起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました 作:緑茶わいん
戦いが終わって静寂が戻ってきた後、瑠璃はぺたん、と、その場に座り込んでしまった。
緊張の糸が切れたのだろう。
疲れた身体に鞭打って立ち上がった俺は、少女のところまで歩いていって声をかけた。
「大丈夫ですか、瑠璃さん」
「は、はい」
振り返った少女の顔には疲労が見える。しかし、すぐに倒れるというレベルではなさそうだ。
外傷は擦り傷と打ち身がいくつか。オロチの攻撃がかすっていたのだろう。これくらいなら大丈夫だと、ほっとして微笑む。
「良かったです。皆さんの状態を確認するので、治療、少しだけ待ってくださいね」
「はい。いえ、その。アリス先輩は大丈夫なんですか? 身体、打ったんじゃ……」
「私は大丈夫です。瑠璃さんのお陰で、いつもより楽なくらいなんですよ」
直接打撃を食らったわけじゃないし、防御魔法もかかっていた。痛みもそれほどではない。
シルビアは少なくとも声を上げられる元気があったので、まずは軽装の朱華に駆け寄る。少女はごろんと仰向けの状態で「あー……」と声を上げた。
「超能力者に接近戦はきついわ、やっぱ」
身体を打ったのだろう。すぐには動けないようだが、命に別状はない。俺は回復魔法を使いながら答えた。
「炎の弾みたいなの撃てないんですか?」
「あれって空気燃やした上に動かすわけだから燃費悪いのよね……あ、そこそこ。そこ気持ちいい」
「マッサージされてるみたいな声出さないでください」
ジト目で言って治療を打ち切る。ある程度治ったので残りは後回しだ。
気になるのはノワール。彼女は自力で受け身を取ったのか、地面に座り込む形で身体を休めていた。メイド服にはあちこちほつれや汚れがあるものの、出血はそれほどでもない。厚手の衣装を纏っていたことで多少クッションになったのかもしれない。
治療を始めると、ノワールは「ありがとうございます」と微笑んでくれる。
「アリスさまの衣装も少し傷んでしまいましたね」
「仕方ないですよ。とりあえず、直せる範囲で直そうと思います」
「じゃあ、お手伝いしますねっ」
とりあえず《
「いや、間一髪だったな」
「逃げた方が良かったかもね。ほら、お酒を首の数だけ用意して」
「敵が臨戦態勢で出てくるのでなければそれも可能だったのだがな。……しかし、そろそろ本格的に『削り』戦法を導入すべきかもしれん」
敵は土地に集まった邪気によって形作られている。
与えたダメージ分の邪気は祓ったことになるので、ある程度痛めつけて撤退、を繰り返せばそのうち倒せるはずだ。あまり放置しすぎると全回復してしまうだろうが。
「遠いところだと行って帰ってが大変そうですね」
「泊りがけで次の日挑戦すればいいんじゃない。そうすれば日中は観光ができるよー」
「その場合、泊まるところを用意しないとですね」
車中泊するには今の車だと狭い。大型車が欲しいところだ。いっそキャンピングカーとかだと快適かもしれない。
すると教授が「ふっ」と笑って、
「こんなこともあろうかと、政府の者に宿の手配を頼んである。今日はそちらに泊まるとするか」
「本当ですか!?」
「さすが教授。今日はもう早くベッドに入りたいもんね」
ということで、俺たちは後始末をサポートスタッフに任せ、車で宿へと移動した。多少時間がかかったものの、到着したのはきちんとしたホテル。安いビジネスホテルなんかじゃない。意外と大盤振る舞いだと思ったら「口止めをしようと思うとある程度の『格』が必要だったのだろう」とのこと。
部屋は二人部屋が三つ。
ほとんど寝るだけなのだから一人部屋がいいとか無駄な贅沢は言わない。濡れた服(一応、朱華にある程度乾かしてもらった)は脱いでコートを纏い、無事にチェックイン。
「あの、部屋割りはどうしましょうか……?」
おずおずと言ったのは瑠璃。適当でいいんじゃ? と思った俺は首を傾げ、教授の「じゃんけんでもするか」という提案に乗った。
結果は俺とシルビア、瑠璃と朱華、教授とノワールだった。
「アリスちゃん。今日は一緒のベッドだねー」
「え、あれ、ツインベッドですよね? というか、シルビアさん。あの石はいいんですか?」
「あ、忘れてた! 瑠璃ちゃん、あれ、あの石!」
「はい、ちゃんと持ってます。……これ、なんなんですか?」
ロビーで話すことでもないので、いったん一つの部屋に集まってから例の石を覗き込む。
キーホルダーにちょうどいいかな? くらいのサイズをした赤い石。ある程度の透明度があるのだが、見通そうとすると複雑に屈折して深い色合いを見せてくれる。
オロチから出てきたにしてはどことなく西洋風のアイテムなのだが、シルビアが反応したのにもそのあたりの関係なのだろうか。
「シルビアよ。まさか、これは賢者の石なのか?」
「えっ……!?」
ゲームやアニメにもよく登場する有名なアイテム。日本だと一番の有名どころはパーティのHPを回復するアレだろうが、元々は錬金術における伝説的な品で、卑金属を貴金属に変える際の触媒になるだとか、不死の霊薬を精製することができるだとか言われている。
もし、そんなものが埋まっていたとすれば、オロチの再生能力にも説明がつくかもしれない。
「し、シルビアさん。どうなんですか……?」
「……うーん」
シルビアは俺たちの視線を受けながら、瑠璃から受け取った石を色んな角度から観察したり、軽く叩いてみたりする。
それだけでは足りなかったのか、彼女はおもむろに洗面所からコップを持ってくると、そこに手製の栄養ドリンクを注ぎ、赤い石を近づけた。石の先端がドリンクの表面に触れるか触れないか、というタイミングで液体がにわかに発光し、すぐに収まる。
ふう、と、息を吐いたシルビアは「はい」とコップを差しだして、
「朱華ちゃん飲んでみて」
「あたし!?」
「だって、一番内臓が丈夫そうだし」
「いや、教授とかでもいいんじゃない? 見た目若いし」
「残念だが、吾輩は日々肝臓を痛めつけているからな……」
「裏切り者!」
「ま、まあまあ朱華さん。私も魔法を準備しておくので……」
なお、ノワールが自主的に志願してくれたものの、それは朱華も含めた全員が止めた。万一、彼女が数日寝込むなんていうことになったら家がめちゃくちゃになりかねない。いや、その時は俺ができる限り崩壊を阻止するが。
「い、いくわよ……!?」
恐る恐る、もう片方の手で鼻をつまみながらぐいっとコップを煽る朱華。
ごくん、と、液体が少女の喉を落ち、そして、
「あれ、いつものやつより飲みやすいかも……?」
幸い、中身が劇薬に変化、なんていうことはなかった。
「大丈夫ですか、朱華さん? お腹が痛いとか、手足が痺れるとか、笑いが止まらなくなりそうとかありませんか?」
「今のところ大丈夫。……あ、でもなんか目が冴えてきたかも」
「うん。ポーションの効果が強化されてるっぽいねー」
ということは……?
「でも不完全品かな、これ」
「なんだ、完全版ではないのか」
「さすがにねー。完全版にしてはオロチの性能微妙だったし」
「では、シルビアさま。完全版だった場合はどうなっていたんでしょう?」
「無限再生とか、メタルオロチになってたかも?」
「勘弁してください」
そんなの誰が勝てるのか。
「残念でしたね、シルビアさん」
「うん、そうだねー」
俺の言葉に相槌を打ちつつも、シルビアは笑顔だった。ほくほく顔と言ってもいい。残念そうどころか喜んでいる。
「不完全って言っても、錬金術師の夢だよ? 嬉しいに決まってるよ」
「確かに。ポーションを高性能化するのには使えるわけだしな」
「もしかしたら完全版の合成素材になるかもしれないしねー」
そんなゲームみたいなこと……ありえるから困る。
「私の小説だと賢者の石は伝説級のアイテムなんだけど、ひょっとしてアリスちゃんのゲーム産なのかな?」
「うちのゲームにはそんなもの……出てきたかもしれません」
収集品扱いで手に入ったような気もしないでもない。錬金術師メインの話じゃないからこそ、効果も何もないただのアイテムとしてほいほい登場したりするものだ。
よほど嬉しいのか、シルビアは賢者の石(不完全版)にすりすりと頬ずりをして、
「いくら払えばいい? なんなら当面の生活費を除いて全財産払うけど」
「いや、そんなには要らん。というか、そうしたら進学が困るだろう」
「別にいいよー。一年留年すればいいだけだし、その間も研究が捗るだろうし」
さすがシルビア、ブレがない。しかし、入学金を払えないから留年する、なんて言ったら担任の先生とか吉野さんとかがすごく悲しみそうだ。もし本当に留年するようならその時こそアリス金融(仮)の出番だろう。
教授は呆れたように苦笑しつつ肩を竦め、
「具体的にいくらの値をつけるかはおいおい決めるとして、ひとまず、今後のバイトにおけるシルビアの取り分から半分を払ってもらう──というあたりでどうだ?」
「異議なーし」
「そんなのでいいなら私もOK。……それじゃあ、これ、どう使おうかなあ。とりあえず手持ちで試してみる? あー、でも、耐久力を先に調べたいかなあ」
「ふむ。この分だとシルビアはなかなか寝そうにないな。朱華よ、アリスと部屋を代わってやってくれないか?」
「またあたしなんだ? まあいいけど。さっき飲んだドリンクのせいですぐには寝られそうにないし」
結構ドリンクが効いたらしい。今後、朱華が栄養ドリンク(賢者の石使用)を常用しないように願うばかりである。
「すみません、朱華さん。さすがにノートパソコンは持ってきてないですよね?」
「まあね。別にいいわよ。こういう時のためにスマホアプリも入ってるし」
なお、エロゲーではないものの美少女系のアドベンチャーゲームらしい。スマホ版までチェックしているあたり筋金入りである。
「じゃあ、私は瑠璃さんと同じ部屋ですね」
「あ、アリス先輩と同じ部屋ですか……!?」
「あ、もしかして嫌でしたか?」
急に変わってしまったので文句があってもおかしくない。そう思って尋ねると、瑠璃は勢いよく首を振った。
「とんでもありません。ただ、一度決まったところだったので驚いただけで」
「それなら良かったです」
もうとっくに夜中。特別にチェックインをさせてもらったようなものだし、夕食はみんな済ませている。解散した後はシャワーを浴びて寝るだけだった。
シャワーの順番はじゃんけんした。瑠璃に「一緒に入りますか?」とも提案したのだが、さすがに断られてしまった。結局、じゃんけんに勝った俺が先に。
いい感じに身体が温まり、せっかくなので冷蔵庫の中のドリンク(有料)から炭酸水を選んでちびちび飲んでいると、同じく温まった瑠璃が出てきた。ドライヤーを当てたようだが、髪に少ししっとり感が残っている。
「今日はお疲れ様でした、瑠璃さん」
「そんな。アリス先輩こそ大活躍だったじゃないですか」
頬を染めて首を振る後輩。しかし、彼女がいなければどうなっていたかわからないのも事実だ。
「私は皆さんを支援する役割です。だから、前に出て戦ってくれる人は本当にすごいと思うんです。怖かったでしょう?」
「……はい。そうですね、凄く怖かったです」
冷蔵庫からジンジャーエールを取り出しつつ、こくんと頷く瑠璃。彼女は少し迷うようなそぶりを見せてから「でも」と続ける。
「いざ戦い始めたら夢中で、いつの間にか怖さが和らいでいました。最後は、身体が熱くて仕方なかったくらいです」
「そうだったんですね。もしかして、霊力の作用なんでしょうか」
「わかりません。でも、少しですが霊力を扱えるようになった気がします」
こういうのは最初が一番難しい。一度感覚を掴んでしまえば案外、二度目はすんなりといくものだ。呪文名を唱えるだけで魔法が使えた俺が言うのも変な話だが。
缶の中身を半分ほど一気に飲み干した瑠璃は、片手の拳をぎゅっと握って言った。
「次はきっと、もっとお役に立てると思います」
「ありがとうございます。でも、無理はしないでくださいね? 命は一つしかないんですから」
「わかっています。アリス先輩がピンチになるのを見て、心配する側の気持ちがわかりましたから」
「う、それはひどいと思います!」
そんな風にして俺たちは笑いあった。
和やかな話ができたお陰か、朝までぐっすりと眠れた。一緒に寝たはずの瑠璃は「緊張してあまり眠れませんでした……」と眠そうだったが、まあ、今日も休みだし問題ないだろう。
朝食バイキングをのんびり堪能した後、シルビアも「観光より早く帰りたい」と希望したため、みんなで車に乗ってシェアハウスへと帰りついた。