油も投げつけておく。

 悲鳴のような鳴き声。

 首を全て天に向けたそれは、まるで祈りでも捧げているかのようだった。効いている。少なくともこれで、かなりのダメージは与えられるはず──。

 

「待って、もしかしてこれって……!」

 

 シルビアが何かに気づいた。

 次の瞬間、月明かりに翳りが生まれる。黒い雲が空を覆い始めたのだ。俺たちは例によってLEDランタンを用意してきているので戦いに支障はないが、このタイミングで()()()()()()()()という事実に戦慄する。

 

「ノワール! ありったけの弾を叩き込め!」

「了解しました!」

 

 降り注ぐ銃弾の雨。それをオロチはどこか不敵な表情で受け止めていく。

 そして。

 ぽつり、と。本物の雨粒がひとつ落ちかと思うと、あっという間に本格的な雨が降り始める。

 教授がぐう、と呻って、

 

「雨乞いか!? 確かに、ヤマタノオロチを水神とする説もあるが……」

 

 雨のお陰で炎の勢いが弱まった。これでは倒しきれないかもしれない。

 

「教授さま。ここは更に追撃を」

「……そうだな。頼めるか、アリス?」

「わかりました」

 

 錫杖を構えて前に進み出る。倒せるか、魔法を撃てなくなるまで攻撃し続けてやる。そう思って力を高めて──。

 鳴き声が聞こえた。

 ぴし、と。ひび割れでも起こすようにオロチの胴体が裂ける。くたり、と八つの首が地面に落ち、ずるり、と、裂けた胴体から()()がはい出してくる。八つの首、いや、九つの首を持った化け物。一回り小さくなってはいるが、脱皮という緊急手段を用いたことで全身の傷は綺麗さっぱり消えてなくなっている。

 抜け殻となった元の身体が消滅していくのを視認しながら、俺は呆然と呟いた。

 

「……そんなのありですか」

「アリスさま! とにかく攻撃を!」

「っ。《聖光連撃(ホーリー・ファランクス)》!」

 

 三度、聖光の雨。

 しかし、前より身軽になったからか、新生オロチは痛みに悲鳴を上げながらも一歩、こちらへ踏み込んでくる。舌うちしたノワールが首を狙って銃を連射。シルビアも残った攻撃系のポーションを投げつけていく。

 と。

 オロチは全身を止めぬまま、ぼとり、と、九つの首のうち三つを自ら放棄した。千切れたような切断面がグロいがそれどころではなく。落ちた首がどうなったかといえば、解けるように散って、無数の、普通サイズの蛇へと変化した。

 

「何よこれ!? なんでもアリじゃない!」

「言ってる場合か! 蹴散らせ! 敵としても苦肉の策に違いない!」

 

 それはおそらく間違いないだろう。

 再生ができると言ってもダメージが入らないわけじゃない。体力は消費しているはずだし、自ら首を落としたということは自らダメージを受けたということでもある。身を切ってでも手数を減らす必要があると判断したのだろう。

 首の再生も始まっているが、脱皮前のオロチよりは遅い気がする。

 

「瑠璃さん。小さい蛇の相手、教授たちと一緒にお願いできますか?」

「あ……っ、は、はいっ!」

 

 ここまで瑠璃の出番がなかったのは仕方ない。あんな敵に飛び込んでいけるのはノワールくらいだ。そして、ここまで体力を温存していてくれたお陰でこっちも手が打てる。

 小さい蛇はさすがの俊敏さ。加えてトリッキーな動きで狙いを定めづらいが、攻撃する時にはこちらに近づいてこなければならない。足に噛みつこうとした奴は単純に蹴飛ばせばいいし、飛びかかってくるものも注意していれば叩き落とすのは難しくない。

 でかい本という都合の良い武器を持つ教授と共に、瑠璃が蛇たちの相手をして俺たちを守ってくれる。その間に俺は《聖光(ホーリーライト)》を連射してオロチへ牽制をかける。ノワールも残っている銃器で首に傷を入れていく。

 

「散るわよ、アリス!」

「はいっ!」

 

 小さい蛇から離れ、朱華、ノワールと別方向へ移動。オロチの攻撃を分散させる。敵は一瞬悩むようなそぶりを見せた後、六つの首をノワールに向けた。俊敏な彼女を狙ってくれたのは幸運──と思った直後、ノワールと反対側にいた俺に、蛇そのものの形をした八つの尾が迫った。

 キマイラか何かの要素まで混ざってないかこれ。

 内心で文句を言いつつ、《聖光》、それから錫杖による打撃で撃ち落とす。適度に後退も加えてやれば、相手はノワールと俺、どちらを追うかを選ばないといけない。

 そして首と尾、どちらとも違う方向にいる朱華が、

 

「生まれたての肌なら比較的柔らかいでしょ!?」

 

 一振り隠し持っていたナイフを振りかぶる。深々と突き刺し、すぐさま引き抜くと、生まれた傷口へと自らの右手を躊躇なく突き入れる。俺も顔をしかめたくなったが、オロチ自身まずいと思ったのだろう。暴れるように身をよじる。しかし、朱華は残った左手でうまくしがみついて離れようとしない。

 絶叫が上がる。

 傷の再生が停止。ボスオークの時と同様、体内温度が急上昇しているのだろう。それに堪えるのに必死で手が回らなくなっている。しかし、オロチの抵抗も激しくなっていく。降り続く雨のせいでパイロキネシスの効きも悪い。一撃必殺には足りない。

 このまま行って、一度でも振り落とされれば巨体に潰されるか、六つの首に噛みつかれて食いちぎられるに違いない。

 

「させませんっ!」

 

 力を振り絞って魔法を連射しつつ、前へと踏み出す。脳が複数あるのか、本体を守るように尻尾がうねるも、俺はそれを一つ一つ錫杖で打ち払っていく。聖なる力を秘めた杖を受けた尾は力を失い、ただ垂れ下がるだけになる。八回。決死の覚悟で振り払ってやれば、それだけで敵の背面は無力化された。

 ノワールもまた、舞うように移動しながら根気よく首を攻撃している。片手に拳銃、片手にはナイフ。近づいても離れても攻撃し、敵を一時も休ませない。

 シルビアがノワールの方へと駆け寄る。当然、首のいくつかに狙われるが、彼女は手にしていたスプレーのようなものをオロチに向けて噴射。受けたオロチは悲鳴を上げて顔をしかめる。あれは蛇の駆除剤。殺虫剤の蛇版のようなものだ。教授が用意していたグッズの一つ。うまいこと効いてくれたらしい。

 もう少し。

 がら空きになった背面から近づき、俺は錫杖を振りかぶる。白兵武器ではないと言った手前アレだが、今は忘れて思いっきり突き刺す。半分近くが肉にめり込み、オロチがひときわ大きく、ぐりん、と身体を回転させる。手を離していなかった俺はそのまま振り回され、そして朱華も、

 

「アリス!?」

「朱華さんっ!」

 

 吹き飛ばされた俺たちは大きく吹き飛び、地面に叩きつけられる。命に別状はない。しかし、俺は《小治癒(マイナー・ヒーリング)》を唱えながら体力の限界を感じていた。痛みを和らげれば動けはする。ただ動いても、できるのは朱華の治療に回ることくらいだろう。

 頼みの綱はノワール。

 彼女はシルビアと協力し、オロチの首を懸命に攻撃している。あちこちにコンバットナイフを突き立て、無数の銃創を作り出す。それでも敵が倒れない。倒れてくれない。俺たちさえ倒してしまえば後でいくらでも休めるとばかりに、最後の抵抗を続けている。

 そして。

 まともに動く首が一つだけになった時、ついにシルビア、ノワールも吹き飛ばされてしまう。

 誤算。

 あまりにも敵がタフ過ぎる。HPゲージが見えないとこういう時に見誤る。

 こうなったら、全力以上、死力を尽くしてでも攻撃するしかない。不死鳥の時にできたのだ。経験を積んだ今の俺に、あの時と同じことができないはずがない。

 しかし。

 

『駄目ですよ、私』

 

 アリシアの声が俺を制止した。

 

『私も偉そうなことを言えた立場ではありませんが、あなたは一人で戦っているんじゃありません。まだ、あなたには仲間が残っているでしょう?』

 

 オロチが首を巡らせ、俺たちを眺める。

 俺は顔を上げ、まだ立っている仲間の姿を見た。教授。あちこち噛まれそうになったのかローブがボロボロになっているが、彼女たちが相手にしていた小さな蛇は全滅している。荒い息を吐いている我らがリーダーに無理をさせるのも悪い気がするが……。

 

「アリス先輩っ!」

 

 もう一人。

 摸造刀と木刀の両方を手にした黒髪の少女がこちらに駆けてくる。俺を選んだのは、オロチがこっちに狙いを定めたからだ。

 瀕死の化け物と、一人の剣士。

 一番の新人に無理をさせるのは先輩として情けない限りだが、何かしら運命的なものを感じた。まさか、オロチの中から草薙の剣が出てくる、なんて出来過ぎた話はないだろうが、それでも。

 

「瑠璃さん……!」

 

 俺は手を伸ばし、支援魔法をかけ直す。

 聖なる光に包まれた少女剣士は俺を庇うように立つと、襲い来る首に摸造刀を叩きつける。現代的な素材でできた刀身は既に限界が近かったのか、一度の攻撃で音を立てて折れた。瑠璃は顔をしかめながらそれを手放すと、木刀を両手で握って思い切り振るう。

 何度も何度も。テニスの壁打ちを思わせるような、ある種の空しさ、やりきれなさを感じさせるようなやりとり。何度打たれても首をもたげて攻撃してくるオロチの執念。

 やがて、木刀も折れた。

 最後の首が大きく口を開ける。雨でずぶ濡れになりながら、内側からも大量の汗をかいている瑠璃は、ジャージのファスナーを引き下ろすと乱暴にそれを脱ぐ。放りなげられたジャージの上はオロチの攻撃をほんの少しだけ遅らせ、そしてその間に、彼女は最後の武器を手にした。

 トレーニングウェアの上から装着していた第三の鞘。ノワールの所持品の中では最大級に大振りなナイフ。サイズ的には心もとない品ではあるが、木刀や摸造刀とは違ってきちんとした金属製だ。簡単に折れたり砕けたりすることはない。

 更に。

 俺の支援魔法がかかっていないはずのその刀身に、何か淡い光が宿る。神聖魔法とは違う、しかしどこか清浄な気配を感じる力。おそらくはあれが彼女の持つ『霊力』なのだろう。

 光はそこから更に伸び、本来の二倍ほどの長さの仮想の刀身を作り出した。あれならばちょっとした剣くらいの長さになる。

 

 雨乞いも切れたのか、天から月明かりが射し込む。

 月光の加護の中、行われた最後の戦いは、それはもう美しいものだった。

 後から聞いたところによると、瑠璃のオリジナル──すなわちTRPGのキャラクターデータとしての彼女は、物の怪の類へ追加ダメージを与えられるスキルを持っていたらしい。

 ヤマタノオロチは本来、神に属する存在だろうが、邪気によって作られた挙句、ヒドラの要素を加えられたそれが『種別:物の怪』になっていたとしても不思議はない。

 死なないのではないか、と思えるほどのしぶとさを見せた蛇の化け物はようやく打倒され、その全身は少しずつ溶けるように消えていく。

 と。

 オロチの身体の中に、何か煌めくものが見えた。

 赤い石?

 

「そっ、それっ! 瑠璃ちゃん、お願いだからそれ回収して! 後でなんでもしてあげるからっ!」

 

 ぐったりしていたはずのシルビアが突然大きな声を上げた。逆の立場なら絶対悪用する人間が「なんでもする」とか言っているあたり必死さが見える。

 何が何だかわからないが……。

 それでも、瑠璃は最後の力を振り絞ってオロチの死体に駆け寄ると、赤い石を掴み取った。

 

 敵の痕跡が残らず消え去ったのは、それから数秒後のことだった。




既にお分かりかと思いますが、サブタイトルのネタが尽きてきました。
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