起きたら金髪碧眼の美少女聖女だったので、似たような奴らと共同生活始めました   作:緑茶わいん

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聖女、本命チョコを作る

 日曜日。

 集合場所である駅に到着すると、芽愛(めい)はもう到着していた。

 

「お待たせしました。遅くなってしまいましたか?」

「ううん、まだ時間前だよ。たまにはアリスちゃんより先に来ないとって早めに来てみたの」

「む。じゃあ、次はもっと早く来ないといけませんね」

「そんなことしてたらどんどん早くなっちゃうよ」

 

 くすくすと笑われた。確かに、そのうち集合時間を遅く設定することになりそうだ。なんというか本末転倒である。

 

「じゃあ行こっか。途中で買うものとかない?」

「はい、大丈夫です」

 

 ということで出発する俺たち。目的地はもちろん芽愛の家。一度行ったことがあるので道順は覚えている。なら、何も駅前集合にしなくてもという話だが、これにはちょっとした理由があった。

 

「ちゃんとお腹空かせてあるよね?」

「もちろんです。朝ご飯もいつもより少し控えめにしてきました」

「よかった」

 

 他愛ない雑談を交わしながら歩けば、あっという間に到着。

 ただし、今回俺たちは裏の自宅ではなく、表のお店の方に足を向ける。これが駅前集合の理由。今日はお菓子作りの前にお客さんとして来店させてもらおう、という話になっていたのだ。

 

『お家に集まってからお店の方に出ていくってなんか変な感じでしょ』

 

 とは芽愛の談。確かに、少しでも外を歩いてきた方が気分は出る。

 それでも彼女にとっては食べ慣れた味だろう──と思ったら「そうでもないよ」とのこと。ランチタイムに店の手伝いをする時はまかないを食べることもあるが、それは正規メニューと同じとは限らない。自宅では普通に和食も出るし、手伝いのない日の昼食は研究がてら自分で作ったりするので、お店で味わう機会は思ったほど多くないのだとか。

 

「今日はちゃんとお客さんとして来たから『手伝え』って言われても無視するよ」

「ふふっ、そうですね」

 

 芽愛に促されるようにしてドアを開く。軽快なベルの音。一歩踏み込めば、街の定食屋やファーストフードなんかの元気の良いそれとはまた違う、品の良さを感じさせる「いらっしゃいませ」の声。

 出迎えてくれたウェイトレスは、ふんわり袖のブラウス(白シャツ?)に濃紺の上着という、可愛さと清潔感を併せ持つ制服に身を包んでいた。派手過ぎることはなくて、むしろ清楚な感じだけど、色調のせいかメイド服に通じるイメージもある。

 文化祭の時「最悪店の制服で」みたいなことを言っていたのもなんだか頷ける。

 彼女は俺を見て目を細めた後、続けて入店した芽愛を見て悪戯っぽい表情になった。

 

「お客様、二名様でよろしいでしょうか?」

「はい」

「お席にご案内いたします。こちらへどうぞ」

 

 案内された席には「予約席」と書かれたプレートが置かれていた。なんだか本格的だ。嬉しさと恥ずかしさを同時に感じながら席につく。

 

「お決まりになりましたらお呼びくださいませ」

「ありがとうございます」

 

 恭しく一礼して去って行くウェイトレスさん。芽愛が小さく「なんかお客さんだと気分いいね」と囁いてくる。

 

「なんだかお嬢様になった気分ですね」

「アリスちゃんは十分お嬢様だと思うよ」

 

 などと言いつつ、メニューを開く。何を食べようか。

 ちゃんとした洋食店で食べる機会なんてなかなかない……と言う割には鈴香(すずか)たちと定期的に入っていたりするが、とはいえせっかくのチャンスを逃すのも良くない。

 メニューには一般的に「洋食」と言われて想像するものがだいたい揃っている。料理上手な芽愛の実家だ。どれを頼んでも美味しいのは間違いないが、

 

「おススメはビーフシチューとヒレステーキだよ」

「芽愛さん。それ、単価が高いやつですよね?」

「バレたか。だってうちの料理はどれもおススメなんだもん」

 

 余計に悩むようなことを言わないで欲しかった。

 こうなったら、普段なかなか食べられない料理をチョイスするべきか。家では出てこないような料理というと──。

 

「………」

「どうしたの、アリスちゃん?」

「いえ、その。家で食べられない料理を頼もうと思ったんですが、家でも結構、手の込んだ料理が出てくるなあと」

「さすが、アリスちゃんちのメイドさん」

 

 いや、本当に。ノワールの凄さをあらためて実感してしまう。

 しかし、いい加減に決めたいわけで、

 

「よし。決めました」

 

 悩んだ末に注文したのはチキンソテー。そこにサラダとスープも付ける。最終的には単純に食べたいものを注文した感じである。

 芽愛のチョイスは煮込みハンバーグ。両親のお手並み拝見、だそうな。

 

「パンとライスが選べますが、どちらになさいますか?」

「私はパンで」

「私も」

「かしこまりました。お料理が出来上がるまでしばらくお待ちください」

 

 注文が終わると、しばらくのんびりとした時間になる。

 

「アリスちゃん。どんなチョコ作るか決まった?」

「はい。千歌(ちか)さんに渡す分もありますし、具材なしで勝負しようかと。その分、別のところで勝負したいです。芽愛さんはどうするんですか?」

「私はフルーツチョコに挑戦してみようかなって。ちょっとビターなチョコの中に果物を入れるの」

「それは美味しそうですね」

 

 時刻は午後一時過ぎ。ランチ目当てのお客さんが少なくなってきた頃。食事が終わった後でチョコ作りを始めて、出来上がる頃にはおやつの時間になっているだろう。試食でチョコを口に入れるのは自作した者の特権である。

 

「お待たせいたしました」

「わ……!」

 

 話しているうちに料理が運ばれてくる。

 楽しみにしていた芽愛の家の料理は、思った通り美味だった。チキンソテーは皮がパリッと肉はジューシー、かけられたバター風味のソースもあいまって食が進む。パンもふんわりとしていてかつ、小麦の香りが感じられる。

 

「どう、アリスちゃん?」

「すごく美味しいです!」

 

 してやったり、という顔の芽愛にはそう答えるしかない。微妙に負けた気がして癪だが、美味しいものは美味しいのだ。

 半ば夢中になって食べ進め、完食した時には満足感でいっぱいだった。

 これは、そのうちまた食べに来たいかもしれない。そう思っていると、芽愛のお父さんが何かを持ってテーブルにやってきた。

 

「こちらは季節のシャーベットです。どうぞ」

「え。あの、頼んでないんですけど……」

「サービスです。これからも娘をよろしくお願いします」

 

 言ってお父さんはにっこり笑顔。

 

「あ、お父さん。お代タダにするって話断られたからって、サプライズ狙ってたでしょ?」

「そりゃそうだ。せっかく食べに来てくれたのに、何もしないわけにはいかないだろう?」

 

 言われて俺は、当初「お金はいらないから」という話があったのを思い出す。さすがにそれは悪いから、と自分のお金で食べにくることにしたのだが……。さすがにここはご厚意に甘えるしかない。笑顔でお礼を言って、スプーンを手に取る。

 シャーベットの程よい甘さと風味が口の中をさっぱりと洗い流してくれる。満腹だと思ったところだったが、甘い物は別腹。しっかりと味わいつつ全て食べきった。

 

「美味しかったです」

「ありがとう。良かったらまた来てくださいね」

「はい」

 

 芽愛のお母さんにも挨拶してから店を出て、外から回り込む形で家の方へ。

 しかし、思ったよりも早く来店する機会が訪れてしまった。今度は本当に朱華たちを連れて来ないと「ずるい」という話になりそうだ。

 ともあれ。

 

「それじゃあアリスちゃん。チョコ作り始めよっか」

「はい」

 

 美味しいものを食べた後は、気合いを入れて作業をする番である。

 

 

 

 

 

 そして。

 

「……できました!」

 

 苦節二時間以上。

 完成したチョコを前に、俺は歓声と共に安堵のため息を吐きだした。

 監督役を兼ねてくれた芽愛もにっこりと笑って、

 

「お疲れ様、アリスちゃん。上手くできたね」

「はい。芽愛さんのお陰です。……色々な意味で」

「う。その、張り切りすぎちゃったのはごめんってば」

 

 詳しく語ると長くなるので割愛するが、芽愛と来たら「せっかくのバレンタインだから」といつも以上の張り切りようで、俺のチョコレートにも十分なクオリティを求めてきたのだ。お陰で湯せんやテンパリングといった、チョコ作りでしか使わなさそうな技術がぐんと向上してしまった。

 しかし、その甲斐もあって、出来上がったチョコレートは良い物に仕上がったと思う。

 

「ありがとうございます、芽愛さん。私一人じゃこんな風には作れませんでした」

「……うん。私も、アリスちゃんがいてくれたから楽しかった」

 

 恥ずかしくなったのか、微妙に頬を染めて視線を逸らしながら言う芽愛。

 彼女はそれから慌てて「そうだ」と言うと、ラッピングを済ませた自分のチョコを差しだしてくる。

 

「はい、アリスちゃんの分。せっかくだから先に渡しちゃうね」

「ありがとうございます。……あ、私の分もハート型なんですね」

 

 半透明のラッピング袋には、ハート形のチョコが三つほど入っている。芽愛は「当然」と胸を張って、

 

「いつもお世話になってるんだから、私からの気持ちだよ」

 

 これには俺も恥ずかしくなった。

 

「そ、そうですか。……じゃあ、私も遠慮なく、ハートのチョコを渡せますね」

「え?」

 

 俺は二種類の形のチョコレートを用意していた。

 一つは、あらかじめ型を探して作った十字架型のチョコ。俺らしさを出すならこれだろう、というチョイスだ。

 そしてもう一つが、少し大きめサイズのハート形チョコ。出来上がったばかりなのでまだラッピングは済ませていないが、味は問題ない。

 いくつか作ったハート型の一つを手に取って差し出す。

 

「受け取ってくれますか、芽愛さん……?」

「……うん。ありがとう、アリスちゃん」

 

 時間としては少し遅くなってしまったが、お互いのチョコレートを紅茶と一緒に味わった。

 俺のチョコはカカオ分多めのチョコと普通のチョコをブレンド(?)した、少しビターなチョコ。大人が酒と合わせてもいいように作ったつもりだ。幸いお茶にも合ったようで、芽愛は「美味しい」と言ってくれた。

 

「鈴香はどんな反応するかなあ」

「喜んでくれるといいんですけど」

 

 俺たちは少しわくわくしつつ、バレンタインデー当日を迎えた。

 

 

 

 

 

 当日。

 いつものように登校すると、何やら教室内が騒がしかった。

 

「なんでしょう?」

「さあ。バレンタインだからじゃない?」

 

 隣にいた朱華はあっさりと肩を竦めた。朝、俺の顔を見るなり「ほら、チョコ寄越しなさい」と言ってきた人間とは思えない。

 まあ「あんたのチョコくらいはちゃんと味わって感想言いたいじゃない」なんて言われたので、言い訳だろうとは思いつつも嬉しかったのだが……。

 入り口をくぐって中に入ると、誰かがクラスメートに取り囲まれている。

 いったい誰だろうと思えば、

 

「鈴香さん?」

 

 今回、俺たちの悪戯のターゲット──もとい、みんなから本命チョコを受け取ることになった人気者である、鈴香だった。

 

「ああ。おはよう、アリス」

 

 彼女も俺に気づいたようで、そっと微笑むとこっちに歩いてくる。

 今、気のせいか呼び捨てにされたような……? というか鈴香自身、なんだかいつもよりも可愛い。制服自体は変えようがないのでお洒落にも限度があるはずなのだが、どうやらさりげなく化粧をしているらしい。おまけに肌艶もよく、近づけばふわりと上品な香り。

 

「香水、つけてるんですか?」

「いいえ? 登校前にお風呂に入ったから、シャンプーとボディソープの香りじゃないかしら」

 

 なるほど。過度なお洒落は校則で禁止されているが、シャンプー等ならうるさくは言われない。少し時間が経てば消えてしまうようなものだ。

 とはいえ、わざわざそこまでお洒落してくるということは、

 

「それで、アリス? 何か私に渡すものがあるんじゃないかしら?」

 

 しなやかな指が顎に添えられ、くいっと顔を持ち上げられる。何故か湧き起こる歓声。文化祭の時のように男装的なことをしているならともかく、今は普通に女同士なのだが。

 少し離れて観察していた朱華が呆れたように言う。

 

緋桜(ひおう)さん、楽しそうじゃない」

「あら。アリス達が変なことを企んでいるみたいだから、意趣返しをしているだけよ? ねえ?」

「は、はい。えっと、どうぞ。鈴香さん」

 

 やっぱりそういうことか。

 友人とはいえ、さすがにどきっとするものを感じながら、俺は苦笑交じりにチョコを手渡した。ハート形の箱に入れてラッピングを施した「本命用」のものだ。

 なお、シェアハウスの面々にこれをやるとややこしいことになりそうだったので、朱華たちには普通に十字架のチョコを渡した。なので、朱華が「あたしのと違うんだけど?」みたいに見てくるが、それはスルーするしかなかった。

 鈴香はチョコを両手で受け取ると、優雅にラッピングを解き──その場で口にした!

 

「ありがとう、アリス。美味しいわ」

「す、鈴香さんのお口に合って良かったです」

「あら。私達も知り合って随分経つんだし、そろそろ呼び捨ててくれてもいいのよ、アリス?」

「~~っ!」

 

 結局、鈴香は俺が呼び捨てにするまで許してくれなかった。

 きっちりお返しをされた俺は、下手に鈴香をからかうのは止めようと心に誓った。なお、首謀者の片割れである芽愛は昼休みに中庭でチョコを「あーん」させられた。

 それと、いつも以上にお嬢様然とした振る舞いがヒットしたのか、周囲に何人か「来年は本当に本命贈ろうかなあ……」とか言い出した子がいたが、それはまあ、鈴香の自業自得である。

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